共産主義者同盟(火花)

第27回参議院議員選挙分析

渋谷 一三
472号(2025年08月)所収


<はじめに>

「第26回参議院議員選挙結果分析」で指摘していた“最も危険な”参政党が、選挙戦序盤から得票率第3位になりそうだと報道されてきた。
このこと自体が異例のことで、地殻変動が起きていることを示している。

ではこの地殻変動は何によって惹き起こされたのか?
岸田政権の『新しい資本主義』なるでたらめな経済政策によって、@円安・マイナス金利が維持放置され、原材料高騰による物価急騰が起こり、A政府が頼める大企業のみに生産性などの経済実態に全く基づかない人為的賃上げがなされ、これがコストプッシュ・インフレを招き、物価が急騰した。
この結果、大企業に勤める労働者上層部と一般の労働者下層部との乖離がますます大きくなり、下層階級がはっきりと形成された
これが、今回の選挙に現れた『地殻変動』の原因である。

一方、国民民主党が4議席から17議席へと大躍進した。
この躍進を現出させたのも同じ労働者下層部で、下層労働者階級と名付けて良いだろう。労働者階級上層部はますます細っている。これが官公労など労働者上層部に依拠している共産党の退潮の原因である。

<1> 抽象的無内容から具体的政策提示へ

「日本を前へ」だの「やると言ったら、やり切る」などといった抽象的無内容を平気でくりかえしていた日本の選挙が変わった。「全員当選」「常勝公明」と豪語してきた公明党が14議席から8議席に沈んだ。この党が始まって以来無かった大敗である。

これに対して4議席から17議席に大躍進した国民民主党は、ガソリンの暫定税率を撤廃することや、所得課税を103万円から178万円に上げるという具体的かつ実現可能な公約を掲げることで、大躍進を遂げた。今回の選挙結果だけをみれば立民に肉薄する第3党になったのである。

 だが、だからこそ前途多難である。この二つの公約を実現した後、目玉商品を見つけ出さない限り得票は大幅に下がることになる。参政党を見習い党員獲得に邁進しない限り大幅議席減が予想される。これは、行政改革で一世を風靡した「みんなの党」と同じだ。

<2> ファシズムからナチズムが発生=参政党

「維新」は労働者階級下層に呼びかけ、公務員などの上層部労働者を敵にして叩くことで急速に伸びたファシズム政党であることは再三指摘してきた。だが、ナチズムではなかった。論理的整合性をもっていた。この点でイタリア・ファシズムの“健全性”を保っていた。
 だが、今回、下層階級という同じ支持基盤に依拠した参政党に食われてしまい、そもそも東京と比べて圧倒的に下層労働者が多い大阪にしか根を張れなかった党になってしまった。
 勿論、これは万博とカジノ建設という旧態依然とした経済政策しか打ち出せなかった政治的未熟さに規定されてのことではあるが。

 そこに安倍派の支援を受け衆議院議員に立候補して落選した神谷氏(*1)が結成した参政党が登場した。「日本人ファースト」という排外主義を公然と掲げることで大躍進をとげた。
物価高などで困窮の限界に追い込まれた下層階級は、理屈ひいては論理などを受け付ける余裕などない。苛苛した感情を揺さぶる煽情・煽動に、敏感に反応するだけである。

 「中国人が不動産を買い占め家賃吊り上げを引き起こしている」「マナーの悪い中国人観光客に日本人の観光地を奪われてしまっている」「オーバーツーリズムによってバスに乗れなくなったり日々の買い物にも支障がきたされる」など、マスメディアが一面的・煽情的に描き出す像に感化され、外国人の増加によって生じる文化的摩擦、軋轢をコントロールすることに失敗してきたり、無策に対応してきたりした政治に怒りが溜まっている。(*2)
 この状況に言及した参政党に対し、建前としての外国人差別反対や排外主義反対しか対置できなかった社民党・共産党・立民党が敗退したのは当然である。

 注意しなければならないのは、こうした憤懣を正当に取り上げ、外国人差別や排外主義に陥らないようにするセクターが不在ないしあまりに虚弱なことである。この結果、排外主義を煽り外国人差別を助長するセクターが急成長する。これが、参政党が果たした役割である。
 要するに状況を黙過する政党がほとんどの情況のなか、これを取り上げミスリードしていく政治的に未熟かつ稚拙な政党が参政党である。これこそがナチズムを生み出す原理だ。ナチも政治的に未熟で、稚拙な政党だった。

<3> 大衆の意志を無視し続ける立憲民主党=低落の序章

小選挙区で過去落選した辻元氏を党の代表代行に据えるという大衆蔑視をする以外にない立民党。党内事情が大衆の選択=意志表示に優越するという体たらく。これで勝てるわけもなく、勝てると予想されていた一人区でも3つの選挙区で自民党に負けるという実質的敗北を喫している。
 比例区の得票率で見ると、第2位の国民民主党の12.9%に負けて、参政以下の第4政党になり下がっている。「野党第1党」だの、「本気で政権を取りに行く」だの言っていられる身分ではない。
 そんな危機的状態なのに、危機意識を持てていない。
 枝野氏や福山氏などの結党時メンバーが多数派を形成しない限り、立民党は小池氏の創設した保守政党=希望の党に合流しようとしていた旧民進党部分に乗っ取られた政党にすぎない。立ち位置のない中途半端な保守政党ということになる。
 長期低落は必然となろう。


【参考】第26回参議院議員選挙結果分析(2022年7月)


本文書公開後、下記の個所を修正致しました。

(*1)
【修正前】
安倍派から衆議院議員に立候補して落選した神谷氏

→より正確な記述に変更

(*2)
【修正前】
中国人による不動産の買い占め=家賃吊り上げに象徴される横暴に対する憤懣は鬱屈しており、マナーの悪い中国人観光客に日本人の観光地を奪われてしまっている現状、オーバーツーリズムによってバスに乗れなくなったり日々の買い物にも支障がきたされるなどして、外国人の行き過ぎた行為をコントロールすることに失敗してきたり、無策に対応してきたりした政治に怒りが溜まっている。

→マスメディアが一面的に描き出す像を拡散している印象を与える表現になっており、本旨に適した文面に変更




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