共産主義者同盟(火花)

民主党内闘争

渋谷 一三
353号(2011年1月)所収


菅政権が大ブルジョアへの摺り寄りを鮮明にした。小沢さんが代表選挙で敗北したのは、結果として小ブルジョア政党としての民主党の純化を押し留めてしまい、本来自民党が遂行すべき政策をまねる菅政権という中途半端な政権を生み出すこととなった。

1.TPP加入はどういう結果を生み出すのか。

 岩手の農民が早速TPP加入反対のデモ行進を行った。一切の関税を自由化するならば、農産物の大半が大打撃を受けると予想するからである。他方、加入することで何かメリットがあるのだろうか。工業製品が無関税で輸出できるというのだろうが、例えば電気製品が韓国のサムスンに負けるのは、製造コストの段階で既に安価な上、為替レートによってより安価になるからである。日本の電気製品は、だから既に輸出用はマレーシア製だったりベトナム製だったりしている。日本製のまま輸出しているのは高性能製品であることから、TPPに加入することによるメリットがそうそうあるとも思えない。一体、菅という男は何を考えているのか分からない。不勉強なくせして独裁的な人間なようだ。
 農業にとってはどうなのか。中国産のにんにくは青森産のにんにくの3分の1から4分の1の値段で売られていたが、餃子事件以降、中国産農産物が農薬で汚染されていることが広く知られ始めると、中国産が売れなくなり青森産が売れ始め、価格差は2倍程度になった。
青森での増産が本格的に始まれば中国産は殆ど輸入されなくなるだろう。中国産ということが隠蔽される加工業務用に輸入されることになるだろう。
 この例を検討してみよう。中国産にんにくが一球2円で輸入され、青森産にんにくが一球200円で仕入れられたとしよう。輸送および販売のコストが88円とすると、中国産は90円で売られ、青森産は288円で売られることになる。実際は輸送コストが中国産の方が高いので、青森産は280円ぐらいとみてよい。「原価」で40倍していても、販売価格は3倍程度になる。同じことだが、青森産の「原価」が半分になっても、販売価格はそう下がらず、中国産の2倍までしか下がらない。要するに販売価格の半分以上が流通コストである日本市場では、「原価」の価格差を緩和する作用が働くことになる。
 ここに補助金を投入すれば、関税が0であっても競争力を維持することは可能である。品質が上の農産物は十分に競争力を保持できる。
小沢さんの構想における補助金はこうしたものであったと推測できる。フランス型補助金である。だが、こうした「哲学」を持ち合わせていない菅によって、補助金は換骨奪胎、減反補助金というマイナスの補助金になり、結局のところ米価が補助金分だけ買い叩かれ安くなっただけの結果をもたらし、農業流通業者の潤すための補助金になっただけだった。
 菅政権の下でのTPP加入は確かに農業への大打撃をもたらしそうだ。小沢の選挙区の岩手の農民が真っ先に反応したのも偶然ではないだろう。補助金の出し方が違うのだ。

2.同床異夢のTPP 

さて、話にならない菅政権でなく小沢政権だったとして、補助金をうまく出して関税を撤廃することにうまみはあるのだろうか。
農産物には補助金をかなり出さなければならない。菅政権の出し方では大規模農家ないし農業法人が生き残る自民党方式と同じ結果が生み出されるだろう。であれば、補助金を出さない自民党方式の方がよい。
補助金を出しながら、国際競争力を保持できるように小ブルジョアとしての農民を育成していく。これがフランス方式であり、自給率が先進国中で最低に崩壊している日本の農業の再建策として小沢さんが構想している方式である。
菅政権にはこうした長期的構想などなく、支持率の低下に右往左往して自民党政治を踏襲しているだけの話である。
工業製品は日本製でなくとも日本の企業の製品が「輸出」される。農産物は農業法人なり大規模農家なりによって再生されるのだろうか。
 これは別の人類史的実験ではある。農業分野でも大ブルジョアジーを育成し、農業小ブルジョアジーを席巻しようとする試みである。
ソホーズないし中国人民公社で失敗した集団式農業を会社経営方式によって成功に導くことができるのかという実験ではある。週休2日制による農業従事という構想は、派遣労働で疲弊しきっている労働者階級下層にとっては魅力的に聞こえる。ワタミ社長などものりだしている。人類史的実験ではあるものの、日本においては飲み屋・介護・受験産業と利潤さえ上がればよいという社長がのりだしている事実に象徴的に現れているように、成功したとして、農業分野においても派遣労働者が生まれるだけで、不断の技術革新と創意工夫が求められる農業において篤農家が果たした役割を担う人材を生み出すことができずに、中期的には失敗することが予想される。
 菅にはこうした自民党農政のレベルもなく、農薬付けの米国・中国産農産物が日本市場を席巻することにより、最後的に日本の農業を破壊することになる。自民党以下のどうしようもない結果を生む。一刻も早く菅政権を打倒するべきである。
 こうした必然性がある以上、早晩、菅政権は崩壊し、自公連立政権が復活することになる。10年以上は民主党政権に戻ることはないだろう。おそらく、小沢グループの離党により、民主党は消滅する可能性が一番高い。

3.民主党も労働者階級にとっての次善の策ではなかった。

 このことがはっきりした。これがこの間の民主党による政権奪取の唯一の成果だった。
 これは、労働者階級の成熟のための大切な一歩だった。
 小沢を切れば支持率が上がるかのように思っている菅の無能さは論評に値しない。
 農業を完全に崩壊させられる前に菅政権を打倒しなければならない!




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