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米国の0金利政策が生み出してしまった資本主義の大混乱
―「資本主義の終焉」の始まり―

渋谷 一三
407号(2016年5月)所収


<はじめに>

2016年に入って株価が下げ止まらず、大騒ぎの日々が続いている。
前稿で指摘したこの事態が、なおも連続し、2月半ばになっても株価が下げ止まらなかった。

1. 米連銀の実質0金利政策が欧州中央銀行と日銀のマイナス金利を誘発

 水野和夫氏著『資本主義の終焉と歴史の危機』が指摘しているように、利子の概念の成立とその肯定は資本主義の発生とともに始まる。利子が0ということは、すなわち資本主義の否定を意味する。
 その利子が、米国ではリーマンショック以降2015年11月までの実に9年半、0.25%だった。これを0.5%に上げたことによって、資本主義としての正常化が期待されたところだったが、実際は欧州中央銀行のマイナス金利の強化、日銀のマイナス金利への移行という皮肉な結果をもたらした。「理論的」には、欧州や日本の金融緩和政策が縮小し、金利復活への道を開くはずだったが、事実は逆の結果を生んだのだった。

 米連銀がリーマンショック以後断続的に行ってきた量的緩和政策を、安倍政権は模倣し始め、2013年から「量的・質的緩和政策」を始めた。
 欧州中央銀行も2015年から量的緩和政策を始め、日本より先にマイナス金利政策を開始した。
 国際基軸通貨であるドルの安値に対抗する為の安値競争が始まったのだった。

 だから、米連銀の利上げは、「理論的」には日欧の0金利政策を終わらせ、多少の金利=たとえば0.1%の金利などの金利の復活を誘導するはずであった。
 しかし、事態は逆に、日銀のマイナス金利政策への踏み込みを誘発し、欧州中央銀行は16年3月10日、−0.3%の金利を−0.4%に、より一層引き下げた。

 金利の復活によるドル高が進まず、ドル安が進行するという想定外の事態が進行したからだ。
 理論的にはあり得ないはずのドル安の進行という現実からの返答は、米国に対抗し得て金融資本主義のもう一つのセクターであり得ている英国のEUからの離脱=欧州中央銀行からの独立=という動揺を生んでいる。

2.企業のグローバル化と矛盾する各国内経済実態

 企業、とりわけ製造業の企業は安い労賃を求めて、既にグローバル化している。極端な例では、「母国」に本社すらなく、「母国」は単なる「輸出国」になっている例すらある。
 また、グローバル化している企業は、製造業だけではなく、マクドナルドやスターバックスなど米企業に象徴されている飲食業や、ウォールマートや日本のコンビニに象徴される小売業、さらに日通に象徴される流通業まで、グローバル化が始まっている。
 近代経済学の理論ではグローバル化する必要性のないはずの、サービス業までがグローバル化し始めているのである。
 だが、政治は未だに産業資本主義段階に成立した「民族国家」を単位としている。したがって、国家の経済政策は民族国家の経済政策しか取りようがなく、グローバル化した世界経済に対しては全くの無策となるしかないという根源的矛盾を抱えている。
 この矛盾によって、ケインズ主義は世界的に崩壊し、グローバル化した経済に対して国家は無策でよいのだとする新自由主義が前世紀末に流行したが、これが、「国内」の階級格差を無制限に生み出すという必然的結果を生み出した。
 グローバル企業にとって、「自国民」なる概念は存在せず、「母国」の労働者全員の解雇などは当たり前のことであり、「母国」は単なる消費市場に過ぎない。
 「母国」に膨大な失業者が生み出され、「開発途上国」なる後進国にその分の雇用が生み出される。この「母国」に取り残された失業者が「国政」選挙に参加する。「国政」が関与できる余地などないにも関わらず、各国の政党は関与できるかのような政策を打ち出して集票をはかる。
 これが、米・欧・安倍政権で進められ失敗しているインフレ目標政策であり、仏国民党の躍進や米トランプ大統領候補やフィリピンのドゥテルテ大統領候補などの「国家主義」「愛国主義」の装いを施したファシズムの躍進の根拠である。
 後進国の労働者との賃金格差があるかぎり、先進国の労働者の失業者は増えるのが必然であり、世界資本主義は各国の賃金格差をなくし、貧困の平等化を推し進める。
 この至極当たり前の現実の進行が、先進国でのデフレを生む。
 後進国の安い労賃で生産された商品は安く販売することが可能であり、失業者の増えた先進国で販売するためには安くする必要がある。物価は安くなるのが必然であり、安くなった物価により、労働者の再生産費は安くなる。この過程の繰り返しにより、世界的に労働市場は均一化し、労賃の各国間格差は無くなっていくことが「理論的」帰結である。
 要するに先進国はデフレが不可避である。
 これを「一国」内で行うEUの矛盾は、日本などより一層激烈である。
 この事情の反映が、−0.4%にも上る欧州中央銀行の超マイナス金利である。スイスやデンマークに至っては−0.75%にもなっている。
 トルコなどのEU内「後進国」の安い労働者が直接的に流入してくるドイツやフランスなどの矛盾は、日本などの比ではない。移民を追い返そうとするファシズム政党が躍進するのは当然のことでもある。
 独・仏・英などの諸国でファシズム政党の勝利を阻止することができるのは、労働者階級を疲弊から救い、教育し、ファシズムと有効に闘争することができる政治的・理論的位置を保持した労働者階級の政党の存在とその活動だけである。
 ブルジョア階級やプチブル階級の政党にはデフレ現象を受け入れることは出来ない。理論的に不可能なインフレ・ターゲット政策を繰り返すブルジョア政党は、経済の現実に有効な手立てを打てない。この結果、ファシズム政党が躍進している。
 だが、ファシズム政党の政策は、「アメリカ第一主義」(トランプ)であったり、国境の閉鎖(トランプ)(EUのシリア難民受け入れ拒否)であったり、民族国家への回帰を夢想する愛国主義であったりする。
 だが、経済はすでに民族国家を単位に動いているわけではない。
 ファシズムもまた、グローバル経済の矛盾=運動に対応出来るわけではないのである。

3.右肩下がりの株価は、投資行為を無くし、資本概念を消失させる。

 企業が資金を得るために、産業資本主義段階では、銀行から借金をして利子を払う方式をとっていた。これは銀行が信用創造をすることで実際にある資金の十倍以上の金を貸与することが出来たことによる。
 これでも資金が足りなくなると、企業は株式会社化し、株式を発行することで銀行だけではなく誰であれ株券を購入してくれる人から資金を調達するようになった。株券購入者は配当という形での利子を受け取る。
 この配当というシステムは、業績が振るわなければ利子を0にすることが出来、銀行からの借入金と違って、赤字でも利子を払わなければならないリスクを逃れることができる、企業にとっては魅力的なシステムである。
 配当がない株券を買ってしまった購入者(投資家と呼ばれる)は、購入時より安い価格で株券を転売することで若干の損をするが、その金で配当の良い株券を買うことで損を取り戻そうとする。他方、額面より安く株券を購入したものは、次の会計年度に配当が復活することを期待する。この2者の存在によって株式市場が成立する。
 株券が銀行からの借入金と違うのは、期限がないという点である。企業が存続する限り永久に配当という形の利子を請求されるわけで、企業からすると市中に出回った株券を全て買ってしまって内部留保という形で新たな資金を貯めて一切の配当を払わなくて済む非株式会社にしたい誘惑に駆られる。
 かくして、現在、好調な大企業は史上空前の利潤の内部留保を行い、配当への出費の絶対額を大きく減らすとともに、新規の資金需要を無利子・株式発行無しで行う二重のうまみのある方策を採っている。これは、新しい形での株式資本主義の否定であります。
 また、株価が右肩下がりになることによって「投資家」は配当と引き換えに株券の転売価格の下落を強要されるため、配当が株価の下落を上回らないかぎり、不断に損をする構造となる。
 安倍政権で人為的・一時しのぎ的措置によって不自然に高騰して(バブル時の半分ほどに"上がった"だけなのだが)いた日経平均株価は、人為的に一時的に上げ得ただけなので、右肩下がりになる以外にない。
 これは、もともと企業のグローバル化によって右肩下がりになるしかなかった株式市場に一時しのぎの機会を与えたために、より激烈な右肩下がり効果を生んでいる。
 年金機構など無理矢理に株を購入させられている法人のみならず、生保や銀行などの運用益を求めて株式市場を支配しようとしてきた機関投資家も含めて、株式市場からの撤退=ソフト・ランディングが迫られている。もちろん常に餌食であった「一般投資家」は撤退を念頭に置くことすら出来ずに、機関投資家らのsoft landing に利用されるだけの存在になっている。
 右肩さがりの株価は、このように、資金調達側の企業から株式市場を必要としなくなったばかりか、運用益を得られないという面から、資金提供側からも株式市場を必要としなくならせている。
 投資行為を消滅させるしかない株式市場の「混乱」は不可避なことであり、株価を上げるためにインフレ創出政策をとればとるほど、新規資金を株式市場に求めない企業に潤沢な利潤を与え、株価の右肩下がりを生むという矛盾に陥る。
 これは、資本主義の危機であり、不可避な危機である。
 
 現在の世界資本主義の情況は、このような状態にある。


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