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覇権主義国家中国とどのように戦うのか

渋谷 一三
452号(2021年12月)所収


<はじめに>

米国時間12月8日、奇しくも旧日本軍による真珠湾攻撃80周年の日、バイデン政権が国際的に呼びかけた「民主主義国家サミット」が開催に漕ぎつけた。
曖昧模糊とした開催内容にもかかわらず、110ヶ国が参加したのは、今日戦争の震源地と化している覇権主義国家中国と旧ソ連の意識が抜けない専制主義国家ロシアの軍事的脅威がエネルギーとなっている。

1.ウクライナ国境に集結しているロシア軍への対応が中国の台湾武力侵攻への試金石となっている。

 ソ連時代にロシアでは最も暖かい地域であったことによりウクライナは穀倉地帯として育成されてきた経緯がある。このため、インフラ投資のみならず様々な経済活動により、ウクライナ内部にロシア人が多く住むようになり、特に東部ではロシア人の比率が高くなった。
 東部2州のロシア人からすれば、東部2州をウクライナから“独立”させて欲しく、その上でロシアに編入してほしいということになる。
 プーチン政権はこうした事情を利用して東部2州の編入の機会を窺っている。
 ロシア唯一の穀倉地帯として育ててきたウクライナが丸ごとロシアから独立してしまったのでは、ロシアの食糧供給が逼迫してしまうのもまた事実だからだ。
 親ロシア大統領の間は食糧供給も安保体制もロシアにとって良好であった。が、この大統領が権力乱用の小人物な上に不正に私財を蓄財する腐敗した人物であったことが“誤算”だった。人民から放逐され、ロシアに保護を求めて逃亡したため、ウクライナの新大統領は西側に寄ることによってバランスを取ることになった。
 こうしたことが今日のウクライナ東部国境の軍事的緊張の背景である。

こうした背景があるせいか、米国のロシアへの警告は何とも緩い。
ロシアによる軍事侵攻があった場合、「強力な経済制裁を行う。」としているだけだ。
経済制裁だけならばロシアにとって大したことではない。対抗措置としてウクライナ経由で西欧に輸出している天然ガスの供給を止めてしまえばよいし、他ルートの天然ガスパイプラインも止めてしまえばよい。
米国のイメージしているような「強力な経済制裁」は実現するはずがない。
とすると、クリミアの時のように、NATOが動きにくいタイミングをねらってロシアが軍事侵攻する可能性はかなり高い。
仮に東部2州がロシアに編入された場合、この2州の内部で反ロシアの運動が起きる可能性はかなり低く、クリミアのように安定的にロシア領になることが予想される。

2. ウクライナ情勢を見ている中国

 ウクライナで軍事衝突に至らないのであれば、「1つの中国」を認めている米国が中国の内政干渉をすることが出来ないという論理で、台湾軍事侵攻に踏み切る可能性は高まる。
 このことは、香港で実験済みである。
 日本はこの有事にどう対処するのか。
 北京冬季五輪の外交的ボイコットすら決められない体たらくで、台湾有事に対処できるはずがない。安倍政権の再再来という悪夢もまんざらでない。
 日本資本が中国に入りすぎていることが岸田政権の躊躇と優柔不断の根拠なのだが、日本の小資本はすでに高くなりすぎた中国を見限ってベトナム・インドにシフトし始めている。これに対して大資本は投下した資本が大きすぎて回収しきれていないところに、ベトナムやインドにさらに大きな資本を投下する余裕がなく、機敏に動けないでいる。だが、そのことが中国進出大企業のネックとなり業績不振はますます甚大化することになる。
 すでに技術を盗んだ中国は無理難題を日本企業に押し付け、日本企業を排除して中国企業とりわけ国営企業に生産を集中するようにしている。
 日本は中国と対立すると、結局米国に日系企業分の貿易を持って行かれるとの御用学者の意見がまかり通って、米国不信病に陥っている。実は、これは米国不信病ではなく、米国民主党嫌い病で、共和党政権復帰を望む安倍派御用学者の策謀なのだが、政治素人の岸田氏や旧社会党ばりの宏池会には、策謀が見抜けていないようだ。
 日中貿易が停滞すれば、中国にも大いに打撃なのだ。このことはトランプ氏が実証済みでもある。中国は大きな輸出先を失うのだ。生産しても仕方がなく倒産するしかない。
日本は中国の安い消費財が入らなくても困りはしない。国内産業が復活するだけで、百均の安い商品が入らなくてちょっと困るのは消費者だけだ。
 おそれる必要などない。コロナを輸入しそうな北京五輪自体をボイコットしてもいいぐらいだ。コロナ禍に投入される選手が可哀想というものだ。

3. 民主主義は脆弱か?
   「民主主義国家」は民主主義的か?

 バイデン政権が“招集”した「民主主義国家サミット」での米国の問題意識は
@民主主義は決定に時間がかかり過ぎる。専制国家は迅速に決定ができる別の社会制度だと宣伝しているが、そうか。
A民主主義国家はこの20年で17カ国も減少している。民主主義国家の結束を強めていかねばならない。
BSNSの普及がフェイクニュースを大量に作り出し、民主主義を破壊している。
の、3点であった。

@について
 「先進国」の間で現在実現している「民主主義」は、マルクス主義の理解ではブルジョア独裁である。
 政権交代が可能なのだが、どの道ブルジョア政権だ、という理解である。
 その根拠はブルジョアジーの巧妙さ・狡猾さにあるというよりは、社会主義が未だ理想に過ぎず、人類がその実現方法を見出していないことにある。
 こうして見ると、「迅速に決定できる専制国家」が「別の効率的社会体制の提起」ではなく、歴史上にあった国家独占資本主義段階の後進資本主義=キャッチ・アップ資本主義にすぎないことが分かる。
 ロシアはソ連邦という社会主義幻想国家の解体によって成立した資本主義国家である。中国もまた、「黒猫も白猫もネズミを捕ればいいネズミだ。」というケ小平路線によって明確に資本主義の道を歩んできた国家独占資本主義段階の国家である。
 なぜなら、20世紀のほぼ全体が、社会主義の実現を目指した国家が結局、社会主義を実現する方法を見出せず、資本主義を止揚することが出来なかった歴史だからだ。
 新左翼は、社会主義が実現できなかったのは、国際反革命によって社会主義が変質し、スターリズムという独裁政権が成立せざるを得なかったことによって挫折したのだという仮説によって社会主義への期待をつなぎ留めていた最後のスキームによって成立していた。
 フランスの新左翼の萌芽は、毛沢東主義への期待と幻想に頼って成立したし、その他の潮流もゲバラに頼ったり、世界同時革命さえ実現すれば解決されるという幻想に頼って成立していた。
 だが、どの仮説に従おうと、社会主義を実現する方策・政策を見出すことができなかった。これが、今日、新左翼が衰退した根拠である。
 バイデン政権の問いに答えるなら、「民主主義もまた発展途上である」が、資本主義は民主主義の仮象を前提とするというマルクスの指摘が正しいことを実証し続けている、と答えるしかない。

Aについて
 民主主義国家が17カ国も減少したのは、米国による反米政権転覆策動によるものが14カ国、中国による軍事クーデター政権の樹立によるものが3カ国である。
 要するに、自業自得である。
 民衆が民主主義を求めることを抑圧し尽くすことは絶対に出来ない。反米・反中国・反軍政の潮流を押し留めることは出来ない。

Bについて
  米国のトランプ氏の手法などを見る限り、その通りである。
  SNSを使った論理の無い誹謗中傷と攻撃の嵐は日本でも吹き荒れている。
  大方の「先進国」では、政府がこれを使ったり、ツイッターやその他の媒体を駆使したりして世論操作をしていることが明らかになってきている。

 バイデン政権が主催した「民主主義国家サミット」は、AもBも米国自身が当事者であり、会議を主導する能力がないことが明らかになった。
 したがって、この会議は中国に対する嫌がらせ以上には成りえない。単発で終わる可能性が大である。2回目があったとしてもバイデン政権の意地以上ではなく、各国がお付き合いするとすれば、台湾の危機の度合いによる。

4.覇権主義中国とどのように戦うベきなのか?

 すでに中国に進出している大資本は、先に述べたように、もっと労賃の安いベトナムやインドやタイなどへ転出することが出来ず、非効率的な中国で技術を盗まれ、必要とあらば反日暴動を組織され中国企業の下請け構造の中に落とし籠められようとしている。
 こうした状況を理解しない不勉強な大資本家は、例えばキャノンの社長のように、「中国市場でシェア1位を取ってしまえばいい。」などの絵空事をうそぶいている。
 どうやってシェア1位を取れるというのですか。
 すでにシェア1位を取っている日本企業は、その座から引きずり落とそうとする中国官民団結しての策動に苦しめられている。早晩、シェア1位の座から降ろされる以外に道はない。
 このことは、日系企業に限ったことではない。国家独占資本主義の枠内に入りきらずにグローバル経済化した世界の影響を受けて巨大化しすぎた中国企業も現に弾圧されている。恒大やアリババなどがそうだ。
 国独資こそ経済的キャッチ・アップの源泉であり、指導部が指導部として君臨できる物的根拠だからだ。ケインズ主義が成立していた時代と違って、国独資は常にグローバル化へと解体されていく。習近平政権はこれとも戦うことが強いられる。
 そもそも政権が成立したのが、グローバル化しつつあった民営企業と共産党幹部が癒着して汚職・蓄財をし、腐敗臭を漂わせるに至り、大衆の反発を受け、共産党指導部の支配がぐらつきだした危機的事態を前に、腐敗幹部を粛清することを通してだった。
 
 キャノンの社長のような能天気なたわごとが成立するような甘い世界などない。
 
また国家レベルで考えるなら、中国企業と有機的に結びついてしまえば、輸出ストップなどにより、国防もズタズタになるし、日本企業の息の根も止められてしまうので、中国にいいなりになるしかない。
 中国との付き合いは出来るだけ減少させていき、中国の輸出先での競合に勝ち、中国を尻ピン状態に落としこんで行くべきである。こうして中国の覇権主義と戦うことが中国の軍事的暴走を経済的に不可能にする。
 日本がこうした動きを見せれば中国は直ちにレア・アースや半導体原料などの対日輸出禁止などの嫌がらせを始めるだろう。今ならまだよい。もっと緊密に大量に結びついてからでは、脅迫にのる以外の選択肢はない。
 今なら、こうした中国の嫌がらせにG7が結束して対抗する確約を取り交わし、この流れに「民主主義サミット」参加国を巻き込む対抗措置が十分に可能である。
 米国に対中貿易を抜け駆けされるとか、ドイツにされるとか、バカなことを言っていないで、強固な密約を締結するべきなのである。
 対中貿易を拡大させている限り、早晩、中国が米国を抜いて世界1のGDP国家になる。
 米ソ対立は、ソ連の圧倒的経済的劣位によって辛うじて成立していたにすぎないが、中国の覇権が成立した場合は、今の米国による世界秩序の代わりに、中国による世界秩序世界が現出する。
 幸いトランプ政権でなくなった今こそ、長期的視野に立った反中国態勢が構築出来る。
 トランプは所詮、短期的な恫喝と賭け引きによる反中国を煽るだけのポピュリストにすぎず、それこそ日本が対中貿易を減らせばその空いた隙間に米国企業を入れる程度の人物で、相手になど出来なかった。
 日本のブルジョアジーは、気分に基づく米国民主党嫌いを改め、長期的視野に立った日米関係の構築に励まねばならない。時間はあまりない。中国はすでに台湾侵攻の機会を窺っている。

 日本の労働者階級は、今日、中国が戦争の震源地であり、中国がすでに社会主義の理念とは関係のない専制国家になっていることを認識し、このことを暴露・宣伝することから戦いを進めていくべきである。
 これまでの雑多な思想的分岐や「社会主義への理想による幻想などから、未だに中国やロシアの危険性を認めることができない負の遺産から自由になれていない停滞から歩み始めなければならない。


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