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イラク情勢2014 ―ISISを巡って―

渋谷 一三
389号(2014年6月)所収


<はじめに>

 イラク情勢が「緊迫」してきたと、マスコミが突然キャンペーンを張りだした。
 Iraq-Syria-Islam-State (イラク・シリア ― イスラム国)がシーア派マリク政権が支配するバグダッド北方50kmの都市バクバを制圧したからだ。
 報道しだしたのが6月14日前後から。バグダッドまで200kmに迫ったと報道。翌日には100km、3日後には50kmとなる。破竹の勢いのように見えるが、情報統制がなされていたことを示している。
 安倍政権による国家秘密法制定が実効していることを如実に示している。
 高い産出量をほこる油田を背景に豊かな暮らしをしていた中東の国が、旧宗主国イギリスの決めた勝手な国境線の変更を試みてクエート奪還を試みたために、核兵器を製造したと濡れ衣を着せられて米軍に席巻され、今や荒廃した「国」になってしまった。父ブッシュ以来20年にわたって米軍の軍事攻撃に晒されたわけで、統治能力のないマリク政権を据えたものの国家の体をなさないまでに荒廃したのも当然の結果と言える。
 米国のイスラエル支持政策とブッシュ一族の原油簒奪政策が生み出したものは、中東全体の戦争の常態化とISISのような米国の墓掘り人の育成だった。

1. アルカイダと同じ出生を持つISIS

 米国は、サウジアラビアで王族の一人、オサマ・ビン・ラディン氏を米国の手先として育成したものの、彼の指揮した武装組織がその後反米の武装組織アルカイダに発展したことは周知の通りである。
 全く報道されてこなかったことだが、ISISはシリアのアサド政権を打倒するために米国が育成したシリア自由軍の一派だった。このことを知っていたのは民主党ではない政府関係者の一部(実力者と呼ばれる一群)とエリート官僚と呼ばれる一部の官僚だけだった。
 報道されなかった原因の第一は、日本では報道機関が壊滅状態になり、自力で取材する能力を全く失ったことである。かろうじて独自に取材する努力をしているのはほんの一握りのフリーと称されるジャーナリストと日本共産党系の「フリージャーナリスト」だけである。マスコミにはジャーナリストがいなくなっただけではなく、ジャーナリズムすらなくなっている。
 感じ方まで暗に操作するワイプ画面とひな壇に一発当てたゲイニンを並べて空騒ぎをしている番組を提供して、「闘牛と風呂」を提供し崩壊していったローマ帝国よろしく「スポーツと空騒ぎ」を提供し衆愚政治を担っているのが日本のマスコミである。中国の「報道機関」といい勝負をしている。
 ISISの情報を今まで極秘にしてきたのは、「アラブの春」全体が米国の仕掛けたイスラム圏破壊戦略であることを隠すために絶対に必要だったからである。
 チュニジアに始まりリビアでもNATO軍の投入により、かろうじて成功したアラブ・イスラム圏破壊再編戦略はエジプトの民主化運動によって敗北し、シリア転覆攻撃が簡単に行かないことによって挫折した。
 その後、エジプトでは腐敗した軍部を再び登場させることで民主化運動の鎮圧に成功した。残るシリアに軍事的攻勢を強めるためにヤサグレたごろつき集団に資金と武器を与え「自由シリア軍」を名乗らせるとともに、シーア派の専制政治に不満を鬱積させたスンニ派を焚きつけ武装させシリアに送りこんだために、もともと英国の決めた勝手な国境など認めていないアラブ人がシリアとイラクにまたがるスンニ派国家の樹立を目指すようになったのがISISである。
 こうした出自が漏れ出ることになったのは、ISIS掃討作戦を実行するための世論誘導が必要になったからである。一旦政府情報を意図的流出(リーク)させると、自己の存在感をアピールするという動機から、旧政府関係者などが国際的には周知の「極秘情報」を小出しにする。
 かくして、3年前からアサド政権転覆のために米国がISISを育成してきたことが白日の下に晒されることになった。
 米国の「反テロ」の軍事行動は、かく、アラブ世界の広汎な荒廃と戦争を生み出し、米国にとっての収拾のしようがなくなっている。

2. ロシアとの関係があるシリアは転覆されずに持ちこたえている。

 リビアはロシアとの関係が特別にはない上、核を放棄してしまったために米国により転覆され、カダフィ氏は暗殺されてしまった。
 エジプトも同様で、米国に協力することによってイスラエルとの戦争の負担から逃れる道を選択した軍部は元々米国の強い支持を得ていたので、「アラブの春」策動の対象ではなかったのである。
 だが、「アラブの春」という米国の欺瞞宣伝煽動を信じてしまった一青年の「純真さ」が、本当に民主化運動を始めさせてしまったことが、米国の予想しなかった誤算だった。このため米国はムバラクを政権の座から下ろすはめになった。これで手打ちにしたかったが、事態はイスラム同胞団の大統領当選という結果まで生み、再び軍部にクーデターを起こさせざるを得なくなったのである。
 シリアはロシアとの関係が深く、ロシアの支援を得られることから、暗殺されることを受け入れず内戦をすることをアサド氏が選ぶことが出来た。
 この軍事バランスはクリミア半島のロシア領有という結果にはっきりと表れている。黒海への出口を失うような反ロ政権を樹立された以上、この政権を承認することの見返りにクリミア半島を実質的ロシア領にすることは絶対に譲れない条件である。
 イラクだけでも4400人の米軍兵士の死亡と2兆ドルの戦費を費やした米国にロシアとの直接戦を行う用意はない。(もちろん中国と直接戦を行う用意もない。安倍首相の集団安保によって対中国戦を米国にも戦ってもらおうという妄想は論外。)米国がクリミア半島の親ロ共和国の「独立」を実質的に承認するのは軍事的必然であった。

3. クルド人の実質的独立からクルド共和国樹立へ

 オスマントルコの版図の中に人為的に作られた「国家」が生み出す軋みをただす自然発生的動きの1つにクルド独立運動がある。オスマントルコ内では密集して住んでいたクルド人が、イギリスの引いた国境線によりトルコ領内とイラク領内に分割されたのは決して偶然ではない。その後の新植民地的支配を確立するために英国が意図的に取った分割策である。
 この結果、どちらの国でも少数民族にされ不利益を被らされてきたクルド人は、親子ブッシュによるイラク破壊工作という好機に恵まれて、現在、イラク国内では実質的独立状態を確立した。
 この現実を受け入れる現実主義者ならばシリアとイラクにまたがる国家を建設することが合理的であることを認識する。ISISが急速に人民の支持を獲得している背景にはこうした事情がある。もちろんイラク・シリア国家樹立構想はクルド人の支持を得る。
 クルド人の支持を得たことも「快進撃」の別の根拠である。
 ISISがシリア・イラク国家を樹立することになれば、アラブ世界の国境の大規模再編に進む可能性も出てくる。そうなればトルコもイスラエルも「安泰」ではない。中東がユーゴスラビア以上の戦争状態になる可能性は高まった。
 これもまた、親子ブッシュの好戦的政治の結果である。


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