共産主義者同盟(火花)

第25回参議院議員選挙分析

渋谷 一三
433号(2019年8月)所収


<はじめに>

今回の参議院議員選挙の特徴は、

 第1は、一人区での『野党統一候補』の擁立。
 その第2は、「れいわ新選組」「NHKから国民を守る党」「オリーブの木」など、その時々のパフォーマンス政党の結果。
 第3は、「維新の会」などのファシズム政党の浮沈。
 第4は、立憲民主党と国民民主党とに分裂立候補した旧民主党の、「野党統一候補」の動きに逆行する旧民主党右派の階級基盤明確化。

である。

1. 国民党の反対にも拘わらず、維持できた『野党統一候補』戦術

 国民党は、共産党との政策協定はあり得ないとして、野党統一候補戦術そのものを批判してきた。この論調に屈服してしまえば、野党統一候補戦術はなくなり、32の一人区の全てで自公候補が当選したであろうと推定できる。
 仮に自公が32議席をとれば、改憲勢力でらくらくと3分の2以上の議席をとり、与党圧勝=安倍政権信任と活字が躍ったことだろう。全く同じ投票行動で、苦しいまでの安倍独裁政権の存続が強化されて信任されたことになっていた。
 何よりも全ての選挙区に自党候補を立て続けてきた共産党が、党の認知を維持するという狭い党派的利害を優先する戦術をやめたことがすばらしい。硬直した官僚的組織の日本共産党をそこまで変えてしまった志位委員長の労苦は並大抵のものではなかったと推察される。
 また、反共攻撃という単純な煽動で、「自公野合」と戦う「野党野合」戦術を非難する稚拙な宣伝が、疲弊して無知になっている下層大衆には受け入れられるファシズムの条件が整ってしまった現代では、砂漠の水のように浸みこんでいく。この時代の流れに抗して『野党統一候補』路線を守り続けた枝野代表の『ぶれない』態度が、安倍政権の凶暴化を防ぐ現実を生み出したことも大いに評価されるべきである。
 ともあれ、野党統一候補戦術が維持されたことは銘記されるべきことである。
 また、この戦術を揶揄し敵対した国民民主党が消滅に向けて議席数を減らしたことに市民の健全な感覚が健在であることが見て取れる。

2. 国民民主党とは何者か

 国民民主党のこの教条主義的な硬直した反日共主義はどこから来ているのだろうか。
 この党の候補者を見ると、その支持基盤が推定できる。
 多くが中小の労働組合の役員だった。
 労働組合の中では、執行部をどちらが取るかで大きな力の差がでるので、日共系と反日共系とで熾烈なセクト主義の抗争が繰り広げられてきた。このため、反日共主義は骨の髄まで反日共で、反自民の比重などほとんどないのが通常である。労働組合内では、反日共の全てと手を組んで日共系執行部から執行部を奪還できるのが通常であった。だから、自民や公明と手を組むことに慣れていて、親近感すら持ってきた。
 これは、ほぼ旧民社党の支持層と重なる。
 すなわち、中小企業の労働者層である。
 だが、労働組合から日共系を排除する「労働戦線統一」=総評労働運動の終焉=日共系の統一労組懇の成立という歴史を経て、セクト的抗争はその必要がなくなり消滅した。
 それから約39年。日本共産党の側から「野党統一候補」を擁立しようと提案できるまでに日共内部の意識変革がなされたようだ。
 また、中小企業の労働者という比較的厚かった層は、80年代から労働者が上層と下層に分裂していく過程が進行していったことに伴って、みるみる薄い層となり、現在、中層企業の労働者は非正規社員・派遣社員・外国人実習生という名の超低賃金労働者などが主流となるまでに変化した。
 すなわち、国民民主党の支持基盤は極めて薄く、社民党以上に急速に消滅していくことになる。社民党には社民主義なる世界的イデオロギーがあるが、国民民主党にはそれすらないからである。

3. 具体的提起をした党の躍進=「れいわ新選組」「NHKから国民を守る党」

 「れいわ新選組」は新党として驚異的な4.55%の得票率をあげている。
 これが、どんなにすごいかは国民民主党の7.14%という得票率と比べると歴然とする。
 天皇の政治利用を禁ずるのは先の大戦の苦い苦い教訓であるが、そんなことも踏まえられず、園遊会で天皇に「直訴」してしまう一介の芸能人にすぎない党首が急遽たちあげた党が、驚異の得票を得たのは何故にか?
 大方はネット・スマホを駆使した選挙戦術にその根拠を見出しているが、そうだろうか?
 自民党もネットやスマホを駆使するプロを金で雇って、「れいわ」以上に使っている。
 だが、SNSが効を奏したという解説はついぞ、目にしない。
 「N国党」はSNSなどインターネットツールのみを使うことを意図的に追求し、極度に安い選挙費用ですまし、政党助成金で「黒字経営」をすることができることになった。候補者には、落選する旨を伝えた上で多数擁立することで、比例票を獲得し政党要件を満たすという戦術を意図的に採ったのである。
 これと比べて、「れいわ」は街頭演説も多く取り入れ、「熱気」を生み出すことに成功している。
 すると「れいわ」への投票は、手段の相違以外の何に由来するのかが改めて問われる。

 当選した二人の議員は車椅子型ベッドで国会に通うことになる。
 まず議席自体の改変が必要である。続いて通路の拡張が必要になる。
 要するに国会議事堂のバリアフリー化が早急に実現されなければならなくなるのである。さらに、さらに、通勤するための地下鉄構内や車両、駅から国会までの歩道も整備されなければならない。
 すったもんだの議論の結論が速やかに実施されるのである。マルクス主義風に言えば、論議が物質化されるのである。延々と続く観念的議論とは無縁なのである。実に痛快ではないか。
 明らかに現実変革を急速に行えるのである。

4. 「受信料」の欺瞞を衝いた「N国党」。

 『王様は裸だ!』
 誰もが実は知っているのだが、知らないふりをする。そうした「建前」が受信料である。
 見たくもない番組を垂れ流していても、見たい番組も流しているので受信料を払えというのである。多くの番組を見る人も、年に数度見るだけの人も同じ料金なのである。こんな不当な料金体系が認められてきたのは、「従量料金」を徴収することが技術的に困難だったからである。しかし、今は見た番組にだけ料金を支払うことは技術的に可能である。だが、それは出来ないことにしておこう。王様は服を着ていることにしておこう。
 4Kだか何だか、大型受像機を購入できる所得層の受信料と年金だけで細々と生きているだけの生活をしている老人の唯一の娯楽であるテレビ視聴とが同じ料金なのである。
 強制的に金を絞りとっているくせに、低所得者に対する受信料免除など様々の措置をとれるにも拘わらず全く一顧だにしないNHK。
 新聞もとっていない、食費さえりつめて満足に食べることすらできていない階層の人々にも同一料金を要求する。これがおかしいと殆どの人が内心思っているのに、法の下の平等の逆張り=「不公平をなくそう」とのキャンペーンの垂れ流しを見ぬふり。 
 こうした「受信料の欺瞞」をはっきりと公言した「NHKから国民を守る党」が議席をとれば、NHK審査会で受信料の減免を提案出来るし、「中立報道」の建前の下で安倍政権に偏った報道をしていることを具体的に追求することが出来る。
 指示したに決まっている森友学園・加計学園問題。すっとぼけて済ませている欺瞞を暴くのは至難の業だ。だが、NHKを追及することで、うそぶき政権の逃げ道を塞ぐことが出来る。
 「N国党」もまた、『百の議論より一つの実践』を貫いているのである。
 
 疲れた大衆は即効性のある政治を求める。ファシズムもまたこの一形態にすぎない。
 言い換えれば、「短い言葉での煽動」を求めている疲弊した下層大衆をファシズム側に絡め取られている現状に、風穴を開け、市民の側に下層大衆を取りこむ術を具体的に提示したのが、「れいわ」と「N国党」である。
 対して、下層大衆に訴えようと志向しているにもかかわらず、具体的手法を見出せずにファシズムに負けているのが「オリーブの木」や「労働者党」であるのは示唆的である。

5. 現状維持だが現象的には議席増の「維新の会」

 「維新の会」は3議席増やしたが、一人は横浜の党派さすらい人、もう一人は都議会造反派で希望の党に裏切られ行き場を失った人、もう一人は「大地の党」から「自民党」そして今回は「維新の会」から立候補するという選挙事情優先無信条の人。
 要するに、「維新の会」支持層が東京都や神奈川に確立されたわけではない。大阪都構想以外に売り物を持たない「維新の会」が、大阪以外に拡大する要素はないのである。


※得票率などの数字は最終集計ではありません




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