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フランスの内乱

渋谷 一三
403号(2015年12月)所収


<はじめに>

 11月13日の金曜日、パリで無辜の市民129人が殺害された。
 この後一週間、ベルギーでの銃撃戦で「犯人グループ」が射殺され、全てがフランス人であることが判明するまで、「イスラム国」によるテロだと報道され続けた。
 報道機関が完全に帝国主義国家の宣伝機関であるという真理を今一度確認させられた。
 筆者の前稿も、「イスラム国」から送り込まれた特攻隊員による報復との前提に立ってしまっていた。反省。まさか、ここまで見え透いた嘘をつき、シリアへの空爆までするほどフランス帝国は落ちぶれ果てているとは考えられなかった。
 フランスはフランス国籍の旧植民地出身者をフランス人と認めていないという本性を露呈してしまった。
 フランスの中で下層を担い、虐げられ抑圧され、生活の疲弊と絶望しかないという現実の中で、旧植民地出身者が反乱を起こしたというのが正しいところであった。
 だが、あくまで11・13をイスラム国による戦争だとするオランド社民政権は、西欧社民主義の腐朽性を余すことなく露呈した。そしてまた、「フランス帝国の一級市民」のみが本当のフランス人だとする本音を露呈したことにより、国内の旧植民地出身者全体を敵に育成する道を驀進し始めた。国内の階級対立と「民族」対立は激しさを増す以外にない。

1. イラクの石油利権が奪えるとは考えていないロシアの現実主義は、西欧が建設した石油施設を唯一本気で空爆し破壊し始めた。

 米国が石油利権を維持するために、原油採掘施設を破壊することを避け、原油輸送に携わるタンクローリー車を運転手ごと破壊するという人道に反する殺戮をしていることは前稿で指摘した通りである。
 だが、ロシアは、英米のイラクにおける石油利権を奪うために全面戦争する気など全くない。プーチンの現実主義は健在であり、スプラトリー諸島の埋め立て軍事基地化を進めてしまった習近平の冒険主義とは全く違う。
 ロシアは11・13に便乗してシリアの正当政権を支持し、シリアの治安回復と難民の発生を根本から一掃することを目標としている。それはアサド政権が正当政権であるばかりではなく、親ロ政権であり続けているからである。
 アサド政権が親ロ政権であることが、米国とその手先である「自由シリア軍」によるアサド政権転覆策動が行われた根拠でもあった。
ロシアの空爆により原油採掘施設が大規模に破壊されることは、建前上はイスラム国の資金源を断つ最も有力な手段なのだが、イラクの石油利権を手中に収めることが本音の米国にとっては、耐えがたい軍事行動である。
この米国の建前と本音のジレンマは見ものではある。ロシアは米国の建前を逆手に取ってまんまと米国をウクライナやクリミアのロシア利権を承認させる裏交渉の場に引きずり出すことに成功した。これ以上の石油施設の本当の破壊は、米国には耐えがたいことだからである。
アサド政権が、米国による軍事干渉から解放され安定すれば、「シリア難民」は発生しなくなる。これはロシアの利害貫徹による、結果として正義の回復であり、シリア民衆の苦難の除去である。
米国の「アラブの春」策動の破綻の最終的確認でもある。

これは、とてもよいことである。

2. 激化する以外にないフランスの内乱

フランスの「暴動」(限りなく内乱に近い)は、今回より大規模で大衆的に、既にあった。
 今回の銃乱射・自爆特攻はフランス人によって行われたのに、オランド大統領は、イスラム国のせいにしてイラクへの爆撃を正当化し激化させてしまった。
 この行為によって、旧植民地出身者をフランス人として認めないと宣言してしまった。
フランスでの旧植民地出身者が多く居住している地域での治安は著しく悪化するだろう。
 極右政党とされてしまっているフランス国民党は、旧植民地出身者の入国・国籍取得を厳しく制限して出来るだけかつてのフランス人になる人種構成に戻すことで治安・秩序を回復し、失業率を筆頭とする経済の回復を目指している。いわば、新鎖国主義である。
フランスの社民主義は新排外主義者の解決策に対抗する解決策を提示することは出来ず、帝国主義者がしたのと同じように旧植民地での利権を維持し、国内の底辺層を旧植民地出身者で満たそうとしている。要するに帝国主義者と寸分も変わらない。
社民主義者に植民地主義がもたらした負の歴史を解決する能力はない。

3.世界を不安定化させ、混乱と戦争をおこす元凶になった米国

11月24日、トルコ軍戦闘機がシリア領内において、反アサド武装勢力を空爆していたロシア軍機を背後より撃墜した。そして、明らかに戦争犯罪なのだが、脱出してパラシュートで降下中のロシア空軍兵を地上より射殺した。
 通常、降下中の空軍兵は捕虜にするのだが、射殺した。これを米側諸国の報道機関はおしなべて問題として指摘せず、気づかぬふりをしている。
 この事態は、両者の建前の「空中」戦とは無関係に、トルコとロシアのシリア・アサド政権を巡る敵対が、両国の戦争状態に入ったことを示している。
 既に何度も指摘しているように、シリアの反政府勢力は、反米政権の壊滅を狙う米国の『アラブの春作戦』によって設立された。今回、救出に向かったロシア軍のヘリコプターを撃破したロケット砲が米軍のものであったことが露呈し、「自由シリア軍」なるものが、米国によって作られたことを証明してしまった。
 一連のアラブ諸国の政権転覆活動は、米国の『アラブの春作戦』によって惹き起こされたものであり、米国が世界の平和と安定を乱す第1の国になっていることを示している。
 米国はすでに現実を分析する力を失っており、中期的ビジョンを打ち出す能力が全くないことを示している。
フランスが米国と共同歩調をとり、爆撃機を投入した「アラブの春」震源地チュニジアでは、自爆特攻部隊が傀儡大統領警護隊に突撃し、大統領を暗殺する能力を持ち始めていることを誇示した。 
チュニジアを根拠地として米国が、反米カダフィ政権の転覆とカダフィ氏の暗殺を遂行したリビアでは、連日のように爆破事件があり、ほぼ無政府状態になってしまっている。
ムスリム同胞団の大統領が民主的選挙で選ばれてしまったエジプトでは、親米政権であり続けることを条件に、追放されたムバラク軍事政権を再び復活させた。
アフガニスタンのソ連兵と対峙させる為に養成したオサマ・ビン・ラディン氏は反米軍事組織アルカイダを作り米国への史上初の軍事打撃を成功させた。米国が養成した人物と組織を、米国はパキスタンでの公然たる軍事行動で暗殺してしまった。もはや、軍事裁判にかける力も能力も失っていることを示した。リビアでカダフィ氏を暗殺してしまったのも同様で、イラクのフセイン大統領を捕え軍事裁判にかけたことが、むしろ米国の政治的ダメージにしかならなかった事実を踏まえてのことである。
米国の政治的正義が全くないことが、逮捕・裁判という政治ショーを演出することができない根拠であり、米国は他国の元首を暗殺することしかできないほど落ちぶれ果てている。
米国のやることなすことの全てが場当たり的で反米武装勢力を生み出し、世界を戦争と混乱に陥れている。歴史を先導していく能力がないばかりか、「世界の警察官」である能力すらも失っている。

4.ロシア爆撃機を撃墜したトルコの冒険主義

 オスマントルコ帝国を崩壊させた英・仏・ロの3国秘密協定により、アラブの不自然な人為的な現在の国家・国境がつくられた。
 トルコがこの恨みを持ち続けていることは間違いない。この恨み自体は正当なものですらある。不自然な国境のせいで、クルド人は民族国家を樹立することが奪われた。このことをトルコ側からみれば、国内の一部に反政府武装民族を抱え続ける「苦難」を押し付けられた原因である。
 トルコを侵略したかつての3国プラス米国が現在の空爆国として揃い踏みしている。
トルコからみれば、むき出しの自国の利害を貫徹することが至上命題であり、米国であれフランスであれロシアであれ、トルコの利害に抵触する旧侵略国家のどこにも忠義だてするつもりはない。
 トルコ政府がこのような現実主義を堅持している間は大丈夫だが、エルドアン大統領の姿勢は親米・反ロの偏光メガネによって曇っているようだ。
 米国は「イスラム国」と戦うならば地上軍を投入することを要求されている。だが、到底、地上軍を投入することはできない。米兵に死ぬ覚悟はない。一万人に近い戦死兵と10万人に近い負傷兵、ほとんどすべての帰還兵の米国社会への適応障害を抱え、何の為に戦っているのか分からなくなっている。
 このため米国は、米国本土でのお気楽なロボット爆撃機の操作と、安全な高高度からの現地での爆撃しか行う能力がなくなっている。「誤爆」だらけになるのは当然で、決して誤爆ではないのである。
 この結果、米国はクルド人に武器を供与して、米兵の代わりに「イスラム国」と戦わせる姑息な手段を採用した。戦後のクルド人国家の樹立を約束してであろう。
 クルド人はトルコ国境内にまたがって存在してきた。トルコから見れば米国のクルド人利用はトルコ領の一部割譲=クルド領有を意味しているのだが、シリア領内での米国の手先武装勢力=「自由シリア軍」へのロシアの爆撃を許さないためのロシア軍機撃墜を行ってしまったのである。
親米のバイアスがかかっているとしか思えない沙汰である。
エルドアンは現実主義を失い、危険な冒険に走っている。
ロシアはトルコとの戦争を行う能力を有している。またそれを二国間の戦争に限定して終結させるだけの外交力(外交による強制力)も持っている。
エルドアンにとって唯一の救いは、米国がこれ以上事態を複雑化することを望んでいないことだけである。

5.イラク革命評議会ではなくイスラム国を宣言している思想

「イスラム国」は固定した領土を持っていない。そういう意味で「国家」ではない。だがベトナム解放民族戦線が、インドシナ共産党から出自したように、イスラム国は帝国主義列強によって分割された国境と国家を承認する位置を断乎として拒否した位置から出発した。だから、その活動地域はアラブ諸国全てであり、あえて言えばオスマントルコ帝国の版図のすべてであろう。
帝国主義が勝手に引いた国境線を拒否することから、アラブ世界の統一国家樹立という広い位置を獲得できるとともに、各「国」ごとに分断されて存在していた運動・組織を統一する可能性を手中にした。
各「国」の反米・反帝国主義の革命運動の側から事態をみれば、21世紀になって、初めてアラブ世界の真の独立達成という革命的思想・高邁な理想が歴史に登場した高揚感の下で死を賭した運動を行えることを意味する。士気が上がる。ジハード思想だけでも命を賭けた大衆は登場しえたが、敵が帝国主義者どもだとはっきり認識できるイスラム国の樹立(アラブ世界の統一回復)という理想を得ることによって、より一層内発的に死を賭す覚悟ができる。
実際、ロシアの旅客機を爆破した自爆特攻隊は自らをシナイ「州」部隊と名乗り、イスラム国家の一つの州を構成することになる部分と位置付けている。
このことの意義は大きい。直接に何の連絡もない武装勢力であっても、現実にそうしているように、一連の系統的武力行使を行うことができるからである。チュニジアの大統領警護隊襲撃に呼応して、リビアで自爆特攻攻撃を行う。何の関係が無くても、このニュースに接したエジプトの反政府勢力の一部の構成員がイスラム国エジプト州部隊を名乗って自爆特攻攻撃を行うことが出来る。連鎖が生まれ、「イスラム国」新支部が勝手に生まれやすい土壌が形成されたのである。
イスラム国フランス支部やイスラム国USA支部を名乗る被抑圧者が登場するのは時間の問題であり、今回のフランスの「内乱」は、実質上はイスラム国フランス支部の活動であった。
日本政府の態度しだいでは、日本が自爆特攻攻撃のターゲットになる日は近いかもしれない。愚昧な安倍は米国に追随することしか知らず、過剰な米国へのリップサービスをしている。安保法案はリップサービスの域を越えた。「テロには屈しない。」などと反帝国主義運動をテロとさげすむ発言を繰り返し、わざわざ反感を買うようにしている。
安倍のこの態度によって後藤さんが見殺しにされたように、東京オリンピックに照準を合わせて、殺戮を繰り返す米国の「有志連合」一番の子分になり下がった安倍日本によって、日本の市民の大量の犠牲者が出る可能性は十分にある。
安倍は挑発的おしゃべりを即刻やめるべきである。愚昧な首相を選んでしまったツケは血で贖わされるかもしれないのだ。


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