共産主義者同盟(火花)

米国金利復活と新・ネオ・ファシズムの台頭

渋谷 一三
426号(2018年8月)所収


<はじめに>

 新自由主義が世界を席巻しグローバリズムが進展すると、金利は0になった。
 金利0に苦しんだ先進資本主義諸国では、新型の反グローバリズムを掲げ、関税の復活や移民拒否などの国境の復活を2大特徴とする新型ファシズムが共通して台頭した。
 金利を復活する=すなわち資本主義を復活させようとすると、反グロ―バリズムにならざるを得ず、国境を復活せざるを得ないということが鮮明になった。
 このことを象徴的に表したのがブレグジット(英国のEU脱退)であり、フランス・オーストリアをはじめ欧州各国での新型ファシズムの台頭・政権掌握であり、米国におけるトランプ現象であった。
 金利が0というのは資本主義の死滅を意味していた。
 資本主義を復活しようとすると、グローバリズムに敵対する以外にない。このことを、論理より先に、事実がわれわれに教示してくれた。

 このことは、とても興味深いことであり、読者の注意を喚起しておきたい。

1.グローバリズムは資本主義の最終形態なのか。

 グローバリズムが進展した結果、後進国は容易に先進国の技術水準に追いつくことが出来るようになった。
 中国が顕著にこの真実を体現している。
 技術と富とを尺度にすれば、文革時までは典型的な後進国だった中国が、僅か20年で米国にキャッチアップし、今や世界2位のGDPの経済大国になったしまった。この間に特に秀逸な経済政策が採られたわけでもなければ、世界情勢上の幸運に恵まれたわけでもない。凡庸な「共産党」幹部の支配とグローバル企業に自国市場を席巻されただけのことである。
 それでも、中国にある生産設備は最新式のものであり、この生産設備を使いこなすことを通して科学技術もキャッチアップしてきている。
 なんのことはない。巨大国内市場を持っていたからこそ、グローバル企業に席巻されることが出来、それゆえに技術も追いつくことが出来た。グローバル企業が後進国を先進国に変えてしまったのである。
 この事情はインドでも同じである。世界第2位の人口を持ち、広大な国土を持つインドも、近いうちに日本のGDPを追い抜く。
 グローバル企業が「国家の壁」を簡単に乗り越えて、困難とされていた<後進国への技術移転>をいとも容易く実現してしまったのである。
 このことを別の角度から見ると、世界の最先端を走り、巨額の研究開発費を投入していた日本の家電企業が軒並み例外なく実質上の倒産を余儀なくされたという事実として見て取れる。
 ソニーはほぼ損保会社になり、シャープは台湾企業になり、三洋は親族の松下に吸収された挙句に、パナソニックという新会社になり、創業家の匂いを一掃した多国籍の資本が投入されたいわば「国際会社」になった。
 白物家電は中国の企業に席巻され、半導体を利用した製品は韓国企業に席巻され、その要の半導体の生産は台湾企業に買収されてしまった。
 こうしたことが起きるようになったのは、新開発技術を簡単にコピーすることが出来るようになったという科学技術上の革命による。
 この結果、多額の費用と労力を投入して新技術を開発した企業こそが割を食らって損をして倒産することになり、技術開発をしなかった企業が生き残るという腐朽した資本主義が出現した。
 日本一の売上を誇った武田薬品はこの教訓に学び、新薬の開発をやめて、新薬を開発した製薬会社を国際的に買収する道を選んでいる。
 グローバリズムが進展した結果、生産を不断に革新する生き生きとした資本主義が死滅し、買収を繰り返すことで収益を上げ技術革新には興味を持たない腐敗した資本主義が典型となる新時代が始まった。

2.トランプは先端技術をコピーして「無断使用」してしまう中国を制裁しようと試みている。

 「知的財産権の侵害」を平気で繰り返す中国は、確かにズルイ競争をしている。
 日本の新幹線を輸入したかと思うと、その直後に中国国産の粗悪新幹線を、粗悪ゆえに廉価でインドネシアはじめ世界の国々に輸出し、日本を出し抜くことに成功している。事態は家電業界だけではなかった。すぐに電気自動車をはじめとする自動車業界でも、開発費用を投入せずにすんだ中国自動車が日産やトヨタを駆逐しようとするだろう。  
 あらゆる産業でコピーが簡単に出来るようになり、中国の知的財産権の侵害は続く。
 トランプ氏がどれだけいきり立ち経済制裁を加え貿易戦争を遂行しようとも、コピーが簡単に出来るようになった技術水準の下では、コピーの禁止は不可能である。
 一つは、コピーは「やったもんがち」であるからであり、二つ目には、コピーは中国だけでなく自国内でも簡単に行われているからである。

 結論。
 中国の知的財産侵害を阻止することは出来ない。

3.ブレグジットを完了しつつある英国で、金利復活。

 英国のEU離脱交渉は難航しているものの、条件闘争に移っているだけで、離脱そのものは確定的になっている。メイ首相は支持率を下げ、保守党政権の存続すら危ぶまれているが、仮に労働党政権や自由党政権になったとしても、EUの側が英国の離脱撤回を認めることはない。
 こうした状況を反映してか、英国での金利が復活した。
 8月現在のイングランド銀行の政策金利は0.75%にまでになった。(前年同月0.25%)
 EU時代のマイナス金利を考えると劇的なまでの金利復活である。

 露骨な保護貿易主義を推進している米国とEU離脱の過程にある英国で資本主義のメルクマールである金利が復活しているのに対し、EUはマイナス金利からの脱出に四苦八苦している。日本はもちろんマイナス金利のまま。大国主義で排外主義の中国は高金利を維持し、資本主義諸国以上に資本主義を貫徹している。
 

4.0金利やマイナス金利に陥っている資本主義諸国で、一様に新型ファシズム勢力が台頭。

 この新型ファシズム政党に共通するのが、反グローバリズムの政策と志向である。

5.だが、トランプ現象や新型ファシズム政党の生成と台頭は、グローバリズムに対する歴史的反動でしかなく、歴史的反動はいずれ敗北する運命にある。

 トランプが再選されることはない。メイ首相も早晩引退を余儀なくされる。
 かくして、新型ファシズム政党の台頭は、早くも衰退期に入る。
 スコットランドの独立運動やバルセロナの独立運動も、国境を復活し資本主義の生き生きとした発展の復活運動の一環と見ることも出来る。
 しかし、この運動も挫折を通じて、一時ほどの高揚が見られない。
 再び、死んだ資本の支配=金融資本主義が台頭し、グローバリズムを進展させることを通じて、世界各国の労賃を平準化し、技術格差を平準化する運動が進展していくことになりそうだ。
 これは、マルクスが指摘した資本主義の「死滅」の症状に酷似している。




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