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アベノミクスの終わり(2)

渋谷 一三
387号(2014年3月)所収


<はじめに>

 『残念ながら、輸出が増えていない。』
 3月19日、参議院予算委員会での安倍首相の答弁である。
 円安による為替差益を得た企業に圧力をかけ、差益の一部を吐き出させた「官邸主導春闘」ももうおしまい。参加企業の少なさに、観賞時間をもてあまして早々と終わってしまったショーだった。参加したのは自動車産業と安倍腰巾着のローソンなど。前者は莫大な為替差益。後者は圧倒的に少数の正社員。フランチャイズを支配しているだけだから、賃上げの対象は一握り。おそまつなことに、フランチャイズ店主達から訴えられ敗訴する後日談までついている。
 輸出が増えるはずもない。本稿でも指摘した通り、安い労賃や輸出相手国の政治的圧力により「現地生産化」が進み、日本は日本企業の製品を輸入するまでになっている。「現地生産」時代は終わり、「世界的生産拠点化」が進行し、それも完成品ではなく部品ごとの世界的企業分業と、世界の生産形態が変化してしまっている。
 レーガノミクスをもじったアベノミクスなる恥ずかし造語は、「まねしい」の体裁通り古臭い概念に基づいており、2時代前に死滅したケインズ主義に基づく発想だった。          
 『残念ながら輸出が増えていない。』と今頃のたまっている30年遅れの感覚に唖然とする。
 アベノミクスと騒ぎ立てお先棒を担いだマスコミも、ここにきてトーンダウンして、経済が失速した時にアベノミクスを批判してきたと言えるように、アリバイ作りに走り始めた。

1. 4割を越えた非正規社員=「中間層」の消滅

 小企業の低賃金労働者は4割程度。失業者、就労と失業を繰り返す半失業者、失業者にも統計されない職無し階層を合わせると優に1割は越える。
 4割を越えた非正規社員のうち、正規社員の妻などのパート労働者は1割もいない。この正規社員の妻のパート労働者階層は正規雇用に分類されてはいるものの「夫」の収入だけでは生計を維持出来にくい労働者下層に分類されるべき正規社員の「妻」たちで、夫婦でかろうじて「中間層」を形成しているにすぎない。
 「共稼ぎ」がやりやすい公務員は、今日では唯一の中間層であり、「共稼ぎ」をしていれば明らかに労働者上層部に分類されるべき階層である。
 上記のように、労働者の階層分化も複雑化しており、日本の階級階層分裂は激しさをましている。それを、上記のように簡素化する指向性で分類しなおしてみると、今日労働者下層は、全労働者人口の6割程度に達していると推測される。
 夫婦の収入の合算によってかろうじて「中間層」に入っている潜在的下層をふくめると、日本の労働者の9割は下層労働者になっていると推測できる。
 驚くべき速さで「中間層」が崩壊しているのである。
 ではなぜ「中間層」が崩壊しているのか。

2. 必要でなくなった銀行による信用創造

 銀行の登場によって金融資本が誕生し、これが産業に投資し利益を得るようにし出したのが産業資本主義を生み出したのだった。
 この時の大量の資本を生み出す仕組みが銀行である。単純化して説明する。100人から集めた預金が100万円あったとする。銀行から預金を下ろす人は統計的に見て年10人しかいないから銀行は10万円を引き出し用に準備しておけばよい。100万円の預金があれば1000万まで貸し出しすることが可能になる。言い方を変えれば、100万円しかないのに1000万円までお金があるかのように振る舞うことが出来る。これが銀行券(預金引き出し権)の発行であり、このことを銀行による信用創造という。
 社会全体でいえば、この例では、10倍のありもしない金を生み出すことが出来るのである。これが銀行による信用創造の本質であり、銀行という金融資本が産業資本をも支配し帝国主義を生み出すに至った根拠である。
 ところが小泉政権時代に完成した米による「金融自由化」によって、銀行による信用創造に頼らなくても、インターネットで瞬時に世界中の余った金を調達することができるようになった。だから銀行は必要ではなくなった。決済機能のみ残ればよいのである。この事情を表現したのが、証券会社と銀行の業務の垣根が無くなって、銀行でも証券を扱うようになった事態だった。
 このことは預金引き出しに充てる金を用意しておかなければならないという制約がなくなったことを意味する。上記の例でいえば10分の1は用意しておかねばならないという制約がなくなったということである。これが、金融バブルが発生できるようになった根拠である。
 信用創造をする必要がなくなったということは、労働者階級に貯蓄ができるような賃金を支払う必要がなくなったということをも意味する。新自由主義発生の経済的根拠がこれである。 
 派遣労働者の発生だの解雇の自由化だのという露骨な労働者窮乏化政策は、貯蓄が出来る中間層を必要としなくなったことの反映である。実際、貯蓄はしてもしようがない利率になって久しい。利子よりも手数料の方が多いのに預金するのは、決済の為であり、一般大衆もカードで買い物をし、決済するように組み込まれている。
 かくして「中間層」は世界的に消滅し、人口の5%が富の80%を得る米国型社会が世界標準になっている。格差社会は完成したのである。

3. 賃上げの必要のない現在の資本主義で、アベノミクスの第3の矢の賃上げは、ありえない。

 賃上げショーは終わった。
 1・2章で見たように、世界資本主義は中間層を必要としなくなった。購買層として中間層を確保する必要はあったものの、国内に中間層を維持するよりも、世界市場で少しずつ売るほうが、販売絶対量も多くなりコストもかからない。
 かくして、賃上げ政策などは全く必要ないのである。アベノミクスなるものの時代錯誤を示してあまりある。だが、「輸出が増えなかった」などと慨嘆する 首相の脳天気さを別にして、アベノミクス立案者が賃上げなど必要でなく出来もしないことを知らなかったとは思えない。安倍首相を操る世耕氏などがそれでも賃上げショーを演出するには別の理由がある。大企業にとって住みやすい法人税減税の日本を作り、日本企業を米国の言う国際規準に合致させて生き残るという奴隷根性の道を選択するために、旧中間層の政治的支持をつなぎとめ政権を維持するための幻想が必要だったのである。
 第3の矢などもとからなく、ありうる第3の矢は、「企業を元気にし、外国企業も侵出してこられる」法人減税日本でしかない。
 残るのはインフレと不景気とである。
 消費増税を契機にアベノミクスのペンキは剥がれ、小規模なハイパーインフレが始まる。
 総選挙はなく、自公に代わる能力を持った野党も準備できておらず、ファシズム政党の消沈にもかかわらずファシズムの政策が実現していく情況が続く。
 日本共産党はケインズ主義の下での体制補完弁としての労働者政党の思考のまま止まって現実対応能力を失っている。社民党は判断力が全くない元首相なる人物が未だに支配できてしまうほどの体たらく。組織の体をなしていない。


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