共産主義者同盟(火花)

米国大統領選に見る、格差社会への怒り
―サンダース候補とトランプ候補の躍進―

渋谷 一三
406号(2016年3月)所収


<はじめに>

 社会民主主義者と自己規定するサンダース上院議員が、女性初の大統領の誕生というふれこみで名を売っているヒラリー上院議員に対し、都市部の多い州で勝利している。    
他方、共和党では、主流派ルビオ上院議員が、撤退を余儀なくされる見通しで、ファシズム丸出しの言動を繰り返すトランプ氏がほぼ勝利することは間違いない情勢になっている。
米国社会の病状が重篤なのを象徴しているのは、共和党の2位につけているクルーズ上院議員がこれまた非主流のウルトラ右翼(日本の安倍に照応する)であることである。
ファシストのトランプ氏(日本の橋下に照応)が1位、排外主義のクルーズ上院議員が2位で、主流派がまとまって推しているルビオ上院議員は予備選からの撤退がほぼ確定しているのである。
これは、日本の1位自民党安倍と2位維新橋下徹の構造と合致する。

ユダヤ人というハンディをつつかれて苦戦しているものの、ミシガン州で勝利し、「クリントン有利」の前宣伝=世論操作に勝ったサンダース上院議員への熱い支持の根拠は、やはり米国社会の重篤な病状にある。

上位1%の富裕層が国民総生産(GDP)の20%を占有してしまっている超格差社会になってしまった米国では、アメリカン・ドリームは死語となり、中間層は極めて薄くなった上に、常に没落の不安に晒されている。
昨年、米国では4人以上の死者が出た銃乱射事件は354件を数え、これによる死者は1000人を越え、負傷者は1500人を越えた。
イラクからの復員兵は、戦争の現実などどこ吹く風と退廃的享楽かドラッグと称する麻薬に酔いしれている「市民」の為に命を賭けさせられていたことに、今更、直面し、社会への反感と攻撃に身を任せたい衝動を抑えきれない。

1. 共和党の大統領候補が確定的になったトランプ氏の政策=中産階級の復活

 1. 年収2万5000ドル未満の低所得層の税金を0にする。
 →没落したかつての中産階級世帯の再浮上を図る。
 2. TPP否定。保護貿易主義。
 →米国の雇用が、中国とメキシコに奪われているとして、両国に高関税をかけ、米国の労働者の雇用を守ろうとしている。
  もちろん、日本バッシングも含まれる。
 3. オバマ・ケアと称されるバラマキを止めて、道路建設・空港建設などの社会インフラの整備・拡充を主張。
 →米国の社会インフラは、国土が広いこともあって、日本に比べれば貧弱なのだ。
  また、メインテイナンス(保守作業)が迫られているのに、それが出来ていな
  い状況は、日本の橋梁やトンネルなどと同様であるのに、対策が取られてきた
  とは言い難い。

見ての通り、暴言を連発しているだけのように報じられているトランプ氏だが、その政策は、没落した労働者下層階級を再び中産階級として復活させようという『偉大な米国』構想として一貫しているのである。
 共和党の候補で、労働者階級の「救済」策を主張している候補は他にいない。

2. サンダース上院議員、ミシガン州で勝利する。

ヒラリー・クリントンが南部諸州で黒人票を集めてサンダースに勝利してきたものの、3月8日、事前の『ヒラリー、有利』の宣伝・世論操作にもめげずに、サンダースがミシガン州で勝利した。
デトロイトなどを中心にした一大工業地帯での労働者層が、ヒラリーではなく、サンダースにこぞって投票したからだ。
南部のヒラリー、北部のサンダースという南北戦争の観を呈する民主党の指名争いだが、共和党と同じく、泡沫候補とされた候補が健闘しており、両者に共通する政策は疲弊した労働者階級の「救済」である。
ヒラリーには労働者階級「救済」の視点がなく、これが既成の既得権を握った階級=
Establishment(エスタブリッシュメント)の手先としての印象しか与えないのである。
 『黒人の血を引く初の大統領』『初の女性大統領』などという民主党の空虚な物語にお付き合いして興奮するには、労働者階級は疲弊しすぎている。
 サンダース氏がユダヤ人であり、同じくユダヤ人のロックフェラー家がエスタブリッシュメントの有力な一員であり、サンダース氏が勝ち続けるとなると強力な選挙資金を提供して、オバマのようにサンダース氏も「子飼い」にされていくだろうが、若者を中心に、労働者がヒラリーを拒否し始めているのは、労働者階級の現実認識が深化している証しであり、よい傾向である。
 
 サンダース氏もトランプ氏と同様、TPPへの反対を表明している。
 TPPと「自由貿易」を推進しているのが、既得権階級(establishment)であることが浮き彫りになっている。
 既得権階級とは、トランプ氏の言葉を借りれば、『多国籍企業であり、米国には税を落としもせずに、税の安い国を利用するヤツラ』である。言い得て妙であり、下層大衆の苛苛を端的に表現している。
 Establishmentは、もはや国民概念・共同幻想を保持することができず、「自国民」のことなど全く考えていないという事実が、広く認識され始めている。
これは、大変良いことである。

3. だが、トランプ氏の言動はファシスト特有の言動である。

 様々な報道が、この点にのみ焦点を当てているので、「暴言」が、暴言一般ではなく、下層階級の苛苛を下層階級ではない人間が「財閥」「悪徳資本家」「Establishment」などを敵に仕立てて攻撃するやり方であることを指摘するに留める。




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