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菅政権崩壊後どうするのか

渋谷 一三
354号(2011年2月)所収


<はじめに>

 アラブ世界が揺れ動いている。チュニジアに続きエジプトで政権が崩壊し、バーレーン、リビア、イラン、スーダンなどに波及している。チュニジアは「民主化」という概念で捉えることができたが、エジプトではすでに米国のご都合が見え透いている。内政干渉もいいところだ。イスラエルをアラブ世界への楔兼橋頭堡として確保し続けるため、反米政権が成立する前にムバラク政権を見限った方がよいとの判断が働いた。もう、民主化闘争の勝利などとは呼べない情況がうまれている。
 3例目となるともっと純粋ではない。カダフィが外国勢力の手先に負けないと言うのがあながち間違いでもない情況がある。内戦と言おうが、デモ隊に銃を向けたことは正当化されないし、放火煽動分子がいるのも確かだが、カダフィが革命家ならば、逮捕しこそすれ、銃殺することはないだろう。それが政権を担った同志の離反を招いているのだろう。
 歴史的な動きが表面に出てきていることは確かだが、その分析をするには、あまりに情報が偏っている上に情報量自体が少ないので、次号以降に分析を回させていただきたい。
 この歴史的動きのなかで、全くお話にならない菅政権の崩壊は一刻も早い方がよいし、打倒するまでもなく崩壊するのだが、崩壊が必然であることを理解していない人々が余りに多くいるので、本稿では、菅政権がどれほど現実離れしていて崩壊する以外にないのかを丁寧に論証することとしたい。
 先に挙げたアラブ世界の地殻変動を分析する力どころかその姿勢すらない菅政権の階級的位置・性格はどこにあるのかもついでに暴露されることとなる。

1.小沢が何をしたというのだ。

 検察が2度も起訴を試みて起訴することができなかった「冤罪」を、皮肉なことに「起訴すら試みられない支配階級の側の組織犯罪」から「庶民」を守る目的で作られた検察審査会が無理やりに起訴に持ち込んだのが、今回の小沢さんの被起訴です。
 これだけでは弱いと思ったのか朝日新聞などは、小沢さんが古い利益誘導の政治をするために公共事業の恣意的復活をしていたかのように報道している。決して裏をとっているわけではない。要するに朝日新聞は菅が小ブルジョアジーの利益を代表する政治を行っていると思い込んでいる。勘違いの思い込み。これで報道機関だというのだから笑止千万である。
 一体小沢が何をしたというのだ。元秘書の代議士は逮捕され自白を強要され「落ちて」しまった。これ自体が十分に冤罪なのに、「秘書に罪を着せて知らぬ存ぜぬを決め込んでいる小沢」という図式にはめ込んで煽動しているのがマスコミである。百歩譲って、小沢が承知の上で銀行から融資を受けるために4億何某の金を動かしたとしても、それが何だというのだ。新進党時代の金をそのまま使うわけにいかないから、いわば4億円を担保に4億円を借りるための操作をしただけのことである。このことに小ブルジョア特有の「潔癖」症で異を唱える人は、なお選挙に金がかかるという現実を見たくないと目をつぶり、結果として自民党に敗北したがっている人々であり、自民党が合法的に企業から献金を集め、潤沢な選挙資金で連勝しているという単純な事実を認めずに、結果として自民党を支援している人々である。
 小沢さんを攻撃すれば支持が回復すると思っている菅・岡田は、民主党の地すべり的勝利の理由を未だに理解していない。
 小沢がばらまきの公約を言ったから勝ったのではなく、無駄な公共投資をやめるだけでこれだけの「ばらまき」すら出来るのだという政治手法を支持したのだ。言い換えれば、「ばらまき」への圧倒的支持を力に、大企業を潤すための公共事業を止め、中小企業を潤す公共事業(だから地方「分権」)にとってかえ、農業株式会社に対して小ブルジョアとしての農民を復活させる政治路線に多くの国民が「展望」を見出したからこそ民主党は地すべり的勝利をしたのだ。
 だが、今の菅はどうだ。軍事的には米国追随の上、自民党政権ですらしなかった武器輸出に手を染め、過去のものにすべき重厚大企業擁護を意図して時代錯誤のTPP加入を追い求め、国債のランクづけを上げ、米国の民間格付け会社の策略に踊らされることを目指して、消費税の倍増を図っているだけにすぎない。

2.TPP加入は何の意味も持たない。

 EUは一つの経済圏としての総体を時間をかけて構築してきた。その内部で関税がないのは当然のことだ。これに対して、遅ればせの米国が「面倒くさい」=「自国の一部の利益を譲らなければならない」構造体を作らずにEUから基軸通貨ドルの座を奪還するために発案したのが「関税自由協定」網であり、その一部がTPPであるにすぎない。
 考えてもみよう。自動車や電機は日本で生産して輸出しているわけではない。それでは国際価格にならないので、多くの部分が海外での生産し、海外で販売している。GDPには関係ないのである。だからこそ、日本市場用の一部を国内で生産するために子会社を作り「持ち株会社」を合法化し、派遣社員という正社員の3分の1から4分の1の賃金で働かせる制度を生み出したのだった。多くを海外で直接生産している重厚長大産業にとって実はTPPは何の意味もないことがお分かりだろう。キャノンの御手洗などと菅などは、この単純な事実を理解することもなく、工業のためには関税の撤廃が必要だと本気で勘違いしている。
 例えばアマゾンは本社をあくまで米国内に置き、現地法人を作らないという形式をとって進出先国(例えば日本)の税を納めず、唯一米国にのみ米国式税を納税している。何でもありの「我こそルールなり」をなりふり構わず行っている。米国のトヨタ車は米国で粗雑に生産し、米国に納税し、米国の労働者を雇うことで米国のGDPを増やしている。TPPの入り込む余地などない。逆に米国企業が米国で生産したものを日本に売りつけるためには関税は邪魔だ。ただでさえ粗悪な商品を売るためには、日本製や東南アジア製の商品より安くなければならない。特に日本製よりは安くなければならない。TPPは必要だ。断固として必要だ。米国のために。
 菅のTPP加入政策は、米国の利益になり、日本の利益にはならない。

3.農業はどうなるのか。

 自民党は農業法人による農業賃労働者の創出によってTPP等の農業関税自由化を乗り切れるとうそぶいて、農民にTPPを飲ませようとしてきた。
 牛や豚を飼っていても旅行に行けますよ。農民でも週休2日制が実現するようになりますよ。どうせ高齢化して荒地に戻る農地なのだから、売らないまでも貸してくれますから農業規模が拡大し、国際競争力をもてますよ。
 おおよそこうした骨子で宣伝を繰り返してきた。現在もその立場に変わりはない。だが、どのように単位耕地を拡大したところで、そのことで国際競争力を持ちえることは有り得ない。日本の平均耕地面積は1.4haであるのに対し、米国は180ha、欧州ですら50ha。欧米が牧畜業の比率が高いから平均耕地面積を押し上げる効果があることを勘案したところで、単位耕地面積の拡大それ自体をもって国際競争力を持ちえるというのは真っ赤なうそである。国際競争力を持てるとすれば農産物の品質の高さであり、日本はすでに農産物の品質の高さを育んできた歴史の遺産を持っているとすら言える。
 TPPに加入するために、農業構造を改革しようというキャンペーンは、実は農業の崩壊に打つ手を見出せなかった大ブルジョア、もっと言えば重厚長大の古いブルジョア階級が「市場」という神の手に(だから、要するに無作為に放置する)農業も委ねると宣言したことと同義である。
 農産物の高品質化=「食の安全を守る」を保持し発展させる方向に寄与する農業政策が正しい農業政策であるかどうかの指標になるのだが、似非補助金論者は高齢化世帯へのばらまきに終始する。高齢化した農家を農家として維持するために「必要な行き過ぎ」としてばらまきと同じ現象が出ることは否定すべきではない。「減農薬栽培をすれば補助金を出す」とすれば、高齢化し、自家菜園に近い細々とした農地で独居老人が手で耕している「農家」も補助金を受けることができる。こうした「ばらまき」は良いのだ。農村地帯の人口を維持することにもなり、限界集落が廃村になり後戻りできないまでに農村が破壊されることを防ぐ副次的効果すらある「必要なばらまき」である。
 自民党はこうしたバラまきを否定する。自らが取ってきた農業政策が、農業を破壊することを促進するための例えば減反などのバラまきだったからである。「ばらまき」とひと括りにする能力しか持たないからである。
 菅は自民党的ばらまきすら否定し、小泉流農業無策を決め込んでいる。農業政策でも古いタイプのブルジョアジーの手先である。

4.TPPでも農業でも「市場至上主義」の古いブルジョアの手先としての菅政権

 古いブルジョア(米国流ではエスタブリッシュメントと言われる)の手先として振舞うことにより政権を延命しようとしている菅にとっては、小ブルジョア路線を明確に取り、代表選に立候補して地方への分権(だから税収の移譲も)を具体的に措定した小沢は、感性的にも受け入れられなくなっている。小沢を諸悪の根源にし、消費税値上げに言及することで参議院選を敗北に導いた自らの責任をないがしろにし、無政府状態を維持するための政権を延命しているのが菅にすぎない。一刻も早い崩壊が望まれるゆえんである。
 小沢民主党は、重厚長大の古い大ブルジョアはすでに国際化しており、それこそ「市場に委ねておけばよい」として、ここに投下していた官僚資源や金を切ることによって増税なしに財政再建ができる道を模索し、具体的地方分権化に着手しようとしてきた。だが、菅の無理解・無能によって民主党の歴史的敗北とともに小沢路線も葬られよう。
 小ブルジョアの主導による改革路線が閉ざされる中で、労働者階級の政党は崩壊したまま(あるいは建設されないままと言ってもいい。どっちだっていい。)の情況が引き続く。自公(+みんなの党)政権が復活し、TPP加入・消費税増税が行われ、小さな政府を標榜しつつ過去のものとなった官僚機構を解体することが出来ずに肥大化したままの官僚機構を抱えた大きな政府が続くことになる。消費税を10%にしたところで、古くなった官僚機構(外郭団体の全てと現官僚機構の一部)を解体できなければ、財政再建はありえない。介護保険制度の創設によって介護施設が非効率なものとなり雨後の竹の子のように乱立したのに、介護が必要な人には利用できす、有閑老人の社交場としてのデイケアと「姥捨て山」として利用する「家族」のための入所施設ができただけになったように、消費税増税は無駄遣いの余地を増やしてあげるだけの結果になる。居酒屋チェーンの社長が介護に乗り出して儲けを吸う二の舞や三の舞が見られるだろう。

5.

 かつて、「総選挙がいつ行われるか不透明な状況であり、今解散することは自民党には不利であることも確かだが、民主党が勝つのは歴史的必要性に根ざしており、いずれにせよ民主党が勝つ以外にはない。」と書いた。
 今、全く逆だ。「総選挙がいつ行われるか不透明な情況であり、今解散することは民主党に不利であることも確かだが、自民党が勝つのは歴史的必然性に根ざしてはいないのに、必定だ。」
 筆者は民主党の勝利の先に小ブルジョア路線の成熟を見、この成熟の中で小ブルジョアの政策では解決されない労働者階級の利害の鮮明化と成熟が醸成されることを望んできた。
 この立場に変わりはないが、菅による歴史の後退は30年分にもなろうか。
 ほっておいても崩壊するが、後ろから押してあげて、一日でも早く菅政権を崩壊させなければならない。


−以上―


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