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まだ原発をする愚

渋谷 一三
356号(2011年4月)所収


<はじめに>

 東日本大震災により、福島原発が重大事故を起こした。即座に海水でも何でも入れて冷やすべきだったが、廃炉にする決断がつかずに手遅れにしてしまった。やっと政府が廃炉にする決断ができた時は、水素爆発が起きた後だった。その後もチェルノブイリでとったコンクリートによる封印という手段はとられないまま、一ヶ月を過ぎてから政府の命令で作成した工程表が出され、早くて半年後に冷却システムが構築されるとの冗長な「計画」が発表された。
 この計画は、「2階から目薬をさす」がごとき計画で、水素爆発に耐えて冷却するためのパイプが無傷で残っているとは考えられない。パイプが破損しているからこそ汚染水が漏出していると考えるのが普通なのに、汚染水が邪魔して作業ができないから、まず汚染水の除去から始めるという何とも奇怪な理屈を平然と述べ、事故の終息に直接つながる作業は遅々として進まない。
 この間に避難地域は拡大され、半径30km圏内の住民の生活は破壊されたままとなっている。
 他方で原発の安全性や経済性および必要性が宣伝され始めている。

1. 経済性のうそ

 今回の事故で国民の多数が知ったであろうことだが、例えば作業服は被爆しているので使い捨てにされていく。2次冷却水とて放射性物質が含まれていないわけではなく、これをろ過している。ろ過したフィルターの処分はどうしているのか。このように膨大な量にのぼる原発廃棄物は、東電の経費によってではなく、税によって処分場を建設し地中に埋設しようとしている。この巨額の支出は発電コストに計上されるべきなのだが、計上されていない。
 今回の事故の補償を完全にするとしよう。東電が倒産しただけでは払いきれるはずもない。菅は増税して補償費用を出してやる腹づもりのようだが、政府が絡んだところで既に払いきれる額ではなくなっている。
 牧場の家畜はすべて処分する以外にはない。この直接の補償代金に、牧畜によって得たであろう遺失利益の補償が上積みされなければならない。さらに、今後数年におよぶ牧畜地の汚染の除去と十数年に及ぶであろう商品の販売の低迷を補償するとすると、1牧畜家当たり数億円の規模になるだろう。これだけで数千億円が消える。
 農家はもっと数が多い。今年の遺失利益に避難に要した特別な支出を加え、今後の「風評被害」を加えれば1農家当たり、これまた数億円になるだろう。農家の個人所得は低いが、家族労働で数人が働いている専業農家では1農家あたりの年収は1千万平均になる。これが10年近く続くのだから、平均で1億円は払わなくてはならない。
 そこで政府は姑息にも被害レベルを7に上げ、補償を値切る伏線を張った。さらに「風評被害」と喧伝することによって、不当な風評被害にまで補償する義務はないとする伏線を敷いている。
 農地や牧草地の汚染は少なくとも10年は続くのであるからして、福島産の農産物が売れなくなるのは「風評被害」ではなく、当然の措置としてあって然るべきことですらある。「風評被害」と騒ぎ立てるのは、食物を生産する農家の良心が言わせるのではなく、補償をせずに済まそうとする政府や東電の黒い下心がなせる出来事である。
 ここまでで、数十兆円の被害額になる。これを発電コストに算入すべきである。途端に東電は破産。コストの範疇にすら入らないのである。
 だのに、えせ学者どもはコスト安を平然と主張して恥じない。
 さらに、避難を余儀なくされた数万人の農業以外の人々の遺失利益と漁民の直接的遺失利益を加えれば、100兆円の大台に乗ろう。

実際にどのように主張されているか見てみよう。
太陽光発電のコストは49円とされ、原発の発電コストは4.8円とされている(週刊ダイヤモンド)。この場合の太陽光の49円は、発電した電気の買取価格をコストとして計上している。買取価格は、太陽光発電の普及のために政策的に高く設定されており、厳密な意味でのコストではない。大規模に普及していけば10円程度になるとの説が有力である(同誌)。だが、タイトルは、「太陽光は原子力の約10倍」となる。
仮に太陽光発電の買取価格をコストとしても、原発設置と廃棄物処理に投入されている税を原発のコストに算入すれば、原発の方が高くつくというのが反原発運動の常識であった。
ここに今回の補償をいれれば、原発は圧倒的に高くつく発電手段ということになる。
「原発は最も高くつく発電方法だ。」

2. 太陽光発電で遅れをとった日本

 日本の太陽光発電は世界一の技術をもっていた。三洋電機の太陽電池は発電効率世界一だし、シャープや京セラの太陽電池は耐久性を加味した場合の効率世界一との評価を得ていた。が、多雨などを理由に太陽光発電に消極的だった小泉政権時代に、もっと日照時間の少ないドイツが太陽光発電を奨励し、買い取り価格を高く設定することによって性能では劣る自国メーカーを中国にも売り込み世界標準にしてしまっていた。
 こうした最中に新潟地震があり、主力工場の打撃を受けた三洋電機は倒産の羽目になり、パナソニックに買収されるまでに弱体化した。
 原発がコスト的にも全く展望がないことをしっかりと認識し、太陽光発電の効率化および蓄電技術の開発に投資も人的資源も集中していくことによって成長産業を手にすることが出来る。このことは、金子勝さんがリーマンショック後に特に力説している。金子さんはブラックマンデーからの回復が新産業への資本投下によってなされた点にも注意を喚起し、この視点からも新産業である太陽光発電に資金を集中的に投下すべきだと力説されていた。
 それから2年。改革政権だったはずの民主党政権は対米追随の菅政権に簒奪され、未だに太陽光発電への政策的配慮の一つもなされていない。

3. 骨の髄まで対米追随の菅打倒!

 福島の原発は耐用年数の期限が近づいていた原発である。さっさと廃炉にしておけばよかったのだ。現に、震源により近く津波にも襲われた女川は重大事故にまで至ってはいない。さらに、事故直後に廃炉にする決断をしていれば、水蒸気爆発も水素爆発も回避できた可能性が高い。
 だが、東電も菅も廃炉の決断をせず、事態をひどいものにした。なぜ?!
 米国は3月12日の時点で冷却水の空輸を提案したのに、菅が断ったのは無知ゆえなのはもちろんだが、廃炉への決断がついていなかったことによる。一国の首相の無知はおそろしいことだが、さらに恐ろしいのは米国ジェネラル・イレクトリック(G・E)社への遠慮から正しい判断ができない奴隷根性である。
 GE社製の原発の事故なのだからGE社が実は一番よく構造を知っているし公表しない弱点も知っているのである。事故処理にGEを入れればよいのに、遠慮して断わっている。これが反米意識や独立国としてのプライドからくる行動ではない証拠に、その後、自国でできる救援作業に米国海兵隊を入れ、わざわざ声明を発して感謝している。わざわざ「日米同盟」などと形容詞まで入れてである。そればかりか、GE社製の原発であるという事実すら隠そうとしている。原発を売り込むことを国家的に行っていた菅なら、日本製の原発でないことを強調し、女川を宣伝し、日本の原発は安全だから今後とも原発は維持し、後進国に売り込んで儲ける(たかが知れているのだが)のだと高らかに宣言すべきであるのに、全く沈黙し、後始末に税を投入しようとまでしている。
 普天間基地移転も対米追随を決め込んでいる菅の犯罪性が、今回の原発水蒸気・水素爆発を惹起するという事実をもたらした。
 対米追随で、自分で考える能力も姿勢もない菅政権はただちに打倒しなければならない。

4. 洪積台地に新住宅街を

 この主張は『震災列島』で石黒耀さんが2004年にはっきりと表明している。
 こうするならば、台地をブルドーザーで整地しライフラインを埋設しなけばならない。この決断もできず、かといって再び津波におそわれる沖積平野に住宅を建てることの決断もできないでいる。
 土地の所有関係を考えるならば、復旧が一番安易な方法だが、台地を買い上げここに旧土地所有関係を移し変え、旧土地は公共用地にするなどの決定をしなければ、何も動かず、暑さにともない避難所の衛生環境も悪化し、収拾がつかなくなっていくだろう。
 洪積台地に大胆にシフトするには、税の投入が絶対に必要である。税を投入して旧来の所有関係(換言すれば貧富の差)を再興するのは、あらゆる意味でおかしなことで、資本主義的手法では一気にはできない。だが、資本主義に取って代わるものが出来ていない以上、旧市街地をすべて公共用地にするという手法で乗り切る以外にはないだろう。また、旧所有関係を移し変えるとしたところで、海との関係で成立していた土地の位置関係を移し変えることなどできない。
 こうしたあらゆる欠点を含んだ上でも、旧市街地に旧市街を復旧することに賛成し、ここに税や義捐金を投入することを是とする人々は少ないだろう。
 必要なのは決断なのだが、一切を決断できない菅に首相をさせておくことはできない。


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