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大阪ダブル選挙結果の考察

渋谷 一三
403号(2015年12月)所収


<はじめに>

 10%前後の投票率低下は当然の結果だった。だが、橋下徹が言う通り、選挙はいくさであり、自分が強くて勝つ場合だけではなく、相手のエラーで勝つのも立派に勝ちなのである。
 投票率が下がれば、狂信的人間だけが確実に投票に行く。烏合の衆である自民候補より、ファシズムの熱狂に駆られた維新維持層の比率が高まるのは当然である。
 敵が弱いから維新が勝利したのである。
 これもまた、立派に勝利であるというのが、悲しいことに政治というものである。
 低投票率だったから民意を反映していないなどと殊勝なことは絶対言わない。

 自民支持の読売新聞のみが「維新圧勝」と言わなかった。毎日も朝日も「維新圧勝」と媚びてみせ、維新支持の産経に至っては「維新完勝」と見出しを打つ。これが現実である。

1. 止められない自民党の長期低落

安倍派以外の谷垣・石破・細田・片山を投入しても、維新単独に敗北

 第1次安倍内閣が倒れ失意の中にいた安倍を持ち上げ「政界復帰」させたのは橋下徹だった。安倍はこの恩義を忘れていないということを示すことで、維新へのウイングを伸ばすとともに、維新への影響力を持つことを誇示して自民党内の求心力を保つことに利用してきた。
 安倍派は大阪自民党府連の組織と露骨に対立して、選挙前に松井や橋下と個別に会い、親密さを誇示することを通じて、維新へ強力な支援を送った。憲法を改変するために、出来れば自公政権を清算して自民・維新政権で3分の2の議席を確保することが最も理想的なシナリオだからだ。
 この事情をよく知っている「おおさか維新」部分は、松野らの、民主党との協調を目指す「維新」とは、非和解的敵対関係にあることを嗅覚で感じ取り、何の躊躇もなく泥仕合の分裂劇を選んだ。
 他方、自民党大阪府連は依然として支持率の低下に悩む自民党の典型の一つである。
農村部の自民党はTPPによって決定的に支持率を低下させている。他方、都市部の自民党は資本家階級の政権として純化を遂げたものの、大資本家のみが利益を享受し、中小企業の資本家階級はむしろ圧迫される結果となっており、小ブルジョアジ―の自民党離れを生み出している。
 中小企業の多い大阪ではこの傾向が特に顕著に表れる。維新の獲得票の半数以上が「自民支持層」から来ているのはこのためである。だから、正確に言えば、維新支持層が小資本家階級であり、この層が従来は自民党に投票していたに過ぎない。
 大阪では、中小資本家階級は維新という政党に自らの利害代表を見出したのである。したがって、大阪の自民党は、本来基盤とする大資本家階級とその支配下にある大衆を極めて薄くしか持たず、いわば根無し草状態になっているのである。もともと少ない大阪の近郊農業に従事している農民はTPPの影響を受けにくい作物を栽培しているとは言え、自民党への求心力はない。民主党がなんだか訳のわからない党になっているから、なんとなく自民党に投票しているに過ぎない。この層が、今回は棄権に回ったり、腹いせに維新に投票したりしたと推定できる。
 安倍自民党が都市の大企業の利害のみを代表する政権に純化したことは、鳴り物入りで押し進めた円安政策一つを取ってみても顕著に分かる。
 円安で、国内で操業するしかない中小企業は、原材料高に苦しむことになり、円安で輸出利益を得るのは、中小企業に下請けさせた部品を今までと同じ価格(完成品の円表示価格は同じだから)で納品させて完成品を組み立てる大企業だけなのである。この事態に象徴的に表れているように、自民党の支持基盤はますますやせ細り、長期低落傾向に歯止めなどかかっていないのである。
 自公政権の議席増は小選挙区制によるものであり、民主党の、失政というにはあまりに軽すぎるほどの大乱心・愚昧な政治の結果に過ぎない。
 
 かくして、安倍派以外の派閥の首領を全部投入しても、自民党は、維新一つに勝てなかったのである。

2. 自民票の52%が松井候補に投票

自民のばらまき土建政治の恩恵からもれる中小企業

 1章で見たように、自民党の政策が大資本家の利害を代表するように純化したために、自民党は基本的に農民票を失い、中小資本家階級の支持を失っている。この傾向は、時を経るにつれますますはっきりと誰の目にも分かるようになる。
 1章では輸出産業を例に取り、中小企業がますます苦しくなっていることを分析した。
以前は注文が減り倒産の危機に瀕していた。「安倍のミックス」後は、受注数は増えたが、増えた分全部を生産してやっと以前の収入と同額の売上を得られることになり、操業時間が増えた分、電力代や人件費などのコストがかさむことになり、経営が圧迫される。
 さらに、自民党の土建政治=「国土強靭化政策」は、輸出産業ではない産業のテコ入れをしているように映るが、儲かるのは受注元だけであり、下請け、孫請け、ひ孫請けとなるにしたがい、利益が薄くなるばかりではなく、コスト分しか売り上げが上がらないことになっている。
 ここでも中小業者はなきを見ている。
 土木作業が増えるに従って作業員不足が深刻になり、人件費は上昇する。円安で原材料費は増大する。インフレ誘導政策と消費税アップで、様々なコストが上昇する。こうしたしわ寄せは、実際に作業をする孫請けより下位の業者にのみかかっていく。
 かくして、自民党は、土建業からの支持も失うのが正しい姿である。そうなっていないのは、ひとえに、中小土建業者の不明による。
 大阪では、維新という政治セクターが登場したことによって、この不明が自覚され、自民党から離れることができたのである。
 今回のW選挙の結果は、このことを示しているのである。

3. 階級分析が出来なくなった日本共産党

労働者下層を組織できないプチブル政党としての日共
下層階級は、公明と維新に包摂されてしまっている現状の危険

 日本共産党は労働組合内反対派として基盤を作ってきたため、正社員によってのみ構成される労働組合が労働者上層部になっていくにしたがって、労働者下層へは全く影響力を持てない政党となってしまった。
 非正規労働者を公認することによって労賃の切り下げを図ってきた日本のブルジョア政権によって、労働組合員数は急激にやせ細っていった。また、本工(正社員)の賃金は非正規社員の2倍から3倍になり、労働者上層階級というべき階級を形成するに至り、この階層の意識や気分ははっきりと労働者下層とは違うものになっている。
 日本共産党が代表している気分や意識もまた、ますます薄くなっている労働者上層部という一部の大衆の気分や意識だけになり、国民のごく一部の階層の気分を代表しているにすぎない狭い政党になってしまった。
 この結果、下層階級は自らを代表する政治セクターを見出すことが出来ず、創価学会・公明党に組織されるしかなかった。
 だが、ここにファシズム政党が登場する。苛立ち攻撃性を高めている下層階級は、過激に煽動するアジテイタ―に本能的に共感し、演説カ−上からアジる橋下徹に呼応する叫び声を上げ、この熱狂に酔い痴れている。こうした光景は、他のどの政党の演説会場でも見られない。
 ファシズムの登場は、日本の左翼のふがいなさによる。

4. ファシズムを支持する下層階級は個人攻撃が好き

―橋下徹の女性差別発言にも、すっきり感を感じてしまう下層階級の知的荒廃―

「赤い服を着たあのおばさん。自民党とのパイプなんて言ってますが、自民党の中では、ペーペーのペーペーのペーペー。自民党幹部に相手になんかされないんですよ。」と宣伝カーの上で煽る。
 相手候補の名前を言うことは、相手候補の宣伝になってしまう一面を持つ。このことをヒットラーと同程度によく知っている橋下徹は、徹底して赤い服を着たおばさんと呼ぶ。この時のおばさんとは親しみを込めたおばさんではなく、政治家として認めない侮蔑のおばさんである。しかし、この侮蔑を聴衆の女性すら感じ取る能力を持っていなかった。むしろ、論争能力すらないくせして知事候補にしてもらい、金持ちで(公認会計士)鼻持ちならない匂いをかもし出している自民党らしいこの人物へは、下層階級は本能的に嫌悪感と反感を持っている。これを攻撃してくれる快感の前に、この攻撃が女性差別に立脚していることを忘れる。
 実際、市長候補の自民党男性には、名前を呼ばず「政治家家系のぼんぼん」と言ってよさそうなのに、決して男性には、こうした品性のない攻撃はしない。そんなことをすれば、男性ということ以外にプライドの保持のしようがない下層階級の男の反発を買ってしまうことを橋下徹は肌で知っている。
 これはちょうど、鼻持ちならない雰囲気を醸し出し始めた高槻選挙区の、民主党の女性代議士に対し、安倍が「さっさと質問しろよ!」と野次ったのと同じ構造である。安倍晋三もまた、男性代議士にはこのような野次を飛ばすことはない。
 かの「赤い服のおばさん」も、橋下徹のこうした発言に女性差別を感じ取ることが出来ず、橋下徹攻撃に絶好の反撃材料を使うことすらできない。当事者の女性が女性差別を感じ取ることができないのだから、落選するのは当然と言えよう。
 下層階級のこうした知的荒廃はすでに危機的である。煽情が大好きで、個人的希望がないゆえに自暴自棄的で好戦的。マルクスが危惧した下層の荒廃状況である。これはファシズムの温床であり、下層階級を組織し自己教育させていくことは共産主義者の一義的任務とされてきたことである。
 日本共産党が小ブルジョアジー政党になってしまっていることが、こうしたことからも証明されてしまっている。公明党や維新の党に負けているのである。大阪に関しては一も二もなく独自候補を擁立して、下層を公明党や維新の党から引き剥がすべきだった。
 実際は全く逆の行動を取り、大ブルジョアの利害に追随する小ブルジョア政党の本性を発揮してしまい、自民候補を応援するまでしてしまった。公明ですら自主投票に留めたのに、勝手連的に応援演説までしてしまった。
 下層階級は維新に投票する以外に選択肢を持たなくなってしまったのである。
これは、一部の自民党支持解説者がいうような『共産党が支持したから自民党支持者が逃げた。』ということではない。
こう捉えることしかできないのは、中小資本家階級の経済状態に対する分析が出来ていないからであり、維新に投票した旧自民支持者に直接聞いてすらいないからである。
共産党が独自候補を立てれば下層階級の票の3割以上はこの候補者に流れ、結果として自民党候補を利したはずである。こうした事例は幾万回となく日本全国の選挙区で発現してきたことだった。共産党が候補者を立てなければ社会党(民主党)の候補者が当選した可能性が高いという現象は、嫌というほど見させられてきた。共産党が結果として自民党を応援している。だからこそ、全国一律に候補者を必ず立てる共産党への反発が反自民大衆から寄せられてきていたのだ。それを感じていたからこそ、今回志位委員長は思い切って「候補者を立てない選挙区」をつくるという英断をしたのではなかったのか。
自らがしていることの意味を理解していない共産党。それゆえ大阪でも候補者を立てないという間違った戦術を採ってしまったのである。大阪では候補者を立て、下層階級の票が維新に流れないよう思いきった改革案を提示すればよかったのである。
湾岸庁舎の即時廃止・保育所の倍増設・市営地下鉄の府営化による延伸・出産費用の全額公費負担・公募校長の即時廃止・府下全中学校での給食開始・府市議員定数の半減(2選挙区を合併)などと合わせ、議員への必要以上の公費給付などへの大衆の反感を取り上げ、橋下徹に負けず声高に議員を攻撃すれば、維新にしっかりと競合できたはずである。

5. 論争能力なし。政策に具体性なし。女性を強調することしかできなかった栗原候補

−そのくせ国家主義の胡散臭さを強烈に放つー

1.予算措置を必要とする政策は全て『検討』
 子ども・子育て支援 / 保護者負担の軽減策を検討
 出産・子育て応援社会の実現 / 子ども医療費助成の府費負担の拡大を検討
 保育の保護者負担の軽減策を検討
2.抽象的無内容
 大阪の教育の立て直し / 教育現場の人材育成
 子どもたちの学力向上 / 受験生のための入試制度に
 出産・子育て応援社会 / 待機児童解消に本気で取り組む
 女性や子どもたちが安心して… / 子どもの貧困対策 / 子どもの虐待防止
 障がい者が社会の一員として / 自立支援 / 虐待防止 / 人権啓発
3.安倍失政を維新のせいにし、逆に安倍失政を宣伝してしまう愚
 経済大幅に低迷 / 過去4年間の実質成長率が京都・兵庫・大阪と激減
 全国平均より悪い失業率 / 全国も大阪も失業率が増大しているグラフを提示
 世帯の収入は大幅減 / 大阪の世帯収入が4%減になっているグラフ

4.クリーンな女性候補という打ち出しによって、逆に自民男性がダーティであると吐露
5.障がい者と言った途端に、虐待される者と認識していること、社会の一員でないと認識していることを吐露している。

 などなど、枚挙にいとまがないひどい公約で、政治のことなどまともに考えてこなかったことがアリアリと窺える。
 当選するはずがない。

6. 日本共産党の「全選挙区候補者擁立戦術の見直し」路線への影響

 日本共産党が当初、勝手連的に自民候補の応援演説をしたことが話題を呼んだ。
 自民党からの「苦情」によって、その後は、公衆の場での応援演説を取りやめたようだが、今回の自民党知事候補のダブルスコアでの敗北を受けて、分析能力すら持たない自民党議員らが恥と感じる力もなく、敗北の原因の一切を共産党のせいにしている。
 前原や細野のような、本来自民党に行くべき民主党の派閥の領袖もまた、この自民党大阪府連なみの分析能力の欠如を露呈し、「白蟻に食われる」などと公党に対して失礼な発言をして、謝る体たらくである。
 本当に共産党の何らかの形での選挙協力は足引っ張りになるのだろうか。
 志位委員長は、自民党の議席を減らすために「全選挙区で共産党の候補者を擁立することを止める。」と表明しているのである。
 勝手連的応援、政策協定による候補者調整(バーターも含む)、単に候補者擁立をせず、野党候補を一本化するなど、多様な形態を提案しているのであり、これに呼応しない手はない。むしろ、民主党側からこうした提案をして共産党に飲ませることがあって然りである。
 くだんの大阪W選に立ち戻って考えてみよう。
 共産党市議団は、反維新の共同歩調をとって、維新・裏切って維新についた公明の連合軍を破ることに成功し、住民投票での勝利を導いた。共産党が自民と共同歩調を取ったことが裏目に出たわけではない。
 住民投票それ自体は、都構想への賛否を問うだけなので、反自民層が自民党に投票しなければならないような苦痛はない。だから、都構想反対派が勝利しやすかったのだということも出来る。しかし、住民投票直前までの議会での攻防が、公明の裏切りにあったものの共産の共同歩調堅持があったために、都構想への反対の世論を盛り上げることに奏功したことも間違いない。
 実際の市長選挙では、共産党は自民の柳本候補を選挙カーの上で応援するなどのことはしなかった。それをしたのは、「赤い服のおばさん」たる府知事候補に対してである。勝手連的応援演説をしなかった柳本候補は、それでも敗北したのである。敗北を共産党のせいにするなら、石破が応援演説しにきたせいにすることも出来る。お好みとあらば、谷垣のせいにすることもできる。
 要するに、共産党が候補者擁立を見送ったせいでもなければ、共産党が自民党候補への投票を呼び掛けたせいでもない。自民党が、大阪のような小ブルジョアジーが多数を占める地域での経済上の多数派の利害を代表することが出来ていないことが敗因なのである。
 
 しかし、民主党右派(高市早苗と同じ松下政経塾出身)と同様に、当の共産党が大阪W選挙での「統一候補」の敗北に直面して『全選挙区での候補者擁立戦術の見直し』を見直しそうな雲行きがある。
 参議院選挙では、野党の「統一候補」を作ろうということで、自民候補に投票を呼び掛ける今回の件とは全く異なる。共産党が要求している見返りは、最大で、安保法案廃棄のしかたの政策協定である。
 だから、民主党の前原や細野がごねるのは、安保法案を共産党のように完全に廃棄することに反対しているからにすぎない。この本音を隠すからこそ、白蟻発言や解党発言をして、自民党の議席を減らし、自公政権の暴走を止めようという大義にそむくのである。
 日本「共産党」は、全選挙区候補者擁立戦術の見直しを断行し、党改革を一歩実現すべきである。

7.日本の政党の階級分析

所詮、正規ルートでは政治家になれなかった野心家が、松下政経塾の洗脳によって特殊な歴史観を叩き込まれ、その見返りに政界への進出をアシストしてもらえただけの民主党右派。松下政経塾出身者は、歴史歪曲主義の世界観を叩き込まれた人物たちであり、自民党にいても民主党にいても、その政治信条に大差はない。むしろ全員、自民党右派を形成すべき政治内容である。民主党政権をみすみす解散して売り渡した野田元首相もまた、松下政経塾出身である。不当にも民主党に入り込み、民主党支持層の票を窃取している野田・前原・細野らをたたき出すことが出来ない不明さが民主党の圧倒的弱点である。これでは自公政権の暴走を止めることは出来ない。
安保法案を呑んだ見返りとして約束された軽減税率という飴にこだわる公明党。インボイスもせずに軽減税率を実施すれば、とりわけ中小商工業者は膨大で煩雑な事務手続きに耐えられない。さらに、公明党の主張する通りの幅で軽減税率を実施するなら、税率アップした意味が全くなくなる。軽減税率などやめて増税をやめればいいのである。
 連立政権を組むにあたって、子ども手当をねだり、安保法案に賛成する見返りに軽減税率を要求する。自民にとっては、金で簡単に買収できる便利な党であると言えるが、常に金をねだる放蕩息子とも言える。橋下維新が公明以上の議席を獲得するなら、公明を切って自民・維新連立政権を作りたい。これが、菅・安倍政権の本音である。
 こうした自民・維新のダイナミズムに対して唯一ダイナミックな対応策を打ち出したのが日本共産党の選挙戦術変更である。これに呼応すらできない、民主党に潜り込んだ反党分子、前原・細野・野田らの罪は大きい。
 
大ブルジョアの自民党、下層階級を取り込んだ小ブルジョアの橋下維新、下層を囲い込む任務を果たす公明、民主党の支持基盤はどこにあると思っているのだろうか。
 民主党は西欧の社民主義者と同様の小ブルジョア・労働者上層部連合にしか空いている基盤はないのである。このことを自覚できない「民主党員」は自民か維新に行くべきなのである。
 日本共産党は西欧社民主義に純化する以外に道はなく、自覚してかどうかは別として、その道を歩み始めている。民主党もまた、社民主義者の党なのである。西欧社民主義が政権を取っているように、社民主義政権が日本で誕生するのも不思議なことではない。なぜなら、西欧がそうであったように、大ブルジョア自身の精神風土は多国籍化の結果国民政党を必要としておらず、国民経済規模での絵を描く能力も失っているからである。
換言すれば、大資本家・大企業・企業からは相対的に自由な金融資本、などからなる大ブルジョアジーは国民国家による環境整備を必要としていない。自力で自己に必要な環境を取得している。大ブルジョアジーは、自由貿易圏の節度なき拡大への欲求が時に国家を必要とすることがあっても、国民国家をかく改変したいというような絵を持つ必要はない。絵を描く能力を喪失している根拠である。
一方、小ブルジョアジーはますます頻繁に没落する不安定な階級となっている。彼等は大ブルジョアの圧迫と「横暴」を、国家を使ってコントロールしたいという欲求に駆られている。
フランスの自営農民に代表されるような小ブルジョアは、際限なき自由貿易と敵対する存在である。自然条件の違いによって、コストが大きく異なる農業という産業は、『地産地消』という狭い範囲での流通を求める。自営農民などの小ブルジョアはTPPやFTAなどの自由貿易の拡大に抵抗する。ごく少数の資本主義的農業を営む農業大ブルジョアだけが、『地産地消』などでは捌ききれない過剰生産物を抱えて輸出を要求しているだけだ。社民主義の経済的根拠である。
派遣社員などの労働者下層の破竹的拡大は、労働者上層部の没落への不安を掻き立てている。労働者上層部は、大ブルジョアのおかげで労働者上層部に居られることを自覚しているものの、労働者下層に没落しないで済むような国家による「身分保障」を求めている。労働者上層は小ブルジョアジ―の利害と一致している。社民主義の経済的基盤になるゆえんである。

他方、労働関連法の改悪によって大量に生み出された労働者下層は、全労働者の半数を越えた。政府統計で4割になっているのは、労働者上層の妻たちによるパートタイム労働者と派遣労働者や日雇い労働者、学生アルバイトなどを合算していないからにすぎない。
この階級は絶望的で自暴自棄的で、無教養で簡単に煽動される、という特徴を持つ。この階級と中国など新興国による世界市場の蚕食を許さないとまで切羽つまって競合している工業小ブルジョアジーの利害も「一致」する。農業小ブルジョアジーと労働者上層部の利害が一致したのに対し、工業小ブルジョアジーと下層労働者の利害は一致しない。工業小ブルジョアジ―による下層労働者の一方的利用だからである。
苛立ち、簡単に煽動にのる下層階級は、絶望的であるがゆえに最も戦闘的でエネルギッシュである。既成秩序の破壊を好むが、改革の方向性やビジョンを持つことはない。
小ブルジョアジ―の「改革」ビジョンに従って、果敢に大ブルジョアジ―に突撃する。これが、ファシズムという政治現象である。
 大ブルジョア政党・社民主義政党・ファシズム政党、この3つの政治セクターに収斂されていくのが日本の近未来政治地図である。
大ブルジョア政党は長期低落し、社民主義とファシズムとの死闘が繰り広げられるのが中期的未来地図である。
公明党に包摂されている下層階級は、池田大作さんの死により、社民主義へ包摂される部分とネオ・ファシズムに包摂される部分とに分裂する。
十分に育つことが出来なかった社民主義の政治セクターがファシズムの政治セクターに放逐されることになる。労働者下層の方が荒々しく、また、数も増大するからである。
共産主義が何たるものか、その現在的意味を措定出来ていない世界的状況の中で、日本もまた共産主義者が現実的に登場しえないかぎり、上記の絶望的三つの選択肢しかない。
大ブルジョアの利害を代表する政党、小ブルジョアと労働者上層の連合としての西欧社民主義政党、小ブルジョアと労働者下層のネオ・ファシズム政党、以上の三つである。

 後進帝国主義による、先進帝国主義国の世界市場支配体制の破壊と再分割が、第2次世界大戦時のファシズムの物質的根拠だった。
 米帝国主義による資本主義最後のフロンティアたるアラブ諸国への侵略と、「グローバリズム」化による一元支配。この米国独り勝ち体制の三極支配体制への再編を目指す欧州や日本の動き、米一極支配体制の座を取って替わろうと目論む中国の動き、世界市場の7極以上の多極化を目指すインドやロシアなどの動き、などの3つの動きの衝突。これが現在の世界情勢である。
 この世界情勢の中で日本の新ファシズム政党は経済的根拠を持たない。
 日本の大ブルジョアジ―は米・欧・日の3極支配体制によるグローバリズムを追求している。日本の小ブルジョアが世界多極体制を志向したところで、何の利益も得られない。ましてや、米国による世界一元支配を追求したら没落と消滅以外にない。
 要するに、世界のぶつかり合うどの潮流にもそぐわない。
欧州の新右翼が、民族排外主義による旧植民地支配の清算、という経済的根拠をもって登場しているのに対し、橋下維新などの日本のネオ・ファシズムは経済的合理的根拠を持たないのである。
だから内紛と離合集散を繰り返すしかないとも言える。
 だが、あなどることは危険だ。今の内に潰しておかなければ、物質的根拠がないがゆえに暴走をし、客観的意味のない破壊行動を繰り返し、世界秩序のかく乱者として、日本が世界から武力をもって懲罰されることとなる。
 日本共産党の橋下維新への直感は間違ってはいない。危険な匂いを嗅ぎ取っていることだけは確かである。


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