共産主義者同盟(火花)

北の脅威論に対する態度

渋谷一三
265号(2003年9月)所収


1.

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が核開発を急いでいる。北の政府自体は数発の核弾頭を保有している、と、宣言した。テポドンに搭載する技術さえ確立すれば、日本は確実に北朝鮮の核ミサイルの射程圏内に入る。韓国政府は北はすでにテポドンより射程の長いミサイルを保有した、と、発表した。
 この事態を前に、北朝鮮の脅威に対抗するための日本の軍備増強が叫ばれ、被害者意識
に基礎をおいた漠然とした厭戦意識からかつて反戦を支持していた部分が解体され、有事立法がいとも簡単に成立した。なるほど論理的ではある。被害者意識からすれば北のミサイルの被害に遭うのは避けたい事態であって、厭戦意識の対象は北朝鮮に向けられるというわけだ。
 北朝鮮のミサイルの被害に遭えばよいと主張するわけではない。が、あれほど反対し、20年以上も「日の目を見なかった」有事法制研究が雪崩をうって成立してしまった点に、日本の社民政治の、あるいは反対派政治の底の浅さと危機とを見る必要があるだろう。

2.

 日本の社民が今回の事態を前に完全に醜態をさらけ出してしまった根拠は、第一に朝鮮民主主義人民共和国の支配体制に対する認識の不足をあげることが出来よう。この認識不足は、怠惰と20世紀後半の特殊な状況下で成立した図式的思考の産物である。
 怠惰だというのは、いくら遅くともソ連邦の崩壊をもってして、少しは真剣に「社会主義」なるものの検証作業を開始すべきなのに、一切そういった作業をせずにきたことを指す。図式的思考とは、第2次世界大戦後の、特に中華人民共和国の成立をもって「社会主義圏」が成立し冷戦構造が成立したという特殊な状況下での「理論」=平和五原則への信奉を指す。
 帝国主義と闘う仲間、社会主義圏に属する国家=朝鮮民主主義人民共和国。ここへの内政不干渉の原則適用は、帝国主義の攻撃から社会主義国家を防衛する働きをする。とでもいう図式的思考である。
 この結果、朝鮮民主主義人民共和国なる国家が、権力闘争につぐ権力闘争、粛清につぐ粛清という恐怖政治によって成立した金王朝であるという実態を全く見ようとしなかった。
この怠惰と図式的思考によって朝鮮民主主義人民共和国の人民が多大な苦難と犠牲を強いられ続けることに協力してきたし、拉致問題がはっきりした今にしてなお、北の人民への敵対行為を続けているのである。
 社民派が党派として残りたいのであれば、少なくとも北の政権に対する態度を総括しなおし、平和五原則に対する総括をしなければならない。

3.

 ところでこの怠惰と図式的思考は思考停止状態に陥っている「新」左翼諸派のほとんどが社民と同じである。平和五原則はバンドン会議で採択されが、この状況は、成立して6年しか経っていない中華人民共和国が百年以上ものイギリスの支配からやっと解放されたインドと語らって非同盟運動を利用しようと考えて、実質的に中国が提唱したものである。
 共産主義の実現は世界革命を必要条件とするという思考はトロツキー派だけではなく、中国もゲバラも踏襲している。こう考える根拠は、世界市場の中で商品生産がなされていれば、必ず資本が生まれ資本主義との闘争が不可避となるという点をもってしてである。
 ゲバラは中南米の革命を直接に目指し、世界革命を文字通り実現しようと、革命の成立したキューバを去り、CIAとの闘争に敗北し非業の死を遂げた。中国は共産主義は世界的にしか実現しないが、社会主義は一国でも可能であるという立場でレーニンのロシア革命を承認していった。したがって、中国で成立した政権は社会主義政権になりえるとした上で、現状認識としては社会主義にも至っていない人民による民主主義政権だと自己規定した。この政権が資本主義に変質する可能性は十分にあると考え、とりあえず一国で社会主義を実現するにしてさえ商品生産を無くしていかなければならないと考えた。これが毛沢東の継続革命論の骨子である。社会主義に至るまでも、至ってからですら、小商品生産が生まれそれが商品経済を復活させようとする力となり、不断に資本主義を復活させるから、革命を継続し続けない限り社会主義が変質してしまうという歴史認識が必然的に導かれた。これが5年後に中ソ論争に発展する必然的根拠である。
 ここからする戦略として、社会主義諸国あるいは社会主義圏という発想をとらず、帝国主義と被抑圧民族との矛盾として(五大矛盾「論」)現代社会を描出し、自らを非同盟諸国の一員と規定した。
 この非同盟諸国が未だ支配されている被抑圧民族の自己解放運動を支援することが帝国主義の存立基盤を弱め、帝国主義の打倒という現代社会における第一の任務を遂行することが出来、歴史は次の段階に進むことができると考えた。おそらく帝国主義国家が一つ残らず打倒されたときに人民共和国から社会主義共和国への国名変更を考えていたと推測される。
 こうした一連の思考は論理的ではある。だから、この思考から出てきた戦略なるものを批判するとするならば、一連の思考の根源たる、共産主義はどのようにして実現可能なのかという所に戻って論議する必要がある。あるいは、その一歩手前の商品生産、あるいは商品生産の廃絶は必要条件かを巡ってである。
 ともあれ継続革命の発想からする非同盟諸国運動は、今日の歴史からみて、決して成功したとは言えない。非同盟諸国としてすらまとまることも出来ず、中印紛争へと発展してしまったことは周知の通りである。
 また、ベトナムの奮闘により、ここへの支援を大事に考えた毛沢東は、「中国を世界革命の兵器廠に」とまで言い切って、文化大革命を起こしてまでベトナムを支援した。この行為は世界革命なくして共産主義なしとする立場からは全く正しい態度となるが、非同盟運動から見れば、ある時は非同盟でまたある時は「社会主義諸国」の一員として振る舞うご都合主義としてしか映らない。
 かくして、非同盟諸国運動は破綻したのであり、この破綻した運動の中で掲げられた戦術である平和五原則なるものもまたとうに破綻を宣告された戦術にすぎない。
 同じことを論理的に見てみよう。内政不干渉の原則を提示することで、論理的には公然たる革命の支援が出来なくなる。というのも、革命途上の組織は政権を取っていず、その国の政府からは内政に対する露骨な干渉ということが出来る。他方、反革命支援は容易である。革命に敵対し、弾圧している側は政権を握っている。その政権から公式に支援を要請されそれに応えるだけのことであるから、内政干渉ではない、ということになる。革命運動の利害を犠牲にしたにもかかわらず、その見返りはないのである。事実、この歴史期間、パレスチナへの公式支援は、非同盟諸国あるいは中国からなされることはなかった。
 さて、「新」左翼の中にも、未だ排外主義との闘争の中身を内政不干渉においたまま、核開発を例えば内政への干渉であり、米国こそ核超大国ではないかと、「批判」しているところもある。核開発を止めろと圧力をかけること一般を否定してしまったら、米国の核を廃絶させるよう強制することもできなくなる。力さえあれば、米国に即時核廃棄を要求し、要求に従わねば強制的に廃棄してしまっても良いのではなかったのか。この当然の論理的帰結を否定しなければならなくなるのは、核の廃絶という観点からのみ事態を考えたのでもなく、内政干渉という観点からのみ事態を考えたのでもなく、北を擁護すると決めた上で論展開しようとする立場そのものに起因する。
 核の廃絶という観点からのみ考えれば、それが社会主義国であろうがなかろうが、反対するのが正しい態度である。したがって、北の政権に対する評価は一切関係しない。北を擁護したいという立場であっても、核開発反対という態度表明になるはずである。内政干渉反対という観点からのみ考えるなら、北が核開発することに反対してはならない。エネルギーに枯渇している内政事情があるのだとでもキャンペーンして、核開発を擁護すべきである。
 なされている宣伝は、帝国主義は北を非難する資格なしという立場を挿入することで、核開発には反対しながら核開発を阻止しようとするのには反対するという論理矛盾した態度を受け入れさせようとする姑息な宣伝である。一体、「共和国」の核開発に賛成なのか反対なのか!
 反対を言うしかないだろう。だったらどのように北にそれを態度表明するのが排外主義でない反対というのか、その見本になるような態度表明まで突き進まずにくどくど逆に説教をしているのは、自らの怠惰と傲慢さへの無自覚以外の何物でもない。
 このような姑息な立場の「新」左翼諸派に問いたい。金正日政権に「共和国」の人民はどのような態度を取っていると分析しているのか明らかにされたい。自らは金正日政権をどのように評価しているのか。北の核弾頭搭載ミサイルが発射されることはないと想定している根拠は何か。日本の大衆は帝国主義国家の国民だから、北のミサイルの犠牲になっても止むを得ないと考えているのか。
 実はこうした問題にブルジョアジーの側は応えているのである。盗人猛々しくだが、そして火事場泥棒的にだが、確かに応えているのである。ここに応えもせず排外主義はだめだと説教しているとすれば、何の説得力もないことは自明のことであろう。

4.

 我々の態度は氷上論文で提出済みである。金正日政権は打倒対象であり、それこそ、日朝プロレタリアートの共通の課題である、とする立場である。この立場を巡る論争に入りたいが、現状はそれ以前の段階である。金政権への態度はどうでもよい。3で提示したことに対して態度表明をしていただきたい。

5.

 自前の軍事力を持たない我々の選択肢は限られているが、我々は
1) 脱北者の難民認定を日本政府をはじめ各国政府に要求する。
2) 中朝国境の開放を中国政府に要求する。
3) 脱北者の可能な限りでの自前での支援。
4) 帝国主義諸国の軍事力行使の意図の暴露とこれへの反対の組織化。
5) 排外主義との闘い(1)〜4)に具体化しているつもりだが) 
を基本的立場とする。
―以上―




TOP