共産主義者同盟(火花)

民主・自民・維新・公明に投票してはならない

渋谷 一三
373号(2012年11月)所収


<はじめに>

 電力会社各社が一斉に値上げを申請した。値上げをして原発再開やむを得ずと感じる下層階級を抱きこもうとする作戦である。その通り、経済的余裕のない下層階級は、電力料金をできるだけ大幅に上げれば、原発再開にむしろ強力に賛成する。ちょうど年金や生活保護を存続させるためと称して増税を決定した消費税増税に反対しきれなかったように。
 下層階級はすでに疲弊し荒廃しつつあり、少しでも真剣に考えればわかるようなうそや扇動に簡単に載せられる状態になっている。これが「維新の会」なるものの躍進を生み出してきている。
 維新の会は、こうした疲弊した下層階級の怒りの歪んだはけ口を提供しており、この意味ではっきりと現代のファシズムである。労働者階級は、このファシズムと全力で戦わなければならない。

1. 原発は安価な発電であるというウソ

すでに何度も述べてきたことであるが、原発は高価な発電方式である。
 まず、出力を簡単には変更できないため、特に夜間に不必要な電力を垂れ流す。これは全くの無駄。次に、原発のコストに人件費が含まれず、人件費は別途まとめて総額から引かれるため主に原料代だけしかコスト計算されないために人件費浪費の原発が安いかのように計算されることになる。輸入した石油とウランだけを比べたらそりゃウランの方が安いに決まっとる。
 さらに、自治体への交付金や電力会社社員でありながら特別有給休暇も貰って地方議会の議員にさせる金や大企業の平均年収より200万も高い年収を別途計算していることを勘案して、発電コストに加えれば、原発は最も高い発電方法なのだ。
 さらに、さらに。赤字とされる額は売上の15%程度であり、この額は節電によって売上が減った分に奇妙に合致する。要するに原油輸入増加に伴う経費増は各社とも100億円前後にすぎない。なぜなら、節電は恒常的なものによって達成されたのであって、「こまめにスイッチをきるなどの意識」によって達成されたものではないからである。
 また、莫大な補償費用を出さなくてはいけない東電とほぼ同じ値上げ幅というのも、今回の値上げ申請が必要のないもので、原発再開への世論作りのための兵糧攻めであることが分かる。
 要は、核兵器製造のために原発は数基でいいから是非必要であり、米国の原発停止と東芝によるウェスチングハウス社買収によって、「同盟国」米国にプルトニウムを提供することは「喫緊の責務」になっているはず。
 原発再開を速やかに実現するために、燃料費がかさんだなどというウソを流布し、愚かな人々が原発再開やむなしの声を張り上げるのを促すのが、今回の値上げ申請の意図である。値上げが認められなくてもよく、値上げ幅圧縮交渉などには喜んで応じるのである。値切った側も面子が立ち、なんど見事な万々歳の構図が完成する。
 こんな簡単なからくりすら見破れず、下層階級は声高なキャンペーンに絡め取られている。

2. 民主党の「脱原発」のウソ

 TPP賛成と消費増税賛成を党則にしてしまった野田独裁。党内民主主義すらない民主党に民主主義の政権を作れるはずもない。そもそも、TPP賛成と消費増税などというもの事態がマニュフェスト違反であり、国民との契約違反の詐欺である。詐欺師野田には何も語る資格などない。
 この詐欺師が自民を批判して、「30年代原発0」が漸進的現実路線であるかのようにのたまわっている。30年代ということは2039年までにということで、あと27年も先のことである。それまでの間に原発推進の画策を思う存分することが出来る。手の込んだ「原発縮小維持」=「核兵器製造可能な最低限の原発維持」が、民主党の方針である。手の込んだ言辞を弄ぶのが好きなのは、根っからの詐欺師だからだろう。

3. 声高な煽動家、「日本維新の会」

維新の会は太陽の党と合併した際に反原発の旗を降ろした。核武装が必要であるとする石原太陽の党代表が脱原発を言うはずがないからである。この意味では石原氏は誠実でありウソはついていない。
だが、橋下維新が脱原発の旗をご都合で降ろすのは今回が初めてではなかった。大飯原発再開にあたって、官僚と民主党の恫喝に屈し、「やむなく」「妥協」をしたことになっている。
これが、現実主義に基づく妥協ではないことが、今回の反原発降ろしで明らかになってしまった。党のプログラム・綱領というものは、その党の実現目標を端的に述べるものだからである。目標からすら降ろすということは、脱原発をしないと宣言することである。言い換えれば、原発維持宣言である。
この「変節」がマスコミに取り上げられるや否や、変節ではないと訴えるために脱原発依存を入れたと声高にまくしたて始めた。原発への依存から脱するというのだ。そう、核兵器を作るためには原発は数基程度あれば十分だ。橋下代表代行はうそをついていないふりをしてウソをついている。かつては脱原発だった。今は脱原発依存である。下層階級が脱原発依存を脱原発と同義にとることを知った上での発言である。でなければ、脱原発依存を入れたなどと声高にまくしたてる必要などない。
脱原発は原発を止めることを意味し、脱原発依存は原発を続けることを意味する。全く正反対の言葉であり、声高に原発維持を言えなくなった原発邑(むら)の「騙し用語」としての造語が「脱原発依存」である。
橋下代行は変節していない。その時々の大衆の気分を煽り、その怒りの矛先を誤った方向に持っていくという使命から見れば一貫している。真の敵を下層階級の攻撃から守るために、下層階級の先頭に立ったふりをしてその矛先を仮想の敵=いわば案山子に向ける役割を果たしている。これこそがファシズムの真髄である。

4.下層階級の動向

日本の労働者階級は階級として鍛え上げられる前に分解を始めた。70年代以降の日本資本の海外展開の本格化により、労働者は上層部(本工・正社員)と下層(臨時雇い・下請社員)とに分裂し始めた。
このことの労働運動への表現が、現在の民主党を支える労働者上層部の「連合」の成立であった。「火花」誌上で、労働者階級が分裂しつつあることを、経済的指標からの分析に基づいて展開し始めたのもこの時期である。
それから35年、上層部はやせ細りながらもその政治的表現部として「連合」を維持し「民主党」を持った。下層は肥大化し労働者の多数を占めるに至った。下層の年収は200万円以下となり、「中進国」並みに近づきつつある。このために日本企業の国際競争力は回復しつつあり、中国リスクなどの危険を冒してまで海外進出をする必要がなくなっている。
だが、海外進出を止めれば海外からの超過利潤で膨らんでいた国内市場を実際規模にまで縮ませるデフレ過程が進むことになる。もちろん、海外進出をした一企業としては肥大化した自社の経営規模を縮小する動機などはなく、「国籍を離れた」企業として相対的に独自の動きをすることは当然のことである。
かくして下層階級は「中進国」以下の労働者階級との国際競争に晒され続けることになる。ベトナムやマレーシア、インドネシアなどの労働者との競争にさらされるだけでなくミャンマーやカンボジア、バングラディッシュなどの貧困国の労働者との国際競争にも晒されることになってきた。
日本の労働者下層には、「連合」とは違って、資本家に頼っていれば開ける展望など一切ないことが分かる。だが、国家財政の半分以上を浪費する天下り団体とその職員に表現される労働者上層部は労働者下層の4倍程度の高給を食み、必要数よりはるかに多い公務員は3倍程度の高給を食んでいる。労働者上層も3倍程度の「高給」を食んでいる。もっともこの大企業の正社員に代表される労働者上層部は、「高給」と引き換えに1日14時間から16時間におよぶ労働に従事させられており、定時に仕事が終わり得る公務員とはわけが違う。
下層階級の怒りは本来、天下り団体の全廃に向かい、次には海外進出した企業を見捨てて国内企業=(自分たちで設立する以外にはあまりなく、だから協同組合がよい。)=で働き、後進国の労働者との間接的形式による直接的連帯を実現するべき性質のものである。だが、この怒りを「自分たちよりいい生活をしている」公務員バッシングへと矮小化し、財政の半分を無駄にしている天下り団体を温存させ、国内企業を下請け化させ海外展開しているブルジョア階級を保護して国内企業(小ブルジョア)に打撃を与える独特の役割を果たすのがファシストである。「維新の会」はこの独特の役割を果たそうとしているのであり、曲がりなりにも天下り団体の廃止を目指している「みんなの党」との決裂は進行する。「みんなの党」が変節しない限りは、「維新の会」とは敵対にまで至る性質のものである。

5.経済知らず=安倍自民党の迷走政策

野田首相の解散発言以来、株価は5連続営業日値上がりを続けた。財務省のいいなりに消費増税に走った以外には何一つ仕事をしなかった野田政権や菅政権への辟易とした思いから解放されたからである。一刻も早い民主党政権の終わりを市場も待ち望んでいた。
だが、自民党に媚びることを決めた感のあるマスコミは、この株価上昇を安倍総裁のインフレターゲット発言のおかげだと持ちあげ始めた。
株価が上昇を始めたのは、対中国貿易赤字が確定し発表されたせいで円が各国通貨に対して全面安になったことから、対中輸出依存度の少ない輸出関連株が大幅に上昇し、これに牽引される形で輸出関連株が上昇し、翌々日ほぼ全銘柄が上昇したというのが実際の姿であった。
具体的には北米への輸出依存の高いホンダが牽引し、中国への比率が比較的低い日産が上昇したのが1日目と2日目。忘れてならないのは両社とも配当が高く、営業利益が株への配当に直接敏感に反映する企業であることだ。だからこそ、株価が上昇する。
だが、「カジノ」でもある株式市場は、上昇トレンド(傾向)が見え始めると投機が始まる。日立建機や小松製作所などの土木建築機器の輸出関連株が上昇し、日本市場の上昇に牽引されて上昇を始めたNY市場の上昇を再反映して週明けの19日からのほぼ全面上昇へと至ったのである。
安倍発言が円安を引き起こしたのではないことの更なる証明として、安倍発言を否定した日銀総裁の会見後も円安は終わらず、ギリシャへの融資を開始したユーロが一段とユーロ高を進めた事実を挙げることができる。
いずれにせよ、安倍発言は経済界では相手にされない程度の世迷言である。インフレターゲット論は、世界のあちらこちらで世迷言を言う必要に迫られた人間が言ってきたが、ただの一度も人為的にインフレを起こせたことはない。仮にインフレを起こせたとしても、それを任意の水準に統制出来るなどということは有りえず、インフレになってしまったらどこまでインフレが進行するか予想もつかいないのである。こんなことは経済界の常識であり、インフレターゲット論を言うのは決まって権力を握った蒙昧な政治家である。
マスコミの安倍総裁お追従で、そのおこぼれに預かりたいのか、新党改革の桝添代表がインフレターゲットを言い出した。「日本維新の会」の橋下代行は年金問題に関連してインフレにすべきと発言した上で、その上支給開始年齢を65歳よりさらに引き上げればよいと発言している。インフレターゲット論者とみなすべきである。
27日、東京市場は115円の大幅下落を始めた。

6.デフレは悪くはない

橋下代行はインフレになれば年金問題は解決すると主張している。そう、確かに支給できるようになる。支給できるようになるのは貨幣価値が下がるからであり、初任給100万円の若者が2万円の年金掛け金を払うのは容易である。だが、同じ月額7万円の年金を受け取る側はタバコ35個分の年金でどうやって暮らせるというのだろう。
年金を支給できるようになることは年金問題を解決することではないのである!
さらに橋下代行は現行の65歳支給開始の年齢をさらに引き上げるべきだと主張する。仮に70歳としよう。10年後には死亡するから支給期間は3分の2に減る。その上、あからさまに言うことはできないが、就労期間が長くなることによって平均余命が短縮される効果も期待できるから一石二鳥だというのだろう。確かにそうだ。
だが、これでは年金制度の廃止に近づくというだけで年金問題の解決ではない。

思考を柔軟にしてみて、現在のデフレ傾向が進行することを考えてみよう。同じ支給額で年金の受取手は実質手取りが増え生活できるようになる。年金生活者が年金で生活できるようになれば、若年層の失業率が大幅に改善され、非熟練の若者が雇用される。現在の制度では再雇用で低賃金になった熟練労働者と若年非熟練者は競争できない。雇用する側はあらゆる意味で教育しなければ使い物にならなくなっている現在の若者を雇用するコストを避ける。
新卒者や若年労働者の失業率の高さや非正規雇用化は、引退できない高齢者の存在によるところが大きい。
デフレは帝国主義国家としては当然の成り行きであり、自然発生的経済現象である。
通貨高によって実際より安く輸入ができるのだからデフレになるしかない。デフレによって帝国主義本国の労働者の賃金は下がり、通貨高効果を計算した実質賃金が後進国労働者とほぼ同水準にまで下がれば、通貨高も一挙になくなり、国内企業の国際競争力も一気に回復する。これに生産効率を勘案すれば、現在の非正規雇用の平均年収200万より高い平均年収300万程度でも十分に国際競争に「勝てる」。
(この場合の勝てるという意味は国内企業として十分に存続が可能という水準であり、勝ちすぎて海外進出すればまた帝国主義への道を歩むという繰り返しになってしまう。)
デフレ下での年金掛け金の実質的高負担化という問題が生じるが、これは世代間扶養を止めるということで解決する。
世代間扶養を止めると、掛け金の運用を非効率的な行政機関にさせれば働きもしない公務員を養う分だけ資金が目減りするだけのことである。結局、年金制度は廃止し、税から一律の額を支給し事務手続き料を安く運営するか、新自由主義風に全廃し、老後の資金計画を立てなかったキリギリスの犯罪者化によって治安の悪い国家を作り、個人で警備会社に高いコストを払って少しの安全を手にいれるか、の選択ということになるだろう。
いずれにせよ、デフレが悪いとアプリオリに言うことは、インフレが悪いとインフレ下で愚痴るのと同じことである。

<おわりに>

 インフレターゲット論批判にスペースを割きすぎ、横道にそれた感もありますが、ことほど左様に「日本維新の会」や安倍自民党、それに追随する公明党の経済政策は出鱈目であり、詐欺師集団の民主党同様、絶対に投票してはいけない政党である。




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