共産主義者同盟(火花)

洞爺湖サミット粉砕!反グローバル運動を革命的に支持し、
自由主義的国際労働運動潮流に対して、
共産主義的国際労働運動潮流を創出しよう!

流 広志
322号(2008年6月)所収


 世界的な資本攻勢、金融資本主義の危機、中国、ブラジル、インドなどの経済の急成長、世界市場の拡大と無政府性の増大、IMF・世銀・GATTの「ブレトン・ウッズ」体制の限界から、WTO体制への転換の過程での困難の増大の中で、帝国主義諸国は、FTA・EPAの二国間協定に活路を求めている。このような世界の自由貿易を促進するなどの資本主義的グローバル化の中で、労働市場の規制緩和などによる労働保護の削減、社会保障制度の後退、非正規雇用化、貧困化など、これまでかちとってきた労働運動の既得権が破られ後退させられてきた。
 その中で、国際自由労連(ICFTU)、国際労連(WCL)、そしていずれの国際労働組合組織にも加盟していなかった8つの組織とが合流して、国際労働組合総連合(The International Trade Union Confederation 〔ITU〕、加盟組織数:155カ国311組織:1億6,800万人〔2007年12月現在〕、会長:Sharan Burrow 書記長:Guy RYDER)が、結成された。世界の主なナショナルセンターが加盟する世界の労働組合センターが誕生したのである。資本主義的自由主義的な国際労働運動潮流に対して、革命的な共産主義的国際労働運動の構築が求められている。前者の潮流は、資本主義的経済成長を促進することで、その分け前をブルジョアジーに要求しており、資本主義の搾取・収奪には手を触れないし、そうしようとする革命的な労働運動に反対している。だから、プロレタリアートの解放事業の前に立ちふさがるこの壁を暴露する必要があるのである。

 その国際労働組合総連合(ITU)が、「G8労働大臣会合に向けた労働組合声明」(新潟2008年5月11〜12日)を発表した。以下、やや詳しく見ていきたい。引用が多く、ノート的なものになったが、ご容赦いただきたい。その中には、プロレタリアートが注意すべき事象を示すデータがあったり、この潮流の特徴をよく示している部分があるので、直接批判的に読んでみていただきたいのである。

 ウェブ上の仮訳は、まず、「OECD 各国の労働世帯が現在直面する経済問題の中心は、低迷する賃金である。米国においては、基礎インフラや社会的サービスといった防衛目的以外の公的支出が大幅に削減されるなど、この傾向は更に深刻である。この20年間、世界中で労働分配率が低下してきた。OECDが2008年1月31日に発表した統計によれば、2007年第3四半期において、大半のOECD主要経済地域では産業における人件費が低下した。賃金低迷の解消はインフレ圧力とはならず、成長を押し上げる。欧州では最近、商品やエネルギーの価格が高騰し、インフレが進行した結果、普通の労働者の購買力は抑制されている。途上国の成長を債務帳消しや開発援助で押し上げ、ニーズ充足に程遠い人々が消費を拡大できるようにすべきである」と述べている。

 このITUは、国際的な階級協調的改良主義的労働運動の一大潮流であり、ネオ・コーポラティズムの修正資本主義路線をとっている。もちろん、日本の「連合」もこれに参加している。この改良主義的労働運動の国際潮流は、OECD・ILOなどの国際機関と連携し、これらと結びつきながら、運動を進めている。G8洞爺湖サミットに向けて、この潮流は、「新潟アジェンダ」を発表した。それを含んでいるのが上の「声明」である。

 そして、「新潟アジェンダ」は、「われわれは、日本政府が新潟会合の議題に3つの小テーマ、すなわちワーク・ライフ・バランスと高齢化、労働市場政策と危機に瀕している集団および地域、持続可能性と気候変動に関する労働の課題を設けたことに留意する。これらは重要な論点だが、それらすべての根底にあるのは、G8 およびそれ以外の諸国にみられる不平等の拡大である」として、格差の拡大を中心テーマに押し出している。

 それから、「グローバル化が雇用、労働市場、賃金に対し及ぼす影響に加え、不十分な国内政策が分配に対して及ぼす影響は、各国間および各国内の不平等拡大を説明する重要な要因となっている。われわれはG8の労働大臣に対し、所得の公正な分配と機会の平等が政府の政策の中心に位置付けられるよう担保することを求める」と、分配政策をその基本的な解決策にあげている。そして、「手始めに、G8諸国の関連省庁および関連国際機関におけるすべての経済・社会政策が所得分配と社会的公正に及ぼす影響について評価すべきである。これにより「公正監査」という形態が確立するであろう」と調査を求めている。

 「OECD諸国において、世帯間の不平等を測定する「ジニ係数」はこの20年に6%上昇した。不平等の拡大は特に英国と米国において顕著である。英国においては、世帯間の総可処分所得のジニ係数は1970年代の27%から34%に上昇したが、このことは不平等がほぼ30%も拡大したことを意味する。収入格差が比較的大きいという問題に長く直面してきた米国においては世帯間の不平等は深刻さを増している。/国際的に見れば、国内外での格差拡大が顕在化している。UNDP1によれば、データが入手可能な世界73ヵ国のうち、53ヵ国(世界人口の80%余りを占める)において、この20年間に所得格差が拡大した」と格差拡大をデータをあげて指摘している。

 続いて、「先進諸国では、離職した肉体労働者および非肉体労働者の両方が、失業期間の延長や、再雇用の場合にも大幅な賃金カットをしばしば経験している。同時に、企業は労働組合との交渉において力を強めている。というのも、競争圧力、税裁定、拠点の移転や当該国からの「撤退」という脅しを振りかざすからである。その結果、生産性の伸びと所得の関係が切り離されることになった。最も顕著なのは米国などにおけるいわゆる柔軟な労働市場で、米労働統計局のデータによれば、同国では2000年から2005年にかけて労働生産性は16.6%伸びたが、労働者の中位所得は7.2%の上昇にとどまり、過去3年間のインフレ率を下回った。家計所得統計は、最富裕層の増加が全体を押し上げているので、不平等の拡大をさらに覆い隠している。米国における富裕世帯最上位1%の賃金所得シェアは1980年の6.4%から2004 年の11.6%へと増加した。すべての収入源を対象とした場合、富裕世帯最上位1%のシェアは1980年の8%から2004 年の16%へと倍増した」と述べ、労働生産性の伸び率が、労働者の所得の伸び率を大きく上回っていることを指摘している。このことは、ブルジョアジーが振りかざしてきた生産性基準賃金の虚偽性を暴露するものである。

 そして、「多くの国々では政府の政策自体により、力の均衡が労働者に対し不利に働いてきた。これは、労働市場の規制緩和、社会保障制度の縮小、高所得者・企業に対する減税、勤労福祉制度に関する政策の副作用など、雇用促進改革政策と喧伝されている政策を通じて行われた。このような一方的な労働市場改革は長い間、IMFによって提唱されてきた。これらはOECDの刊行物『成長に向けて(Going for Growth)』に反映されているが、OECD雇用戦略改訂版3における根拠によって疑問符がつけられている。世界銀行も毎年の「Doing Business」の発行で規制緩和に焦点を当てることにより、働く男女から基本的な労働・社会面の保護を剥奪することを先頭にたって助長している」とIMF・世銀が、こうした不平等の拡大の旗振り役となってきたことを指摘する。

 その問題点を「経済成長とグローバル化から恩恵を受ける人数の減少は、社会的結束に対する脅威となるだけに留まらない。適切な政策対応がなければ、自由貿易に対する懐疑が生じ、ひいては「グローバル貿易や投資に障壁を築くべき」といった提案への支持が集まりかねない。効果的な社会保障制度の再建と発展、およびすべての労働者に対する労働市場保護の適用は、単に社会的に必要というのではなく、市場が機能する上で不可欠な要素なのである」と指摘する。問題にしているのは、これらが、自由貿易を阻害することだという。そして、自由市場を機能させるためには、労働市場の保護が必要だという。

 「世界63ヵ国のデータを分析すると、女性労働者の賃金は男性労働者よりも平均で16%少ない」

 「グローバル化の果実の公正な分配と並んで、より多くのより質の高い雇用の創出が、政府の政策において最優先されなければならない。失業への取り組みには、政府、労働組合、使用者が参加する社会対話に基づき、マクロ経済および社会政策を団体交渉制度と効果的に調整する必要がある」として、ネオ・コーポラティズム体制の構築を主張する。

 「労働組合を組織し加入するという労働者の権利を再び実効あるものにすることは、発展途上にある地域と同様、先進国においても優先順位が高くなっている。労働組合が存在し、交渉しているところでは、低賃金は少なく、雇用の安定度は強く、労働者はよく訓練され、腐敗は少ない。つまり、経済の効率性や社会の公正さが高い。広範な団体協約の労働者適用はグローバルな公共財、すなわち成長の果実をより一層広く分配することを保障する重要なメカニズムとみなさなれなければならない」と労働組合の意義を強調する。労組の存在意義は、低賃金を防ぎ、雇用を安定させ、経済効率性と社会の公正さを高めるという。

 「さらに、雇用の不安定性や不安を減らすためには積極的な労働市場政策が必要で、ディーセントワークの要件に則した十分な所得、基本的保護、そして所得と技能を向上させる機会を提供すべきである。雇用保護、特に余剰人員解雇の事前通知は、硬直性の象徴として捉えるのではなく、「削減対象の労働者が生産的な仕事を他所で見つける準備を可能にする手続き」とみなすべきである」とは、積極的な労働市場政策とは、機会提供であって、労働市場の積極的な統制ではないし、企業の解雇権には手をつけず、横断的労働市場を前提としているということである。つまりは、「資本の自由」、経営権には手を触れないということである。しかも、余剰人員解雇の事前通知は、労働者が生産的な仕事を他所で見つける準備というように、余剰人員のあるような仕事は生産的ではなく、人手が足りない仕事は生産的だというのである。ここには、労働を単なる仕事ととらえる経済主義的観点が現われている。もっと正確には、労働=賃労働である。見事にブルジョア経済学的労働観に陥っているわけである。

 その上で、最低賃金制について、「累進課税制度に加え、ターゲットを絞った社会支出、団体交渉の適用範囲の拡大、政府の規制または社会パートナー間の団体交渉を通じて合理的に設定された最低賃金は、労働市場の最低ラインを決め、賃金格差のさらなる拡大を防ぐために重要である」と述べている。しかし、派遣労働問題からは、最低賃金だけではなく、労働日数の確保も合わせて対策をとらないとワーキングプア問題は改善されず、雇用対策が必要であることが明らかになっている。もちろん、尻抜けでなければ、賃金格差の拡大を防ぐという効果はある程度は見込める。

 そして、「発展途上国、先進国を問わず、世界中の全ての女性男性を対象とした、改善され、質の高い普遍的社会保護制度は、経済変化のプロセス全体を通じ、労働者に雇用保障を与えるために不可欠である。社会保障制度の極めて重要な論点として、税を財源とした社会保障、社会福祉制度、積極的労働市場政策には高経済コストが伴い、経済成長および発展を危うくするという主張がある。しかし国際的に見て、就労率と、GDPに占める移転のシェア、失業手当の法定上限(statutory generosity)といった社会保障制度の主要指標との間に負の相関関係はない。また、限界税率が全体的に高い国において就労率が低いということを示す証拠もない」と新自由主義的な「小さい政府」論を批判する。

 そして、最重要なものとして、「最も大切なのは、先進国政府が教育制度に投資し、技能水準を向上させる必要性である。生涯学習に投資するという過去のコミットメントを実行に移すことはG8各国政府の利益に適っている。また、発展途上の地域の教育、職業訓練、技能開発への投資を結集することは、先進国および発展途上国相互の利益となる。時間の経過とともに、こうした投資は今日の世界の不均衡に取り組む上で最も重要な要因の一つとなる可能性がある。これらの不均衡の結果、「(国境を越えた)人の移動」が生じている。グローバル経済においては移民と移動性の増大が見込まれるが、非合法、搾取的、不安定な形態の移民は、各国社会に倫理的課題を突き付け、失業に寄与し、社会的結束を脅かす。移民政策は移民の権利に基づくものでなければならず、また、送出国および受入国の両方における教育、訓練、技能開発の施策が含まれなければならない」として、今日の帝国主義的世界秩序を一切ばくろ批判することなく、それを前提としたグローバル経済下の不均衡の拡大による「(国境を越えた)人の移動」という目に付く現象のみを指摘する。この不均衡の拡大は、発展途上国への教育、職業訓練、技能開発への投資の集中によって解決するとみなしているが、発展途上国において、高い「教育、職業訓練、技能開発」を受けた層は、先進国に移出しており、これらを身に付けていない貧しい人々は、不法移民として国境を越えて先進国の不熟練低賃金不安定単純労働に就いている。先進国政府は、経済的にかれらを必要とする時には、不法移民を見てみぬふりをし、経済的必要が薄れると途端に不法移民を厳しく取り締まり、摘発し、追い返すなど冷たくあしらう。言うまでもなく見返りのない投資を功利主義者の先進資本主義国のブルジョアジーが積極的に行うはずもないし、そうするように強制する力は育っていない。全体としてもそうだが、「新潟アジェンダ」を実現できる力は、国際機関の決定や文書に記された言葉と、ネオ・コーポラティズム体制が構築されている労組が強く国家政策に関与している国家権力による強制によるものである。

 ILOがキーワードとしている「ディーセント・ワーク」(decent work)を共有している。「ディーセント・ワーク」とは、「ディーセント・ワークにはなかなか日本語訳で定訳がなかったのですが,政労使の間で「働きがいのある人間らしい仕事」と言おうということでまとまりました。ディーセントは英語で,そのまま日本語に訳すと「まともな」とか,「品のある」とかです。私は個人的には,仕事の品格を考えようと言っております。働きがいのある人間らしい仕事をすべての人にというのがILOの目標であります」(【特集】持続可能な企業の振興 2007年のILO第96回総会について 長谷川 真一(はせがわ・しんいち ILO駐日代表)大原社会問題研究所雑誌 No.593/2008.4)というものである。

 長谷川氏は、「このディーセント・ワークはご存じの方も多いと思いますが,四つの分野に分けてILOは活動しているわけです。最初が雇用,次が権利,そして保護,対話の4分野で,さまざまな仕事,労働の問題に取り組んでいこうということであります。/最近,このディーセント・ワークがグローバルな目標になってきています。2005年の国連世界サミットで完全雇用,生産的な雇用,すべての人へのディーセント・ワークといった諸目標を,ミレニアム開発目標達成努力の一部とする決意ということを言っている。このミレニアム開発目標というのは,国連が2015年までに,貧困を削減したり,男女平等を推進したり,いろいろな目標があるわけですけれども,その一環として,このディーセント・ワークを達成していこうということであります」と述べている。

 このように、「ディーセント・ワーク」は、国連・ILO・国際労働組合総連合の共通タームになっているのである。今、日本では、いわゆるワーキングプアの労働運動が広まっているが、そこでは、「ディーセント・ワーク」(「働きがいのある人間らしい仕事」)以前の日本国憲法25条の生存権を求める「生きさせろ」というスローガンが掲げられている。ものすごい落差である。

 上の「新潟アジェンダ」は、「最も大切なのは、先進国政府が教育制度に投資し、技能水準を向上させる必要性である」として、労働技能・労働能力開発を最重要課題としている。つまりは、資本主義的能力主義を基本としているわけである。

 つぎに、「新潟アジェンダ」は、「雇用不安定、ワーク・ライフ・バランス、高齢化への対応」について、「ミレニアム・バブル後の経済成長の回復は、G8 各国の労働者とその家族に対し雇用の安全保障と長期的な展望をもたらすことのない不安定な雇用が創出されてきたことと密接な関係がある。雇用の質の悪化は、ワーキングプアの増加という形だけで表れているわけではない。臨時契約に基づく雇用、アウトソーシング、偽装自営業者を含む労働の非正規雇用化の拡大は全て、労働者の保護を弱めることにつながっている。これにより、労働条件の改善が更に困難になり、ディーセントワーク達成に向けての足かせになる。また、労働者がこうした不安定な仕事から脱け出せない傾向もみられる」ことを指摘している。

 そして、この課題を「仕事と家庭各々の要求に対し、どのようにすれば労働者が使用者および家族の双方を満足させるべく折合いをつけられるかという課題に関し、これまでの政策的取り組みは十分でなかった。労働者と使用者を利するためには、柔軟な労働時間制度の実施を、時として提唱されているような、労働者個人とその使用者との合意だけに委ねるわけにはいかない。新しい労働時間制度の実施は、労働者代表と使用者との合同交渉および協定に基づかなければならない。労働者には、労働時間の編成、柔軟性、ひいてはより良いワーク・ライフ・バランスに向けたアプローチの立案と実施に関する決定において個人および集団としての意見を表明する手段を与えなければならない。有期契約雇用、パートタイム、ジョブシェアリング、テレコミューティング、テレワークといった労働契約は、社会的保護に準拠した純粋な選択であるべきで、ディーセントな保護を受けられる仕事に就けないような、労働市場で無力な個人に対し押し付けるべきではない」と、ワーク・ライフ・バランスの課題としてとらえる。それから、「労働者と使用者を利するためには、柔軟な労働時間制度の実施を、時として提唱されているような、労働者個人とその使用者との合意だけに委ねるわけにはいかない」と労使双方の利益になるためにと融和主義をうたっている。

 ここまでで明らかなように、国際労働組合総連合(ITU)は、融和主義的改良主義的労働組合の国際潮流である。それは、「労働者の健康に問題を生じ、極端なケースでは過労死に至らしめるような過度な長時間労働の文化にも、政策は対処しなければならない。G8 各国において労働安全衛生の規制を強化し、高い社会的・経済的コストを伴うこれらの新しい形態のストレス関連職業病を対象とする必要がある」と述べている点でも明らかである。ここでは、長時間労働時間の問題を「過度な長時間労働の文化」と文化問題に狭めている。言うまでもなく、資本主義における長時間労働は、絶対的剰余価値の生産の手段である。そしてそれは同時に労働強度の強化、協業や分業や機械や科学の応用などによる相対的剰余価値の生産の問題としてもとらえなければならないのに、それらのことに一切言及されていない。そして、かれらは、以下を提案する。

- ワーク・ライフ・バランスに対する使用者の不十分なコミットメント
- ワーク・ライフ・バランスの適切な選択肢の利用可能性
- 仕事と家庭生活に折り合いをつける上で支障となっている労働市場のジェンダー不平等
- ワーク・ライフ・バランスがキャリア・アップに及ぼす潜在的な悪影響
- 組織文化、特に過度な長時間労働の文化

 つまりは、「仕事と家庭の両立」と組織文化の改善ということである。資本主義経済に対する具体的な分析も批判もない!

 「高齢者問題」(略)

 次に、「地方および地域レベルでの不平等」について指摘する。

 「G8諸国の不平等拡大は地域および地方レベルにおいてもみられ、産業構造の変化、オフショアリング、高賃金の熟練工場労働の喪失が一定地域に集中する一方、サービス産業の成長は大都市産業圏に偏っている。ここにOECDが指摘したようなパラドックスが存在する。すなわち、「技術の進歩によって経済活動の地理的範囲が拡大可能となるはずだが、(中略)地理的集中はOECDのほとんどあらゆる国民・地域経済において相変わらず見受けられる顕著な特徴である」(“Globalisation and Regional Economies” OECD 2007(『グローバル化と地域経済』)

 そして次のような提案をする。

 「各国の成長に向けた政策を強化する他に、G8諸国における低所得地域を発展させるための構造的イニシアティブに新しく取り組む必要がある。実効性が証明されている政策には次のものがある。
 (1)地方政府、企業、労働組合が参加する戦略的な地方・地域計画策定、(2)積極的労働市場政策に裏付けられた労働力に関する調査、イノベーション、教育、訓練、再訓練に重点を置くこと、(3)インフラの刷新・開発、(4)労働および生活の環境および質の改善に重点を置くこと(5)低所得地域の経済構造の多様化に向けた中央政府の支援、である」。

 ここでも、政労使の合意による計画的な政策というコーポラティズムが基本とされている。その前提は、資本主義経済の成長を図るということである。

 気候変動問題については、「現状を放置した場合、気候変動は世界の年間産出高の5%の損失に匹敵するコストを全体として発生させ、それが恒久的に続くと国際労働組合組織は認識している。リスクと影響を幅広く考慮すれば、実際の損失は世界の産出量の20%強になる可能性がある。反対に、温室効果ガスの排出量を削減して最悪の結果を回避する、すなわち2050年までに排出量を85%削減した場合、そのコストは世界の年間産出量の1%にとどまる。それゆえすべての政府は、これらの目標を達成するため、排出量削減に必要な行動をとらなければならない。その際には、「共通だが差異のある責任」という原則に基づき、各国の経済・社会発展の度合いにあわせたものとなる。気候変動対策は経済活動と雇用に変化をもたらすが、対策をとらなかった場合の人間社会と世界経済、そして持続可能な雇用の見通しに対する影響は破壊的なものになるであろう」と述べ、コスト問題を基本にして問題を認識している。
 その上で、「持続可能な雇用に対し政策枠組みを確立すべきである。これには次を含むべきである。(1)エネルギー節約および保全、(2)再生可能エネルギーおよび新エネルギー源の開発、(3)炭素隔離技術、(4)変化の影響を被る労働者に対する「公正な移行」のための政策である。また、労働者およびその代表に対し、持続可能な生産を確かなものとするための事業に積極的に従事する権利を付与する「グリーンな職場」アジェンダも必要である」として、新たな投資による新雇用創出政策を提案しているのである。そして、「これを次の活動によって支えなければならない。すなわち、エネルギー供給の代替策やエネルギー効率の高い建物の建設をはじめとする主要部門内の「グリーンジョブ」の推進やそこへの投資、また、交通形態、農業生産、食料体系管理、そして産業全体のグリーン化への転換をはかることである。/国連環境計画(UNEP)とILOによる共同研究の発表結果によれば、グリーンジョブには雇用創出の潜在能力がある。投資は雇用移行を支援しなければならない。具体的には、技術移転政策、職業訓練、成人教育、補償、政策立案に関する社会対話のための枠組み構築などである。同様に、適切な金融手段を用いた社会的資金調達を通じて経済多様化をはかる全体的努力の一部とならなければならない。水、保健、インフラに関する気候変動に脆弱な基盤を強化するための公共投資が必要である。これらに対し、国際的な資金調達によって支援をしなければならない」と公共投資と国際投資の必要を訴える。

 そして「グリーンジョブ」促進のために、「国連の「国別持続可能な開発戦略」、「持続可能な生産および消費」、OECDの「環境保全成果レビュー」(Environmental Performance Review)、ILOのディーセントワーク国別計画、気候変動に関する国連枠組条約(UNFCCC)交渉など」を推進すべきだとしている。

 ここまでで明らかなのは、かれらがなんとか資本主義を持続させようとしているということであり、そのために環境問題の負の影響をなんとか減らそうとし、しかもそれを資本にとっても新投資のビジネス・チャンスであると共に雇用創出という形で利益の分配を追求しようとしているということである。つまりは、功利主義的経済主義的であり、分配主義的である。

 最後に、「2007年ドレスデンG8労働相会合の成果を踏まえて」として、「グローバル化は人々に機会を提供するものの、負の影響を必然的に伴い、『格差』をもたらすこと」を強調したドレスデンにおける労働大臣のコミットメントをグローバルユニオンは歓迎した。大臣らが挑戦課題としたのは、「労働の移行を成功させること」および「国際労働基準の効果的促進・履行とともに社会的保護を発展させること」であった。さらに、労働大臣は、「各国政府、国際組織、社会パートナーは、この課題に対処するにあたって役割を担う」と述べている。

 「社会的保護については、G8は「社会的保護の多くの側面は、貧困との闘いにおいて、また、社会的経済的発展を促進するにあたってきわめて重要である」と認識しており、さらに、少なくとも基本的サービスパッケージを「より広範囲にわたって促進するために」強化された技術協力を支援することも約束している。また、「WTO加盟国、関係国際組織に対し、ILOとの密接な連携のもと、国際的に認知された中核的労働基準の遵守、履行を促進するよう」要請し、さらに各国政府に対し「ディーセントワークに十分配慮すること、特に二国間貿易協定においては中核的労働基準を尊重すること」を呼びかける新たな要素が取り入れられた。こうした原則は、2006年7月の国連経済社会理事会や2008年2月の国連社会開発委員会で国連加盟国によって採択された結論においても支持されている。これらをもとに、特に2008年6月のILO総会では、実効性ある討議を通じ、グローバル化を背景としたディーセントワークの役割についての明確な勧告が採択されなければならない。さらに、G8会合が信頼を得るためには、これまでなされてきたコミットメントに基づき行動することが不可欠である。したがってわれわれは労働大臣に対し、ドレスデンでの結論およびそれに続く新潟での合意を実施するためにG8 諸国、国際機関、社会パートナーがとった行動に関し、十分に報告するよう求める。これらの報告は、イタリアで開催される2009年労働大臣会合で発表すべきである」と述べている。

 それから、「企業の責任・義務とOECD多国籍企業行動指針」として、G8労働大臣に、ドレスデン会合において、「人権と労働基準の履行と向上は、主に、各国政府に課された任務である」と労働大臣は強調している。同時に、企業に対しては、ILO三者宣言、OECD多国籍企業行動指針、そして国連グローバルコンパクトの遵守、G8とその他諸国の企業に対し、OECD多国籍企業行動指針を遵守するよう強く促したことを想起するよう訴えている。そして、「世界中の労働者の権利−ILOによって規定されているような−の擁護を実際に行い、強化する必要性である。労働者の中核的な権利が尊重され、労働者が自由に組合を結成する時、それは、拡大しつつある不平等をくい止めるための重要な解決策となる。国際労働基準の尊重は、すべての国際機関(IMF、WB、OECD、WTO、国連)、そしてASEM、APEC等の地域機構におけるすべての政策分野に適用される国際基準(ベンチマーク)とならなければならない。G8諸国は、こうした基準を適用しなければならない」と自潮流の労働組合の拡大を不平等是正のポイントとして強調する。この点については、1949年の日本の労働組合法改定の際に、組合の自主性と民主性が強調されたのは、労組が経営権に立ち入るのを、防いだということと同じである。経営自主権と労働組合の自主・自由がセットになっているのである。それは、労働組合の意味を「経済の効率性や社会の公正さ」を高めるとして、資本主義的経営にはなんら手を触れずに、資本主義的経営者にとっての労働組合の経済的社会的価値を説いていることで明らかである。

 政府に対しては、「拘束力のある規制に加えて、自国で操業する企業の社会的責任を高めるうえで重要な役割を担っている。それが可能となるのは、法の支配を履行することにより、透明性と良い統治を促進し、また、腐敗と闘い、真の労使関係のための適切な法的枠組みを提供する場合である」と法の支配や透明性のある良い統治、腐敗との闘い、真の労使関係のための法的枠組みを求めている。法の支配や良い統治を求めているわけだが、「数多くのNCPは、いくつかのG8 諸国においてすら、本来の機能を果たさず、紙の上だけの存在となっている」と指摘しているように、多くは見かけだけにすぎないのである。

 「国境を越えた投資に関しては、グローバル化の社会的側面を形成するためにOECD多国籍企業行動指針に従うことの重要性について、G8政府はG5諸国(中国、インド、ブラジル、南アフリカ、メキシコ)を納得させなければならない。行動指針のメリットを知らしめるために、政府は途上国に特段の注意を払いつつ、その普及に一層多くの資源を充てるべきである」として、宣伝の強化を訴えつつ、「「雇用と労使関係:グローバル経済において責任ある企業行動を促進する」に関するハイレベル円卓会議が2008年6月、OECDとILOの共催で開かれる予定であり、新興国と発展途上国も積極的にこの会合に参加することが重要である。OECDとILOとの覚書拡大版は、現在進められている作業のたたき台として役立つ可能性があり、今後数ヵ月以内に着手すべきである」として、資本主義経済の成長とグローバル化の促進、開発の促進に新興国と発展途上国を巻き込んでいくことを画策することをOECDとILOとの覚書拡大版という形でまとめ、この体制の中で、利益の分配の拡大を図ろうというのである。

 この長いペーパーの中の一般的で抽象的な無意味なきれいごとを取り除いていくと、この資本主義的な改良主義的国際労働運動潮流の正体が露になる。
 「新潟アジェンダ」は、戦後の世界貿易体制・世界経済の枠組みを規定してきた「ブレトン・ウッズ」体制が戦後復興から資本主義経済の発展のために果たしてきた役割を終え、新たな枠組みが求められている中で、国際的なネオ・コーポラティズム体制の構築の模索が、新興国・発展途上国を組み入れる形で企てられていることを示している。この帝国主義的労働運動潮流は、帝国主義本国内では、労働者内では少数派であり、減少しつつあるのだが、政権政党と結びついて、政治的な影響力を確保することで生き延びと利益の実現を図ろうとしている。それが、政労資一体のネオ・コーポラティズム体制であり、日本では「連合」が、制度政策要求闘争と結びつけた民主党支持を通じて実現を狙っているものである。ネオ・コーポラティズムは、イギリスでは、サッチャー政権による新自由主義政治によってかなりダメージを受けたが、労働党ブレア政権によって修正された形でだが、だいぶよみがえった。その結果がどんなものだったかは今や誰の目にも明らかである。資本主義はある程度よみがえった。だが、多くの人々の生活は苦しくなった。
 その中で、国際労働組合総連合は、OECDやILOなどの国際機関に食い込んで、新自由主義路線をとるIMF・世銀に対抗しているのである。これは、ある意味、産業資本と金融資本との対立を表現しているとも言えよう。そして、帝国主義世界を牛耳るG8に向かって、ネオ・コーポラティズム的立場からの要求を突きつけているのである。

 言うまでもなく、世界には別の労働運動運動潮流があり、また、ITU内でも、AFL‐CIOのように路線が変わったり、分裂(CWC(勝利のための変革連合))する場合もある。ナショナルセンターに加入していない独立労組もある。
 われわれとしては、共産主義と労働運動の結合を一つの機軸にしつつ、これらのネオ・コーポラティズム労働運動を暴露して労働者を共産主義の下に獲得していくことである。
 上の「G8労働大臣会合に向けた労働組合声明」は、この国際労働運動潮流の資本主義擁護者としての本質をよく表している。言うまでもなく、そこには労働市場を真剣に統制するとか「資本の自由」や経営権を統制しようとか差別をなくすために積極的に行動しようとか環境保護のために投資をきっちり規制するとかいう具体的な実効性ある中身は見られない。きれいごとを並べているだけである。もっとも具体的なことは、経済成長が必要であり、分配を労働組合にもっとよこせという主張である。新興国・発展途上国にもっと教育・職業訓練・技能開発の投資を増やせ、環境分野に投資して雇用を増やせ、労働組合結成を奨励せよ、そうすれば、経済効率も社会的公正さも高まる、つまりは、立派な資本主義ができるだろうというわけだ。
 「ブレトン・ウッズ」体制が目指した自由貿易体制による完全雇用や実質賃金増や貧困の解消などの立派な世界はどこにあるというのだろうか? 今、進んだ国である日本に1000万とも2000万とも言われるワーキングプアが生まれているのはなぜか? 「ブレトン・ウッズ」体制、そしてその後継のWTO体制は、こういう富と貧困の対立という19世紀イギリスのように、自由主義的資本主義の生み出した矛盾を再び世界規模で拡大し、再生産しているのである。おそらく、そのことに、多くの人々が気づいているにちがいない。
 この問題を解決するためには、世界市場の労働者統制が必要であるが、それには世界プロ独が必要なことは言うまでもない。その基礎となるのは、帝国主義労働運動の国際潮流ではなく、共産主義と結びついた国際労働運動潮流であり、プロレタリアートの国際主義的諸運動の一切である。いうまでもなく、これらの国際主義的潮流と結びつくべきは、国際共産主義運動である。
 帝国主義労働運動の国際潮流は、国際機関の声明や決定だのの権威に頼って、各国政府の政策を動かそうとしている。もちろん、それを各国政府が口先でのんだとしても実際に実行されるとは限らない。労働運動では、例えば、1047名のJR不採用者の救済を求めるILOの勧告を日本政府は無視しつづけている。また、公務員への労働三権の付与を求めるILO勧告もずっと無視している。もちろん、こういう国際機関の権威を利用して、政府などに要求を突きつけるというのは、一つの戦術である。
 「連合」は、かかる資本主義的労働運動の世界軍の一部隊として合流しているのである。それに対して、共産主義的労働運動の世界軍の形成が遅れているのは事実である。共産主義者はこの任務にまじめに忍耐強く地道に取り組まなければならない。そのような国際主義的活動を実行するまじめな共産主義者・労働運動活動家を育てていかなければならない。共産主義的国際労働運動を育てたリープクネヒトのような活動家が必要である。
 本稿で、国際労働組合総連合のG8への提言を取りあげ、分析・批判・暴露したのも、かかる改良主義的労働運動の国際潮流に対して、共産主義的な革命的国際労働運動潮流の建設を促進したいからである。そして、反グローバル運動・反洞爺湖サミットの国際的な闘いの中で、こういう分岐をはっきりと刻印する必要があると考えるからである。
 われわれ火花派の綱領は、一国プロ独の任務より国際主義的任務が優先することを明記している。この見地を、労働運動についての決議案にも貫かねばならない。「労働の世界共和国」を! 共産主義的国際労働運動潮流の創出を!




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