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10月2日 オーストリア首相選挙とハンガリー国民投票の結果
「難民受け入れ拒否」は反進歩的なのか

渋谷 一三
412号(2016年10月)所収


<はじめに>

 10月2日に、オーストリア連邦首相選挙とハンガリーの国民投票が行われた。
オーストリア首相は3万1000票の僅差で、緑の党のアレクサンドル・ファン・ベレン氏(72)が「極右政党」とされる自由党のノルベルト・ホーファー氏(45)を破って当選した。
他方、ハンガリーの難民受け入れの是非をとう国民投票は「難民受け入れ派」のボイコット戦術が奏功し、投票率が50%を割ったために、<不成立>となって、かろうじてEUの難民受け入れ政策拒否をいう事態を回避した。
どちらも、薄氷を踏む「現状維持」だった。

1. EU残留派がボイコット戦術を採らず、投票に参加していたら、「難民受け入れ拒否」が決まっていた。

 国民投票の開票結果は、難民受け入れ反対が98%を占めていた。
 だが、投票率が40%だったために、国民投票それ自体が不成立となったため、かろうじてEUの政策を拒否してEU離脱問題が急浮上する事態を回避することが出来た。
 40%の98%が難民受け入れ反対なのだから、有権者の39%強が反対の投票行動をとったことになる。仮にEU政策支持派が投票に参加したとすると、投票率が78%の高率だったと仮定しても、残り全員が難民受け入れに投票したとする不自然な仮定を更に付け加えても難民受け入れ反対派に勝利することはできない。
 投票率が78%以下だった場合は、反対派が勝利する。
投票率が78%を上回ったとしても、上回った部分の反対派と賛成派の比率は全体の比率に相似するので、EU残留派=難民受け入れ派が勝利することはあり得なかった。

難民受け入れ拒否が決まらなかったのは、ひとえにボイコット戦術の妙による。
受け入れ賛成派の票と棄権票がプラスされたのが、投票結果として現れるからだ。
棄権票の分布は完全な相似ではないにせよ、反対派と賛成派の比率は全体比率に似ているのだが、ボイコット戦術をとった場合、この棄権票が全部ボイコット派に上乗せされるためだ。
オルベン首相は、EUは投票結果に耳を傾けるべきだと発言したが、こうした発言は無視されるに決まっているものである。

2. 労働者上層部の「緑の党」、の、現実対応能力の喪失

緑の党のベレン氏は、女性票の6割、肉体労働者の1割、を占め、都市部で優勢だった。また、大卒はベレン氏支持が多かった。
対する自由党ホーファー氏は、農村部で圧勝。肉体労働者の9割の支持を集め、男性票の6割を獲得した。
要するに、現実的直接的利害を反映している。
これに対し緑の党は、雰囲気なり理想なりを反映している階層に依拠していることを露呈している。緑の党が現実対応能力を失っていることが、「極右政党」とレッテル張りされている「自由党」の躍進を生み出している一因である。
「難民」を受け入れれば、ここにかかる社会保障費の競合相手は、労働者下層部であり、労働者の多数を占める男性の労働者である。「難民」が就労すれば、失業するのは低熟練度の労働に従事する下層労働者である。
自由農民が多数を占める欧州の農業では、「難民」を雇い入れる経営形態になく、「難民」を受け入れる土壌がない上、欧州内商品作物で競争力を持たないオーストリアの農民は市場を荒らされただけのEU加盟には反感しかない。こうした現実的利害を反映して、自由党候補が農村部で圧勝したのである。
EUの実態は、ごくごく大雑把に言えば、工業の利益をドイツがしゃぶり、農業の利益をフランスがしゃぶっているだけの<複合ブロック経済>でしかないのである。甘い汁をしゃぶれなかった英国が離脱の欲求を常に抱えていたのも頷ける。

3. シリア難民を生み出したのは、米国の軍事介入であり、EUに入らざるを得なかった弱小ヨーロッパ諸国が受け入れる必要などない。

自由シリア軍を創設して武器弾薬を供与し、アサド政権を倒そうとしたのが米国であることは再三指摘してきた。
この結果、『生み出された「難民」を放置していいのか』という人道上の疑問を掲げる雰囲気人道主義者が多数いるのは承知している。
こうした疑問を投げかける人には、あなたは仏・米連合軍がリビアへの空爆を実行し、カダフィ国家元首を暗殺してしまった時に何をしていたかを問いたい。エジプトで想定外の民主化運動へと発展してしまい当選した真の大統領を捕縛し、長年恐怖政治を行ってきた前大統領を「復権」させるために軍事力を使わせたのが米国であることを見抜けたのか。そして、弾圧された民衆の側にあなたは立っていたのか。
雰囲気人道主義者は、何もしてこなかったのである。難民の創出に協力してきたのである。こうした人々に発言権はない。
だが、実際に生み出されてしまった「難民」が、直接の責任国である米国に渡ることは物理上不可能である。だから、独仏以外のEU諸国の人民は、難民を米国に受け入れさせる運動を組織すべきである。自国に受け入れる必要など全くない。
フランスは共同反革命国として、「難民」を受け入れる以外にない。受け入れた「難民」の中には必ず、リビア・シリア・イラクに空爆を行ったフランスへの報復軍事行動を取る者が必ずいる。だから、フランスは「難民」の受け入れに恐怖を感じており、受け入れることはない。
どうしてEU内弱小国が、「難民」を受け入れる責務があろう。
ドイツはイスラム諸国侵略戦争に直接加担してはいないから、一旦難民を受け入れ、米国へ転送するように行動する権利を持っている。米国に外交的圧力をかけることが出来る。そして、転送を実現すべきである。
EU諸国で難民受け入れに反対する政党が躍進しているのは、恥ずべきことではなく、正当なことである。このことを認めることができない硬直した「左翼」が、「難民」受け入れ反対運動を「極右」とレッテル張りし、人民を本当にファシズムの側に追いやってしまうのである。
本当の左翼ならば、「難民」を米国とフランスに送り届け、責任を取らせるべきである。
これをしないから、人民の健全な反EU・反「難民」受け入れの気運を、ファシズム運動へと変質させてしまうのだ。
反EU・反難民に反左翼が加わるからファシズムが成立するのである。


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