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トランプ現象と資本主義の終焉

渋谷 一三
416号(2017年4月)所収


<はじめに>

 スコットランド独立運動の"勝利"、英国のEU離脱。オーストリア首相選挙での「内向き・排外主義政党」の候補の善戦。これに続く米国大統領選での自称社会民主主義者サンダース候補の善戦とトランプ候補の当選。そして、フランス大統領選挙での「内向き・移民受け入れ拒否政党」のルペン党首の善戦。
勝利であったり、僅差での「敗北」であったり、結果は微妙に違うが、グローバリズムへの反動の動きは一貫して力強く進んでいる。
この動きの力強さの根拠は、グローバリズムの進展の強さにあることは言うまでもない。

 スコットランド独立運動の"勝利"、英国のEU離脱。オーストリア首相選挙での「内向き・排外主義政党」の候補の善戦。これに続く米国大統領選での自称社会民主主義者サンダース候補の善戦とトランプ候補の当選。そして、フランス大統領選挙での「内向き・移民受け入れ拒否政党」のルペン党首の善戦。
勝利であったり、僅差での「敗北」であったり、結果は微妙に違うが、グローバリズムへの反動の動きは一貫して力強く進んでいる。
この動きの力強さの根拠は、グローバリズムの進展の強さにあることは言うまでもない。

1. オランダ自由党第2党へ

今また、オランダ下院選挙で、「右翼」の自由党が第2党に躍進した。12議席から20議席への躍進である。自由党の第1党への躍進を阻止するために前回2012年の74.4%から投票率は6%アップし、日本では考えられない80.4%の投票率になったとはいえ、欧州のマスコミの予想はまた大外れ、第1党にはならなかった。
日本のマスコミはまたぞろ、欧米の外れっぱなしの「世論操作」を垂れ流し、今や若者の間でマスゴミと揶揄されている。
 とは言え、マスコミのセンセーショナルな言い方から距離を置けば、米国のシリア侵略の後始末としての移民受け入れ拒否をしたオランダ自由党が、全150議席中の20議席を獲得しただけのことであり、12議席から20議席に大幅な議席増を勝ち取った背景の変化に注目すればいいだけのことである。
オランダの「小党分立」の情況は、民意をより微妙に反映せんとする選挙制度の結果である。一例を挙げれば、白票分だけ議席定数を減らすなどの工夫の結果である。日本の各党の派閥を政党化したと考えればよく、民意をより正確に反映出来得る制度である。

2. 時代錯誤の、ありえない政策してのインフレ・ターゲット政策

アベノミクスなどとネイミングし、みごとマスゴミに流行語大賞に押し上げてもらった安倍政権の経済政策だが、何のことはない欧州で先行していた超低金利インフレ・ターゲットを模倣した政策体系にすぎない。
これは、机上の空論の類で、『インフレになれば(遅れて)賃金が上がり、この時間差によって資本家は儲かる。何より大事なのは、インフレによって国債などの国家財政の赤字が実質インフレ分削減され、赤字解消ができる可能性が出てくる。だから、現在、景気対策に財政投入できる。』という、終わったケインズ主義の範疇でしか物事を考えられない、学習を嫌がる怠惰な人間の発想である。
インフレ・ターゲット政策が机上の空論だというのは、『他ならぬグローバル化によって利益を受けている国家の通貨は強くなり、輸入物価が下がるため、インフレが起きることがなく、賃金を上げる必要がない。この状況で総ブルジョアジーの立場に立って個別ブルジョアとしての利益を捨てて賃上げをするなどという企業は経済学的にはあり得ない』からである。
物価が少しでも上がって賃金は上がらないという、下層階級への抑圧が進んでいるだけである。下層階級は食糧まで安く有害な輸入品に頼らざるを得ないため、物価は机上の空論のようには上がらない。
実際、労働者下層は労働者人口の半分を越え、小ブルジョアたる小商工業者や農民は窮乏化の一途を辿っている。この階層が、マスコミが「極右」とレッテル貼りしているファシズム政党の支持基盤になっているのは再三指摘してきた通りである。
実際に進行しているのはグローバル化で、利益がでるのは、ある国家ではなく、ある企業である。国家単位ではなく企業単位なのである。このため、米国内部においても、富裕層はますます薄くなる反面、それが保有する資産は膨大になった。これこそがトランプ現象の物的根拠である。米国内の下層階級はますます増え、その貧困の程度も深刻なものになっている。
結論。
インフレ・ターゲット政策では先進国内部での製造業の復活は出来なかった。先進国の国民の大多数は窮乏化している。

3. 労賃の世界的平準化は進んだのか?

後進国の中国人が大挙して先進国の日本に観光旅行にくるなどということは考えられもしなかった。だが、中進国だったはずの韓国人よりはるかに高い比率で中国人が日本に観光に来ている。
そういう意味では賃金の平準化は進行している。
中国人本採用者の賃金と日本の下層労働者の賃金は逆転し始めている。日本の時給850円の労働者の方が安い賃金で働いている。だが、中国人の多数を占める下層労働者の賃金水準は日本の下層労働者の賃金水準よりはるかに低い。
こうした状況は続き、永遠に「きれいに平準化する」ことはありえない。
そういう意味で、労賃の世界的平準化は進行していると言える。
米国自動車工業の労働者の賃金は中国の労働者の賃金とは競争力を持つまでに下がったが、メキシコの労働者の賃金とは競争力を持たない。この微妙な状況が、特定の地域・国に対して保護主義をとれば、部分的に先進国内部の製造業が復活できるという状況である。
これが、トランプの政策の物的根拠である。
保護貿易一般ではなく、特定の国の特定の産品に対する保護貿易である。

アベノミクスよりは、自然に進行しているデフレに身を任せる方が現実味のある先進国内部の産業復活法なのである。

今や死語となったアベノミクスは、5年も経ってようやく愚かな経済学者にも、その死の宣告を受け入れられた。
アベノミクスは初めから失敗した政策だった。
このことは歴史的事実となった。

4. 資本主義の終焉の萌芽1

 マイナス金利がEUや日本など米国以外の先進国のトレンドになってから久しい。
 利子を払うことによって資本を急速に手に入れることが資本主義の根幹である。利子がなくなるということは資本主義の終わりを意味するのだが、20世紀の「社会主義の実験」の失敗以降、資本主義に取って代わる社会や生産様式が現れていないように見える。
 このことが腐敗した政権を廃棄することもできず、ネオ・ファシズム政党が一旦の成長を遂げている根拠である。
 だが、資本主義もそうであったように、新しい社会は古い社会の腐敗と崩壊の中から生み出されてくるものである。
 資本主義の終焉が明らかになってきている以上、新しい社会・新しい生産様式の萌芽が既にあるはずである。
 共産主義者の任務は、この萌芽を見つけ出しその発展を促進することで、新しい物的根拠に適応した新しい社会を能動的に準備し、人類を古いブルジョア政権の圧政から解放し、このブルジョア政権を打倒し民族主義的世界戦争という愚鈍な思考しか持たないファシズムのもたらす戦争の災禍から未然に人類を救うことである。
 資本主義の終焉を告げる根本の現象は利子の廃止という現象である。
この節では資本主義の終焉を告げる現象の一つの、株式会社の株式上場廃止という現象に着目する。
 大企業が膨大な利益を株主に還元するのを嫌がり、内部留保する現象は今日普遍的になっている。『過去に借りた金の恩義で借りた金の倍以上の金を返す必要などない。一体いつまで、とうに返済の済んでいる借金の恩義を振りかざされなければならないのだ!』ということなのだ。
 ヘッジファンドの株式買い取りから身を守るために株式上場廃止をする大企業がコツコツと現れている。
 全発行株式の50%以上を取得すれば、その会社の持つ資産の100%を自由にできるのが株式市場制度である。
村上ファンドが阪神電鉄の資産を売却することを目的に電鉄株の買収を図った事例は象徴的にこの事情を表している。阪神電鉄の発行済み株式の半数を買収することで、その十数倍になろうという阪神電鉄の保有する不動産をはじめとする資産を手にすることが出来、これを売却して巨額の利益を得ようとする敵対的買収だった。
阪神電鉄は阪急電鉄にTOBをかけてもらい、阪急阪神Holdingsという新会社の子会社になった。実質上の阪急への吸収合併である。
『過去に借りた金の恩義で借りた金の倍以上の金を返す必要などない。一体いつまで、とうに返済の済んでいる借金の恩義を振りかざされなければならないのだ!』
この言葉をマルクス主義の用語に翻訳すると、<死んだ労働(過去の労働)による現在の支配>ということになる。
資本主義の企業が資本主義の根幹ともいえる性質に異を唱え、株式市場への上場を廃止し始めているのである。

5. 資本主義の終焉の萌芽2

 上場は廃止する。生産を拡大するのか縮小するのか、商品の改良や生産停止する商品はどれか、新商品の投入や販売戦略はどうするのかなどなど、生産の指揮機能は廃絶されることはない。したがって、取締役会や代表取締役など会社組織の執行機能はそのままである。こうした組織を見たことはないだろうか?
 すでに存在している。生活協同組合である。
 この組織は、販売価格の維持を主目的にした「農協」とはことなり、剰余金の分配を協同組合の組合員の多数決で決定し、拡大再生産等に使う金額も組合員が決定する。株式のない株主総会のようでもある。
 上場廃止した企業≒「生協」なのである。資本主義の終焉形態の企業が生協と酷似している。
 資本主義の終末期に生み出された生協が新しい社会の萌芽形態なのである。
 このことは、経済学の研究から生協が社会主義経済の生産形態であると分析した榎原均さんの「結論」と一致する。(1990年 資本論研究会 発行。 『価値形態 物象化 物神性』)
 榎原 均さんが切り開いた地平を継承し、『資本主義の終焉の時代』を能動的に活動していこう!


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