共産主義者同盟(火花)

信用収縮の動き

渋谷 一三
331号(2009年3月)所収


 オバマ政権が発足した。日本では麻生が解散すら行えずに無駄に月日を重ねている。ブルジョアジーはこの程度の人物しか生み出すことが出来なくなっている。体制維持のための頭脳はもっぱら小ブルジョア階級出身者に依存している。尤も、これは米国とて同じでブッシュ程度の人物しか生み出せないでいる。資本家も同じ。資本主義に特有のことではなく、死滅しつつある社会制度に特有の現象かもしれない。
 オバマが黒人と白人の混血であることと民主党であることから、世界各地で反米感情の低下が伝えられていますが、これは危険な兆候でしょう。事態の正しい認識を妨げるからです。尤も、ベネズエラのチャベス大統領などの反米は、資本家階級内部の反発にすぎませんから、米国のみの利害の貫徹という粗野なブッシュとの対立にすぎず、資本主義全体の利害のために米国とベネズエラの資本家階級の利害の調整をする用意のある政権には、こちらも譲歩する用意がありますよという信号を送っただけのことであって、「反米感情の低下」ではないことは確かなことです。
 オバマはイランからの撤兵は言っても、アフガンからの撤兵は言わず、増派を主張し、イスラエルによるパレスチナ人民の大虐殺に無言でいる。所詮、米国の大統領にすぎない。

 信用収縮の動きにどのような「対策」が採りうるのか。それが本稿の目的ですが、オバマが米国の大統領に過ぎないという政治上の象徴的な出来事は、経済上も本質的なことです。
 2月10日の米政府の経済対策の発表を受けて米国株式市場平均株価は382ドル下げて終わりました。このことをどう読むのかということです。それが本質的なことです。

1. ポール・クルーグマン(オバマ支持)の考え=財政出動

 ポールは、ITバブルの崩壊からの立ち直りを「確たる回復が見込まれるようになったのは、アラン・グリーンスパンがITバブルを住宅バブルに取って代えるという策を弄したからに過ぎない」と喝破した上で、「連邦政府はマケインが提案したような額面価格ではなく、買い叩いて不動産抵当権を買い上げ、居住者が住むべき家を手放さないで済むように返済期限を改めることが出来る。」「公共事業を経済刺激策として位置づけることへの批判は、橋の改修や鉄道の改良が完了するころには不況は終わっているというものだが、今回の不況はすぐには終わらない。」から、として、財政出動とケインズ式の公共事業とを解決策として提示している。(現代思想1月号)
 橋の改修や鉄道の改良程度の公共事業しか思いつかないポールさんの古臭さと、マケインとの相違は買取り価格に表わされる資本家のための買取りか労働者のための買取りか程度の経済対策で、どうも説得力に欠けます。
 ま、とにかく、国家財政が一時的に赤字になろうと、財政出動によって今回の金融不況を解決できると考えている。米国民主党のトーンも、どうやらこの線で動いています。
 そうなのだろうか?

2. 経済対策が発表される度に株価が下がるのは、偶然か?

 このことは、米・日を問わない。マスコミは決まって「『経済対策が不十分だとして』株価が下げ止まらない」という解説を加える。一体だれの指図で、こうした決まりきったコメントを機械的につけるのだろう。まず、このコメントを疑うべきです。読者は一遍、経済対策が発表された翌日の株価を調べてみてほしい。ほぼ例外なく株価は下落しています。
 まずこの事実を承認することから出発し、どうして株価が下がるのかを考えるのが自然なことです。であるのに、事実を認めず、不十分な経済対策に市場が不満を表明したという、誰が発明したかも定かでないコメントに振り回されて納得しているようでは、何も解決できはしないでしょう。
 まず、蓋然的事実。景気対策が発表されると、株価は下落する。その後、上げ下げを繰り返しながら、徐々に株価を上げていく。なお、景気対策を引き出す余地があるとみるや、この段階で一気に株価を下げ、次の「大幅景気対策を催促する。」
 こうして、一般的には「もう引き出せない」と見るや、通常のポーカーゲームとしての株価の上下運動に戻ります。調べることが出来るなら、おそらく前回のバブルゲームで損した分を投資家が回収したであろう額と「景気対策」として金融市場に投入された額とはおおよそ均衡するはずである。しかし、よく考えると、バブルゲームで得をした人の分の吐き出しは行われない。何も生み出していない架空資本のゲーム本来の性質からすれば、損をした人の金額と得をした人の金額は同じになり、社会全体としてはゼロサム(差し引きゼロ)になるはずなのですが、「景気対策」で金が投入されることによって、「得した人は得したまま。損した人は損した分を大なり小なり国家が代わりに払ってくれる」のです。
 この事情が象徴的に現れたのが粗野な剥き出しの資本主義として有名な米国のAIG役員ボーナス問題。国家から資金を投入していただいているにもかかわらず、会社を倒産の危機にさらした駄目役員に数億ドルの巨額の役員ボーナスが払われ、さすがに、もっとオブラートにくるみなさいと大統領が言わないといけない事態になった。大統領がこうでも言って、オブラートにくるまない限り、追加支援策を国際的に要求するという破廉恥な政策は実現しなくなる。こうした根拠によって、米国投資グループなるAIGの役員ボーナス返上の合唱が生まれたのです。ですが、本来役員報酬自体がゼロにならなければならないのに、役員報酬返上の要求は誰もせず、「損した分を国家が大なり小なり補填してあげる」構造が、番頭や手代にまで及んでいることを示しています。
 こう見てくると、経済対策が発表される度に株価が下がるのは偶然ではなく、もっとせびれると踏んで、薄商いで株価を意図的に下げていると断定することができよう。下がった底で株を買い、一旦あげたところで売り、次の経済対策のときに下げ、下げたところで買いなおす。これを繰り返すごとに「損失が補填され」、この繰り返しの回数が多ければ多いほど「損失補填」の額は多くなるという仕掛けです。

3. 信用収縮は回避されなければならない。

 2項で見てきたように、「景気対策」の本質は金融ギャンブルで損した投資機関への損失補填である。である以上、信用収縮がおき、実体経済が低迷し、回りまわって金融資本が損をする事態は断じて回避されなければならない。様子をみつつ毎回手探りで、とにかく信用収縮を回避するまで、「なんぼでも金を遣う」のがブルジョア政府の本質です。
 なにがなんでもそうする以上、乱暴ですが、あまり丁寧に分析する気にもなれません。

―以上―




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