共産主義者同盟(火花)

イランは核武装する「権利」を有している

渋谷 一三
367号(2012年4月)所収


<はじめに>

 日本は唯一の被爆国である。
 原水爆を地上より一掃するという純粋な動機から核拡散防止条約を批准し、世界中のどの国の核武装にも反対するという運動を行ってきた。だが、この運動の過程で、「非武装中立」を党是とするがゆえに世界のどの1国の核に対しても反対するという位置に立てた日本社会党のグループと、現実の軍事に曲りなりであれ向き合った日本共産党の、社会主義国による帝国主義国の核独占による支配を打破するための核武装には反対しない運動とそのグループとへの分裂を経験してきた。
 原水禁と原水協とへの運動の分裂は、未だに克服できていない。
 今また、イランが同じ問題を突きつけている。
 米国はアフガン戦争への米帝への協力の見返りとして、パキスタンの核ミサイル保有を公然と「認可」した。だが、保有すらしていなかったイラクという国は滅亡させた。経済封鎖を解くという条件に応じたカダフィ大佐のリビアもまた、核武装を解除したために侵略され滅亡させられた。カダフィ一族は虐殺された。イランの核開発は許さず経済封鎖を強要しているが、イスラエルはずっと以前から核兵器を保有している。米国の属国日本はイランからの原油輸入をやめさせられたために、原油高に喘ぎ始めている。イランには日本の依存度が高いが、米国石油メジャーは介入できていない。だから、米国はイラン産原油の禁輸措置を取ることにした。
 イスラエルは、またもや勝手に他国を爆撃するだろう。
 日本の反核武装運動は、客観的には、米国の恣意的な核支配体制を補完する役割を担い続けてきた。
 オバマは、核廃絶を口にしただけでノーベル平和賞を受賞し、ただの一発も核ミサイルを廃棄してはいない。それどころか、オサマ・ビン・ラディンを殺害し、カダフィ一族を殺害し、アサド大統領を殺害しシリアを滅亡に追い込むことを遂行中である。イランの核開発者は既にCIAによって暗殺された。

1. 米国を手玉に取り、核武装を完成させた朝鮮民主主義人民共和国

 朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮と略)は「人工衛星」を打ち上げようとしている。人工衛星を打ち上げる「権利」は、どの国も有しているはずなのだが、北朝鮮の人工衛星は衛星が搭載されているかどうかも疑わしいとして『事実上のミサイル発射』と喧伝されている。ミサイル発射も人工衛星も打ち上げロケット自体に何の相違もない。この「論理」でいけば、日本は世界一のミサイルを持っていることになる。打ち上げ成功率はH2ロケットが世界一だからだ。北朝鮮のミサイル発射を非難することは、日本が潜在的ミサイル保有国であることを炙り出すことになっている。
 北朝鮮は、更に、『人工衛星打ち上げを非難する国際社会への抗議』としてミサイル打ち上げ実験後2週間以内に地下核実験を予定している。要するに、核ミサイルの完成を国際社会にアピールしているのである。
 また、核軍縮体制は破綻を宣告された。実際、核を持たない国は核を保有している国に比べて政治的にも押しが弱い。中国の東海や南海における軍事存在誇示行動は非常に挑発的であり、米国と政治的・経済的にも対等にわたりあい、自国の利害を強烈に主張し押し通している。リビアは冒頭に述べた通りである。ここから見る限り北朝鮮の軍事的・政治的判断は正解である。自国の体制の延命にとって正しい政策をとったと言える。
 北朝鮮の核武装を正しい選択にせしめたのは、米国の恣意的核支配体制そのものにある。

2. 国際的には核武装国である日本

 日本は非核3原則を掲げそれを守って来たと思っている人々が多い。非核3原則を掲げはしたが、実際は米国の核ミサイルが米軍基地および日本の領海内外の潜水艦・戦艦に装備されていたことは周知の通りである。日本民主党政権は、残りの2原則も破ろうとしている。
原子力の輸出を通して核武装の一方の手段であるプルトニウムを手に入れさせ、原発の再開を急ぐことによって、いつでもH2の簡素型ロケットにプルトニウム弾頭を取り付ける自由を確保しようとしている。
 米国の核の傘下にあるだけでなく、今の北朝鮮の状態に、日本は当の昔に到達していたのである。
 北朝鮮を非難すればするほど、「日本は核武装している」というのが国際的常識である現実があぶり出される。

3. イスラエルの支配から自由になるには核武装が必要だと考えるイランは間違っているのか。

 一級の産油国であるイランが原発を必要としているなどというのは全く説得力を持たないのは言うを待たない。核ミサイルの弾頭を作るために原発をするのは自明のことである。
 だからこそイスラエルは先制爆撃をしようとしている。だが、よく考えてみればそれは決して正義の言い分ではない。自国は核武装しているのだ。そしてその圧倒的軍事力を背景に『出エジプト』の途中に立ち寄ったに過ぎない地を自国領土と宣言し、先住民を我こそそのまた先住民であるなどとうそぶいて迫害しているシオニズムを成立させている国である。
 シオニストはその圧倒的な国際金融支配網を駆使して米国を動かし、イラクを侵略させた。今また、同じ手段でイランという国家を破壊しようとしている。『アラブの春』作戦では多大な成果を収め、イスラエル周辺の安定した政権は全て独裁政権として不安定な新政権にすげ替えることに成功してきた。今はシリアでその仕上げをしている最中である。これがすめば、イランが集中的標的になるのは間違いない。イランの無辜の民への虐殺が敢行されよう。アンネはその日記で幾百万人の命を奪うことを正当化するつもりなのだ。
 イスラエルの横暴に抵抗するためには、核武装を成功させることが出来ればその方が良い。核兵器廃止運動の敵はイスラエルであってイランではない。仮にイランの核武装に反対するのであれば、それ以上の強さでイスラエルの核兵器廃絶を要求しなければならない。イスラエルの核ミサイルの一機すら廃絶させられずに、北朝鮮やイランの核武装に反対するのは欺瞞以外の何物でもない。
 繰り返すが、日本は核武装しているのである。

4. 原水禁と原水協への分裂を止揚せずしては、核廃絶運動は成功しない。

 以上見てきたように、現実の核武装の進展の原因を捕捉しない限り、反核運動は米国やイスラエルの補完物にしかなりえない。
 日本社会党の非武装中立路線は、当の社会党にとっては理想ですらあった試しがなく、ただ単に社会党を支持した真面目な運動団体を支持層として確保しておくために口先で言っていたにすぎない「スローガン」でしかなかった。
仮に真剣に非武装中立を理想として綱領として確立していたとすれば、国家の廃絶なくして非武装で中立を維持することは出来ないことに直面できたであろうし、中ソ対立や中越戦争に対して社会主義を唱える以上具体的な分析や態度決定が迫られ、労働組合ごっこをしていればいいお気楽な「党」では居られなかったであろう。
日本社会党が「全ての国の核武装に反対する」という原則的に正しい立場に立てたのは、そう主張することの重みを全く知らない口先主義によるに過ぎなかった。これでは、現実にコミットしようと核兵器を廃絶する運動が核武装して対抗力を作ることを是とするしかなかった日本共産党の苦悩を批判する能力を持ち得なかったのは言うまでもない。日本共産党の図式の失敗は、ソ連であれ中国であれどの「社会主義国」も国家利害を超えて核兵器廃絶運動を展開する意志など持ってはいないという現実を把握できなかったことにある。苦肉の策の「自主独立」を言ったところで、自主独立になった途端に全ての事象に責任を持ち得る「神様の立場」になる以外になくなるのである。
仮に社会主義と規定できる諸国家連合があり核兵器については全く同じ政策を採るという現実があったなら、自主独立など言わなくてよいのである。自主独立と言った途端に、中国とソ連の違いにまで言及しなければならなくなり、その相違の由来からそれをなぜ支持できないのかまで述べなければならなくなるのである。
 要するに、自主独立をいうことは、どの現実の一国も支持できないという現実を反映したつもりで、同義反復をしたにすぎない。解決策を提示したかのごとき体裁をとって、実際は全てを分析して解説しなければならない立場に立つという新たな虚構を構築するに過ぎないことだったのである。
 両者を止揚する現実の運動として、日本における原発を全面廃止する綱領を掲げた運動体を組織し、そこに両者とも個人として加盟することを提唱させていただきたい。

―以上―




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