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アベノミクスのうそ

渋谷 一三
377号(2013年4月)所収


<はじめに>

 「アベノミクス」なる言葉が浸透してしまった。マスコミが自民党に支配されている証左ではある。株価の上昇が実現して、内閣支持率は政権発足時より20ポイント近く上昇するという異例の曲線を示している。
 「世論調査上の国民」の支持は労働者階級の取るべき態度とは異なる。世論調査という世論操作に影響されて、自民党を支持したり、みんなの党などの新自由主義政党を支持したり、維新の会などのファシズム政党を支持したりする労働者が多くを占め、公務員や大企業の正社員などの帝国主義に買収された労働者は民主党なる特異な非労働者政党に包摂されている。
 要するに、労働者の大半は労働者階級の政党に組織されていないのである。
 労働者階級の国会政党がない以上、当たり前の現実と言ってしまえばそれまでのことではある。
 本稿では、アベノミクスなる政策がいかに労働者階級を圧迫する政策であるかを暴露することによって、非労働者階級政党の影響から労働者を解放する一助に帰したい。

1. ドルからみれば日本株は高くなってはいない。

 株価は上昇した。これは半分、事実である。日本円で考える限り日経平均株価は上昇しており1万1千円台を「回復」した。だが、これをドル換算してみると、横ばいを基調とする変動の幅の中に収まっている。
11000円を94円÷78円の円安進行率で割ってみると、約9090円となる。野田政権の9月のドル円水準が78円であり、この時の日経平均が9000円前後で推移している。尖閣列島を巡る中国での反日暴動が起きる前の水準である。
 中国での暴動によって、日中貿易が急速に落ち込み、日本の貿易が大きく赤字に転落し円安が進行した。この進行前の日本の株価と、円安が進行した後の日本の株価とは、ドル換算する限り変化がないということなのである。
 変化したのは円安が進行したということだけであり、ドルで日本株を買う外国人投資家からみれば円高が進行する分が、株価の売却益に上乗せされることを意味するにすぎない。
100ドル(9500円)で買った日本株が10000円で売却されたとする。500円の利益が出たので500÷95=5.26 約5ドルの利益を手にした。この時円高が進行していれば、例えば500÷83=6.02 約6ドルの利益を手にすることができる。約1ドル余計に利益を得ることができるのである。
すなわち、今の円安が一時的であるとみれば、日本株は買いの一手であり、おいしい市場ということになる。事実、中国との貿易の急落によって円安が進行して以来、外国人投資家の日本株が買い越しになり、これは現在も続いている。そう遠くない将来に円高(戻し)が進行し、「株価上昇による利益」と「利益をドルに換算する時の為替差益」の両方を得ることができるとみて、外国人投資家の日本株買いが進行しているのである。
買いが増えれば株価は上昇する。要するにドル換算してさえ上昇する分の株高の原因は、外国人投資家の買い行動自身にあるのである。
日本株はドルから見る限り大して上昇していず、株高はみせかけにすぎない。その分を越える若干の株高は円の揺り戻しを予想する外国人投資家自身の買い行動によって生み出されたものである。
 この事実を理解できない人々がアベノミクスを礼賛し、景気が回復軌道に乗ったかのように乱舞し、自民党支持に回っている。
 円安の揺り戻しは近々起きるだろう。外国人投資家の売りが殺到すれば急速に株安が進み、残るのはアベノミクス前よりやや安い株価の水準とアベノミクス前にはもどらない円安の水準である。円安にはなったものの株価は下がっているという現実が生まれるのである。
 円安による原油高はガソリンや電気料金の値上げをもたらし、企業にとっては原材料高と流通コスト高を意味する。自動車などの輸出企業は為替差益を得ることができるが、圧倒的に多くの生産額を上げているその下請け企業には為替差益は入らず原料高だけが入ってくる。

2. 株価上昇は投資家の利益にはならない。

テレビニュースに登場する「一般投資家」なる人々や「ビジネスマン」なる人々
 は、必ず異口同音に株価の上昇を歓迎するコメントを発する。株価が上昇したら景気が良くなると思いこんでいる節がある。
事実は逆である。
景気がよくなり企業の収益がよくなれば配当が上がる。この配当という利子請求権を買い取る行為が株を買うということであり、高配当を手にするために株を高く買い取ろうとするために株価が上昇するのである。
現在はアベノミクスなる幻を見せられ、誤った経済学で洗脳された人々が景気が回復しているかのように錯覚させられ、株価上昇の片棒を担いでいるだけのことである。
少しでも自分の頭で考える投資家ならば、株価の上昇は歓迎しない。同じ金額で手にする株数が減ることを意味するからである。まともな投資家ならば、少ない投資額でその企業が好業績を上げ高配当をもたらすことを最も歓迎する。高配当にもなっていない内に、高配当を期待して高値で株を買い取ろうとするのは危険なギャンブル的「投資」であり、マネーゲームに過ぎないことを知っている。株価上昇を歓迎したのは、証券会社に勧められて、天井間近の高値で購入した株が塩漬けになっていたのをやっと少しの損で売ることが出来た「一般投資家」なる詐欺被害者たちにすぎない。この人たちは詐欺被害にあったことすら自覚できずに、アベノミクスなる輸出企業優遇政策を歓迎している。この層の人口は薄い層にすぎないが、マインド・コントロールされた人々が多数を占めるために、安倍政権の支持率は上昇するという悲惨な光景が続いている。
もう一度言うが、まともな投資家は、株高は歓迎しないのである。

3. 株価の上昇は賃金の上昇をもたらしはしない!

 本稿の第1節を書いたのは、1月下旬だった。この時点と現在(4月)では、「アベノミクス」の様相が大いに異なってきている。黒田氏が日銀総裁に納まって『「デフレ脱却」のための大量金融緩和』政策が20カ国蔵相会議の承認を得るに至ってバブルの様相が定着した。2月以降、日経平均株価は1万1千円台から3月8日に1万2千円台に突入し、4月8日には1万3千円台に突入した。この間、外国人投資家が20週連続買い越しを記録している。
 要するに「アベノミクス」なる円安誘導政策が開始された去年の11月下旬から、日本の株価の上昇は、円安によって相対的に安くなった日本株という優良な株を外国の投資機関が大量に買い始めたことによってもたらされたということである。このこと自体は第1節で明らかにした通りである。
 問題はそれが明らかにバブルの様相を呈し始め、それが「国際的承認」を得たことにある。
 民主党政権時、概ね8800円から9000円の範囲に入っていた日経平均が、アベノミクスなるものが喧伝され始めた11月下旬から上昇を始め、12月7日に9500円台に載せるや12月19日には10000円台に載せ、1月8日には1万500円台、1月30日には1万1千円台と急速に上昇している。
これは為替レートの円安の進行と符合する。
 民主党政権時78円から80円の範囲で動いていたドル・円相場が、11月下旬から円安が始まる。11月15日に81円になった円や20日に82円、12月7日に83円台、12月13日には84円台、26日には85円台、1月8日には87円、1月30日には91円台というように、円安と連動して株価は上昇し、この間外国人投資家が買い越しし、ドル換算するとほぼ同額で日本株を買っていた。
 それが、3月4月期に入ると様相が変わった。
ダウ平均はそれまでの14000ドル前後から14500ドル前後に3.6%ほど上がったのに対し、日経平均は9000円前後から14500円前後と61%も上昇しているのである。この間の為替比率は、80円から98円と23%の上昇であることを考慮すれば、「ドル換算すれば同じ」という水準を明らかに越えた。日本株バブルと考えるべきである。
  外資は日本株市場を舞台にバブル・ゲームを展開し、いつかある日突然バブルを崩壊させ「おいしいとこどり」をして去っていくのである。外国政府にとっての気がかりは、日本市場のダメージが大きすぎて、リーマン・ショック時と同じように自国に跳ね返ることのないように、ほどほどにしてほしいという点だけに過ぎない。安倍氏はうまいこと餌に食いついてきてくれている。なにせ米国ハーバード大学の日本人教授の言いなりになってくれているのだから。
  
 バブルをこそ警戒しなければならない。だがその時に、安倍政権は円を垂れ流している。外資はその円をほぼ無利息で借り入れて日本株を買っている。それが一巡したら「財政再建」を唄い円高に誘導した段階で日本株を売りさばけば、外資は、株高と為替差益とダブルで儲かる。4月22日の20カ国蔵相等の会議ですでにその布石が打たれている。「デフレ脱却」を口実とする円安誘導政策の承認と同時に、日本の国家財政の健全化を「要請」している。いずれ、この「財政健全化」の「要請」が、現実的圧力となりバブルは崩壊させられる。その時は、日本株の買いが一巡し、日経平均が上げ止まった時である。
 
 賃金の上がりようがない。輸出関連企業の収益が改善しただけで、輸入関連企業の収益は悪化し、物価は上昇を始めた。ハイパー・インフレの危険は高まってきている。ローソンなど安倍お友達企業の賃金アップの演出(それも、一時金にすぎない!)に続ける企業はなく、輸出関連企業の一部が利益の0.01%程度を「賃上げ」にふり向けただけで、輸出関連企業でさえ賃金アップはない。賃金の上昇がない限り、ハイパー・インフレの危険はますます高まる。

そもそも賃金の上昇などすべきではないし、できるはずもない。デフレでソフトに賃金が下がっていけば、実質賃金は下がらず、韓国や中国とすら賃金ベースでは対抗できるように国際競争力が回復するはずだった。それが経済の自然発生的流れであり、新自由主義者ならその流れに身を任せ、国家財政の肥大化と闘い財政健全化を図るはずだった。
 民主党政権は全くの経済不案内政権であったし、安倍政権は新自由主義政権ではなく、時代錯誤の右派政権、ファシズム政権にも純化していない中途半端な正体不明の政権であり、これがハイパー・インフレを惹き起こし、最終的に「日本沈没」をもたらす危険が出てきている。
 なのに史上空前の支持率は民主党政権のあまりのひどさの反動としかいいようがない。
 普天間基地の移転問題一つにしても、自民党政権は得意の根回し政治をしっかりとしている。辺野古移転というそれを決めた歴代自民党政権が出来なかった陳腐な政策をこつこつと根回しし、まず米国の了承を再度取りつけ、山本一太という自民党内論客を担当相に据えた。山本担当相はこの任務に専念しており、テレビ番組にも全く登場しなくなっている。きちんと仕事をしているのである。ゴリ押しをソフトに行うという奇妙な任務をきちんとこなしている。沖縄知事にも自民党員だから言うことを聞けという態度ではなく、きちんと反政府の繰り言を言わせている。あくまで県外移転を言ってきた知事の面子を崩さないようにしている。この知事は、基地撤去という沖縄民衆の要求を「県外移設」の要求へと捻じ曲げてすり替えるという巧妙な技をやってのけた名知事であり、この知事の面子をつぶすようなことをすれば、辺野古移設計画はとん挫する。こうした事情をきっちりと考慮して行動することができている。
 この手際のよさを、民主党のダム建設の顛末や普天間基地廃止の顛末と比べれば、民主党にうんざりした民衆が、自民党にほっとするのもうなづける。政治に無関心でいられそうな安心感をもたらしてくれたのである。
 そしてこの安心感こそファシズムの温床であり、「左翼」を自称する人々は、このファシズムと闘う「合法政党」をもっていない。対してファシストたちは合法政党を立ち上げることに成功した。ますます危機的な政治状況が到来している。


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