共産主義者同盟(火花)

第20回参議院議員選挙の結果について

渋谷一三
275号(2004年7月)所収


1. 「共産党が大量に減らした議席が民主党に回った。」(12日朝日社説)のではない。

民主党50議席(12増)、自民党49議席(2減)、公明党11議席(1増)、共産党4議席(11減)、社民党2議席(変化なし)、みどりの会議0議席(1減)、無所属5(1増)(野党系4)、これが結果である。
確かに数字の表面だけをみれば共産党の11議席減分を民主党に回せばつじつまが合う。だが、朝日の社説は誤っている。
2003年衆議院選挙での共産党の比例区得票率は7.8%であり、今回の参議院選比例区得票率は7.8%であり、変化はない。01年度参議院選と比べても、0.1%減というだけで、共産党票が民主党に流れたわけではない。
小選挙区を見てみると、さらに朝日社説の誤りがはっきりする。
仮に共産党が小選挙区で候補者を立てなかったとし、その票が民主に流れたとすれば、山形・富山・徳島・香川・愛媛・佐賀・熊本の7一人区での自民の議席が民主に変わる。そうなれば、民主57議席・自民42議席となっていたはずだ。
共産党はその選挙運動での発言どおり2大政党制を阻止する役割を十分に果たしており、民主党からすれば十分に足引っ張りをされている。
にもかかわらず、民主党は自民に勝った。その勝因を探ろう。

2. 大ブルジョア政党化を模索するコイズミ自民党と小ブルジョア政党へと純化し始めた民主党

自民は従来圧倒的に議席を独占していた農村部で民主党に半数の議席を取られた。 その原因は従来自民党が支持基盤としてきた小ブルジョア層を小泉政権が切り捨て始めたことを、当の小ブルジョア層が認識し始めたことによる。
  自営農民層への補助金は削減され、米は実質的に市場価格に任せられた。農民層の分解は進行し、一部の自営農は大規模化し、従来兼業農家とされていた部分は農業から撤退している。この農地は大規模経営に乗り出した農家に賃貸されるという形式を今のところとっている。またこの農地の一部は遊休地化し、荒廃し始めている。一度荒廃してしまった農地をもう一度農地に戻すには、1年間の「ただ働き」を必要とする。こうした農家にとっては小泉政権の存続は死活問題になっている。
  対する民主党は10年後には食糧自給率を現在の40%から50%に高めるとマニフェストに掲げた。その具体的方策として、関税をかけることや、補助金の地方への分配を掲げた。没落しつつある農業小ブルジョアの要求を政治的に表現している。
  郵政民営化は地方の小資本家を特定郵便局長として取り込んで中央の銀行資本を育成する政策の結果を最終的に清算することを意味する。3年前の参議院選挙で郵政民営化反対を掲げてトップ当選した自民党の議員を選挙違反で辞職に追い込んだことで、地方の小金融資本家の末裔である特定郵便局長達も、妥協の道がないことをはっきりと自覚し、民主党へシフトした。
  農村部への不急あるいは不用の公共事業を削減することで、地方の建設業界は壊滅的打撃を受け、ここから落ちる金を当てにしていた関連産業も打撃を蒙った。この層も、頑迷でないかぎり民主党にシフトした。というのも、民主党の「地方分権」により、地方が勝手にできる財源が手に入るのだから、「地方の実情にあった土木工事や公共事業」が復活するばかりか、活性化する可能性すらあるからだ。
従来の公共事業では通過するだけの高速道路だの通行量のほとんどない立派な農道だのを造らされていたわけだが、発注は中央の大手ゼネコンに対してであって、地元に落ちる金は、孫受けとひ孫受けのペイするだけの金でしかなかった。ペイするだけに切り縮められた金というのは、人件費分だけが地元に落ちるということを意味する。材料費は、再び中央の大手原材料メイカーに還流するだけで、中央対地方という観点から金の動きをみれば、予算の10%程度が地元に落ちるという、地方にとっては非効率的なシステムだったのだ。
「地方分権化」は中央の大手ゼネコンの介入を阻止できることを意味し、無駄が省ければ構造物が生み出す経済効果も大きくなることを意味する。地方が談合や汚職を(今までよりやり易くなる)追放することが出来るならば、確かに地方分権化によって経済が活性化する可能性は、可能性としてある。
農民ほど学習熱心ではない地方の土木業者だが、判断の効く土木業者は学習をしていない土木業者に足を引っ張られて、今は自民党への「非協力」という形式しかとれてはいない。だが、早晩、民主党支持を打ち出すべき階層である。
地方の自民党離れ。これは、深刻である。公明党の協力がなければ自民党は小選挙区では1議席も取れていなかっただろう。
小泉は意に反して、約束通り、自民党を潰してしまった。
このことの意味することは大きい。

3. 二大政党制の始まりではない。

民主党政権が登場したら、自民党は二度と政権につくことはない。小ブルジョア層を取り込んだ民主党と、「勝ち組」だけに依存する自民党とでは勝負にならない。失政がない限り民主党政権が続き、次に民主党が小ブルジョアと労働者上層部だけの党となり、労働者大衆の利害を代表しなくなり、民主党自身の分解が進む。このときに次の政治的流動が開始されるのである。
二大政党制の始まりだとする解説が横行しているが、その論拠は何も示されていない。いい加減な表面的現象への意味付与と追随を生業とするまやかし評論家の言うことを  信じている人々もまた情勢分析を誤るだろう。民主党の分解過程に立ち遅れず、遅くても10年後に始まるこの分解過程に間に合うように、労働者階級の党を登場させておかなければならない。

4. コイズミの暴走をとにかく止めることが大衆の欲求であり、この判断は正しい。

大ブルジョア、小ブルジョアの概念を持たない小泉は、自分の政策が大ブルジョアジーのための政策であるという自覚を持たない。そのため、行動に一貫性を欠く。
産業再生機構なるものを作って、100兆円を超えるであろうという、もう訳の分からなくなったほどの税を大ブルジョアに注ぎ込んでいる。曰く、金融不安の回避。
この結果、国民の階層分化は進行し、労働者は一握りの上層部と10%ほどの正採用者、70%ほどの非正規採用者(パートを含む)、10%ほどのフリーター、10%ほどの失業者という風に分解した。
農民は1%未満の大規模経営、50%ほどの自営農、一応農民として登録されているが農業実態のない農民や自給農産物を生産するだけの農民へと分解した。
企業もまた、勝ち組大企業と負け組大企業、勝ち組(生き残り組)中小企業と倒産企業へと分解した。
これらの政策は大ブルジョアの狭い利害をよく代表している。
狭い利害だというのは、大ブルジョアの直接的利益を追求するあまり、国内の消費市場を狭め長期的低落を余儀なくさせる政策であり、政治権力を「民主主義」体制では保持しえなくなる政策であるからだ。
国際的には大ブルジョアジーは、労働組合・労働運動を合法化することにより、労働者階級に購買力を持たせ国内市場を広げるという長期的・安定的方策を生み出してきた。また独裁政治では階級闘争に要するコストが高すぎることから、労働者や小ブルジョアにも利益の一部を分配する方式を生み出し、それを民主主義体制として表現してきた。
小泉はこうした懐の深いブルジョア階級の歴史的智恵を構造改革へ邪魔者としてしか認識できなかった。このためブッシュ米国に追随し、イラク石油利権をはじめとするおこぼれに預かるのが大ブルジョアの利益だと錯覚する過ちを犯した。円経済圏を持たぬ限り、依然として「軍事ただ乗り」の方が収支決算は良いのであり、日本のブルジョアジーは多国籍軍への参加など望んではいない。自国の利害から米・英の利害に追随しなかった仏・独の方が「大人」に見え、小泉はと言えば、ブッシュの飼い犬がコイズミに会いたがっていたよと当のブッシュに言われて喜んでいるていたらくである。言う方も言う方だが、それにむっとさえ出来ない方に至っては語るに落ちる。円経済圏が出来れば、仏・独のように米に追随しないのがブルジョア的には正しいのであり、円経済圏が出来ていないのであれば米に適当にお付き合いをするふりをしながら米の疲弊に乗じて円経済圏を作り上げていくのがブルジョア的には正しいのである。
この節の冒頭に掲げたように、小泉の行動には、かく、一貫性がないのである。
多国籍軍への参加を個人で勝手に決めてしまうという小泉の「暴走」(ブルジョアジーとしての一貫性のなさ)は危険なものであり、支持基盤を失ってきていることを直感的に表現した独裁の開始は、民主主義というブルジョア独裁形態を見出したブルジョアジーからみても破滅的行動である。
大衆にとってはもっと危険であり、早晩失脚するブッシュと心中したところで、得るブルジョア的利益すら少なく、そもそもそうした利益のおすそ分けにすらあずかれぬ階級にとっては犠牲のみを強いられる政策である。
とにもかくにも、小泉政権を倒すことが大衆にとって緊要の課題であり、共産党や社民党に投票してしまっては、小泉政権を倒すことはできない。大衆(Active無党派層と朝日新聞は命名した)からの民主党への投票が多くなった背景にはこの事情がある。
この事情からも、二大政党制の幕開けという認識形式が将来的にはもっと大きな誤りに陥ることが見てとれよう。

5. 共産党・社民党が躍進しなかったのは、軍事を避けて通れないことを知り始めた大衆の後塵を拝して「憲法9条を守れ」としか提示できなかった安易さゆえである。

01年の共産党の得票率は比例区7.9%、選挙区9.9%。同、社民党は6.6%、選挙区3.4%。今回、共産党は7.8%、選挙区9.8%。社民党は5.3%、1.8%。
共産党は0.1%減。議席に影響するほどの減少ではない。この減少分は民主党に流れたと考えてよい。民主党の躍進の大きな根拠たり得ない。
社民党は確かに減少している。ただし、比例区1.3%の減少は議席数には影響しない。
つまり、共産党も社民党もその「衰退」は01年以前にあるということである。民主党が「二大政党」と自他ともに認知してはいなかった時代から共・社の「衰退」は始まっていたのである。
「自民、民主にあらずんば政党にあらずという強力な流れが作られる中で国民世論を動かすことには至らずに、大変残念な結果になった。」(12日 市田共産党書記局長)などという発言がでるのも、二大政党化の流れという認識に足を取られているからである。その上、仮に二大政党化の流れと認識するのであれば、どうすればそれを阻止できるのか、自らが二大政党の一つになる可能性はなのかという検証の次元から発言すべきなのに、市田さんの発言はこのレベルすらないのだから、論評に値しない。消滅していただく他はない。
「民主商工会」などを通じて日本共産党が代表していた小ブルジョアジーの利害は、民主党が代表するようになったのだから、共産主義の復権以外に日本共産党が存続する理由はなくなってしまったのである。仮に生き残れるとすれば、自民党の衰退・消滅という趨勢の中で民主党が大ブルジョアジーの利害を代表する政党へと抱きこまれた時に小ブルジョア政党として復活する道のみである。この時には中途半端なことはせず、党名を改称し、社会主義をも標榜しない政党とすれば、政権奪取も夢ではない。
 今日民主党が躍進したのも、全く魅力がなくなったばかりか不安ですらある社会主義を捨てた政党が登場したというその一点に尽きるのだから。旧社会党右派路線が勝利したわけでも何でもない。旧社会党はむしろ左派の存在によって活性化していた。しかし、それも微々たるもので、社会党支持層の大半は右派支持でもなく、左派支持でもなく、反自民の受け皿の○○政党としての「社会」党であったのだから。
 社民党は土井党首の辻元切捨て自己保存で、自民党なみの古い政治体質を露呈してしまったことが決定的敗因である。生き延びる道はおそらく民主党が政権を取れば切捨て始めるだろう市民運動が明らかにしてきた諸課題を真剣に取り上げ、それが党の体質にまでになるような大転換をやり遂げる以外にはない。早晩、社民党は消滅するだろう。

6. 公明票への依存を深める自民

公共事業ばらまき政治から福祉ばらまき政治への転換
  自公政権を早急に終わらせなければならないもう一つの理由は、福祉ばら撒き政治の開始と深刻化という現実である。この福祉ばらまき政治は選挙のもう一つの争点とされた年金問題に奇しくも象徴された。
  公明票の動きが悪かった選挙1週間前の政党支持は、自民(選挙区24、比例区29)、民主(選挙区19、比例区46)だった。民主優勢の報道を受けて、自民が党員名簿の一部を渡して公明の選挙協力の強化を要請した効果は出て、選挙当日の出口調査では、自民(選挙区33、比例区15)、民主(選挙区23、比例区49)となった。つまり、選挙区で自民党の票が大幅に伸びたのであり、これは公明の協力なしには考えられないということである。29から15に減少した自民の比例区票は公明に回ったかといえばそうではない。前回公明に流れた4%から、今回5%に微増しただけであり、公明を支持できない自民支持層から民主党に票が流れたことも伺える。自民支持層から民主比例区には12%が流れたのである。宗教団体などは絶対に公明に投票することはなく、それくらいならば社会主義とは無縁になった民主に投票する。公明と連立を組む自民へのお灸の意味も含めて。
  選挙区で勝利した自民の得票を詳しくみていくと、公明票がなかったら落選していただろうと思われる選挙区がほとんどである。ということは、公明の協力がなければ自民の議席は35程度になっていたということである。
  自民はすでに選挙前、公明案の年金改革案を通すという譲歩をし、児童手当の拡充というばら撒きを実現させてしまった。
  無駄な公共事業キャンペーンで攻撃の対象とされたのは、土木関係だった。確かに不必要な農道や高速道路を造るのはばら撒き以外の何物でもなく、都市と農村という観点からみれば、都市部の税を農村部に還流する非効率な方式であった。都市部の道路は不足し、慢性渋滞による物価上昇や社会的コストの増加は放置されたまま、その都市部の税を農村部の不必要な道路などに回されるのだから、解消する必要はある。農村部にとっても土木を通じて10%程度が還流されるくらいなら、半額に減額されても50%の使途自由な金を貰ったほうが、絶対額の上でも使途の上でも10倍もお得ということになる。さらに、造ってしまった上物の維持費が自治体会計を圧迫するにおよんでは、土木ばらまき公共事業は廃止すべきであるということになる。
  ここまではよい。しかし、今回の自民党の実質的惨敗で、公明党の福祉ばら撒き路線が全面開花する可能性が大きく膨らんでしまった。これもまた、非効率な方式である。
  従来の土木ばら撒きが全く非効率ながらも都市部の富を農村部に還流する役割を部分的に果たしていたのに対し、例えば児童手当支給対象の拡充はこの役割を持たない。年金を増額できたとしても(ありえないのだが)、都市と農村の格差是正には何ら関係しない。出生率が農村部の方が僅かに高いだけのことである。
  こんなことに金を回すくらいならその財源分をもって消費税を撤廃した方が遥かに経済効果があるし、家計にとっての負担も減る。福祉という聞こえのよさそうな掛け声をもってして無駄遣いの構造が別の形をとって再生産されようとしている。
  例えば民主のリードで実現してしまった介護保険制度により、国民の租税・社会保障関係の負担は40%前後にまで跳ね上がってしまった。もちろん消費税の増額も大きく影響しているが、これ以上の社会負担の増加は、ますますの出生率低下とパートなどの女性の安価な労働力市場への組み入れを促進する。
  介護保険は芽吹きつつあった人民相互の直接の互助制度を壊し、雨後のたけのこ並みの介護関連業者を生み出し、膨大な社会的浪費を助長した。介護施設に放りこんだまま厄介払いをしたという意識の人間を支え、新たに生み出し、介護にかこつけて利潤を追求する業者をはびこらせる人為的経済的根拠を与えてしまった。介護保険制度がなければこのような人間は存在のしようがなかったのである。
  こうしたことをどう解決するかの問題意識すらなく福祉ばら撒きを行うことは、大きな政府と高負担により、国民を圧迫するだけのことである。大衆の国家への隷属は深まるばかりである。

7. まとめ

・ 民主党は小ブルジョアの利害を代表する政党に成長した。
・ 自民党は大ブルジョアの一部の狭い利害を代表する政党になり、早晩衰退する。
・ 二大政党制の始まりではない。
・ 労働者階級の利害を代表する政党は相変わらず存在しない。
・ 福祉ばら撒き政治が開花する可能性があり、大衆の生活は圧迫される。




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