共産主義者同盟(火花)

第43回衆議院議員選挙結果について

渋谷一三
267号(2003年11月)所収


 今回の衆議院議員選挙の結果については、マスコミ上でも多くの分析が加えられている。これらの分析のうちのほとんどは妥当な分析だと考えているので、本稿は特別な分析の視点を提示するわけでもない。備忘録としての性格が色濃い。

1.低投票率

 投票率は59.86%と、低かった。その原因は小選挙区制にある。小選挙区制では支持政党の候補者が立候補していなかったり、無党派層にとっての投票したい候補者もまた立候補していなかったりする。さらに決定的なのは死票を嫌う心理が小選挙区制の下では大きくなることにある。「2大政党」に投票する意志のない人は、投票そのものに行かなくなる。
 民主党の小沢さんは投票率が62%程度になれば民主党の政権奪取が可能だと試算していたが、皮肉なことに民主党の「2大政党」キャンペーンが投票を低下させていた一つの要因ではある。
 投票率を高めたければ、小選挙区制をやめることである。
 また、運動の側の視点からすれば、オランダの選挙制度のように、白票分だけ議席数を減らすという制度の確立が面白いのではないだろうか。日本では小選挙区だけを棄権し、比例区だけ投票しようとしても不遜・違法にも選管が余計な干渉をしてくる。白票が政治的意味を持つ制度にすれば、こうした主権者に投票を促すという不遜な選管の態度もなくなるだろう。

2. 民主党の議席増と自民党の議席減

 民主党は177議席、自民党は234議席を獲得した。その後、追加公認などで議席数に変動はあるが、それらの議席は分析上の意味はないので、無視する。
 民主党は自由党の持ち議席分を除くと、合併効果は30議席となる。この数をどう見るかで、「2大政党制」の時代が始まったか否か、マニフェスト選挙だったのか否か、評価が分かれることになる。
 筆者は合併効果を限定的に、2党の競合で落選していた選挙区で合併によって当選者を出した選挙区と規定する。雰囲気とかの数値化しにくい効果を捨象したこの限定的な合併効果という規定によっても、最大限に見積もれば30議席増は限定的合併効果の範囲内にある。したがって、「2大政党時代の始まり」「マニフェスト選挙」という分析については、これを過大に評価することに対しては懐疑的である。比例区で第1党になったことを考えると、合併効果は10議席程度と見るのが妥当なところではないか。
 自民党は森内閣時の233議席を1議席上回った結果になったが、社民党の凋落によってこの議席増を獲得できたことと追加公認の数を比べれば、森内閣時より減少していると見るべきである。
 それでもなお、小泉派(森派)議員は「小泉総裁でなかったらもっと負けていた」と強弁している。もしこれらの議員の言う通りなら、自民党は限りなく「終わっている」ことになる。小泉であろうがなかろうが、ほぼ同じ議席数であったであろうと見るべきではないか。

3. 公明票による自民の議席維持

 公明党支持者の自民党への投票率は70%にも上り、自民党支持者の公明党小選挙区候補への投票率は13%に留まった。公明支持層の投票率自体が高いため、低投票率の下では公明票の重みは格段に高い。公明票をもらえねば落選したであろう自民党当選者の数は30前後に上ると推測されている。要するに、自民党単独では第2党になったことがはっきりした選挙であった。
 公明は2議席増を勝ち取り、自民党に対する発言力をさらに強めることになるだろう。既にその兆しはあり、年金法案は公明案を基礎にすでに閣議決定されている。

4. 森派の「大幅」議席増と鮮明になってきた小泉さんの利権体質

 自民党の退潮の中で森派は10議席を増やし、自民党第一派閥に踊り出た。その象徴が静岡で、政権共闘を組んでいる新保守党党首熊谷さんが立候補している選挙区で森派新人の応援に駆けつけ、石原国土交通相まで動員して熊谷さんを落選させてしまった。全く「信義」に反する行為だが、新保守党なんぞは潰して自民党に吸収してしまえばよいという判断をしたのだろう。事実その後の経過はその通りになった。
 鈴木宗男さんは立候補を断念させられ、彼が握っていた外交利権、なかでもロシア利権はそっくり森派が手中にし、潤沢な選挙資金を得、森派新人を大量に立候補させ当選させることにつながった。
 小泉さんの利権体質は、産業再生機構の適用企業が小泉ファミリー企業であったとか、土井社民党党首によって議員辞職においこまれた辻本清美さん同様、実姉の秘書問題を抱え握り潰していることなどが報道されるに至り、隠しきれなくなり始めた。だが、こうした記事が主に週刊誌でしか暴露されていないこともあって、週刊誌を見ない層には未だ、小泉改革神話が通用するようだ。

5. 社会民主党の敗北

 これは指摘されている通り、拉致事件を否定し、腐敗しきった朝鮮民主主義人民共和国を支持し続けたこと、辻本清美さんに議員辞職までせまり詰め腹を切らせたこと、この2点に尽きる。
 第一点については、自らの誤りを未だ真剣に総括しておらず、このことが、今回の選挙のスローガンにも反映されることとなった。曰く、護憲。
 筆者は憲法改悪に反対する立場であるが、朝鮮民主主義人民共和国の具体的危険性に対して、これに乗じて憲法改悪を目論む自民党に対して、その意図を暴露することに失敗し、9条を守りながらどう具体的に朝鮮民主主義人民共和国と闘うのかを提示することをサボタージュして護憲を叫ぶことで済ますこの態度には怒りを覚える。
 続いて辻本清美さんの秘書問題。一人に支払われる秘書給与を4人の秘書で分けることは法的にどうであれ道義的問題は全く存在しない。したがってむしろ法改正を主張する必要があれ、攻撃されることを恐れて、自らの手で辞任させるという戦わずして敗北する土井さんの強欲な姿勢を感じ取るのは私だけではないであろう。ましてや、このように指示したのが土井さん自身であってみれば、自己保身のために辻本さんを切ったとしか映らない。実際、小選挙区で落選したくせに比例区で当選してくるにおよんでは、言語道断。辞任すべきは土井さん自身であり、土井さんが国会議員として蠢く限り、社民党の議席増は望むべくもない。「2大政党制」に呑まれたなどとスットンキョーなことを言っているが、もし本当にそう総括するのならば、社民党を解散すべきである。

6.「2大政党制の端緒」ではない。

 このように見てくると、民主党の議席増は自民党から離れた保守票と社民党・共産党から離れた無党派票によってもたらされたに「すぎない」。もし、民主党が勝利するなら、そして民主党政権が2期も続けば、自民党は凋落の一途をたどり、小政党に転落する可能性は十分にある。社民党と自民党の議席数が入れ替わることですら原理的には有り得る。原理的にはそうであっても、現在の社民党の政治内容からは全くありえない幻想だし、2大政党制に潰されたなどととぼけたことをのたもうている限り、有り得ないことではある。
 2大政党制になったというのは早計である。
 自民党政権打倒が即時実現されるべき政治的欲求であったのに対し、公明票によってこれが実現しなかったことが、「2大政党」になったかのように見える根拠である。自民党が敗北し、利権から切り離されたら、自民党の政治内容にどのような未来があるというのだろうか。自民党は石原新党構想のようなより右翼色を強めた政党に純化しないかぎり、民主党と対抗できない。ただし、このフレイズは自民党が勝利し続けた場合の民主党にもあてはまることではある。




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