共産主義者同盟(火花)

新自由主義とは何だったのかII

渋谷 一三
328号(2008年12月)所収


<前稿の要旨>

「社会主義圏」への対抗と、大恐慌への反省から生まれたケインズ主義が、国家財政の赤字に直面するとともに「社会主義圏」の崩壊という条件を得て、終焉した。所得の再分配を国家予算という枠組みを通して行ったのが、ケインズ主義の政治経済体制だったが、これが終焉したにも拘わらず、この政策を担った国家官僚機構は残ったままとなっていた。日本で見れば、膨大な道路整備という名目の公共事業を行った国土交通省の出先機関がまだ残っており、農水省の出先機関と合わせるとそれだけで2万1千人の公務員が未だに余剰のままとなっている。そればかりではない。道路公団自体もまたケインズ主義の残滓としての機構なのです。少し見ただけで、事業がなくなったのにその事業を遂行するための行政組織は残ったままであることが分かります。
新自由主義はこのケインズ主義の残滓を一掃する必要性を根拠に流布したが、ケインズ主義の残滓を一掃するという自らの歴史的任務に無自覚であるために、規制緩和という二階から目薬をさすような政策を取ってきた。この一つの結果が貧富の格差の拡大であり、利子生み資本の跋扈でありました。
新自由主義という誤った政治経済思想と決別するとともに、ケインズ主義の制度的残滓の一掃に自覚的な政策をとることが「21世紀初頭の資本主義」にとって肝要なことです。

<本稿の要旨>

規制撤廃は「悪貨は良貨を駆逐する」現実を生むだけです。したがって、規制緩和という表現をとったものの、その基準は米国流資本主義の基準でした。米国基準の普遍化というこの限界に無自覚的ではあれ突き当たったことの反映が、欧州での社民政権の成立という運動であり、中南米・中東での反米政権の成立という運動であったのでしょう。
08年の「金融危機」で、米国基準が崩壊し、新秩序が固定されるまでの間、さまざまな綱引きが行われることとなるでしょう。
バブルの生成と崩壊を繰り返すことが利子生み資本の運動の必然のように見えるが、どうなのか。架空資本のみを悪視し、産業資本に投入される資本を良とする傾向があるが、果たしてそうなのだろうか。膨大な資金が産業資本として投下されてしまえば、1929年大恐慌を遥かに上回る過剰生産を生み出してしまうのではないだろうか。とすれば、過剰な資金(過去の労働)はギャンブル資本主義としてギャンブラーの間で消費されるのが現実的根拠を持った妥当な合理的運動だということになる。
とすれば、利子生み資本の運動こそが資本主義の墓堀人としての運動となる可能性を孕んでいることになる。ならば、この運動との関係で社会主義が措定されなければならないこととなる。過去の労働が現在の労働を支配することの止揚、それが社会主義ということとなる。   
本稿では、この事情を少し検討していくこととなります。

1. 空売りを非合法化するだけで、株価の乱高下は相当に無くすことができる。=米国流の廃棄

 株というのは、一旦市場に売りに出された後は、買い手の間で売買を繰り返されるだけで、企業に資金が入るわけではない。それゆえに架空資本と命名される。けだし、妥当な命名というべきでしょう。企業がさらに株式市場で資金を調達しようとするなら、増資=増株という手段があるだけです。増株をするということは、その企業の利潤をより多数の株主との間で分けることを意味します。例えば、発行済み株式が1万株の企業が1万株の増株をしたら、一株当たりの配当は半分になることになります。会社が倒産ないし、解散した場合の資産の取り分が半分になると言っても良い。株主と会社の利害は反するのです。増株は、筆頭株主以外には増資した比率分だけ損益となる。このため、ヘッジファンドなど大きな発言力を持つ株主は一般的には増資に反対する。これが、企業にとっては株式市場離れを促進する要因となる。銀行を通じての資金調達の方が高くなるにもかかわらず、増株が出来ずに、高い資金調達を余儀なくされることも珍しくは無い。このため、トヨタのように年間の利潤が1兆円にもなるような企業の場合は、自らが銀行を開設することとなる。ソニーも同様の道を辿った。
米国の場合、へッジファンドが企業の資産を叩き売って利益を得て、企業を倒産させてしまう事態が連続した。
 さらに、空売りを容認している米国などの市場は企業の利益を損なう。
 株価の下降局面において、ある株を持っていないのに先に売る。連続的に売りに出せば必ず買いが入り、相場は必ず下落する。下落した時点で、売り浴びせを止め一挙に買いに転ずれば、先ほど空売りした株を手元に持つことになり、市場の閉まる時点で空売りした株を実際に売って決済することが出来ます。例えば600円した株を空売りし続け500円になったところで一挙に買えば、500円で買った株を600円で売ったのと同じ効果があります。要するに、上げ局面でも下げ局面でも儲かるのです。架空資本にとって空売り規制のない市場では株価の乱高下こそが儲けの源泉であって、安定的市場は好ましくはないのです。
 今回の「金融危機」で、この性質が如実に現れました。500ドルも下げた翌日には450ドル上げるなどの乱高下の繰り返しなのです。これを政府の対策の不十分性のせいにしている論調がほとんどでありますが、これこそ、架空資本への投資家の利益を代弁しているだけの論調なのです。なんやかんや難癖をつけて株価を下げて空売りによる利益を得、政府の対策発表のアナウンスを口実に株価を上げて売りぬき利益を得る。この運動こそが利子生み資本の運動の本質であります。このことを理解せずに、ギャンブル資本主義などと嘆いてみせ、あたかも正しい資本主義があるかのごとき幻想をふりまいている日本共産党などの論調は、架空資本「投資家」の代理人の役割を果たしている論調でしかないのです。
 そして、株価の下落を喧伝して、税から大量の金を掠めとろうとする論調に至っては、「ギャンブル資本主義」の手先であります。空売りを禁止し、一切の株式市場以外からの資金の流入・無償供与をなくしてしまえば、架空資本は利益を上げることができないのです。内輪の中で金が動いているだけのチンチロリンの世界、あるいはうどん屋とそば屋がお互いの商品を食い合って儲かったといっている落語の世界にしかならないのです。
 麻生程度の経済門外漢が2兆円の生活支援金だの、1兆円の「地方交付税」などのバラまきを行うのは、株式市場に外部からの資金を提供してあげる行為であり、架空資本を潤わさせる日照りの雨なのです。もしかしたら、それを分かっていてアホを演じているのかもしれない。まさか正直に「税から投資家へ3兆円を無償で差し上げます。」とは言えないでしょうから。
要するに、「百年に一度の非常事態」などと騒ぎ立てるのは、利子生み資本の思う壺に入ることで、経済対策効果などないということです。この程度のことが分からないブルジョア政治家は総退陣していただかなければいけない。ブルジョア政治家としての価値がないのです。空売りを規制することで十分であり、その意味では何の予算措置も要らないのです。

2.信用収縮に対処するために、投入してしまった膨大な資金は、結局のところインフレ要因となる。

(次号)




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