共産主義者同盟(火花)

イラク情勢について

渋谷一三
267号(2003年11月)所収


1.

大規模戦争終了後の米兵の死者は03年11月16日現在で176名に上り、大規模戦争時の死者数を大きく上回った。そのうち11月に入ってからの死者は66名にもおよび、米国の介入は中東情勢の一層の不安定化と泥沼化の様相を示している。
 もう一つの特徴として、自爆ゲリラの対象がサウジアラビアやトルコにも拡大するなど、米国の戦争政策に加担する諸国にも向けられていることを挙げることが出来る。11月に入ってからイラク国内でイタリア軍が襲撃され、上記2カ国国内での爆破攻撃があった。トルコではユダヤ教の礼拝所が爆破されており、一連の攻撃は、政治的意図が貫徹された極めて組織的な攻撃である。
 一方、自爆攻撃以外の米軍への直接攻撃にはロケット砲が使用されており、米軍の大規模な掃討作戦により、ロケット砲の備蓄が底をつけば、新たな国際的補給ルートを確保しない限り、展望がなくなることが容易に推察できる。おそらくは国境警備を万全にしきることは不可能であろうから、ロケット砲の補給ルートは確保されることになろう。とりわけ、イラン国境からの補給は容易であろう。
 米国はイランに対して核開発疑惑なるものをでっちあげ、イランへの軍事的圧力を強めながらイラン・イラクの国境警備を強化し補給ルートを絶とうと目論んでいるのだろうが、実に遠い迂回路でしかない。また、ほぼ意味のない大規模掃討作戦で犠牲になるのは民間人だけである。いやしくも、米軍と戦う決意をし実行している部隊が、掃討作戦を前にわざわざその場に残留して戦うはずもない。報道されることのない民間人の犠牲は、うわさによってイラク国内には確実に流布し、反米感情のさらなる高まりを生み出すことになろう。
 湾岸戦争時におけるジェシカ、油まみれの海鳥。今時戦争におけるリンチさん。米国の報道管制とでっちあげは、事実を知らせたほうがうわさの拡大より自分にとって有利な場合のみ事実を報道させ、それ以外は一切自分に有利なように報道を制限するばかりか、創作劇まで事実として報道させる、正義性や長期的展望の全く無い、完全なる力学主義である。こうした国に長期的未来はない。

2.

 でっちあげてでも大量破壊兵器が埋蔵・隠匿されていたとしたい米国であってすら、今日にいたるもこれらの兵器は発見されたと報道出来ないでいる。したがって、米国のイラクへの侵攻は、全く正当性のない侵略戦争であった。
 日本の報道機関は今からでも遅くはないから、この点をはっきり打ち出すべきであるし、何より政府がはっきりと打ち出すべきである。
 自民党政府にこうした能力はない。対米追従を正当化するために小泉・安部・石破ラインは朝鮮民主主義人民共和国のミサイルの脅威を持ち出し、安保に頼る以上は米国に追随し、総額12兆円を超える戦費負担をすべきだと主張する。それも戦費負担については1期分約100億ドルのみを小さな扱いで報道するように圧力をかけてしか出来ず、自らの後ろめたさを露呈させている。
 民主党政府になったら不正義の戦争と宣言し非協力の態度を取れるのか?否。
 民主党は国連中心主義を指針とする構造になった。これは旧自由党の小沢党首の持論がこうしたことを真剣に考えてみたこともなかったいい加減な社民主義者=旧社会党部分に渡りに船となったことにより、民主党の党論になった。
 国連の要請が無い限り派兵すべきではないし、復興支援に限っても、対象国政府の支援要請が無い限り自衛隊を送るべきではないという奇妙な論である。早晩米国は傀儡政権を作り、日本政府に配慮して傀儡政権からの派遣要請をして下さるだろうが、派遣要請があったら派遣できるとする民主党の論が、不正義の侵略戦争への加担を阻止できない構造になっていることは明白である。また、一国を侵略し、その国の政府を解体させるという戦争をしているのに、その国の政府の派遣要請を要件の一つとするというのは非現実的な、有り得ない事態を口実にする逃げ口上でしかなく、説得力を持つ論ではない。更に、民主党が逃げ口上を使って逃げ続けるのかと言えばそうではないのだから、論理性は全く無い。逃げ続ける=永遠に派兵しないというのであればまだ騙されたふりをしてあげていてもいいというものだが、他方で憲法改悪については積極的なのだから、どうにもこうにも滅茶苦茶で、批判する者泣かせなほどの混乱ぶりである。
 政権政党としての現実主義を言うのならば、はっきりと不正義の戦争には加担できないと言うべきである。現に、川口外相が訪問したマレーシアではイラクへの支援要請はきっぱりと断られている。小国が米国に逆らい、米国の意を受けて走り使いをしている日本をも「敵」に回して、きっぱりと断っている。マレーシアではイスラム教徒が多いということと、米日の要請を断るということは何ら論理的連関はなく、ただ純粋に判断だけの問題だからである。

3.

 社民・共産(以下、社共と略)は、一切の派兵を認めない憲法9条を守れを選挙スローガンに採用した。米国の侵略戦争には声高に反対することも出来ずに、選挙になったら突然護憲を叫び出した始末である。
 当然のことながら選挙には負けた。
 米国に追従する以上は金だけではなく人も送るべきだと主張するのが自民党。追従するにしても国連という範囲内に限定すれば米国追従の程度は格段に下がると主張するのが民主党。国連中心主義を隠れ蓑にする限りは、自衛隊の「人道」支援に限っては憲法9条は禁止していないとする解釈まで作り上げて憲法9条を守って見せているのが小沢さん。
 こうした政党のそれなりの現実主義と努力に対して、憲法9条を守れと叫ぶ限りは9条を守ることの現実性を打ち出す努力が最低限必要である。だが、社・共はこの努力を一切せずに、むしろ帝国主義内部の一国主義(海外からの搾取収奪現実に目をつぶり)からする既得権としての平和を守れとでもいうべき位置からの「護憲」には何ら説得力はない。
 喩えて言うなら、強盗・窃盗を生業とする家庭に育ったこどもが親の生業を知らずに強盗や泥棒から家庭を守ろうと呼びかけているようなものだ。
 憲法9条遵守を言うならば、ヨーロッパ共同体と同様のアジア共同体の形成を言い、各共同体の連携から新しい国際共同体の形成までを構想として語り、この実現に向けた政策
の一貫性を保持し、それまでの過渡期としての自衛は認めるなどの構想が必要である。特に共産党は自衛については認め、仮に共産党が政権を取った場合でも自衛隊を即時解体はしないとまで言っている以上、過渡期の自衛を日本共産党軍創設までの過渡期としてではなく、上記のような政治的一貫性をもった過渡期に位置付けて言うべきである。上記の構想は例えばの話であって、筆者の主体的物言いではないのは言うまでもない。
 それがどのような構想であれ、例えばアジア共同体の形成一つを取っても、日本が帝国主義としてアジア各国を食い物にしている現実を放置していては一歩も先に進まず、帝国主義について自覚させてくれる機会にはなる。
 だいたいが、社会何某、共産何某を名乗る政党に搾取や帝国主義についての初歩講座を始めなければならないほどにこの国の城内平和主義ぼけが進行しているのが情けない。
 自らのスローガン「護憲」にしてすら、政治的一貫性や現実性の提示まで煮詰めて真剣に考えてはいないありさまで選挙に勝てるわけもない。土井元党首に至っては「護憲」に投票しないことが大衆の愚民化であるかのように嘆いてみせ、自らを省みることすら出来ず、結果として憲法改悪阻止の運動や意志を踏みにじる役割を果たしてしまっているのだから、退場願う以外にはない。社民党が敗北したのは「護憲」を打ち出したからではなく、まじめに「護憲」すら打ち出さなかったからである。
 民主党は無理としても、共産党や社民党はイラクへの米国の侵略を不正義の戦争として打ち出し、自衛隊派兵反対を貫くべきであるが、これらの政党の反対論は小泉同様の危険論からでしかない。挙句の果ては、自衛隊の家族の心配などと何時から自衛隊を認めたか分からぬ混乱ぶりの平和主義なのだから、どうしようもない。

4.派兵を支援と言い換えて見せることの欺瞞

 米国は韓国に対し、数万規模の派兵を「要請」している。朝鮮民主主義人民共和国の軍事的脅威から守ってあげているのだから応分の負担をせよということである。ノ大統領は苦渋の選択として3000人の派兵を打ち出したが、国内からは3000人という米国の要求を10分の1に値切った規模であってすら激しい反対を受けている。
 日本は金を出しているから、当てにしていませんよ、出すなら出すで自民党の政治に取ってそれが好都合ならばそうすればよいとラムズフェルドに15日お墨付きあるいは三行半をもらっている。
 その通りなのだ。
復興に人員がいるのならばイラク人を雇うことが雇用の創出や経済の再建に役立つ。外国の軍隊など逆効果で要らぬおせっかいというものだ。全く紐のついていない利子もついていない金を貸してくれるほうが余程助かるというものだ。金をだまってくれるというなら、望外の喜びというものだ。
だが、日本は総額12兆円にも上る金を戦費として米国にあげている。それも無利子ローン以上の、「望外の」、差し上げるという形で。これにより米国は経済的負担なく戦争が出来、利権を獲得できる。米国内の軍事産業をはじめ関連する諸企業は潤う。日本の金は米国の好戦的侵略的体質を完全に支えており、日本の金が世界の無辜の民を殺戮するのに「役立っている!」
日本がしなければならない国際貢献は米軍の戦費を出さないこと。これが、第1である。
次に、人道的支援などという詐欺的言辞について。
この章の冒頭で述べたように、復興に人手がいるのならイラク人がするのが最も良い。それでも足りなければイスラエルに締め出されているパレスチナ人を高給(海外派遣手当・危険手当でもつけて)で雇用するという方策も考えられる。そうしないのは、そうできないからである。そうできない理由の第1は、パレスチナ人やイラク人の幸福を願って「圧政」から「解放」してあげたのではないから、これらの人々の利益にしかならないことにただ金をあげるなどとは思いつきもしないこと。第2は、危険だからである。
侵略軍に安全な地域などあろうはずがない。だからこそ、軍隊を派遣するのである。軍隊を派遣するのに丸腰ならば軍隊という形式で派遣する意味などない。実際にあるのは命を賭けてイラクに敵対するのか、命を賭けて米軍の侵略戦争に加担するのか否かという選択しかないのである。
米軍の侵略戦争が正義の解放戦争だと思い込んで、初めて命がけで復興作業に取り組めるのである。さもなくば、はっきりと、帝国主義的利益のために命を賭けると現実認識することである。
資本家階級は自らのよこしまな利益のために自階級の子息を投入すべきだが、絶対数が圧倒的に足りないばかりか、死ぬことなど、最も大切な利益を捨てる本末転倒なのだから、思いもよらないことなのだ。したがって、大衆を欺き戦争に動員するために正義の戦争と言い立てているにすぎない。
かりそめにも大衆の政党、国民の政党と名乗って自民党に反対する政党は、正義の戦争と言い立てるこの欺瞞を暴露して、大衆が資本家階級のために死に、また、殺すことを阻止しなければならないのだが、「人道支援」なる偽りのための言葉に無批判に乗っている。

5.

 イラク、そして国際的イスラム組織の米軍への攻撃は今後拡大していくであろう。米軍はベトナムに続いて泥沼を経験することになる。泥沼の度合いはベトナムほどにはならないだろうが、すんなりと傀儡政権を樹立し撤退をはかることは不可能である。
 殺人鬼ブッシュもこのことを認めざるを得なくなり11月16日、速やかに政権を委譲できるように努力するが、政権移譲後も米軍は撤退しない、と声明している。
 そう、傀儡政権樹立自体は難しいことではない。だが、そんな簡単なことすら6ヶ月以上経った今でも出来ていない。考えにくいが、米軍の掃討作戦が功を奏したとしても、米軍が撤退すればその途端にゲリラ活動が活発化し、あるいは即座に傀儡政権が打倒されてしまう。これでは石油利権の恩恵にあずかることはできず、何のために侵略したか分からなくなってしまう。米軍は4〜5年以上、イラクに駐留せざるを得なくなっている。




TOP