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大阪都構想を考える

渋谷 一三
401号(2015年9月)所収


<はじめに>

維新の党は、先に拙稿で予告したように、分裂した。
この分裂は、ファシズムと新自由主義との分裂であることも、先に述べた通りです。ただし、後者は代表を松野氏にしたことによって新自由主義への純化を遂げるかどうかは、微妙になってきています。
 松野代表は、民主党と維新の党双方を解党して新党結成という形での「合併」を主張していますが、民主党は新自由主義の党ではないので、新党結成方式は実現することはないでしょう。実現するのは、民主党への復党・参加という形での吸収でしょう。
 この場合、非「おおさか維新の会」の維新の党が再分裂し、旧みんなの党部分が小政党を結成する可能性が高いでしょう。

「おおさか維新の会」が再度、住民投票で否決された都構想を掲げて、維新の党の解体分裂をはかったのは、本当に都構想を実現したいゆえではなく、安倍政権別働隊とも言われる右翼ファシズム政治が大阪自民党では実現しないからであります。
 大阪で自民党に対決する形で維新の会を作ってしまった関係で、大阪の自民党は、保守本流とでもいうべき経済界の政治的意思を体現する部分として純化し、橋下維新の会は財閥を否定してみせた戦前のファシズムよろしく、経済界の意思とは別の下層大衆の苛立ちを反「左翼」へと導く政治的役割を果たすファシズムです。
 保守本流といわれる経済界の利害は、反中国ではなく、中国から可能な限り収益を上げることです。ですから、尖閣列島に関しても、水産資源や海底資源の権益が関係してきたから領土問題に発展しただけで、もともとどの国も自国領とは認識していない単なる岩礁だったことを認めています。このことの政治的表現が「領土問題の棚上げ」路線であり、田中真紀子議員がはっきりと表明しているように、日中の経済的利害に従属させて尖閣・釣魚台問題を扱う態度です。
 
 結論を先走って言えば、大阪都構想しか分裂の大義名分がないためにぶちあげてはいるが、「おおさか維新の会」は、安倍派部分が単独政党を結成した先駆け形態です。
 橋下徹が、都構想住民投票に負けた夜に政治家を引退すると断言したのは、都構想をこれ以上推進することはできないと観念したからであります。
 今また、都構想を云々するのは、それ以外に大義名分を掲げることができない政治内容の貧困ゆえであって、橋下徹が観念した通り、都構想は終わっているのです。

1. 大阪都構想は、それ単独では、大阪市の富を府民に分ける行為であり
大阪市民の利己的利害には敵対する。

大阪都構想は、実際は道州制とセットで提案されており、これが実現すれば、道州と大阪都と特別区という新たな三重行政が生み出されるもので、二重行政を解消して三重行政にしましょうというブラック・ジョークです。
道州制とは分離して、都構想だけを検討してみると、大阪府内では圧倒的に企業の本社が集中している大阪市には、圧倒的な額の法人税収入があります。
この潤沢な法人税のおかげで、歴代自民党大阪市長は市単独で美術館や体育館や博物館や科学館などの箱モノをせっせと作り、これらの施設の膨大な維持費を払い続けることが出来たのであります。
大阪市は黒字で、大阪府は赤字。しかも、大阪市単独で府の施設と同等かそれ以上の施設を保持しているという無駄遣いをしていたのです。
だから、都構想を受け入れるということは、大阪市だけ可能だった高齢者の市バス・地下鉄の無料パスを廃止するということであり、これに象徴される府民以上に手厚い大阪市民の福利厚生ばらまきを廃止するということです。
これはとても高邁な精神の発露でありますが、大阪市民がそうと自覚して大阪都構想に賛成しているわけではありません。また、不思議なことに、都構想に反対している大阪市民もこのことを認識している風はなく、自分たちの特権的優遇措置を奪われるから反対すると主張している部分もいません。
自民党大阪市議団がかろうじて「大阪市がなくなる。一度なくなったら、もう元に戻れないんですよ。」と、おそらくかげでははっきりと権益が失われるといいつつ、公には上記のようにオブラートでくるんだ言い方をしていました。
橋下徹の失敗は住民投票を大阪市以外の府民で行うのではなく、権益を失う大阪市民で行うしかなかったことを甘くみていたところにあります。
住民投票を府単位で行えば膨大な費用がかかること。自らは大阪市長でしかなく、松井知事に指令を出したところで住民投票を行うことは出来ない為に、「二重行政解消」というウソを承知で大阪市民を騙すことが出来ると判断した。ここに、「人気」に溺れた誤算が入り込んだのでした。

2. 不可思議な堺市における敗北

堺市は大阪市とは違い、それほど法人税が集中しているわけではありません。ですから、堺市で当初、橋下徹氏が推した候補が躍進したのは不思議ではない。大阪都実現によって利益を享受する面の方が大きいのです。これは、他の府下の市町村と同様です。  
なのに、府下も堺市も都構想反対に変わった。
これは橋下徹氏の傲慢な態度以外に原因は見当たらない。反対に回った堺市長自体が、橋下徹氏が推して当選させた人物です。

3. 西部大阪の高齢者の票が、都構想反対を決定づけた。

自らの言葉に責任を取らないのを政治家だとうそぶいて憚らない橋下徹には、小泉純一郎氏の爪の垢を煎じて飲ませるしか方法はない。ファシストと新自由主義の政治家との品性には、これほどの差が出てくる。
 こうした品性のなさが、堺市をはじめ本来都構想によって利益を得るはずの、反対にまわった府下の15市を生み出したのであるが、「政治から引退する。」とはっきり宣言した舌の根の乾かぬうちに、維新の党の分裂策動に走った。
 石原太陽の党との合従の後の分裂につぎ、みんなの党との合従の後の分裂である。
 ゴタゴタ続きに、下層大衆ではない維新支持層は、維新離れを起こし始めている。

 ともあれ、都構想住民投票は僅差で反対派が多数になったに過ぎなかった。
 そして、二日後には、反対派の勝利を決定したのは西大阪地区の区での反対派の票であり、年代別分析では高齢者の票が反対派の勝利を決定づけたことが明らかになった。
 高齢者は自己の特権的福利厚生が削られることを認識して反対票を投じたのではなかった。橋下市政によって既に無料パスは廃止させられ、権益は奪われていたことへのNOであり、橋下徹個人の「やかましい」政治への直感的嫌悪から反対に回ったのです。
 言い換えるなら、ファシズムを体験した高齢者が、肌で橋下徹のファシズムを感じ反対したということです。
 だが、同じこの分析を、橋下徹は「老害」と認識したのでしょう。俄然、活気づき、
「ぼくちゃん、もう知らない!」という態度を一変させ、若年層に訴えかければ、大阪では再度「維新天国」が実現できる、と、希望に燃えてしまったようです。
確かに、小泉政権以降、若年層の就労条件は悪化の一途を辿っており、派遣労働者などの非正規雇用者の大半が若年層であり、次いで高齢者の一部であります。そして、大阪はもともと零細企業が多く、今日労働者の半数以上を占めるこれら非正規雇用の労働者(労働者下層)の占める比率は、大阪は全国1位です。
 この下層大衆が、過去の歴史が示す通りファシストの温床になっているのですから、全国的に突出して多い大阪の貧しい若者の支持によって、大阪では、安倍派のファシスト政治が単独で成立しえているのです。橋下徹はこの事実に改めて気付かされ、「勇気」とやる気を得てしまったのです。

4. 都構想の再燃はない。

大阪に本社をおく企業にとって、法人税が大阪市に取られようが、大阪府に取られようが、どうでもいいことです。関心事は法人税の税率の低下措置であり、そういった意味では大阪都構想に対しては政治的にはニュートラル(中立というよりは、どちらにも振れうるという意味)です。
西大阪地区は、世界的に通用する中・小企業が集積している東大阪市とは違って、旧来型の業種を営む零細企業と小企業の町です。ここに「就労」している人々は、低所得層ではありますが、労働者ではなく、家内工業を営む小ブルジョアジーです。政治的には反大ブルジョアジーでファシズムに絡め取られる可能性を秘めてはいますが、反資本主義ではありません。したがって、都構想によって、大阪市の特権的地位がなくなり財政的にも没落することには激しく敵対します。「ビジネス・チャンス」が減るからです。
また、西大阪で就労している労働者はすでに小ブルジョアジーの利害を代弁している日本共産党に組織されていることは有名です。曰く、「日共の牙城=西大阪」。この西大阪の湾岸区での都構想反対票が、最後に都構想否決を決定づけたのは象徴的です。

大阪市の小ブルジョアジーは、税収が府全体に薄められる都構想には激しく敵対するのです。大阪自民党は、情けないことに試行錯誤の結果として、初めてこのことに気付いたのでした。反ファシズム=反安倍派としての保守本流が資本家階級に立脚していることに経験的にやっと辿り着いたのです。
大阪府内において大阪市が得てきた特権を手放してはならないことにやっと辿り着いたのでした。
だから、自民党大阪市議団は反安倍派自民党主流として、大阪市の既得権益を守ることを断乎として主張することが出来始めたのでした。これがブルジョア政党としての正しい姿であることにやっと気付いたのでした。
自民党本流と安倍派との矛盾が典型的に表れたのが「大阪都構想」だったのです。
この矛盾は、大阪では国政レベルの政党の分裂をもたらす対立へと発展しました。これは国政レベルでの安倍派と自民党本流との対立へと発展する先駆形態です。

かく見てきたように、安倍派と自民党の対立・抗争を開始せざるを得なかった橋下徹の行動が示しているように、橋下徹は大阪市自民党を潰す以外に都構想を実現させることは出来ないのです。
それが、安倍政権との接近で可能になると勘違いした橋下のまたもやの勘違いで、大阪の政治的空騒ぎがまたもや開始されることになってしまいました。
橋下が大阪市自民党に勝利することはあり得ない以上、都構想が実現することもない。


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