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TPP加入問題(2)

渋谷 一三
364号(2012年1月)所収


<はじめに>

 民主党政権は同じ政党の政権ではない。民主党自体を解散し、衆議院を解散すべきである。
 消費増税をしないという公約の下で政権を奪取したのに、菅内閣で消費増税を言い出し、参議院での過半数割れを生んだ。参議院での大敗北で民意ははっきり示されたのに、後任の野田内閣でも消費増税を進めている。菅内閣との連続性があるのかというと全くそうではない。菅がヒステリックなまでに脱原発にぶれたのに対し、原発の輸出推進を進めている。全く反対の原発政策である。
 
 消費税増税に固執しているが、小泉改革の成果として貧困層が増えている状況の下では、消費税という大衆課税は貧困層により大きな影響を与える。10%へ2倍にする予定のようだが、増加した5%分を価格に転嫁すれば消費が冷え込む。したがって、生産者側は価格を下げ(品質も下げ)ることを強いられる。デフレの進行である。
 これにTPPが加われば、相対的に粗悪で廉価な外国産製品が円高とあいまって大量に入り込み、デフレを加速させるとともに、かろうじて生き残ってきた小企業を倒産に追い込むことは間違いない。

 野田内閣はこの最悪シナリオ2本立ての両方を同時に行おうと突き進んでいる。迷走を通り越して、自滅に向けて転落している。恐ろしいことに、これにブレーキをかけるセクターがなくなっている。ごく一部の経済学者が警鐘をならしているだけで、御用学者はTPP賛成と増税必然の論調を繰り返している。
学術水準が低くても多数でTPP賛成・消費増税賛成の大合唱をすれば、その声の大きさだけで、勝てるというものだ。
この恐ろしい状況が、日本の今である。

1. 間接税と直接税

  所得税の税率を上げたところで、貧困化が進行している下では、税収は増えない。そればかりか、高所得層への税率を上げれば、高所得層は海外に本社機能を移し、そこで安い所得税を払う。かくして、小泉政権下では、高所得層の税率を下げ、税収全体は減るという過程が進行した。
  直接税では、実質的に所得が増えない限り税収も増えない。経済の健全性が担保される。だが、消費増税は経済の収縮過程にあってすら税収を増やすことができる。経済の健全性すら壊すことのできる悪税たるゆえんである。
  野田政権はこうしたことに無自覚に、財政赤字の縮減と東北復興財源確保をめざすという主観の下に、消費増税路線を取ろうとしている。支出の削減など眼中にない。これが、みんなの党や大阪維新の会の躍進を生み出している。前にも述べたように、財政赤字の削減は国家財政への信頼度を増大させ円高を促進する。輸出の収縮が進む反面、円高による輸入が増える。ここにTPP加入が加わればデフレの進行とあいまって輸入品の洪水にさらされることとなる。デフレは粗悪であっても安価な商品を求め、円高は同じ商品をより安く輸入することを可能にし、TPPは「非関税障壁」を取り除き米国などの品質後進国の商品の流入を可能にする。3重に国内の産業を破壊する政策を野田内閣は文字通り愚直に押し進めようとしている。
  消費税という間接税の税率引き上げは、絶対に行ってはいけないことなのである。
  オバマは再選のために悪化した失業率を少しでも改善せんと、ドル安を誘導し、TPPを押し進め劣悪な米国産商品の輸出増大を図ってきた。その結果、失業率は徐々に改善して、就任前の数字に近づいている。就任前の数字に近づいただけで、「Change」を実現したわけでもないので、再選はおぼつかない。そこで、54兆円にものぼる軍事費を削減し、財政の健全化の下でのドル安を追求しようとしている。これは大変に難しいことなので、米国基準をグローバル基準にするTPPをますますごり押しする必要に迫られている。だからこそ日本政府に圧力をかけている。経済半可通の野田はこの圧力に屈することを現実主義と勘違いしている。

2. TPPとFTAは似て非なるもの。

TPP賛成論者の論点は、「TPP=自由貿易」「自由貿易賛成か否か」という図式をア・プリオリに前提するという共通の性質を持っている。そして、日本は加工貿易立国の国だからという古い図式を持ち出して、「第2の開国」だの「保護主義反対」だのとのたまわっている。
日本はすでに加工貿易の国ではない。自動車の生産を例にとってすら、国内での生産台数よりも海外での生産台数の方がはるかに多い。
TPPに参加することによって日本の輸出が増加するなどということはないのである。輸出用の車は、労賃の安い諸国で生産されそこから輸出されている。日本から輸出されている工業製品は高品質・高付加価値のものであり、自動車でいえばハイブリッド車や電気自動車だが、これも早晩海外生産されることになる。製品の内に企業秘密は込められており、いつまでも模倣されないで済むものではないからである。特許で保護されたもの以外はすぐに模倣されるのである。逆に言えば、特許で保護されているものをわざわざ日本にこだわって生産する必要もないのである。
 関税を撤廃した貿易を行うということは、裏を返していえば、関税自主権を喪失することとも言える。環太平洋という特定の経済圏の中で関税を無くすということは、環太平洋圏と指定された諸国以外の国との「最恵国待遇」を無くす不平等条約を結ぶという意味合いを持っているのである。TPP賛成論者はこのことに全く無自覚かあえて知らないふりをして、FTA(Free Trade Accord=自由貿易協定)とTPP(Trans Pacific Partnership)とを同列に扱っている。
 『日本がTPPに入れば、外資は日本政府を米国の法廷に訴えることができる。』(内橋 克人さん)という事実は断固として伏せられている。事実、北米自由貿易協定に加盟しているカナダ、米国、メキシコ3国でISD条項に抵触したとして訴えられ賠償金を支払ったのは、カナダ118億円、米国0円、メキシコ143億円となっており、米国中心の不平等条約であることがはっきりしている。ISDとはInvestor−State Dispute。ある国の規制によって他国の投資家や企業が損をしたとして、「国際機関」に仲裁を申し立て賠償金を取ることができる仕組み。
これに反して、仮に日本と韓国がFTAを結んでも、米国は何等介入することはできない。米国を除くTPP参加諸国の全てと自由貿易協定を結んでも、米国はその内容の一切に介入することはできない。だがTPPとは、その参加国のどの一国に対しても米国が介入できる仕組みになっている。ここに決定的な違いがあり、ここにこそ米国がTPPを押し進める唯一の理由がある。
日本は中国との関係を軸にするのか、米国との関係を軸とするのかと詰め寄られているのである。先ほど韓国の警官を殺害した中国漁民の越境操業を例にとるまでもなく、「尖閣列島」で日本の巡視艇を攻撃した中国の大国主義・中華思想と手を組んで米国と敵対する道は危険すぎる。対中国包囲網という政治的側面を持つ米国主導のTPP加入に舵を切ったのが、「親中国」だったはずの民主党の選択であり、「親中国」の小沢派を党内においてすらパージして切ってきた所以でもある。
 結局のところ自前の軍事力を持たない限り米国の恫喝に従うしかないという軍事の問題が根底を規定している。
 軍事がTPP加入に舵を切らせている根本要因であることもまた意図的に触れられていない。属国的屈従としてTPP加入を選択しているのではなく、TPP加入は日本の未来を切り開く「開国」なのだという図式を描き続けることが至上命令のようだ。かくして、TPP加入反対論者を単なる反対派として描き、苦痛を伴うが未来を開く道を閉ざす頑迷派として描き出し、TPP反対派の論理的優位性を封殺することに多少とも成功している。

つづく


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