共産主義者同盟(火花)

国際連合体制の終焉−第二次世界大戦後の国際秩序の崩壊

渋谷 一三
454号(2022年2月)所収


<はじめに>

 ロシアがウクライナ軍基地をミサイル爆撃した。この先制攻撃により、ウクライナ軍の戦闘能力は著しくそがれ、早くも無抵抗降伏まで囁かれ始めている。2022年2月24日のことである。
 25日からは冬季パラリンピックが開催されるが、冬季オリンピックの開会式にはわざわざ出席したプーチンは、パラリンピックの終了まで待たずにウクライナ侵略戦争を始めた。
 オリンピック精神など虚構だという周知の事実を公然と認めたと同時に、パラリンピックの虚構をも公然化させ、さらに自らの障害者差別体質を露呈させた。
 腐敗臭がプンプンする露・中関係である。

1.ロシアのあからさまな侵略戦争を阻止できなかった欧米

ロシアとベラルーシの合同軍事演習や、ウクライナとロシアの国境すべてにわたるロシア軍の展開によって、NATO加盟国の防衛のために無条件に戦争体制を取ることが出来ないことを露呈させることに成功した。
事は軍事同盟の根幹にかかわる。集団防衛である限りは、加盟国の一国への攻撃には加盟国全体で反撃戦争をすることは、軍事同盟の根幹である。
ところが、この根幹が崩れたのである。ウクライナが加盟を申請中であってまだ正式加入が認められていないからなどという言い訳は、反論になりえていない。仮に、ウクライナが正式にNATO加盟国であったとして、今回のようにロシア軍に包囲され、自国の軍事基地を破壊された場合、NATO軍はロシアへの武力攻撃を開始できるだろうか?  
ロシア領への砲撃やミサイル攻撃を開始すれば、ロシアから欧州の大都市へのミサイル攻撃が確実に行われる。英・仏・独の都市はロシアの都市に比べれば遥かに密度が高く、ミサイルを撃ち込まれることによる破壊は遥かに大きい。
核戦争こそ回避されるものの、ウクライナのために自国の首都を焦土と化す覚悟など全くない。そもそもはソ連(ロシア)に攻撃されないよう軍事力のバランスをとるためにNATOは結成されている。ありていに言えば、ロシアに攻撃された場合を想定し、これに反撃してダメ―ジを与えることができる軍事力を保持すれは、ロシアの攻撃を抑止出来るであろうと考え、一国だけではロシアの軍事力に対抗出来なくても、共同でならばロシアの軍事力を上回ることができるとの力学に基づいている。ある意味極めて防衛的で、そもそも好戦的ではない。自国防衛戦でない限り士気も上がらない構造である。  
そして「自国防衛」の「自国」に入るのは、英・仏・独の3国だけであり、その他の加入国はNATOに入っているという「肩書き」を得ているだけで、そもそも米・英・仏・独がこれらの「その他諸国」を命がけで守ることはない。
米国が戦争を仕掛けるのは核保有国ではなく、米国よりはるかに軍事的劣勢の国々に対しである。これら「軍事的劣勢の諸国」を守るために米国が戦争をしたことは一度もない。

かくして、たかの知れた経済制裁しかできないことを再確認したプーチンは、確信をもって、断固としてウクライナへの攻撃を開始したのである。目的は、東部2州の分離独立とその後の併合である。
クリミア併合で、おおよそ今回の東部2州併合は可能であると予想して戦略を練っていたものの、石橋を叩いて経済制裁以外にないことを確かめてから攻撃を開始したのであった。

2. 「侵略」軍が国連常任理事国で、拒否権を発動できる。

 グテーレス国連事務総長は懸命にロシアに侵略戦争を行わないように演説したが、虚しく響くだけであった。このことは当の本人も感じていて、語気に懸命さの微塵もなかった。
 実際、欧米は国連安保理に提訴する動きを示したが、5つの安保理の常任理事国のうちの2カ国が拒否権を発動することが見え見えであることから、誰しもが冷めた目で見ていて、マスコミはその後の経過を報道すらしない。
 安全保障理事会が機能していないことが満天下に示された。

 各国の完全に対等な1票という、仮象に立脚した国際連盟が第1次世界大戦後の秩序維持(強いては“平和”維持)に失敗した経験から、実際に世界を動かす強制力を持つ強国(+実際は戦勝国)に特別な権限を付与する国際連合方式が第2次大戦後の世界秩序を維持させてきた。が、この、実際上は世界秩序を動かす力のある強国のボス交(ボスだけによる交渉と決定)によって世界秩序を微妙に動かして均衡と安定を保持してきたシステムが、諸課題を現実に適合するように調整する機能を失い、崩壊した。
 早晩、中国は台湾を“解放”するだろう。ロシアは良いお手本を見せてくれた。中露が手を組めば、軍事的にも怖いものはない。
 かくして、「無能の長物」と化した国際連合は形骸化し消滅するしかない。
 対ロ・対中側も、国連とは関係なく、G7だのクアッドだのという実質的単位・連合で動くしかなくなっている。
 国連はすでに機能不全に陥っているのである。

3.国連なき新世界での混沌から、国際法に基づく新秩序は形成され得るのか? 

 この問いに答えるために、今回のロシアによるウクライナ戦争を上記の視点からもう一度見て行こう。
 
 欧州をナチスドイツの支配から解放するために最大の犠牲を払い最大の貢献をしたのはソ連邦だった。
 ナチスドイツとの戦いで、ソ連側死者は3000万人を越えるという。フランス・イタリアのレジスタンスの戦いもあいまってであるが、ソ連がナチスとの戦争で払った犠牲は壮絶なものである。この重圧がスターリン独裁体制という歪みをソ連邦に強制した面もあり、二重の犠牲の上にナチスドイツを殲滅できたというのが歴史的事実である。
 他方この間、ウクライナはソ連邦の穀倉地帯として育まれてきたとともに、民族的にはロシアと同じスラブ民族であり、国境を挟んで両側に親戚がいるのが珍しくもない。
何で国境があるのかが理解しにくいとも言える「兄弟国」である。
 このウクライナが現在のベラルーシと同じ「親ロ独裁政権」である間は良かったが、親欧米政権になった途端にロシアにとっては軍事的“脅威”になるとともに、それ以上に経済的損失が甚大になった。黒海への船舶の出口であるクリミアが軍事的に絶対に必要であったのに対し、ウクライナは西側諸国の投資がここに集中するとともに、旧ソ連でもっとも気候が温暖な一等地であることがプーチンの侵攻を決断させた。「いいとこどり」を許さないとでもいうべきか。
 
ウクライナの今日は、明日のベラルーシでもある。
今日の「親ロ独裁政権」が人民の反対にあっているのもウクライナの前政権とそっくりであり、反独裁政権が樹立されるのも時間の問題であろう。

すると、旧ソ連邦内の「兄弟国」がロシアの干渉にあうのは永遠に不可避となる。
バルト3国を含め、旧ソ連内兄弟国の独立が本当に達成されるのは、ロシア国家側が資本主義思想を反映する国家へと質的変化を遂げた後にしかない。
西欧世界は再び市民革命時の<シトワイヤン>と<ブルジョア>という観念的2項対立の思想的課題に立ち戻った感がある。
18世紀に市民革命を経ることができなかったドイツがとどのつまりナチスを生み出したと思惟する哲学的課題=ルソーが提起しアダムスミスが反対サイドから呼応しヘーゲルによる「止揚」へと決着していく=が、現在のロシアや中国に当てはまるのではないかということである。
ルソーが嘆いた、資本主義の粗野で利己的で残酷な側面を人格的に表現しているブルジョアジー。同じくルソーが理想的建設的資本主義的人格として措定したシトワイヤン。
ロシアは忌まわしい<ブルジョア>ということになる。

 ロシア自身の市民革命の成就をまたない限り、旧ソ連邦内「独立」国家の本当の独立が有り得ないことを示しているプーチンの侵攻。これが今日のウクライナ侵攻事態が突き付けていることであるように見える。少なくとも欧州世界ではそうである。

4.台湾侵攻が、ウクライナ侵攻を旧ソ連内での特殊な現象にとどめず、世界秩序全体の混沌問題とする。

 ウクライナ侵攻が習近平独裁政権の台湾侵攻を力強く後押ししたことは確かである。
 国連常任理事国である中国が、こうした習近平独裁政権の暴挙を止めるはずがない。
 中国内部での革命=習近平独裁政権の打倒と支配階級化した「共産党指導層」の廃絶=を成就しない限り、台湾侵攻を阻止することはできない。
 この構図は、プーチンのウクライナ侵攻と全く同じである。
 国連は無力であり、新しい国際秩序の樹立のためには、中露を排除した中露に敵対する陣型の構築が過渡的に必要不可避である。
 国連の解体はそののちになる。それまでは、国連の形骸化が進行するだけである。




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