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グローバリズムの終焉としての「うち向き政党」の蔓延

渋谷 一三
412号(2016年10月)所収


<はじめに>

 米国大統領選候補二人が共に、自由貿易主義とグローバリズムの象徴であるTPPに反対している。米国が主導したTPP経済協定だったのに。
提唱した国の大統領候補がいずれも反対し、批准しないとしていることは象徴的だ。
 EUは、独仏以外は離脱への要求が渦巻いており、「極右政党」、と、リベラリストに勝手にレッテル張りされている政党が、EU内各国で大衆の支持を拡大している。
米国標準の世界化たるグローバリズムに独仏が対抗するための揺り篭として利用されたEC構想が生み出したのが、EUだった。いわばグローバリズムの申し子である。
例外なくEU各国で「極右政党」が躍進しているのは、反グローバリズムの物的根拠が成熟していることの政治上への反映である。
 周知のように、米国共和党の候補トランプは、極端な排外主義と自国の利益第1主義を掲げ、問題発言だらけにもかかわらず、米国東部エスタブリッシュメントと称される世界規模での特権階級の利害を代表しているクリントン候補に肉薄している。
こうした事は、一つの時代の終わりを示唆している。
旧来の常識では勝つはずのない候補が勝ち、起きるはずのない国民投票の結果が起きている。

1. グローバリズムの浸透の結果としての反グローバリズムの物的根拠の成熟

 1980年代の新自由主義の台頭そのものもグローバリズムの台頭と捉えることができるが、一般的には新自由主義の台頭後の米欧による世界的ヘゲモニー争いの開始がグローバリズムの始まりとされている。

 1990年代のグローバリズムの開始とともに、米国基準の世界化が欧州以外の世界で勝利し、EUはドイツ基準の世界化に失敗した。仏との内部闘争が足を引っ張ったと言えよう。遅れてEUに加盟した英国にとっては、EU内主導権争いに初めから脱落している。その上、米国基準の世界標準化が完成したことにより、英国がEUに留まる根拠は全く無くなった。
 EU基準に縛られ米国基準(世界標準)と闘争するより、世界標準に一元化した地平で自国の収益拡大を目指す方が合理的というものだ。EU基準と米国基準の二重基準に翻弄されるより、より広い市場を獲得できる基準に一元化したい衝動が起きるのは当然である。
 これを、極右の煽動とか、反自由主義としか捉えられないリベラリストの現実把握の貧弱さは、すでに論外である。
 こうした事情は、高価格にも関わらず世界進出を果たした英国のdysonのような新企業に象徴的だ。世界的優良企業だったsharpは事実上倒産し、台湾企業になった。この対比に象徴されている。
 dysonはいきなり世界標準を目指して、先進国市場に直接撃って出て成功した。
 sharpは米国基準を受け入れる自社変革をすることによって、米国基準でより安価な労働力を使って生産できる諸国の企業に市場を奪われてしまった。膨大な研究開発費を使わずに類似品をつくる企業との戦いに勝てるはずがない。
 同じことは製薬業界でも起きている。
 後発品(ジェネリック医薬品)だけを製造する製薬会社に既存の製薬会社が対抗できるはずがない。膨大な研究開発費が要らない上、よく使われるがゆえに生き残っている商品だけを生産する製薬会社がおいしい所を持っていってしまう。既存の製薬会社は倒産するかジェネリック医薬品だけを生産する会社に変質するかしか選択肢はない。
 武田のような巨大な既存製薬会社は、研究開発費を投じることを止め、その資金で新薬を開発した製薬会社を世界規模で買収する道を選んだ。その方が、確実で安上がりだからだ。
 かくして、製薬業界の新薬開発は世界的に収縮し、新薬はなくなる。だから新市場は消滅し、それゆえ経済成長はなくなる。既存品の単純再生産が主となり、人口増(患者増)のある時だけ市場規模が大きくなるだけという経済モデルが、既に現在のモデルになっている。

 以上、見てきたように、米国基準の世界化が進んだからこそ、今、目にする「希望の持てない未来」が生まれたのである。

2. 市場規模の拡大のない経済で利子はとれるのか。

 単純再生産が基本となる経済下では、急速に投資をして市場での優位な地位や独占的地位を占めようとする動機は発生しない。
 新しい市場では、一刻も早く新製品を投入することによって、市場での100%のシェアを享受し、独占価格での高利益を得ることが出来る。その上、100%のシェアを得ている時期に、自社製品を標準にすることが出来るのである。
 したがって、新しい市場や急速に拡大することが予想できる市場では、借金してでも急速に生産設備を確保することが重要であり、借金に対して利子を払っても余りある利益が得られた。だから、利子は発生することが出来たし、今日まで生き延びることができた。
 しかし、事情は変わった。
 新製品がでるや否や後進国(労賃の安い諸国)の企業はすぐに類似模造品を作る。こうした能力に特許の網をかけることは不可能なことなので、類似品そのものを巡って国際法廷で訴訟をしなければならない。その間に、特権的独占的地位は失われ、期待した高利益は得られなくなる。今日、膨大な額になって研究開発費を回収することは困難になってしまった。
 Sharpはこの典型である。膨大な投資をして、世界最先端の半導体工場を堺に建設したものの、この工場の完成を待たずして市場は飽和状態になった。Sharpは一度もフル稼働することなく終わった。これが注文・委託生産に特化したホンハイに身売りをするしかなくなった直接の原因になった。
 単純再生産市場でなくとも、新製品の研究開発は危険な賭けとなっている。
 こうした状況で、借金をして利子を払うリスクを冒してまで、新製品を開発する企業はなくなる。だれも借りなくなる。利子という存在が必要なくなっているのである。

 こうした事情を無自覚に反映して、企業は利益を内部留保するとともに、政府はマイナス金利を導入して無理矢理金を借りさせようとしている。
 こうした現象の根拠は、利子を払ってまで資本投下する環境がなくなったことにある。

3. 「内向き政党」によって資本主義の危機は克服できるのか?

 米国自動車工業のデトロイトは、膨大な数の自動車関連労働者の支持によって、伝統的に民主党の地盤だった。
 だが、グローバリズムによって米国系自動車企業が実質的にドイツ系企業との合弁企業に近くなることによって、車台の共有化や新車開発の共同化、様々な技術の相互供与などによってスリム化し、国際競争力を維持した。
 スリム化したということは取りも直さず、米国内労働者の解雇や関連企業の倒産などを不可避にした。こうした、「犠牲となった」階層は、今回、トランプ候補支持に回った。
 だが、トランプ候補が当選したところで、GMやクライスラーやフォードなどと、ダイムラーやフォルクスワーゲン社などとの入り組んだ提携関係がなくなるわけではない。よしんば、トランプ政権のような政権が数十年続き、各国とも内向き政党が政権をとり、その結果経済が国民規模に収縮するというケインズ主義の時代の経済になったとしても、中国やインドの台頭、その他の諸国の経済発展という現実の結果、内向き政党による国民経済の復活がかなったとしても、その経済規模はかつての経済規模よりはるかに小さく、貧困との戦いが絶えない。
 実際には、各国が内向き政権になったとしても、それは例えばTPPの批准をしないなどの<これ以上のグローバル化の進展の拒否>することが精一杯である。であるがゆえに、各国で内向き政権が誕生するということはあり得ない。一部の矛盾が集中した国で「内向き政党」が政権をとることがありえるだけのことである。

 農業を見ても、同じことが言える。
 米国がTPPを批准しなかった場合、圧倒的に余剰農産物を抱えている米国の農業は、国内需要を満たすだけの規模へと縮小せざるを得ない。
 他方、日本のようにTPP批准によって大量の安価な外国産物が流入してしまう国では、自国農業が均衡状態を見出すまで縮小するのを回避できるだけのことで、農業生産が増大するわけではない。自由貿易で利益を得るセクターと自由貿易で損害を受けるセクターとの国内の闘争が起きるだけのことであり、その結果、不安定な政権が生まれるだけのことで、各国で軒並み「内向き政権」が生まれるわけではない。

 「内向き政権」によって資本主義の危機が克服されるわけではないばかりか、各国で軒並み内向き政党が勝利するわけですらない。

 このように、自然発生的には、資本主義の危機は克服されることはないのである。

4. 人間の能動的実践としての資本主義の危機の克服こそが社会主義の措定である。


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