共産主義者同盟(火花)

人質は見殺しにすることに方針転換した日本―論議などなしに大転換させた安倍独裁政権―

渋谷 一三
396号(2015年2月)所収


1.空白の2日間に、最大級の退去勧告=退避勧告を報道陣に出した日本政府

後藤さんへの最終期限=1月30日日没を過ぎても、後藤さんの「処刑」はなかった。
 ここから日本時間2月1日の午前5時までの時間を「空白の2日間」と仮に呼ぶ。
この、2日間に何があったのか。結果から推測することが可能である。
この2日間に、ヨルダン政府は「イスラム国」の求めていたリシャウィ死刑囚を解放
する用意があることを表明し、「イスラム国」側はトルコ国境付近にリシャウィ死刑囚を移動させておくように求めた。この間に、後藤さんのメッセージは音声だけのメッセージに変わった。そして、殺害されたビデオでは、従来の砂漠から、涸れ川の谷間に移送されており、「イスラム国」側も後藤さんを解放するためにトルコ国境付近に移送していたことが分かる。
 それが、急遽殺害されることになったのは、2日間も待ってあげたにもかかわらず、ヨルダン政府側は空軍兵士カサースベ中尉の生存が確認されないとして、リシャウィ死刑囚の移送すらしていず、報道陣までもがトルコ国境内に撤収し始めた人的動きが始まったことにある。
 米軍は、常套手段として、時間稼ぎをしながら衛星画像を解析して個人を標的にした爆撃をしたり、ヘリによる「奪還」軍事作戦(operation)をしたりする。欧米・ヨルダン・日本の報道陣を撤収させた動きは、軍事作戦が行われることを強く示唆する。「イスラム国」側が、自らが殺害されることを警戒し、これ以上の「時間稼ぎ」を許す余裕が無くなったのは当然である。
 こうした情勢の下、安倍氏は国会の予算委員会で、『自衛隊が救出作戦を取れるようにしたい。』とはっきりと答弁し、且つ、『テロには屈しない。』と、「イスラム国」側のいかなる要求にも応じないことを重ねてしつこいまでに表明している。突撃の命令を下しているとしか受け取れないのである。
 かく、軍事を知らない安倍氏の軍事いじりが、米国と同じ態度を「テロリスト」に対してとりますよと、こんな緊迫した時にあからさまに宣言するという愚を犯すことになった。
 米国は、奪還作戦以外したことがない。「テロリスト」とは一切交渉に応じてはならないのである。応じれば拉致を誘発するという論理しか持っていない。だから、奪還作戦で何人が死のうが、奪還作戦しかしないのである。過去に「奪還」に成功したのはエンテベ作戦だけであり、面子のために奪還作戦をするたびに双方に多数の死者が出るのである。
 こうした思考法の誤りについては後述するが、英・仏もこうした思考法の結果、自国内に「テロ」活動を孕むことになっている。こうした、旧植民地宗主国の植民地支配を反省する力を持たない単純な思考と尊大な態度がイスラム世界への抑圧と戦争を生み出し続けている根源なのだが、同じく日本の台湾・朝鮮に対する植民地支配と中国への侵略とを反省する力のない歴史不勉強の安倍氏が共感を抱くのは不思議ではない。
 日本は一気に、現代の戦争の震源国たる米国・英国・仏国につぐ4番目の「有志連合国」、十字軍諸国になってしまった。安倍氏の暴走のせいである。
 米国の圧力で「有志連合」国に入っている国は多々あるが、国会の審議も承認も得ずに基本的軍事方針を大転換して有志連合に加入した確信犯の国家として、日本はベルギーを抜いて4番目の国になってしまったのである。
 2月2日、国会での野党の質問に対し、菅官房長官は、日本は『既に有志連合に加入している。』と、驚きの事後報告をしている。居直りの極みである。

2.湯川とは友人ではなかった。マスコミの「友人である湯川さん救出に向かった」報道が、殺害を招く一因になった。

後藤さんはユーチューブで、英語で語っている。無謀にもシリアに単身向かってしまった判断力も何もない湯川を連れ戻そうとするヒューマニズム一般がシリアに入った動機である。
彼は語る。「私は日本人ジャーナリストだ。アメリカ人ジャーナリストではないから大丈夫だ。」
実はこの判断が間違っていた。安倍政権になって、日本はとんでもない好戦同盟の「集団安全保障」をする道へと舵を切ってしまっており、これが後藤さんの解放交渉をしなかったことにつながり、最終的に殺害される直接の要因になったのだが、日本国外の活動の方が長い後藤さんは、安倍政権の列強入り的大転換を分析出来ずにいた。
日本人ジャーナリストは米国人ジャーナリストと同じになっていたのである。
後藤さんはこのことに気づいていなかった。
米国ジャーナリズムはすでに死滅している。第1次湾岸戦争では油まみれの海鳥を自分たちで作り、フセイン政権のせいにするでっち上げを平気で行った。子ブッシュの第2次湾岸戦争ではフォックス・テレビに代表される完全なる情報操作・世論誘導・煽動が白日の下に曝け出された。レイプされたとする女性のねつ造、イラクが核兵器を保持しているとの情報の垂れ流し、独裁者フセインと植え付ける世論誘導、米国が育成したビンラディン氏の武装組織への戦争をあおる煽動等、およそジャーナリズムの精神のひとかけらもない所まで堕していた。米国の報道機関はすでにイスラム諸国への敵がい心を煽るための映像を撮る機関に堕していた。
日本の報道機関も急速に政府に統制されるようになり、今回の後藤さん殺害事件に関して安倍氏に批判的な報道は全くない。見事なまでに「卑劣なテロと戦う国になるんだ」と息巻いているのである。
かくして、マスコミは何の判断もなく一様に「友人である湯川さんの救出に向かった。」などと、勝手な枕詞を必ずつけて報道した。また、後藤さんが少年期にキリスト教の洗礼を受けているなどのことをあけっぴろげに報道し、「反革命軍人湯川と友人であるキリスト教徒」とのイメージを作り上げ、垂れ流していたのである。
このことにマスコミは何の反省もない。
反省する力すら失っているのである。

「紛争地域」への取材はとうに止めてしまった日本のマスコミの中にあって、かろうじてごくわずかの良心のフリー・ジャーナリストによってもたらされた真実の情報は、今後一切なくなるだろう。
安倍氏は、もとより、真実を報道されることを嫌っているので、「紛争地域」への渡航を法律で禁止してしまおうと躍起になっている。

日本の報道の死滅が完成されようとしている。
安倍氏の望むところだ。

3.「NOと言えない日本」にしてしまった安倍氏

 「集団的自衛権」と自衛を拡大解釈することによって、念願の戦争のできる国家づくりをしてしまおうとしている安倍氏は、米国の始めた戦争に追随するしかなくなっている。
 日本は中東では好感を持たれていた。理由は簡単だ。英国のように中東を植民地にしていたわけでもない。米国のように、米国傀儡政権を作るためにゲリラ組織を作り、「アラブの春」と称する一連の政権転覆軍事行動をしたわけでもない。日本赤軍がイスラエルと戦ったこともあって、ゲリラ側にも好意をもって受け入れられていた。
 だから、米国とは違う位置に立つことが可能だったが、「集団安保」にすることによって、米国が悪とする国家を悪とし、米国がテロリストと呼ぶ組織や集団をテロリストと呼ぶことになった。
 こうした『価値観の共有』によって、米国と同じように、「米国の敵」から敵とみなされる行動をとることを余儀なくされる。
 西側の報道機関であるAP通信によってすら、シリアのコバニ地域だけで、「イスラム国」戦闘員と市民の死者が、「有志連合」の空爆によって1600人に上っていると報じている。
 「イスラム国」全体ではどれほどの数に上るのだろうか。
 オバマはパキスタンに米軍を進入させることに成功した上で、ビンラディン氏を殺害した。リビアという独立国家に、経済制裁解除と引き換えに核を廃絶させ、廃絶を確実にさせる為に米国の核の廃絶を高らかに謳い上げた末に、派兵して国家元首のカダフィ氏を殺害した。
 こうした行為は、十分にテロリズムなのだが、自分のテロはテロではなく、米国に抵抗するゲリラの武力行使はテロなのである。
 要するに戦争当事国の双方にとって相手の武力行使は悪なのであり、テロなのである。

 ここで、「集団的自衛」を進めるということは、思想上も価値観も米国の側に立つことが必然となる。「イスラム国」を支持するという立場の言論の自由は封殺される。フランスのふざけすぎた戯画にあれほど「言論の自由」を叫んだ同じ舌の根で。
 「イスラム国」はゲリラ根拠地ではなく、アイスルというテロリスト集団であると規定することが強要される。「イスラム国」と表現することすら、今日、いちいちクレームにさらされている。
 早晩、マスコミから「イスラム国」という表現が消えるであろう。

こうして、物の見方まで強要されることはもとより、「人質事件」への対応は米国と全く同様になる以外にはない。身代金を払わないことはもとより、トルコのように自国から米軍を飛び立たせないことと引き換えに37人の自国民を解放させるというような行動も利敵行為となる。
 したがって、安倍政権は「イスラム国」への出入り口となっているトルコではなく、有志連合に参加させられているヨルダンに拠点を置き、闇交渉すらできない状態で、後藤さんを死においやった。これもまた安倍式「集団的自衛権」の必然であったと言える。
 この路線からする人質事件に対する対応は限られている。
 一つ目は、政府の指定する渡航禁止区域への渡航を強制的に禁止すること。
 二つ目は、武装ヘリを中心とする軍事力による奪還作戦で、さらに死者を増やすこと。
 三つ目は、出入国管理を厳しくすること。
 取り得る行動の選択肢はないのである。米国と全く同じ思考回路しかなくなるのである。それもこれも米国の政治軍事行動がもたらした結果から余儀なくされることでしかない。
 安倍氏は、国会で上記の3つの対応をしたいと答弁している。
 自衛隊が奪還軍事作戦を行えるようにしたいというのだ。
 満州事変を取り上げるまでもなく、戦争の殆ど口実は「自国民保護・救出」なのである。自衛と交戦権の行使との区分は全く無くなってしまっている。
 
 かくして日本は、米国にNOと言えない国になってしまった。米国にNOと言えず、自国民を見殺しにしたのである。
 日本の左翼党派は全て、対米従属を是としない。右翼民族主義者にとっても、「NOと言えない日本」は恥ずべきことである。
 NOと言えずに自国民を見殺しにした安倍氏は、「米国から押し付けられた憲法だ。」だの「美しい国日本(の国体を復活させよう)」などと口走っていたが、これらの言説は上っ面の口先だけのものであり、安倍氏が、民族主義者の水準もないという馬脚が露呈されたのである。
 軍事も思想も、学習不足の底の浅い安倍氏を首相にしておいてはならないだろう。

4.後藤さんを見殺しにした安倍政権

 後藤さんにはシリアに入らぬように政府から3度警告を発したそうである(2月3日発表)。なるほど、だから後藤さんは『いっさいの責任は私に有ります。』とビデオで言い残させられたのだったのか。
 そして、警告を無視してシリアに入った後藤さんを見殺しにするに感情的抵抗もなかったのであろう。
 安倍氏が後藤さんを見殺しにした傍証が、もう1つある。
 空白の2日間に何も接触がなかったからこそ、「イスラム国」側から家族に、日本政府に圧力をかけるようにメールがあり、妻君が声明を発表したり、母親がこの2日間にも外国人記者クラブで記者会見をしたりしているのである。
 政府がタッチしている場合、「勝手に会見をするな。交渉の妨げになる。」と言われるのが通例である。
 政府は、昨年11月以降、一貫して後藤さんを見殺しにしてきたと推定しうるのである。

 2月3日、国会での小池議員の質問に答えた菅官房長官によって、1月20日になるまで政府は特段の体制をとってはいなかったことが明らかにされた。ヨルダンに対策本部なるものを設置したものの、日本からの人員の派遣もなく、秘密の窓口を作った程度のものだったのである。
 安倍政権が後藤さんを見殺しにしたことは、国会での質疑でも明白に裏付けられた。

5.厚顔無恥の安倍氏

安倍氏はエジプトでの演説で、「アイスルと戦う諸国のみなさんに援助を出す」旨の演説をして息巻いてみせた。この直後に「イスラム国」側からの第1回の動画メッセージが出されている。
 明らかに安倍演説への激しい怒りが契機となって後藤さんの利用が始まっているのだが、この演説を反省するどころか、この演説は慎重さに欠けたのではないかとの同議員の質問に、議員をばかにする形で、そのような『アイスルに気配りするような』ことをする必要がないと、あえて問題発言をすることによって相手の論旨を歪めてしまう姑息な常套手段を使った。
 小池議員が指摘する通り、国内向けには、そのような挑発的演説をしたことは隠して「人道的援助だ。」と言葉を変えて居直っているのであるから始末に負えない。
 この程度の人物が首相であってよいのか。




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