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トランプ政権に見るグローバリズムの行き詰まり

渋谷 一三
434号(2019年11月)所収


<はじめに>

 『アメリカ ファースト』の掛け声の下、トランプ政権は国益第一主義を一貫してきた。そのとどのつまりともいうべき政策が、11月5日の『パリ協定離脱』声明である。   
 10月、それまで台風被害に無縁に近かった東京地方を台風が襲い、九州地方の度重なる台風被害にあっても娯楽番組を垂れ流してきた東京キ―局は、今度は打って変わって大騒ぎをする始末。9月までの東京は、今の米国。わが身にふりかからない限り、台風の激烈化や大雨を「地球温暖化とただちに結び付けることはできない。」などとうそぶき、温暖化ガス削減の費用負担が重いなどとの論調を紹介するなどしてきた。
 10月、長野・山梨・関東・福島・宮城を襲った台風被害の額は、この月だけで、これまでに投じてきた温暖化対策費用の総額を優に上回る。
 凡庸な自民党政権もさすがに目から鱗が落ちてほしいものだ。

 さて、トランプ政権だが、排出量世界第2位(第3位の6.4%を大きく引き離す15%)の米国がパリ協定を離脱する影響は計り知れない。排出量世界1位の中国(28%)は、ほくそ笑んでいる。
 今日あらゆることで反人類的政策をとっている中国は、これからも世界の排出量の3分の1近くを垂れ流し続け、「経済発展」を遂げ続け、大国主義・覇権主義を振り翳し続けることが「保証」された。
 日本は中国の垂れ流すPM2.5を吸わされ、中国に上陸することのない凶暴化した台風に住宅・農業・社会インフラ等々を破壊し尽くされる運命を辿ることになる。

 この期に及んでも自民党やこれとくっついている資本家・企業は、中国との貿易拡大や中国への資本投下をやめようとしない。
 経済的合理性を追求するならば、中国への資本投下はやめ、ベトナムなどにシフトするのが賢明な道であり、中国に投下した資本を回収できない既存大手が中国に拘泥して傷を深くしているのを尻目に、新興資本や中小資本はベトナムやミャンマーにシフトしている。
 グローバリズムを標榜してきたこれら既存大手資本が中国から離脱できないのは、グローバリズムの行き詰まりがトランプ政権を生み出したことを理解していないからであり、グローバリズムの終焉ということを理解出来ないでいるからである。

1.グローバル・スタンダードも持ち合わせず、グローバリズムの終焉を総括することもできない習近平支配体制に未来などない。

トランプ氏が中国に対して知的財産権保護などの国際的規準を守ることを要求して「貿易戦争」を仕掛けているのは至極当然でまっとうなことである。
ただ一人ルールを守らないで公然とゲームに闖入しているのが中国である。
日本は新幹線のノウハウも含めて輸出してあげたのに、技術を、特許料も払われずに盗まれ、挙句の果てはインドネシアの新幹線建設受注合戦では日本の新幹線技術を盗用した上かつ粗悪な中国版新幹線に敗れたという経験を持っている。
日本がこの時点で率先して、中国の国際ルール破りへの戦いを挑まねばならなかった。
それが出来なかったのは、日本は、中国を侵略した挙句、損害賠償を一切請求しない毛沢東中国の政策に乗っかって経済復興を遂げたからである。
これに代わって、中国に対する弱みを持たない米国が、習近平中国の国際ルール無視を糺そうとしているのは至極当然である。
トランプ氏がファ―ウェイをやり玉に挙げながら中国の不正を糺さんとしている限り「米中貿易戦争」は正当であり、この戦いに参加せずに中国との貿易でうまい汁を吸おうとした国家や資本に非難が浴びせられたのも頷ける。
また、スプラトリー諸島に軍事空港を建設してしまい領有権を主張する覇権主義や、北朝鮮のレアアースを占有することを目的に経済援助をして核ミサイル開発を支援する反人類行為に猛進するなど、今日の「共産党」中国は打倒対象でしかない。

2.「社会主義」を公然と標榜するサンダース候補
  グローバリズムがもたらした富の少数の個人への集中に対する一つの姿勢

グローバリズムの進展によって、一つの業種では一つの企業が全世界を手中に収め「一人勝ち」をするようになってきた。この傾向はITなどの新しい業種では特に顕著で、グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾンの米企業がそれぞれ世界を単一的に手中に収めている。
自動車業界のようなふた昔前のハードウェアー産業ですら寡占化が進行している。
日本の自動車産業を例にとれば、トヨタがダイハツを傘下に収めスバル・スズキと提携関係を築き、日産が三菱を傘下に収めた結果、残るはホンダとマツダだけとなり、4系統に収斂してきた。
電器産業では、パナソニックが唯一生き残り、東芝・日立など重電機部門の収益でかろうじて消滅しないでいる企業があるだけになっている。

このように、グローバリズムの進展は寡占化を進めるとともに世界の富を一握りの個人に集中させるという結果を生んだ。

GAFAに代表される米国で、労働者階級はますます窮乏化し、失業者とホームレスの増加は留まることを知らない。最も豊かであるべきはずの国で、中間層はやせ細り、労働者階級の窮乏化が進展し、この結果、移民排斥の気分が蔓延し、犯罪が多発するようになっていた。
これをとどめた一つの「回答」が、トランプ氏の自国産業保護政策だった。ピッツバーグの自動車工は再び職にありつけるようになった。(ただし、この層は極めて薄く、トヨタやホンダの米国工場やドイツ資本の工場に雇用されれば、失業状態から脱出できていた。)先に米国に入っていたメキシコ系移民はメキシコなどスパニッシュ系の新たな移民に職を奪われる恐怖から解放された。
トランプの「アメリカ ファースト」主義は、グローバリズムのもたらした災禍への反動という、一つの回答ではあった。

だが、トランプ方式は米国内を深く分断し、人種差別の深刻化やパリ協定からの離脱にみられるように、歴史的反動的役割を果たす反動一般に過ぎず、回答足り得ない。それは既に歴史的死を宣告されたケインズ主義に舞い戻ることを要請するが、ケインズ主義が復活できる物質的根拠はすでにない。それこそ、グローバリズムが破壊したからだ。
中国との貿易戦争は互いに深い痛手を負い、失業率を再び増加させかねない。
トランプ方式も行き詰まりを見せている。

これに対し、米国民主党の候補は程度の差こそあれ、富裕層への課税を従来の水準に戻すなど、税を通じての所得の再分配政策を打ち出している。だが、これもまたケインズ主義である。
オバマ政権程度のことしか出来ず、東部エスタブリッシュメントとの協調路線が避けられない。その結果、前回のクリントン候補のように富裕層の代理人というイメージが付きまとう。
このジレンマを大胆に解決しようとして、サンダース候補は前回に引き続き、「社会主義」を標榜している。西欧を席巻した社会民主主義でもなく、社会主義そのものを標榜している。そして、民主党の少なくない人々がサンダース候補を支持するようになっている。
かつてマッカーシー旋風が吹き荒れ、赤狩りが魔女狩りのように行われ、共産党が壊滅したこの国で、大統領候補が社会主義者を自認する事態が起きている。高齢で泡沫候補にしかならないはずの候補が前回大統領選ではクリントン候補に肉薄し、今回も善戦している。
ことほど左様に人民大衆は疲れている。

だが、社会主義とは何を意味しているのだろう。
資本の無政府的運動で倒産と不況という膨大なロスを生み、労働者階級を困苦のどん底に突き落としてきた資本主義への反作用として夢想された社会主義だったが、人智の「計画経済」は「資本の無政府的運動」に遥かに劣る結果しか生み出さなかったし、理想としてのイデ(イデオロギー)も、もう人々を繋ぎとめる魅力を持ってはいない。
社会主義という題目を何度唱えようと、無内容なのだ。だのに、多くの大衆がサンダース候補に一縷の望みを託している。一縷の願望を繋ぎ留める役割を果たしているだけのいわば宗教的候補、カリスマ候補だけに、いくら善戦しても決して第1位になることはない。なのに、多くの人々が予備選でサンダース候補に投票する光景は、シェークスピアの劇を見るような悲しさに包まれている。

3. グローバリズムへの反動としての「難民」「排斥」

イギリスはEU脱退を決めた。EU残留を主張した労働党の支持率はますます下がり、直近の世論調査では保守党の半分近くの21%にまで下がった。
グローバリズムの結果、「先進国」国内に労働者下層階級が生まれた。労賃の安い後進国の労働者と競合しなければならなかったからだ。
西ヨーロッパでは社民党が軒並み退潮し、移民受け入れ拒否を掲げる政党が台頭している。
難民の受け入れ費用が膨大で、下層労働者階級が受け取るはずだった所得再分配分がなくなったからだ。社民党が西欧で軒並み政権をとったのは、所得の再分配政策が支持されてのことだったが、その機能を果たすべき社民党が、排外主義と戦うべきだとする歴史的教訓を教条的に守るあまりに、所得再分配機能を果たさず、かえって排外主義を助長する移民受け入れ政策を打ち出した。これが、社民党が衰退した根拠である。
皮肉なことに、グローバリズムと実際に戦う立場に立てたのは、排外主義者であり、トランプ氏のような、知恵のいらない反動復古主義者だった。
社民主義者は、グローバリズムに反対しつつ反対する有効な方策を見出せず、グローバリズムが生み出した災厄の後始末をすることで、却ってグローバリズムのお手伝いをしていたことなる。
整理しておこう。
グローバリズムが「先進国」内部に下層労働者階級を生み出し、後進国労働者の移民化・難民化を生みだしたのである。
これに対し、社民主義者はやせ細った正社員(労働者上層部)に依拠するだけの党になり下がり、理想やきれいごとを掲げるおままごと政党に映るようになった。エコや温暖化阻止などは、食うに足りているお坊ちゃんお嬢ちゃんのたわごとのように映ってしまった。
米国のイラク侵攻・アフガン侵攻の結果生み出された難民の受け入れを拒否し、シリアの正当政権への介入に断乎反対し、これらの戦争の結果生み出された難民は米国が引き取るべきことを公然と主張しなければならなかった。
イスラム国が急伸したのも、米国のイラク侵攻の結果であったのに、米国の尻馬にのって、イスラム国指導者の残忍性を非難するだけであり、自国の下層労働者階級にとってはどうでもいいことしか言ってこなかった。
社会民主主義者はグローバリズムの結果への反動すらやって来なかったのである。


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