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米国大統領選挙トランプ氏勝利に見るマスコミの腐敗―テレビは終わっている―

渋谷 一三
413号(2016年11月)所収


<はじめに>

 米国大統領選挙、投票日前日も投票日もそして開票日もクリントン氏が優勢だと米国メディアは報じた。
勝利したトランプ氏が優勢だと報じたのは、これまた事実を捻じ曲げて平気なFOXテレビと他1社だけだった。
クリントンを支持したABCテレビに至っては、滑稽なことに、開票日の日本時間正午、各社が一斉に手のひらを返してトランプ候補の当確や当選確率85%などの報道を始めた時刻になってもクリントン候補当確を報じた。
英国のEU離脱投票での「誤報」しかり、今回の大統領選での世論調査なるものの「誤報」しかり。欧米のマスコミが公然と一方の側を支持するシステムを採用するに至って、公正に事実を報道する姿勢を失い、世論調査をする能力すら失った現実が現れ出ている。

ならば、開票速報の無類の正確さを誇る日本のマスコミは大丈夫ということになるが、クリントン有利の米国マスコミ情報を垂れ流すばかりか、トランプ支持の大衆の情況を少しは把握しているのにそれを握りつぶしてしまっていたことが明るみに出た。

マスコミの腐敗と、言葉狩りをすることにより偽りの先進性を演出する手法に、大衆は辟易としている。
偽善のオンパレードと真実を報じる気概を失ったマスコミのぶざまな姿をよく見ておこう。
大衆はマスコミにも「反抗」し、マスコミのインタビューに正直には答えないことも明るみに出た。能天気な日本のマスコミは、突然「隠れトランプ支持者」などと言いだし、英米の大衆がかつてのように公然と自分の立場を公表することはなくなったという変化に気づくことすら出来ないでいる。
重症である。

1. トランプ氏勝利が明らかになると突然リリースされた事実

1 ヒラリーの演説会には人が集まらないので、有名歌手を雇って聴衆を集める。 聴衆はただで有名歌手のエンターテイメントが見られるので集まる。
ひどいケースでは、3人しか聴衆が集まらなかったとの報告もある。
2 ヒスパニックはじめメキシコ国境から米国に潜入する大衆は、遠くはホンジュラスから来る大衆もあり、これを排除しようとするトランプの政策は、既に米国籍を得ている投票権のあるヒスパニックには支持されている。
 米国籍のあるヒスパニックは米国社会の下層を形成しており、新流入者は競合する相手である。ヒスパニックはヒラリー支持などというステレオタイプの思考は既成マスコミの思考停止の産物である。
3 北米自由貿易協定で、米国の自動車企業も生産拠点をカナダやメキシコに移しており、かつての自動車産業の中心地デトロイトは衰退し、隣接する米国農産物の最大集散地シカゴの没落をも誘発した。デトロイトの人口が減れば、シカゴに集まる農産物の需要も減るというものだ。

この地域に住む没落した白人層だけではなく、ブルーワーカー層の主力を形成していた黒人もまたトランプ支持に回った。
   「黒人の支持を集める反差別のヒラリー」などというステレオタイプもまた、ヒ
ラリーが反差別主義の水準も持っていないことを含め、二重に滑稽なデマである。
   
4 「メキシコ国境の壁」は、1991年父ブッシュ政権以来、国境3200km中1000km
が既に建設されており、政策の継続に過ぎない。
5 トランプ氏は「取引」屋だから、大げさに吹っかけておいて、自己に有利な落とし所を探る手法であり、「暴言」は本音ではない。

 こうした情報を日本の保守系マスコミは握っていた。しかし、これをリリースすることはなかった。
 朝日などの別系統の保守系メディアは、こうした情報すら把握しておらず、米民主党支持系の米マスコミの情報を垂れ流すだけの状態だった。それも、大して報道しなかったのならば許せるというものだが、米国の植民地かと見まごう米国大統領選挙のこまごまとした情報を「実況中継」していたのだから、病はより重篤である。

2. 「先進」資本主義国で唯一利子をとっている国=米国

利子の概念と利子の肯定は資本主義の勃興とともに発生し、資本主義の根幹を為す。利子の死滅は資本主義の死滅を意味することは、既にいくつかの稿で取り上げてきた。  
今日、EUは日本に先行してマイナス金利政策を導入し、日本もまたマイナス金利に突入している。
資本主義の死滅が始まったのかと見まごうが、米国は徐々にではあるが金利を上げている。「先進国」中、唯一、利子を取っているという厳然たる事実がある。
このことと、「グローバリズムと言われる現象」が米国基準の世界化にすぎないという事実との符合は、単なる偶然なのか。
結論から言えば、偶然ではない。
グローバリズムという米国基準の世界化の動きが完成したことで、唯一米国のみが利子をとれる国家となったのである。より正確にいうならば、米国という国家ではなく、米国の国際金融機関が唯一利子をとれるようになったのである。
この結果が、「米国の富裕層の92人の資産が世界の貧困層の32億人分の資産と同額である」などといわれる現実の現出である。今回の米国民の反エスタブリッシュメイント感情は、この現象の一角に過ぎない。米国民ですらグローバリズム化の「被害者」なのである。ヒラリーへの反発は反グローバリズムの感情そのものだった。
ところが、米国のみがプラスの公定歩合を持っているという厳然たる事実の重みを理解していない殆どのマスコミが、トランプ氏の勝利が世界中に蔓延しているグローバリズムへの反作用・反動であると理解することが出来ず、「衆愚政治」の台頭だと考えている。だから衆愚政治という差別的歴史用語を使わないように気をつけながら、「民主主義の暴走」などという概念を作り出して、ファシズム批判を回避しようとしている。  
民主主義が暴走したのならば、マスコミが奉っている民主主義そのものを否定すべきである。そうした論理的矛盾にすぐに気付くべきであるが、事態を理解できない最初のボタンの掛け違いから、論理矛盾に目をつむって、「民主主義が暴走した」としてトランプ氏が米国大統領に就任するという絶対に認めたくない現実が進行することを呑み下そうとしているだけである。
実は、民主主義の概念は資本主義の勃興とともにある。
民主主義の概念における根幹をなす「法の下の平等」という形式的平等の概念は、商品交換における価値の平等の概念に由来するものであり、民主主義を否定して資本主義を肯定するというのは、これまた甚だしい論理矛盾・自己矛盾である。
「民主党派」マスコミは、かくも混乱したところに落ち込んでいる。
これは、全て「最初のボタンの掛け違い」に由来する。
=世界各国における内向き派の台頭・勝利は、排外主義や極右主義の台頭などというものではなく、グローバリズムの進展の果てに来る、これへの反作用なのである。

3. 未だに「自由貿易主義」を標榜するマスコミ
―グローバリズムに対する反動にグローバリズムを対置する愚―

 自由貿易が結局はどの国にも利益をもたらすという古典経済学のテーマは、国民経済を背景に成立していた。
 今、その国民経済が破壊され、ケインズ主義が成立する根拠を失って久しい。
 グローバル化によって、米国の一握りの富豪が世界の富を掌握するに至って、「自由貿易」は実際には消滅している。グローバル企業は最も低コストで生産できる地域(それを国と言っているだけ)で生産して生産物の運搬をしているだけで、もはや貿易とは名ばかりなのだ。
 企業の生産物の運搬を、国境の線で無理やりに区切ってみた統計を貿易と称しているにすぎない。これは、古典経済学における自由貿易ではないのである。
 「自由貿易」の結果、世界中の富が一部の富豪に掌握され、貧困が蔓延しているのが現実である。
 この期に及んでなお「自由貿易」を対置してしかトランプ批判をすることが出来ない米日のマスコミは、現実を理解する能力を失っていることを露呈している。

4. 世論操作力を失ったテレビ・新聞などのマスコミ
―『テレビは終わった。』―

 日本のテレビ番組は、芸人をひな壇に載せ、芸人の反応や「気の利いた」応答を愉しむ番組だらけになった。制作費が安く済む分芸人を大量に登場させ、自己主張の競争をさせる。そのため、結局制作費は安くならず、CM時間が倍増した。最大1分30秒だったCM時間は、いまや普通3分になっている。このため、CM後の再開時に15秒ほどVTRを遡って流す手法が常態化し、視聴者のテレビ離れを促進している。
 芸人に興味をもっていない人間にとって、芸人仲間の「面白い話」を聞かされるのは拷問でしかない。勝手におしゃべりしておきなさいというものだ。
 無内容がテレビ離れを促進した。
 米国のテレビもまた、ネタが無くなりシュール・リアリズムのドラマの垂れ流しで、視聴者を失い続けている。
 
 今回の米国大統領選挙が明るみに出したのは、殆どのマスコミが全力を挙げて反トランプ・キャンペーンをしたにも拘わらず、トランプが勝利したという厳然たる事実である。
 以前は、マスコミを敵に回すことはあらゆる意味での<終わり>を意味した。
 これが、マスコミの権力の源泉となっていた。
 その神話がすでに壊れていることを、トランプの勝利は明るみに出した。
 既成マスコミは世論操作能力を失った。
 当座、代替しているのはネットやスマホ媒体だが、この媒体は、匿名性と無責任性で信頼性に欠けるという致命的欠陥を有している。
 ネットの使い方の革命という範疇も含めて、新しい媒体の創出が求められている。

5. 「内向き政党」によって資本主義の危機は克服できるのか?

英国はEUを離脱した。オーストリアでもEU離脱派は僅差で迫っている。ギリシャはすでに巨額の負債を楯に居直り残留をしている。イタリアの国民投票は12月4日に迫っているが、EU離脱派の勝利の可能性も伝えられている。スペインもEUのお荷物にされていることに憤慨している。そればかりか、「国内」に2つの地方の独立運動を抱えている。
EUの発起人だったフランスでも国民戦線が政権を窺う力をつけてきており、移民の受け入れを拒否し、EUへ統合されることを拒否して、疲弊して壊滅状態になっている国民経済を復活させることを目指している。
グローバル経済化によって、国境などとは一切無関係に一握りの富豪に富が集中した現実を打破するエネルギーが地球上に渦巻いている。
今のところ、このエネルギーは未来を牽引する構想や物質的萌芽を見出せず、復古・反動運動としてしか現れていない。
これを極右政党の台頭とか、排外主義の蔓延という古いタームでしか捉えられない「民主」派の頭もまた、復古的である。
 
問題は世界的に急速に台頭してきた反グローバリズムの国民経済再興=「内向き」政経運動が、富の偏在と大多数の大衆の窮乏化という現実を変革できるのかという点にある。
言葉を変えれば、進行してしまったグローバル化(富の偏在)を解体し、かつて存在した国民経済を復活させることができるのかということである。
ソニーは家電会社から損保会社にかわり家電メーカーとしては実質的に倒産した。三洋電機も実質的に倒産した。シャープも倒産した。松下電器も実質的には半倒産し、松下家の支配を排除したパナソニックとして、日本の大手家電メーカーの中で唯一生き残ることができた。
唯一生き残ったパナソニックが、国外に移した生産拠点を放棄し、日本国内の需要に見合っただけの生産設備を国内に再構築するという後ろ向きの経営をするとでもいうのか。
答えは簡単。あり得ない。
では、関税を復活させ徐々に国内企業を育成していくという国家方針を取り、グローバル化で進行した痛みを和らげる程度の「復古」はあり得るのだろうか?
「分からないが、やってみよう。」というのが、大衆の気分であり、「内向き政党」の気分である。資本主義の危機を解決する構想があるわけではない。

対して、グローバル化で躍進した中国・インドなどの世界の下請け工場国家は「内向き」になるだろうか。あり得ない。都市部に集中してしまった下層農民を再び輸出農産物さえ減った農村に追い返すことが成功するはずもない。
とりわけ中国は、肥大化した軍事産業を維持することも出来なくなるし、世界2位の軍事費を維持することすら出来なくなる。中国の台頭はグローバリズムの産物そのものである。
中国は、「中国共産党」の支配が続く限り、反グローバリズムに敵対する有力な国家であり続ける。だから基本的に反トランプである。このサイドから、現在の資本主義の危機を止揚する萌芽が出ることはない。

6. 世界革命の物質的根拠は成熟しつつあるが、世界革命をする内容も主体もない。

 グローバル化の進展の結果、生産は国際的に組織され、富も国家を越えて偏在する状況が生まれた。世界革命の物質的根拠は成熟したと言える。
 だが、革命の内容はない。革命を主導する主体もない。矮小な権力闘争や党派闘争を克服することすら出来ていない。共産主義を標榜している残った二つの国家がいずれも単なる独裁国家に変質し、歴史的反動の役割しか果たしていない。
キューバも方向と指針を見出せずにいる。ベトナムも温和な国家独占資本主義を実践しているように見える。この二つの国家とニカラグアは、資本主義以上のものを生み出す人類史的実践の歴史的限界の中で、現実主義的停滞を余儀なくされている。
グローバル化の行き着いた果ての近くにいる現在、資本主義以上の生産様式を生み出す実践的萌芽を見出し発展させる実践と理論の構築が急がれる。


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