共産主義者同盟(火花)

現実に対応する能力を持たない自公政権

渋谷 一三
459号(2022年11月)所収


<はじめに>

 1ドルが遂に150円になった。

 黒田日銀総裁は、相も変わらず、「異次元の金融緩和」を継続すると言い張り、国会議員の追及に逆切れする醜態をさらしている。
 ユニクロの社長までが、円安を何とかしないとどうしようもないと言明した。
 それでも、黒田氏はズブズブの円の垂れ流しをやめようとしない。これをやめてしまえば、停滞の9年間は安倍晋三と自分のせいでもたらされたと認めることになるからだ。意地でも認められないのである。

1.『1億円の壁』を無くそうと動き出した岸田経済迷走政権

 富裕層の所得が1億円を越えると株により多くの資金を投入するようになる。
 所得税は4000万円を越えると45%となる。他方、株は一律20%課税なので、資金を株で保有しておけばキャピタル・ゲインは80%収入となる。他の方法で所得を増やすより手元に多く残る。
 こうした事情の積み重ねで、所得が1億円を越えると、1億円をピークに税率がどんどん下がる現象が生まれている。これを『1億円の壁』と言うそうだ。
 岸田政権はここに手を入れ、1億円の壁をなくすべく、キャピタル・ゲイン一律20%
 課税をやめ、ここにも累進課税を持ちこむか、一律30%課税にするかなどを検討する作業を開始した。
 仮に、前々から言っていた一律30%課税にしたとすると、多くの「個人投資家」が株式市場から離れる。多くの「個人投資家」は株に手を出してみるものの大概は損をして手を引く。0 sum game(差し引き0のゲーム)であってみれば、誰かの得は誰かの損によって補われている。情報網を持っている機関投資家に「個人投資家」がかなうはずもなく、仕手戦を行う資金量もない「個人投資家」が市場の勝利者になるはずがないからだ。
 また、所得が1億円を優に超える高額所得者のうまみは減り、株式相場から相対的に手を引くようになる。
 いずれにせよ、株式市場への資金の流入は大幅に減少し、株価は低迷するとともに、資本家の資金調達は、株式から社債や内部留保の拡大、賃上げの抑制または賃下げに比重を移すことになる。
 これらはいずれも、『賃金上昇を伴わない物価上昇』だから、黒田流学説によると、金融緩和を続けなければならないことになる。
 黒田路線を廃絶しない限り、米国連邦銀行が利上げをするたびに円高は階段状に進行することになる。また、株式市場に流れていた資金は行き場を失い、金融緩和とあいまって、ますますダブつき、「金余り現象」が生まれる。
 景気後退と円安の進行。それゆえの物価上昇。賃金上昇を伴わない悪質なインフレが進行する。
 経済の初歩的知識すら持たない岸田首相がもたらす混迷である。
 黒田総裁の頑迷さには、学説の師匠である浜田イェール大学名誉教授ですら、もうちょっと柔軟に考えてもいいのではないか、と、苦言を呈している。
 
では何故岸田政権は、より混迷の度合いを増す『1億円の壁』除去政策を模索しているのか。軍事費を増やす為の財源を探しているのである。
 この為に、更なる経済の混乱を惹起しようとしている。

 こうした危機的状況であるにも拘わらす、日本のブルジョアジーは無能で、自公政権支持一辺倒である。
 立憲民主党を政権交代可能な政党に育て上げるふところの深いブルジョア政治を実現しようとする視野の広さや度量がない。小沢氏以外にこうした広い視野に立てるブルジョア政治家はなく、日本の資本主義の低迷・停滞をもたらしている自公政権を支持し続けるしか能の無い日本のブルジョアジーの無能さが、「日本の没落」を加速させている。

2.日本のブルジョアジーの能力自体が衰退している。

 習近平体制の「強化」継続が決まった中国は、この5年間の異例に延長された習近平の在任中に台湾を「統一」することに躍起になるしかない。
 憲法を変えてまで2期までという任期の制限を撤廃してナンバー1の座にしがみ付いた習が大義名分にしたのが「台湾統一」である以上、任期中に「台湾統一」が出来なかった場合は、権力の座を降りた瞬間から、彼の父親がそうであったように手のひらを返した習近平叩きに遭うのは必定である。
 香港モデルで台湾を「統一」しようとした習近平であるが、香港での弾圧の嵐が、香港モデルでの台湾統一の可能性を遠く押しやった。
 プーチンが武力侵攻の火ぶたを切ったおかげで、「1つの中国」の内戦をやりやすくなったと判断してしまった習が、台湾への武力侵攻をする可能性はますます強まった。
 いや、それ以外に「台湾統一」の方法はないと言えよう。
 『一国2制度』の看板は香港で剥げ、今日の台湾で『一国2制度』を信奉し呼応する勢力は無い。
 台湾への武力侵攻の可能性が高まってきた現実に対応するため、武力侵攻を抑止するために日本の軍備を増強しようという気運が日本のブルジョアジーの間で高まって来ている。
 具体的には軍事費を現在の2倍にしようとする案だ。
 自衛隊の人件費が7割を占めるという現在の軍事費の現状を鑑みれば、軍事費を2倍にするということは、軍備費を現行の3割からその4倍強の13割にできることを意味する。
 確かに効果的だが、中国の軍事費に比べれば遥かに少ない。
 米国との軍事同盟なしには中露に対抗することはできない。

 この現実を前に、日本の核武装を提唱し始めたブルジョアジー“右派”も登場している。確かに、日本は核開発をする能力は持っているし、核武装したほうが軍備増強するよりも遥かに安上がりである。
 だが、これは「弱者」の防衛戦略である。
 北朝鮮が、まさにこの「弱者の防衛戦略」を実践している。
 ウクライナを見れば明らかなように、現実の戦闘は核兵器以外で行われており、この兵器の優劣が戦況を大きく左右するのだ。

 現在の日本のブルジョアジーの選択肢はこの二つになってしまっている。

 だが、今日の中国の軍事的優位を可能にしたのは誰だったのか。

3.中国からの日本企業の経済的撤退こそが、中国の軍事的脅威を軽減する。
  また、そのもっとも安上がりな方法である。

 中国が今日の経済的発展を遂げたのは、日本企業の中国進出による。
 まず諸外国の中で真っ先に中国に進出し、莫大な資本投下を行って生産体制を構築した。必要なインフラ整備まで行った。
 その上、日本企業は産業スパイに対して殆ど無防備で、「技術移転」をスムースにしてあげ、今日、技術的にも中国は自立できるまでになっている。
 要するに日本が中国の経済的発展をお膳立てし、アシストし、膨大な軍事費を捻出できるだけの経済大国にしてしまったのである。勿論日本のブルジョアジーにその意識はなく、広大な中国市場を手に入れることに成功したとしか思っていない。
 このため、トランプ政権時に米中対立が激化した折には中国がレアメタルを輸出しないという「汚い手」を使って日本の生産ラインを止めたことや、折にふれ反日暴動を画策したことなどはすっかり忘れ、今なお「おいしい中国市場」から撤退すれば、ドイツや米国に日本の撤退したところを取られてしまうという強迫観念に囚われて、ベトナムやアセアン各国、インドなどへの移転を本格的に進めようとしない。
 中国の労働力はもはや安価ではない。
 中国との経済的結びつきが強くなりすぎている今、中国依存を脱却しないかぎり、日本の生産ラインの首根っこは中国に握られている。
 中国に依存しない生産体制の構築は今や西側諸国の共通の課題となっているのに、この課題の解決に大きく舵を取っていないのが日本のブルジョアジーの現状であり、この点でも米国に引っ張って貰っている有り様である。

 中国から西側諸国の撤退が実現すれば、中国の経済成長は終わり、その軍事費は大幅に削減される以外にない。中国経済の衰退が始まる。
 ゆえに、西側諸国が結束して中国からの撤退を行いさえすればよい。

 今がそのチャンスである。
 ウクライナ侵略戦争を始めたロシアへの制裁をより効果的にするためには中国の対露「支援」を絶つ必要があることは各国が一様に認めていることである。
 このことを浮き上がらせ、抜け駆けを許さず、一致して中国依存からの脱却を進めて行くことが、日本の取るべき道であり、取り得る道である。

 撤退の仕方で参考になるのは、日産のロシアからの撤退である。
 日産は1000億円規模の資産を1ユーロで売却するというバカな撤退の仕方をした。
 利敵行為とでもいうべき撤退の仕方で、ロシアにしたらありがたいプレゼントをいただきましたとでも言うべき撤退の仕方だった。
 工場は解体し更地にし、その土地を売却するなどの撤退の仕方をすれば、損失もおさえられる。そうしなかったのは、工場の解体に費用がかかり、土地の売却に時間がかかり、1企業としては却って金がかかるからである。
 この解体費用などの金を政府が支出してあげることにすれば、利敵行為的な撤退はしなくて済む。また、移転費用を一部補助するようにすれば、「中国からの撤退―ベトナムやインドなどへの移転」がこつこつと進むだろう。政府の入りこむ余地は十分にある。

4.現実対応能力を欠く岸田迷走政権

 「異次元の金融緩和」をやめるだけで、0金利であっても市中の金利はゆるやかに上昇する。
 岸田政権は、黒田の異次元の金融緩和なるものをやめさせることすら出来ないため、円安は留まることを知らない。
 マクドナルドのハンバーガーを購買力平価の基準として各国の物価を比較する手法は、1980年代ぐらいから用いられてきた有効な手法として知られている。
 この手法で比較すると、10年前、日本と米国のマクドナルドのバーガーはほぼ同じであったのが、安倍政権の停滞の9年間を経て、現在米国のバーガーは日本の2倍の価格になっている。
 言い換えれば、円の価値は2分の1になったということである。

 このため、その多くを輸入に頼っている日本の食料は高騰し、食料品の値上ラッシュとなっている。また、ロシアへの経済制裁の反動としての原油高とあいまって、ガソリン価格はもとより、あらゆる石油製品の物価急騰、電力料金の値上げに見舞われている。
 円安政策への批判をかわすために導入したガソリンへの補助金の累計額は3兆円を越えた。この財源は国債の発行で賄うため、今後長期にわたってこの償還が経済成長の足引っ張りになることが約束されている。
 円安政策を続ける黒田の尻拭いのため、岸田政権は電気料金とガス料金への補助金支給を来年1月から9月まで行うことを決定した。
 この財源もまた、国債発行である。
 あれやこれや総額29兆1000億の国債発行補正予算案は、自公の賛成で可決されることになろう。
 バラマキ政治であり、浪費政治である。
 円安を元から断たなきゃダメなのに、ここには手を着けることすら出来ず、国債発行残高を積み増ししている。これが、今後の停滞の9年間をもたらすことになるのは必定である。
 物価上昇率はすでに3%をこえた。

5.現実対応能力を欠く日本共産党

 日本共産党は、中国の覇権主義に気づきながらも、日本の軍備増強は中国との緊張を高め、米中戦争に巻き込まれるおそれがあるから止めた方よいという見解を発表している。
 台湾有事への対応能力が無いという宣言である。
 これでは自公の迷走政治にすら勝てない。

6.立憲民主党の足引っ張り=野田元首相

 この人物は、安倍晋三の挑発にのって衆議院を解散してしまい、民主党政権を終わらせてしまった“罪人”だが、今また安倍晋三の追悼演説を国会でやってしまい、それも大人(タイジン)ぶって、故人を持ちあげる内容に終始した。
 そもそも、追悼演説の依頼を断るべきなのだが、快諾してしまう能天気さ。政治家の質をもっていない。
 国民の過半数が安倍晋三の国葬に反対したのは、安倍晋三が国葬に値する人物ではないと多くの人々が思っているからだ。
 こんなことも読めない人物が政治家である資格などない。
 レッテル張りしかできない辻本清美議員ともども、議員を辞めていただいた方が害がない。




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