共産主義者同盟(火花)

戦争に加担する党=公明党

渋谷 一三
390号(2014年7月)所収


<はじめに>

 中国は大国主義・覇権主義の国家になり、共産党を名乗る旧共産党幹部子弟が形成した特別の官僚階級が支配する国家となった。
 この結果の第1の兆候が、走資派として批判され、毛沢東が文革を発動して打倒を試みたケ小平の権力中枢への復活であり、その第2の兆候がベトナム・中国戦争であり、第3の兆候が天安門事件だった。
 2014年6月、ベトナム沖の海底油田を強行掘削した挙句にベトナム漁船に体当たりをして同船を破壊する事件が起きた。中国の覇権主義が如実に表れた事件であり、軍事力を背景に小国を蹂躙する大国主義の本質が曝け出された事件だった。
 この事件の衝撃は大きかった。
 尖閣諸島を巡る中国の挑発は、日中国交回復の際に確認された「尖閣領有権問題棚上げ」を一方的に破棄した野田民主党政権の愚昧さに責任の大半があるために、断固非難されるべき性質の露呈と捉えることに説得力が薄いきらいがあった。だが、この度のベトナムへの侵略行為は、中国という国が中華思想の大国主義覇権国家であることを完膚なきまでに暴露した。
 こうした覇権主義への正当な反発を、『尖閣は日本固有の領土である』と強弁する自民党の歴史事実を歪曲するファシズム派=安倍派(自民党本流からは歴史修正主義者と呼ばれている)は、自派を肯定させるものとして取り込もうとしている。そして、安倍派に牛耳られているマスコミと安倍派直結のマスコミのタイアップした煽動によって、この企図はある程度成功している。マスコミの影響力は多大であり、労働者階級の合法政党すら持たない現状では、労働者・大衆は一方的宣伝・煽動の下に晒されている。
 安倍派は中国の大国主義への反発を煽りたて、もはや日本の自衛隊よりはるかに強大でおそらく世界一強い軍隊を持っている中国に単独で軍事的に対抗することは無理だという正しい現実認識を接木することによって、日米集団安保を国策とするという大転換を閣議決定することに成功した。
 閣議決定なぞ、国会の立法権や憲法の範囲内でしか立法できないという立憲主義そのものを否定しないかぎり、何の効力もないのだが、朝日などの牛耳られているマスコミは立憲主義の否定だと批判してみせることによって閣議決定を有効なものとして既成事実化することに貢献し、産経や読売などの安倍派マスコミは直接に北朝鮮や中国の脅威を煽動することによって、集団安保の既成事実化を承認するよう煽動している。
 これらの重層的煽動は、重層的であるがゆえに効を奏している。
 この傾向に拍車をかけているのが、軍事全般を否定する「平和主義者」の非現実的現実認識に基づく言説である。いわく「中国と外交交渉でやっていくのが外交というものだ。すぐに軍事問題にしてしまうのは外交手腕がない証拠だ。」
 この言説はこの種の言説のなかでは一番ましな言説ではある。だが、外交交渉は軍事を背景に成立するのだという真実を隠蔽しているか、理解していない。
 他の言説はもっと稚拙である。いわく『中国とうまくやっていく経済的利益の方が、尖閣の領有権を実力で認めさせることによって得られる利益よりも大きい。』
 この言説は中国の覇権主義・大国主義・軍事的膨張に脅威を感じている大衆の正しい感性に何ら答えていない。論理のすり替えをしているのはエセ平和主義者の方なのである。
 かくして、安倍派を批判する部分が批判に失敗していることもファシズムの進展に手を貸している。

 公明党が果たした役割は、これとは全くことなり、単独に犯罪的である。
 北側のような輩は堕落した組織には必ず発生するものであり、北側個人を裏切り者呼ばわりして非難して事足れりとする創価学会会員の態度も十分ではない。現実認識をすべきである。

1. 先の総選挙で公明党の協力がなければ、自民党は第1党にはなれなかった

 再三指摘されているように、先の総選挙での自民党の得票率の増加は1%程度にすぎず、自民党の地滑り的大幅議席増は、第1に民主党の反労働者性が露呈したことによる凋落が原因であり、第2に公明票が自民候補にきちんと割り振られたことによる「死に票」の激減による。週刊誌の試算によれば、自公選挙協力が効を奏した議席数は150議席にのぼる。逆に言えば、公明党の選挙協力がなければ自民の議席は150減り、野党の議席が150増えることになるのだから、自公は野党になっていたのである。
 この力関係を背景に、公明党は自民の政策に注文をつけ、「連立しなければ実現しなかった政策」を実現したと自画自賛する。この構図が今回も見えている。
 自民党にしたら話は極めて簡単である。商売人の駆け引きをすればいいだけのことである。実現したい政策を決めたら、それより右に上乗せすればいいだけのこと。公明党が値切ってくるから、これに応じてやれば、公明党は面子が立ったとして、「反動化を阻止できた!」と下部を言いくるめる。
 北側のような輩は労働組合の幹部に普通にある人物で、より悪い事態を闘争によって回避できたと必ず自賛するのである。
 今回の集団安保の解釈改憲に対して、公明党は安倍派と全く同等の責任を負っている。

2. Show Your Flag

サダム・フセインを殺し、一族が石油利権を手に入れるためにイラクに侵攻した子ブッシュは、この侵攻作戦が国際的に孤立し、かろうじて英国のお義理派兵を得ただけの現状を何とか打破し、国際的大義名分をこじつけようとし、日本に圧力をかけ、安保ただ乗りキャンペーンを張る一方で、Show your Flag と、暗に派兵を求め、派兵出来ないならば旗色を鮮明にしろと要求してきた。それができなければ、原油を回してやらぬという恫喝も公然として。
 集団安保が米国の戦争に加担させられることになるのは明らかである。尖閣を守ってもらうのだから集団安保にするという発想は、論理的必然として米国の軍事力を当てにする見返りを出さない限り、米国は守ってはくれないというそれ自体は正しい現実認識の裏である。
 英国同様、お義理派兵をするのが当然である。
 だからブルジョアジー本流は、憲法改正をし、徴兵制を敷くという王道を正々堂々と歩むべきであると、解釈改憲などという新語で姑息に実質改憲ができると踏んでいる安倍派の現実認識の甘さを批判する。たかが一内閣が閣議決定で憲法解釈を変更することがまかり通るならば、次の総選挙で反対派が政権をとりさえすれば、同様に解釈改憲自体を閣議決定で無効にできることを意味している。その程度の安易さで軍事を弄ぶことは出来ないことを、自衛隊幹部をはじめまともな軍事関係者は知っている。
 保守本流と手を組み、公明党を解体するか反自民にするだけで 、集団安保閣議決定という一連のファシズムの過程を反故にすることが出来るのである。
 ということは、自民党と手を組んでいる公明党が如何に犯罪的かを示す証左である。
 「平和の党」を標榜し、平和を希求する善良な大衆を騙して不正義の戦争に加担させる原動力にしてしまったのだから、公明党は犯罪的である。公明党に投票した平和を希求する人々の票がなければ、戦争への道は開かれなかったのである。
 公明党に投票した平和を希求する人々は、次回選挙では絶対に公明党に投票してはならない。
 もし再び期待や幻想に支配されて投票するのならば、あなたは確信犯であり、善良な人々を騙してファシズムに協力する「協力者」である。

3. 反対派の論理の貧困

 安倍内閣の閣議決定に反対し、集団安保の双務協定化に反対する既存政党の論理は、
 「戦争に巻き込まれる」というものであり、貧弱である。
 米国の戦争に巻き込まれるという主張そのものは間違ってはいない。今回の閣議決定による法改正が進めば、自衛隊が武力を行使できるようになるのは確実で、武力を行使できるようになるということは、武力を行使する任務を遂行することを求められるということである。だから、「米国の戦争に巻き込まれる」という主張そのものは間違ってはいない。
 だが、それのみでは、中国の大国主義・覇権主義・拡張主義の脅威の現実に対して説得力を持たない。中国の人民大衆の戦いを支援する政治的位置を持たなければ、現在中国の軍事的脅威を消滅させる「平和主義」の将来展望を示せない。また、腐敗した中国指導部と戦う人民を支援することは、中国からの戦争を仕掛けられることを十分に想定しておくことを要求される。
 すなわち、軍事の問題を避けては安倍派を批判することに失敗し、安倍派の跋扈を許すしかない。日本共産党や社民党などの既成政党は、この「軍事の問題を避けて」狼が来るとだけ叫ぶために事態の進行を止められないばかりか、党勢の拡大すらできない。
 創価学会の声明が、子会社のはずの公明党に無視された根拠もまたここにある。
 
 米国の試算によれば、2030年には中国のGDPが米国に並ぶという。この試算が妥当かどうかとは別に、すでに中国は日本を抜いて世界第2位のGDPを記録している。米国にとっては、日本以上の貿易相手国になっており、経済的利益を考えるならば、どうやって中国と「仲良くやるか」が大事になっている。
 この利害を無視して、日本が尖閣列島の領有権を主張し、そのために戦闘状態になった時に日米安保条約を根拠に米軍の参戦を求められても、参戦する保障はない。米国からすれば、何で武力衝突になるようなへたを打ったのだと、日本の軽挙妄動・稚拙な軍事にあきれ、日本の尻拭い拒否論が圧倒的な力を持つはずである。
 日本同様、米国もまた中国に深い経済的権益を持っていると同時に、付き合いにくい嫌な相手なのである。なのに、米国は軍事的衝突を回避するために日夜軍事的緊張を組織し抜いているのに対し、戦争状態に入ってしまう稚拙な軍事・外交しかできない国のために血を流すことなどあるはずがない。米国内世論も反対する。

 米国が必ず日本を守るなどと考えるのは、政治も軍事も全く分かっていない輩の論である。現実の日米の利害が大きく一致するから日米安保条約が実効性をもつのであり、現実の利害が衝突し始めれば、条約は実効しないのである。それは、対中国の政治・軍事が現実の利害に基づいていることと全く同じことなのである。
 だから、中国とも「うまくやっていく」ことが可能であり、そうすることが軍事であり政治であり外交なのである。

 こうした政治のリアリズム・常識を踏まえた位置からの安倍派反対の論が立てられないのが既成政党の反対派の弱点である。
 中国とも「うまくやっていく」のが政治であり、外交であり、軍事である。中国と軍事衝突した時に、日米安保の集団的自衛権を強化していても米国が日本を守ってくれることはない。だから、日本を米国が守ってくれることを期待して集団的自衛権強化をはかるのは間違いである。
 集団的自衛権強化は、米国への追従の強化にすぎず、米国の戦争へ加担する可能性が増すだけのことである。
 必要なのは米国とともに対中包囲政策を一致させて進めることであり、共同の軍事的圧力を感じさせることである。
 中国がいかに軍事費を増やしてきても、日米合算の軍事費にかなうべくもなく、中国はその軍事的野望を抑える以外にはない。また、世界最強の陸軍=人民解放軍もその権威と道徳的高みはすでに失墜しており、人民解放軍兵士を真に人民を解放するための軍人として組織する思想的位置・政治的高みを提示できれば、脅威の侵略軍ではなくなるのである。
 中国との戦争を戦ったベトナム軍が、南海で自国漁船を破壊されても戦闘に走らないのは上記のような様々な政治的計算を尽くした上での軍事を知っているからである。
 「中国にやられっぱなしでいいのか」と煽情する不勉強な民族主義者などもまた、軍事の何たるかを知らないのである。




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