共産主義者同盟(火花)

小泉ブルジョア独裁をプロレタリアの諸会議体の形成でうち破ろう

流 広志
288号(2005年8月)所収


郵政民営化はアメリカへの奉仕である

 8月8日、郵政民営化法案が参議院で否決された。小泉総理は、ただちに、衆議院解散に踏み切り、9月11日投票の総選挙を決定した。彼は、選挙は、郵政民営化の賛否を問う国民投票になると述べた。武部幹事長は、小さな政府か大きな政府かが焦点だと述べた。しかし、それは、偽りの選択肢である。この不毛な二項対立は、まともな思考を麻痺させる呪縛であり、政治論議を矮小化する衆愚政治のスローガンである。多くの人々が郵政民営化が差し迫って行わなければならない重要政策ではないことをわかっている。郵政民営化の賛否を総選挙の争点にするという小泉政権の意識と人々の意識は、ずれている。それは、とりわけ、無党派層の小泉離れに示されている。
 また、日本は、先進資本主義国の中でも小さい政府の方であり、社会保障費は小さい方である。飛び抜けているのは、公共事業費であり、その原資が、郵貯・簡保なのである。これまで、その資金は、旧大蔵省が一括運用し、その大半は、国債などの公債購入に当てられ、それが公共事業に使われてきた。それが現在は、郵政公社による自主運用となった。郵政公社化からわずか2年あまりで、郵政民営化を急ぐ理由は、アメリカからの強い要望があるためである。
 9日付『日経新聞』は、IMF(国際通貨基金)が、8日、日本経済に関する審査報告書で、郵政民営化法案を評価し、完全民営化を支持する見解を表明し、日本郵政公社に対する政府保証や税制優遇措置などを撤廃し、民間企業と同一の競争条件を確保するよう求めた」と伝えた。アメリカ政府が、対日「年次改革要望書」で10年前から郵政民営化を要求していたことを、森田実氏が指摘している。
 2004年のそれは、アメリカ通商代表部の日本政府に対する「規制改革要望書」(2004年10月14日)と題して、在日米大使館ホームページに仮訳がある。その中には、「米国は本年度の提言で、日本の主要政府機関の民営化計画に、特に重点を置いている。その中でも、小泉首相は日本の郵政事業を民営化する大胆な計画を実行しようとしているが、これは銀行、保険、および速配便の各分野における公正な競争に重要な影響を及ぼすものである。「日本郵政公社の民営化は、市場志向であるべきであり、また市場の参加者全員に公正な競争の場を提供する透明な方法で実行されるべきである」とシャイナー次席代表は述べた」とある。
 小泉首相の構造改革路線とは、アメリカのグローバル化を日本語に翻訳したものなのである。この路線の司令部はアメリカにある。そしてそれに猪瀬直樹らのジャーナリストや『産経』をはじめとするアメリカの手先たちが応援団として旗振り役を務めているのである。郵政民営化と心中する気の小泉は、アメリカに滅私奉公することを至上の価値としている倒錯者である。そして竹中をはじめとする御用学者、外務省をはじめとするアメリカン・スクールの官僚の多く、この国の自称愛国主義者や右派の多くも、同じである。
 自民党は造反組も民主党も将来の郵政民営化には賛成であり、明確に反対しているのは社民・共産のみであり、その衆議院議員はわずかな数である。造反組の中心の亀井静香は、ケインズ主義者であるが、そもそもケインズ主義は別に国営化論者でも官主導論者でもない。それは、自由主義経済のもららす悪弊(とりわけ非自発的失業)を取り除くための積極的な政府介入の必要を説くものにすぎない。
 膨大な赤字国債は、社会資本整備のための原資調達の必要から発生したものであり、それによって、日本資本主義は高蓄積を実現してきたのである。それは銀行資産として信用創造のベースの一つとなってきた。ところが、バブル崩壊後には、過去の支払い清算のための銀行券需要が一服してから、さらに国債増発を行ったために、ふたたび、不況下の過剰資本となったのである。税収不足の中では、さらに、財政不足を補うために国債増発が行われた。主にそれを引き受けたのは、金融機関である。金融自由化によって、銀行資産の大きな部分を占める国債・公債の信用状態は、外資にとっても重大な関心事となった。為替介入を繰り返して、アメリカの国債を大量保有するようになった日本政府が、アメリカの財政状態に関心を強めざるを得ないのと同様である。
 財務省の国債関係資料「最近10年の年度末の国債・借入金残高の種類別内訳の推移」によれば、1995年度末に国債残高は、2,279,753億円、2005年度末見込みで、6,861,516億円となっている。バブル崩壊のツケとアジア通貨危機のダメージ、長期不況対策等々として、膨大な赤字国債発行が行われたことがわかる。
また、この資料には、2005年度見込みで、外国為替資金証券の年度末残高が、1,400,000億円と記されている。この残高は、1999年から年々急拡大しており、とりわけ2003年度には、発行限度額を増やしてまで、円売りドル買い介入を行った結果、前年度から大幅に増大した。その多くは、米国債購入に当てられている。これは政府債務の一種である。この証券そのものは数ヶ月の短期証券であるが、借り換えを繰り返されており、事実上の国債と言えるものである。この運用益の一部は一般会計に繰り入れられているが、その額は年に1〜2兆円規模にすぎないという。この隠れ国債が膨大に膨れあがっているのである。一方で、郵政改革が改革の本丸だと言って、郵政民営化の賛否を焦点にする解散総選挙を強行しながら、他方で、放漫財政を続けるアメリカの国債を大量購入して、政府債務を膨らませる。それは、多少の利子収入をもたらすのだが、それによって、日本の財政をアメリカの財政・経済により強く依存させる。国債は、日銀をはじめ国内金融機関が主な保有者であり、財政状態が心配になる。税収が主な財源であるから、できるだけ税収をあげるにこしたことはない。それには、増税が手っ取り早い。政府の赤字は、金融資本の利益の源泉となる。それは、金融機関に投資する外資も同じである。8月9日付「西尾幹二のインターネット日録」の「小泉首相ご乱心」は、国鉄を明確に失敗と認識していることや、郵政民営化が、アメリカの対日要求によるものであり、しかも、郵政公社化でうまくいっているものを無理矢理にも経営形態転換させようと固執していることを批判している。郵政民営化を要求しているアメリカ自身は、郵政国営維持を決めているのである。これらの部分だけ見れば、郵政民営化賛成一色の大新聞より、まともである。むろん、その基礎にある彼の排外主義など容認しない。他方で、右派の中でも、林道義は、郵政民営化に反対する者を潰すのは当然だと小泉支持を鮮明にしている。
 郵政を巡っては、その340兆円の巨額の資金を市場に流すということが、銀行の狙いであることは、全国銀行協会会長が語っている。しかし、低金利により、現在では、大企業は、借入金の返済を急いでおり、貸出は減少傾向にある。株価上昇や都市部の地価上昇傾向が続く中で、銀行資金が豊富化しつつある。しかも膨大な無駄をある程度なくし、さらに株価上昇などの結果、年金など資産運用が成功している分野もある。都市部の地価が上昇傾向にある今なら、土地資産は高く売れるだろう。それでも、なお、郵政民営化を急がなければならない理由は、「官から民へ」という自由主義イデオロギーにとりつかれ、アメリカに無意識にせよ奉仕しなければならないという奴隷根性が根を下ろしているからだ。

AFL-CIO分裂に象徴されるアメリカの社会保障の危機と労働運動

 彼らが理想化し信奉しているアメリカでは、健康保険や年金制度の危機に対する対応を巡って、労組の分裂が起きるなど、これらの社会保障のあり方が大きな社会的争点になっている。
 7月25日の年次総会でAFL-CIO(アメリカ労働総同盟・産別会議)が分裂した。この日、脱退したのは、サービス業国際労組(SEIU180万人)と全米運輸労組(チームスターズ140万人)である。両者は、7月15日に「勝利のための変革連合」(The Change to win coalition)を他の幾つかの組合と共に結成した。この連合には、約600万の労働者、チームスターズ、Laborers、Carpenters(大工組合)、 UNITE HERE、the UnitedFarm Workers(農業労働者連合)、SEIU、食料・商業労働者連合(UFCW140万人)の7組合が参加している。その後、UFCWがAFL-CIOを脱退した。AFL-CIO約1300万人(組織率12%)の約三分の一が脱退するという1955年のAFLとCIO合併によるAFL-CIO結成後初の大分裂であった。
 この連合の中心となってきたSEIUは、始めて直接選挙で選ばれたスウィーニー会長の改革路線の下で、労働運動改革を約10年にわたって追求してきたが、民主党支援による政治力の強化によって労組の力を増大させようとすることに固執するスウィーニー執行部の下での改革は不可能だと判断し、脱退を決意したと述べている。
 彼らの要求の一つは、組合予算を労組の拡大・組織化に集中するというものである。彼らの、労組改革案は、新たな産業分野における新労組の組織、組合員の拡大によって、アメリカ労働運動の力を強化するというものである。それによって、米小売り大手のウォルマートに代表される海外の低賃金労働との競争によって劣悪な労働条件を押しつけている状態を改善し、年金・健康保険・医療などの水準を向上させられるとしている。それには、何よりも、労組の組織拡大、労組員の増加が必要であり、労組の組織資源の多くをそれにつぎ込まなければならないと主張しているのである。とりわけ、アフリカ系アメリカ人やラテン系の新移民などの下層労働者の組織化が重要と考えている。Laborersのホームページには英語と共にスペイン語も使われている。
 新移民の多くを含む下層労働者とその家族は、十分な医療・年金などの社会保障を受けられず、厳しい生活を強いられている。さらにそれを切り捨てる動きがブッシュ政権の下で進んでいる。かかる下層労働者を労組に組織しなければ、労組の低落傾向を止められないのは明らかであった。先の大統領選挙が明らかにしたように、新移民が多い南部サンベルト地帯は、産業労働者が増えているが、労組の力が弱く、反労働者的なブッシュ共和党の地盤となっている。
 IWW(世界産業労働者連盟)は、両者に批判的な論評を載せている。しかし、ウォルマートをはじめ、人種、性差別などの差別問題が絡んだ労働争議やブッシュの「対テロ戦争」をめぐる航空産業での労働争議など、日本のマスコミではほとんど報道されないが、アメリカにおいても、労働運動が闘われていること、そして、労働運動の再生をめぐる様々な動きがある。AFL-CIO加盟組合の幾つかによるイラク反戦運動の取り組みもある。このような労働者の要求は、今は民主党議員の何人かによって議会で代弁されているにすぎない。アメリカの選挙システムや政治風土の中では、労働者階級の独立政党の発展は困難ではあるが、ランク&ファイル評議会のような労働運動の諸会議体は、労働者党を育てる土壌となるかもしれないし、とりわけ、国際反戦運動は、アメリカ階級闘争を発展させる動きとして大きいものである。

プロレタリアートの諸会議体を発展させ、小泉ブルジョア独裁をうち破れ

 自由主義ブルジョアジーの構造改革、グローバル化に対して、「第三世界」の貧困撲滅を訴える反グローバル運動の高揚がある。他方で、先進資本主義諸国内における「二極化」が進んでいるということがある。それに対して、「勝利のための変革連合」は、組織化の必要を訴えている。しかし、現実には、エンパワーメントと呼ばれる職業訓練などを通した自立化支援が、NPOなどによって、行われている。自立化というと聞こえはいいが、それは、資本の運動によって、生み出される大量の相対的過剰人口を解決できるようなものではない。なぜなら、下層が就くのは、たいした職業訓練など必要としない単純労働が主であり、アメリカでは、そうした労働力は、中南米諸国からの英語を話せない密入国者の大量の受け入れで、まかなってきたからである。その数は1千万人以上といわれている。それを目当て、北部から南部に工場が次々と移転したのであり、そのために、北部のブルーカラーが減少し、AFL-CIO組合員が減ってきたのである。これだけの大量の労働力を吸収できるだけの労働力需要があったにも関わらず、大量失業が生じているのは、相対的過剰人口を生み出す資本主義的人口法則が作用しているからである。中南米系の移民は、英語もできないし、就くのは主に単純労働である。そして彼らは、社会の最底辺かそれに近いところにいる。その中から、アメリカ市民権を求めて、イラク戦争へ志願して戦地に自ら赴く若者が多く出たのである。その中にはもちろん戦死したものもいる。
 日本でもようやく「二極化」がマスコミや政府によって事実として認識され、それに対する対策の必要が言われるようになった。われわれは、ずっと以前から、この現象を注視してきた。小泉構造改革は、「二極化」をさらに進めるものである。そのことは、「連合」が、AFL-CIO分裂と同様の問題を引き起こす可能性が高いことを予想させる。すでに「連合」は、本工正規労働者と正規職公務員の組合に純化しており、この間のリストラ・非正規職員化・公務員削減で、労組の組織率が減少し続けている。労組拡大のために非正規労働者を組織化しなければならないことは、言葉では言われているが、実際には進んでいない。人・物・資金を大幅に増やして、そのオルグに費やさなければ、言葉だけに終わることは明らかである。
 日本の労組員は、2002年12月の厚生労働省の調査結果では、推定値で1,080万1千人で、前年から41万2千人(3.7%)減少した。この減少幅は、1953年以降で最大である。労組組織率は、20.2%である。企業規模別の労組組織率は、千人以上で、54.8%で圧倒的である。100人未満規模の企業での労組組織率はわずか0.3%にすぎない。なお、パート労働者の労組組織率は、2.7%。694万5千人で全労協・全労連を含めた労組全体の64.3%。
 他方で、イラク反戦などの反戦運動、入管難民問題での国際連帯運動、戦争賛美の扶桑社歴史教科書採択反対運動、尼崎列車転覆事故の大惨事を教訓にした安全闘争、下層の闘い、等々の人々の闘いが拡がっている。それらの運動に取り組みの中には、多くの会議体が活動している。それらは、明確にプロレタリアートの党の姿はとっていないが、しかし、その萌芽と可能性は存在している。それらの諸会議体がなにを考え、話し合い、決定し、行動しているか、その仕方はどうか、等々を、的確に分析・評価することは重要である。今、小泉が行っていることは、共和制の大統領でさえ出来ないような、独裁政治である。アメリカ大統領ブッシュでさえ、選挙候補問題で、党の意向を完全無視することなどできない。一応、党と執行権は別になっている。だから、共和党議員が、大統領が推す国連大使候補ボルトンを拒否したが、それに対して、公認をはずすなどと脅さなかった。むろん、議会が拒否しても、大統領権限で、任命すればよいだけだったのだが。
 いずれにしても、小泉の周りは、茶坊主ばかりであり、「殿のご乱心」をいさめるような本当の「忠臣」などいない。いたとしても、彼は聞く耳など持たないだろう。武部幹事長は、小泉政権でなければけっして幹事長に出世することなどありえない窓際族にすぎなかったし、日中・日韓関係を悪化させた外務大臣町村やシロウトの法務大臣南野や5党を渡り歩き自民党に入って間もない小池百合子が大臣になるようなことも考えられなかった。小池が環境大臣に選ばれた後、大臣の椅子を待ち望んでいた当選数回を重ねた森派議員の怒りをなだめるために、会長の森は、小泉に怒ってみせる一芝居を打たねばならなかった。しかし、独裁者小泉がトップにいる限り、こうしたフォローを誰かがやり続けなければ、自民党がぶっ壊れてしまうことは確実である。すでに、今度の選挙をめぐって、地方組織の反乱や分解が起きており、基礎が崩れつつある。これまでの内紛で、仲直りできたのは、政権政党であったからである。それを日々再生産してきたのは、かかる地方組織を含む党員の会議体や党を支持する会議体の活動であった。ところが、小泉は、それは権力を握る自分個人の力だと思いこんでいる。
 『産経新聞』をはじめとする小泉支持のマスコミは、執行権の独裁による「改革」を求めている。他方では、「全体主義」だの「社会主義」の独裁は手厳しく批判するのだから、かれらの本心が、ブルジョアジーの独裁=善ということは明らかである。本音を隠す必要がなくなり、ブルジョア独裁を公然と礼賛するようになったわけである。かくして、愛国主義的な民主主義者の森田実氏ですら、小泉ファシズムの到来を強く批判し、警告を発せざるを得ないような事態となったのである。複数の政党があるということは、なんのなぐさめにもならない。なぜなら、これは議会・立法権に対する執行権の優位・独裁だからである。小泉が郵政民営化反対派を潰すために出馬させた財務省の女性幹部は、同時に、財務省が議会を制圧するための刺客である。これは、政党内・政党間の権力闘争であるばかりではなく、官僚内の権力闘争でもある。
 プロレタリアートの党は、会議体の質を、討論をはじめとする諸活動において高度化していく。それは、プロレタリア的諸会議体の質を反映するし逆の場合もある、そうした相互関係において、質を高め合う。この相互関係全体が、党活動であって、党員のみの会議体が党活動の全てではない。党が大衆に一方的に学ぶということもなければ、その逆もない。プロレタリアートは闘いのために、社会政治革命を推進するために、広く、また高度な団結体を形成しなければならない。それはどのような名称を持とうが、党であって、人々は自然発生的にその萌芽を常に形成してきた。その事業を意識的に押し進めることこそ、自覚したプロレタリアート・共産主義者の重要な任務である。すでに、労働運動内部に、小さいながらもそうした動きがいくつか生まれつつある。
 そうした動きを促進するために、共産主義者は、そういう部分の会議体と連絡を持ち、討論や支援や学習や共同行動を重ねるべきだし、自らの会議体の中で、かれらの逢着問題の分析・評価をめぐる討論や判断形成、またそうした動きを発展させる方策や関係などについての議論を行わなければならない。また、そうした会議体を増やすようにしなければならない。等々。




TOP