共産主義者同盟(火花)

米欧競争戦激化の新情勢とよみがえる共産主義

流 広志
283号(2005年3月)所収


 イラク侵略戦争開戦から2年がすぎ、その間に、米欧の利害対立が世界のあちこちで目立つようになってきた。イラク中東はもちろん、東欧やロシア周辺諸国をめぐって、中国をめぐって、EUは独自利害の追求を強めている。アメリカは、過去最大の6659億4000万ドルの財政赤字に陥り、世界全体をカバーするだけの米軍のプレゼンスを維持する余裕が少なくなり、再編成を迫られている。
 日本では、米欧対立の新たな世界の構図に対して対応した議論はあまりない。例えば、今、EUが東アジアに影響を強めつつあるが、相変わらず、日本・アメリカ・中国・ロシア・南北朝鮮の関係だけで語られている。この新たな世界情勢と結びつけた分析・評価が必要である。古くさい冷戦思考のままの保守派は言うに及ばず、米欧協調を前提にした国連主義などの議論も古い。新たな情勢の性格を掴み、それへの適応を急がねばならない。

『産経』の古くさい中東「民主化」礼賛批判

 3月8日付『産経』社説は、イラクの選挙について一時は弱音を吐いたくせに、そんなことをすっかり忘れ、レバノンの親シリア政権の退陣やサウジアラビアでのきわめて限定された地方選挙の実施予定などを見て、中東民主化の成功だと言っている。それはイラク侵略戦争によるフセイン政権排除の成果だというのである。しかし、『産経』は、フセイン政権打倒の目的は、世界の安全のために大量破壊兵器保有を阻止することだと強調していたではないか!
 レバノン問題は、フランスにより民族・宗教の違いを無視して引かれた人工的国境線を持つ植民地国家建設に起因する。1943年に独立したが、1975年から1991年までのレバノン内戦は、フランス、アメリカ、シリアなどの諸外国の介入、パレスチナ難民流入をきっかけにしたイスラエルの軍事侵攻、宗教・宗派間の複雑な対立・連携など、きわめて錯綜したものだった。今回のアメリカと国連の介入が、そのような複雑な諸関係にどう影響し作用し動かすかは予測しがたい。
 ハリリ前首相暗殺事件後の野党によるデモなどによって、2月28日にカラミ首相が辞任に追い込まれたレバノンで、3月7日、前首相暗殺後のシリア軍撤退を求める野党(キリスト教マロン派など)の数万人のデモが起きるや、ブッシュ政権はここぞとばかり、シリア軍の撤退期限を決めるよう迫った。ところが、翌8日にはシーア派のヒズボラなどの100万人(AP通信50万人)のシリア軍撤退に反対するデモが起きた。また、いったん退陣した親シリア派といわれるカラミ氏が首相に再指名されるという。12日には野党による集会が行われ、数十万人がシリア軍の完全撤退を求めた。シリアは、すでにレバノンからの完全撤退を表明しているのに、野党がかかる大規模集会を開いたのは、権力闘争が激化している証拠である。15日にはアメリカの駐レバノン大使館を取り囲む反米反イスラエル集会が行われた。ブッシュ政権は一方だけを支持することで、イスラエルの安全のためには他国を内戦状態にすることに躊躇していないことを示した。
 イラクの情況は、暫定国民議会選挙によって安定するどころか、相変わらず、自爆攻撃が頻発し、多数の犠牲者が出ていることで明らかなように、治安悪化が続いている。アルジャジーラの報道によると、イラクの米軍は、ファルージャに続いて「矯正計画」と称するラマディでの掃討作戦を狙っているという。昨年11月のファルージャ総攻撃後、多くが国内難民化したファルージャの住民の2割以下しか市内に帰還できていない。バグダッドなどに避難した住民の多くが貧困層であり、ゴーストタウンと化した生活手段のないファルージャに戻って生活できる状態にないが、人口約40万人といわれるラマディ市で同じ攻撃が実行されれば、さらに数十万の国内難民が新たに加わることになる。
 この社説が、投票率ではなく参加人数をあげて、先のイラクの選挙が成功したと強弁するにいたっては、見え透いた世論操作である。『産経』は、一方でアメリカの太鼓持ちを務め、ブッシュにたいするおべんちゃらの提灯記事を書きながら、他方で日本人としてのプライドを強調している。それは、アメリカの番頭・ナンバー2としてのプライドである。そんなことを書いたかと思えば、今度は10日の社説は、アメリカの東京大空襲は非人道的行為だ、戦争には敗者の視点が欠けていることに注意しなければならないなどと書いている。先の社説のどこにも敗者の視点などないではないか!

破綻しつつあるイラク侵略戦争と米欧の競争戦の激化

 米帝ブッシュ政権は、あからさまな侵略戦争にのりだし、世界支配のための戦争を本格的に開始した。日帝は、英米連合側について、この市場再分割戦・侵略に加わっている。EUは、さらなる東方拡大を押し進めようとしており、また、EU諸国の多くが北朝鮮との国交を結び、中国への武器輸出再開を表明するなど、東アジアで独自の利害を追求している。それに応えるかのように、中国当局は、保有外貨の内のドル保有比率を下げ、ユーロの保有比率を引き上げている。先のブッシュ訪欧では、ドイツのシュレーダー首相がNATOの指揮権をEUに渡すように要求するなど、安保面でも独自性を強めている。さらに、イラク侵略戦争開戦2周年に合わせるように、ドイツ・スペイン・フランス・ロシアの首脳たちは、イラク戦争反対を改めて確認した。他方では、フランスとアメリカがレバノンからのシリア軍撤退を共同で要求したように、利害の一致する部分では手を握ることも忘れてはならない。
 イラク侵略戦争を真っ先に支持した小泉政権は、サマワに自衛隊を駐留させ続けている。日本の外交官が射殺され、日本人が人質にされ、さらに、フリージャーナリストの橋田さんらが射殺され、自衛隊宿営地に何度も砲弾が着弾した。オランダ・スペイン・フィリピン・ウクライナなどが撤退し、ブルガリア・イタリアなどが撤退を表明している中で、なおも、オーストラリアに援軍の派遣を要請してまで、自衛隊をイラクに駐留させ続けているのである。それは、日本の安全保障のために日米同盟強化が不可欠だという判断があり、それは欧米の米側一方につくことを選択していることを示したのである。
 米欧の競争戦が激化する中で、ロシアは、経済的に、EUとりわけドイツ資本に多く依存しているので、重要な外貨収入源の石油利害が絡むカフカース地方のチェチェンは軍事占領したが、欧米が支援するユーシェンコ派による政変劇に強硬手段をとれなかった。つい先日、穏健派でロシアとの交渉に前向きと言われているチェチェン独立運動指導者のマスハドフ元大統領がロシアの特殊機関によって殺害されたが、チェチェン独立派をイスラム系テロリストと見る欧米は沈黙している。
 ウクライナのユーシェンコ派は、ブッシュ政権とジョージ・ソロスの国際ルネサンス財団(IRF)と米国民主党国際研究所のオルブライト元国務長官らの支援を受けていた(『ル・モンド・デプロマィーク』)。前者は、ユダヤ系資本のロックフェラーと関係があると言われるハンガリー出身のユダヤ人であり、後者はチェコのプラハ生まれのユダヤ人である。ユーシェンコ派の運動資金はこれらの部分から出ていたのである。ブッシュ政権の狙いは、ラムズフェルド国防長官がイラク侵略戦争に反対したフランス・ドイツなどの「古いヨーロッパ」に対する「新しいヨーロッパ」東欧諸国の市場再分割戦に勝つことである。
 ところで、ユダヤ人問題は、シオニストによって、ずいぶん昔にさかのぼるように宣伝されているが、実際には新しい問題である。シオニストがユダヤ人という民族を人為的に形成したのであり、それを促進したのはヨーロッパのレイシズムである。シオニズムは元々はヨーロッパ問題なのである。ロシア社会民主労働党第二回大会では、プロレタリアートを民族別に分割することを認めないレーニンたちとそれを認めるよう要求するユダヤ人組織のブントが対立し、後者が退場した。レーニンはユダヤ民族を人為的に作ろうとするシオニズムに反対した。その後、シオニストは、強引にイスラエルを建国し、黒人を含めたユダヤ人を作り上げた。ユダヤ人といってもトロツキーはもちろん、アインシュタインもナチスのアーリア優越主義によるユダヤ人迫害激化後にシオニズムを支援するようになったのであり、シオニストではない。また、この点に関連して言えば、ニーチェは、ナチスによって反ユダヤ主義者に仕立てられたが、反ゲルマン主義者・反民族主義者であった。
 今やイスラエルは、アメリカ製の最新兵器などで重武装した中東の強国であり、パレスチナを軍事支配し搾取している強者である。ロックフェラーを始めユダヤ系資本は世界経済で大きな力を持っており、その中にはシオニズムを支援している者もある。イスラエルを建国して拠点国家化したシオニストを支える国際的ネットワークがある。それは、帝国主義間の市場再分割戦と結びつきつつ、パレスチナの占領・搾取、中東アラブ侵略の推進力になっている。
 3月20日でイラク侵略戦争開戦から2年になる。イギリスだけではなくアメリカでも新兵募集が目標を下回っていることに明らかなように、足下の厭戦気分が広まっている。さらに、3月19・20日の国際反戦同時行動が世界各地で取り組まれたが、とりわけ、全米50州756のコミュニティーでの反戦集会を実現したアメリカの反戦運動は、草の根の広がりを示すものとなった。すでに、国際反戦運動は、バーモント州でのコミュニティー単位での反戦決議の多数の可決や新兵募集の定員割れやイラク戦争不支持の多数派化などの成果をあげている。アメリカの反戦集会の報道は、ANSWER連合HP、「ニューヨークタイムス」、ABC、CBS、「インディメディア」、キューバの「PLENSA LATINA」などでみられる。また、日本における19・20日の世界同時行動は、東京19日4,500人、20日6,500人をはじめ全国各地で行われた。すでにイラク戦争反対が日本の世論の多数となっているように、反戦意識の形成という点で成果をあげている。

拡大する貧富の格差・階級階層化が破壊する中流幻想・国民幻想

 90年代後期から日本における所得格差が急拡大した。それは、税・社会保障などの所得再分配効果によって、ある程度緩和されているが、貧富の格差が急拡大し、構造化している。
 2002年の厚生労働省の「所得再分配調査」によると、所得格差を示すジニ係数(1.0に近いほど格差が大きい)を見ると、社会保障による所得再分配所得でのジニ係数は、2002年が0.3817である。総務省統計局による国際比較できる等価可処分所得の日本のジニ係数は、1987年以来、急上昇し続けている。アメリカは、1997年に0.372で、先進国中で最も高く、日本は1999年に0.273で低い方だった。日本の当初所得では、2002年0.4983で、格差がかなり大きい。所得格差を是正するのに社会保障などによる所得再分配が果たしている割合が大きくなっているのである。
 また、同調査にある「所得再分配後の所得格差の国際比較」の表によると、スウェーデン0.252(2000年)、ドイツ0.252(2000年)、フランス0.288(1994年)、イギリス0.345(1999年)、アメリカ0.368(2000年)、日本0.322(2001年)、で、日本は英米に近づいている。なお、2004年の韓国の全世帯のジニ係数は0.344で、一昨年より小幅拡大した(『中央日報』)。
 1990年代のグローバル化・「構造改革」が、貧富の格差の拡大をもたらしたことは明らかである。今後も、負担増・給付減の社会保障改革や所得再配分のための諸方策が削減され続けるので、さらに貧富の格差は拡大するだろう。とりわけ若年層が主の470万人といわれるフリーターや70万といわれるニートは、格差の長期化をもたらす構造の存在を示している。
 このように「平等神話」「一億総中流神話」は崩れ、国民という虚構は引き裂かれつつあるというのに、「新しい歴史教科書をつくる会」は、「マルクス主義的な階級観で書かれた歴史教科書は古い」(八木秀次会長)などという現実無視の時代遅れなことを言っている。もっとも、かれらは、「日本人が元気になる」という主観を優先すべきだと主張したように、真実に高い価値を置いていないし、実証主義派の秦邦彦が反講座派では組みながらも距離を置くほど主観的なのでそんな現実はどうでもいいのである。
 また、かれらは、扶桑社版歴史教科書に「ヨーロッパから発達した二つの政治観念(共産主義とファシズム―引用者)が,1920〜1930年代に世界に広まり,それぞれ革命運動を生み出し,政治体制をつくりあげ,20世紀の歴史を動かす二大要因となった」と書いていることで明らかなように、物事の原因を思想や観念に求めるから現実が頭の中で逆立ちして、階級・階級闘争があるから共産主義が存在するのに、逆に共産主義の観念があるから階級や階級闘争・革命運動が起きるように見えるのである。ただ、俵儀文氏によれば、昨年9月に1万9千人いた「つくる会」会員が現在では1万人ほど減った(『中央日報』インタビュー)という。ずいぶん衰退したものだ。
 保守派の支持する教育官僚たちは、教育委員会と学校管理職を使い、警察権力と協力して、卒入学式などの学校行事で「日の丸・君が代」の強制を強め、それに反対する教職員を処分し、ビラまきまで弾圧しているが、それは、国民が、指導する国家=支配階級と指導される被指導者に分かれていることをあからさまに示すもので、国民幻想が破れていることを表している。
 国家・支配階級・官僚のシンボルとして「日の丸・君が代」を強制するのは、それらに従属する主体を形成し、奉仕させようとするためである。自民党の改憲案は、国家が人々を規定・規制し指導することを基本にしているが、「日の丸・君が代」強制にはそれが露骨に現れている。国家=支配階級は、その中で、「トップダウン方式」で人々に対する「リーダーシップ」を貫こうとしているのである。それがもたらす抑圧と差別を見抜き感じている教職員・生徒・保護者・地域住民などの抵抗が起きているし、国旗国歌法制定直後の「日の丸・君が代」を強制しないという言葉が破られたことに示されているように不誠実な嘘で人々をだます国家・教育行政を信用するのは無理というものだ。

最後に

 帝国主義の世界再分割の闘いの激化と資本主義の矛盾が拡大し、中流幻想が崩れ、階級階層化が進み、貧富の格差が拡大する中で、人々は、未来への夢と希望のある「もう一つの世界」を求め始めている。それは、15万5千人を結集した1月末の第5回世界社会フォーラム(ブラジル・ポルトアレグレ市)に現れている。
 イラク侵略戦争は、帝国主義の侵略性・差別性から発した戦争であるから、それには反侵略・反差別という性質を持った反戦運動が対応するし、そうなっている。そしてその中から、非スターリニズム化が進んだ共産主義運動がよみがってきている。資本主義は一部少数者の繁栄の未来を描けても、多数の繁栄する未来など実現しようがないし、すぐに後戻りする一時的譲歩・改良がせいぜいであることが見えてきている中で、運動が、反対派としての水準を超えて、帝国主義世界に対して、「もう一つの世界」への出口を示すことを求められているからである。先進資本主義諸国において、改良主義や修正資本主義の限界が露呈し後退する中で、多くの人々には暗い未来しか待っていないことが明らかになる中で、ますます根本的な社会変革という選択肢が求められているのである。
 ブルジョア民主主義を超える結合形態としての新たなプロレタリア的共同体建設とそれによる資本制社会の置き換えのための物的条件が成熟しつつある中で、プロレタリアートはそのヘゲモーンとして成長しなければならないし、それを意識的に押し進める国際主義的な高度な結合体を建設することが必要である。貨幣・商品の作り出す人々の結合水準とブルジョア民主主義の水準を超え、現在を超える「未来の創造」を押し進めることである。




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