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シリア難民問題を考える

渋谷 一三
401号(2015年9月)所収


<はじめに>

2013年10月号「米国のシリアへの軍事介入弾劾」の冒頭で以下のように述べた。

 『オバマは、民主党の厭戦派の気分に依拠して大統領選に当選する戦略を採用し、イラク・アフガンからの撤兵を公約にして大統領に当選した。曲りなりにイラクからの撤兵を実現したことによって皮肉にもイラク内部の対立は緩和してきている。米軍の存在が米軍傀儡派と反米派との対立を成立させていた根拠となっていたのである。
根拠を失った対立は急速に衰え、イラクをどう「建国」するのかを巡る新しいイデオロギーを生み出すことが必要とされている。イラク人民が直面しているのは、主にここにある。』

しかし、イラク内部の対立の緩和は一時的であり、共通の敵である米軍が撤退したことと、シーア派のみによる傀儡政権を樹立させたオバマの失態によって、イラクは首都周辺を支配する傀儡政権と、これに敵対するスンニ派によるイスラム国との内戦状態が生み出されました。
シーア派のみによる傀儡政権を樹立する愚を犯さず、少数派のスンニ派を軸にしたシーア派との連合政権を傀儡政権にすれば、現在のイスラム国を現出させることはなかったでしょう。
だが、米国は何も学ぶことなく、イスラム諸国に手を突っ込んで好き勝手に引っ掻き回してしまった。それが今日の『難民問題』の根源です。

1. 突如、「人道主義」を叫び出した欧州の怪

2015年9月、沈没した船から投げ出され海岸に漂着した子どもの死体映像が突如流布され、「難民を受け入れるべきだ。」というエセ人道主義のキャンペーンが開始されました。  
シリアのアサド政権を打倒するために、2013年9月、米国が「自由シリア軍」なるものを創設して内戦を開始しました。それ以来、難民は発生してきました。それが、イラクの傀儡政権の腐敗によって「イスラム国」が樹立されるに及んで、ことさらにひどくなりました。
それでも「人道」キャンペーンなどは行われず、米軍を中心にシリアへの空爆が行われ、無辜の民が殺害され続けてきました。それが、2年後の今日、突然、難民を受け入れようキャンぺーンが開始されました。
トルコやギリシャ、ハンガリーなどに大量の難民が停滞し、これらEU内貧困国が音を上げ始めたからでしょうか。それとも、難民を生み出している米国からの圧力があったからでしょうか。今はまだ分かりませんが、突然、受け入れようというキャンペーンが始まったことだけは確かです。

2. 日本もシリア難民を受け入れるべきだという謬論
集団安保で米国の尻拭い?!

欧州に向かって脱出できている難民は、相対的富裕層で、兎に角欧州まで辿り着けるだけの資金を持っているのです。一般の難民は良くてトルコまで。ほとんどの難民はレバノンなどの隣国の難民キャンプまで脱出するのが精一杯です。難民キャンプまで脱出することも出来ずにいる層も多いのです。
難民を生み出す米国によるイスラム世界再編支配を不問に付したままで、「上層難民」を受け入れるのが人道主義だなどと誰も思いはしません。また、EU各国首脳が受け入れを決めた人数をはるかに上回る数の人々がすでにEU圏内に流入しています。
一体、どうするつもりなのでしょうか。

ドイツの本音は『不足している労働力分を受け入れ、それ以上は受け入れないで済むように枠組みを作って終わりにしよう』というものですが、これについて行けるほど労働力が不足している国は有りません。この事情を象徴しているのが、EU内富裕国である英国が受け入れを表明したのは、たったの2000名だけで、ドイツが思わず不満を口にした事態です。英仏でこの程度の話です。他の国は自国内に大量の失業者を抱えていて、難民を受け入れる余裕などは有りません。
そして、難民を一番多く受け入れると表明しているドイツですら、実は外国人排斥運動が高揚しているし、難民一時収容所焼き討ち事件が頻発するほど矛盾は激化しているのです。ドイツの受け入れ派は、ドイツ基本法(憲法)の建前で動き主張しているだけで、矛盾に直面していない階層が、現実を見ずにきれいごとを言っているだけの皮相なものです。餓死者の出ている国でペット愛護運動をしているような齟齬があります。
ドイツはこうした根本的考察をさておくことによって、再びナチスのような排外主義の土壌を醸成してしまっているのです。きれいごとの建前を声高に叫ぶ人々によって、ドイツは危険な方向に向かわされてしまっているのです。
日本では安倍派と思われる国連職員が、日本も応分の『難民負担』をすべきだと主張してマスコミに登場してきました。難民を生み出している米国を批判することができないからです。本人は、難民受け入れを人道上の義務と本気で信じている能天気のようで、ドイツの孕んでいる暗黒部分を理解する能力を持っていないようです。
米国に追随し、米国の尻拭いをする政治が、ここでも頭をもたげようとしています。

3.  「自由シリア軍」を解体させ、シリアの政権転覆策動をやめさせよう。

 『米国がアラブ人民の血で塗られた「アラブの春」を追求している根源は、石油利権だけではなく、米国政界に多額の政治献金をすることによって大きな影響力を持っているユダヤ人の意向がある。イスラエルを米国が断固として支持することである。全ては、イスラエルの利益になるように図られている。』(2014年2月号)
 自由シリア軍は米国が全てを用意して作り上げた反アサド軍事組織でした。
 米国の建前は、民主化を求める部分がアサド大統領の圧政に武力をもって立ち上がって結成されたのが「自由シリア軍」だというものだったからです。決して資金も武器も提供しているとは認めなかったのですが、今回の難民問題で、自由シリア軍支配地域からの難民は優先的に保護される措置を取ることで、米国の直接的「支援」があることを認めてしまうという失態を演じました。
 自由シリア軍がシリアの内戦状態を生ませ、「イスラム国」がシリアにも「領土」を広げることが出来る条件を作ってきたのです。そして、この地域で一段と難民は発生することになり、今日の収拾の出来ない事態を生んできたのでした。
 米国は即刻自由シリア軍を解散し、内政干渉前の、アサド政権による秩序を回復するべきです。
 「幸い」ロシアが、アサド政権を支援し、アサド政権の原状回復のために必要な軍事的援助をする態勢に入った。米国が、米国による軍事介入以前の状態に戻す義務あるのですが、その軍事的負担をせずに、原状回復ができるのです。米国はただ、足下の軍事組織=自由シリア軍を解散させるだけで済むのです。
 また、こうすることが、難民の発生をなくし、難民が帰国できる条件を整え、「イスラム国」の拡大を防ぐことになるのです。
 米国が、面子を捨てるだけで、難民問題もイスラム国問題も改善されるのです。
 少しでも真面目に『アラブの春』現象を考察した人々には、『アラブの春』が米国のイスラム諸国支配再編策動であることは、見え見えのことなのです。

米国のアラブ世界への介入を止めさせ、シリアへの介入を断念させよう!


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