共産主義者同盟(火花)

第46回 衆議院議員選挙について

渋谷 一三
374号(2012年12月)所収


<はじめに>

 民主党が惨敗した。予想通りであり、当然の結果である。消費増税を打ち出した菅直人内閣下での参議院議員選挙での民主党敗北の内に、今回の大敗は約束されていた。にも関わらず野田首相は唯一消費増税に「政治生命を賭けた」。他には何もしなかった。
 自分で物事を考える力のない野田氏は見事に財務官僚の手玉に取られただけのことであり、財務省と鋭い対立関係にあった小沢氏の政治生命を無実の罪でなくさせるキャンペーンの先頭に立った人物だった。日本の歴史に名を残す悪代官である。
 彼の最も重い罪は、公約を破ることによって有権者の判断を反故にし、民主主義を破壊したことである。これが、「言行一致」に見える歯切れの良いファシズムというものの台頭を招いた。野田氏のアシストなくして「維新の会」の躍進はなかった。
 もちろん財務官僚を中心とする官僚機構は「維新の会」の無害化を図り、それに成功していた。「たちあがれ日本」との合流によって「維新の会」を無害化し、財務省管轄下にあるといって過言でないマスコミを使って「維新の会の支持率24%」などというキャンペーンをはって送風し、「日本維新の会」の議席獲得を援助した。マスコミが「未来の党」に対してしたような黙殺をしていたならば「日本維新の会」の躍進などあり得なかった。マスコミと財務官僚の罪は重い。
 本稿は、ファシズムの台頭を許した本選挙の背後に進行する階級関係の分析を試みるものである。

1. 下層階級の疲弊

 まず、公明党支持層。特に政策的軸を持たない公明党は、現実対応能力を無くし、自民党の補完物になり下がっている。さらに「維新の会」との選挙協力によって失うはずの議席を獲得できたことによって大阪市議会での「維新」補完物にとどまらず、国政レベルでも「維新の会」の補完物になることが決定づけられた。
 このことは選挙前に分かっていた。口先の平和主義・非暴力主義とは裏腹に、排外主義のファシズムに協力することになったことに自覚はない。指示通りに自民党に投票し「維新の会」に投票することに抵抗を感じなくなってしまった。公明党の支持者の思考停止ぶりが、選挙結果に如実に反映されている。
 次に「共産党」支持層。共産党支持者は労働者下層が発生し始めた1970年台後半を境に労働者上層部(正採用社員と公務員)に限られはじめ、労働者上層部とも組織労働者ともいわれる層の先細りに応じて得票率を低下させてきた。70年前後の「革新都政」「革新府政」などの地方自治体選挙での圧勝ぶりは幻と消え、労働者下層には全く浸透できていない。労働者下層の分析からは排除してよい政党である。
 小商工業者の獲得を巡って70年前後に激しいバトルを行った「共産党」と「公明党」の争いは、公明党が囲い込みを守りきったことで、下層階級の非労働者階級を公明党が囲い込んだが、労働者階級下層が政治的表現を見出せる党がなくなってしまった。これが今日のファシストの台頭をもたらした政治経済的基盤となっている。
 このことは、新左翼の「非合法党の建設」を声高に叫ぶ路線の総括を要求している。労働者階級の合法政党=ブルジョア階級の宣伝煽動から労働者階級を守り、これらの人々が自ら運動する主体へと自己教育していく活動を組織していく政党を無くしてしまい、今日の「新左翼の消滅」状況を生み出したということもできよう。労働者階級の公然政党の必要性を今日の位置から再総括することを要求している。

2. 原発

 下層階級の疲弊が争点を景気・雇用対策に押し上げてしまった。
 当初、原発反対か否かは大きな争点であった。だが、前稿で述べたように、原発再開のための値上げ申請などあらゆる姑息な手段による原発容認煽動と全政党原発反対の素振りという欺瞞によって、原発を争点として意識した層は10%に落ち込んでしまった。この結果、30%を越える層が最大の争点として景気・雇用を挙げることとなった。労働者下層の疲弊が、関心を景気・雇用などというものへシフトさせるとともに、原発再開への道ならしのわな(トラップ)に簡単に引っかかる現実を生んだ。
 小選挙区制ということで、反原発の票の多くが、全ての選挙区で候補者を立て選択肢を提供した共産党に流れた。共産党にだけは投票したくない人々は多く、この層は反原発の意思を投票行動で表すことができない選挙区が多くなった。これもまた自民党の敵失勝利を呼び込むこととなった。

3. 小選挙区選挙制度の弊害が露呈

 自民党の得票率は「大敗」だった前回より0.9%増えただけである。だが議席は294議席、約3倍増となった。これは小選挙区制度による。
 民主党が惨敗することは誰の目にも明らかだったのに、こんなことすら分からないほど自己陶酔していた野田氏が、何の準備もせぬ内に、民主党内の「野田降ろし」に対抗するという狭い利害で解散をしてしまった。これが、自党の候補者の準備すらできないうちの「突然の解散」を招致してしまった。さらに、身の程知らずにも、小泉郵政解散を模倣して「国民の生活が第1」の候補者がいるところに刺客を送るという愚を為したために、自民党が勝利するよう強力に援助することとなった。
 野田氏の自己陶酔は、本人が自分の選挙区では圧倒的トップ当選したという狭い現実しか見ることができなかったことによって増幅された。石原党と合併というエラーをしなかったならば維新の会はもっと議席を取ったであろう。野田氏の犯罪、ファシズムを台頭させたという犯罪は、この敵失がなかったならばもっと重大なものとなったはずである。
 「刺客を送る」という戦術は、刺客が勝ってこそ意味をもつのだが、刺客が勝つはずもないのに送ったことで、自・公・共・維新かみんなの選択肢しかない小選挙区が多く生まれる結果を生む。この場合、動く票は自民に行くしかない。間違っても「動く票」は公明や共産には行かない。かくして「風が吹かなかったのに圧勝した」と自民党当選者自身語る現実が生まれることとなった。
 かく、愚かな野田氏のアシストがあった。自民党の隠れ党員ではないかと思われるほどの利敵行為の連続である。

4. 政治的代弁者を失った小ブルジョア階級

 野田氏は自民党に入るべき人間だった。だが、自民党に入るべき人間だという判断を出来ないほど愚かだったか、自民党内ではのし上がれないという冷静な自己認識を持てたおかげか、民主党に入ってしまった。この大ブルジョアジーの利害を代弁する野田氏が決選投票による連合で党代表になってしまったことで、小ブルジョアジーの利害を代弁して勝利した民主党が無くなってしまった。
 民主党の「内紛」、その糸を引く悪代官小沢というキャンペーンを張って、財務省と戦う小沢氏の政治生命を抹殺することに奔走してきたマスコミ(特に朝日)の曇った目から見ると、ゴタゴタ続きで団結する力のない寄せ集め集団=民主党、否定ばかりで肯定表現のない反対派と現実が映ずることとなる。
 小ブルジョアジーはTPPには反対であり、死活問題である。だが、戦略をもてない愚かな大ブルジョアジーの目にはTPPへの参加こそが死活問題のように映ずる。小ブルジョアジーにとっては消費増税は倒産にもつながりかねない負担増で死活問題である。この小ブルジョアジーの利害を前面に出して小沢民主党が圧勝したのに、小沢排除をしたことによって、民主党は大ブルジョアジーに簒奪され、農民・開業医・工場経営者などの小ブルジョアジーの利害を代表する政党が無くなってしまったのである。
 ゴタゴタと反対したのではなく、前原・野田の松下政経塾お友達連合が民主党を簒奪したのが本当のことであったことを、選挙結果が再び示してくれている。
 民主党は「そっぽを向かれた」のであり、裏切り者・背信者だったからこそ惨敗したのである。「民主党にだけは投票したくない。」これが、大方の人々の心からの本音の吐露である。

5. 右翼台頭批判をする中韓

彼ら、特に中国に安倍政権を批判する資格などない。安倍政権発足に強力なアシストをしたのは、他ならぬ中国の軍事的挑発活動である。日本の労働者階級の闘いに敵対し安倍政権を誕生させた中国「共産党」に安倍政権を批判する資格などない。

6. 原子力邑の攻撃目標にされた菅

 だが、反原発の旗手を気取ったから菅が落ちたのではない。菅が気取ったのは確かであり、だから、重点選挙区として土屋候補へのテコ入れと、「福島事故での傲慢な菅」キャンペーンに晒され落ちたことは否定はしない。だが、菅が落ちたのは、反小沢運動を公然と展開し消費増税を言い出し参議院を敗北に導いたにも関わらす責任をとらなかったことに主因があることは言うまでもない。
 菅が、反原発を言ったせいにし、原発廃止運動の足を引っ張ることは許してはならない。




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