共産主義者同盟(火花)

対イラク侵略戦争の危機と成長する革命の条件

流 広志
257号(2003年1月)所収


内戦(市民戦争)と侵略戦争を挑発する帝国主義的新保守主義反動

 米帝ブッシュ政権は,次々と湾岸地域に米軍部隊を送り込み,対イラク侵略戦争準備を着々と進めている。
 アメリカ帝国主義は,新たな国連決議なしで,単独でも対イラク戦争が可能だとして,B1爆撃機を中東の基地に送り込み,中東軍司令官をカタールの前線司令部に派遣するなど,戦争準備を進めている。
 この戦争の狙いは,石油利権とイスラエルの安全保障のためであることは明らかである。 アメリカ政府内には意見の違いが存在している。チェイニー副大統領,ラムズフェルド国防長官の強硬派とパウエル国務長官の国際協調派との対立に加えて,CIAは,イラクとアルカイダの具体的関係を示す証拠はないという報告を出している。
 元CIA幹部は,イランーイラク戦争での化学兵器によるクルド人虐殺事件についても,それがイランのものかイラクのものかわかっていないのに,アメリカの対イラク政策の変化するにしたがって,いつのまにかイラクのものということになっていったという経過を暴露している。
 湾岸戦争の際には,イラクと関係ない油まみれの水鳥の映像がくり返し流されて,それを流したメディアの責任が問われないままだが,今度も政権と情報機関による世論調査が行われるだろうから,あらかじめそれに引っかからないよう注意を呼びかけておく。
 最近,米帝の狙いがイラクを中東民主化の橋頭堡とするものであるという説が浮上している。というのは,米帝政権内で,戦後のイラクに対日占領策(GHQ方式)案が取りざたされているためである。
 この説が浮上している背景にはブッシュ政権に大きな影響力を持つ新保守主義(ネオ・コンサーヴァティブ)が,中東世界の民主化を主張しているということがある。政権内の新保守主義者として,チェイニー副大統領,ラムズフェルド国防長官の影響力が大きく,国際協調路線派のパウエル国務長官らを押さえていると言われている。また,全米で約9000万人の信者を組織しているといわれる親イスラエルのキリスト教原理主義(福音派)勢力は共和党に選挙支援などを通じて強い影響力を行使していると言われている。
 これら新保守主義勢力の台頭は,世界中に軍隊を駐留・派遣しうる世界最大の軍事力を有する最大の経済大国となった米帝の自惚れぶりや帝国市民としての利害や誇りやおごりやたかぶりや排外主義などをあらわすものである。
 とりわけ,イスラム諸国からの入国者への指紋押捺義務実施,民族・宗教という属性をもって不当拘束する当局の差別排外主義的措置が正当化に現れた当局の差別排外主義の強化は,アメリカがこれまで誇ってきた自由と民主主義を後退させるものである。それには9・11事件後の一部アメリカ市民によるアラブ系イスラム系市民に対する差別排外主義的襲撃や差別事件の頻発というアメリカ社会の差別性の露呈ということが背景にある。
 一部住民によるアラブ・イスラム系住民に対する差別排外主義襲撃は,政府の差別排外主義策とあいまって,アメリカ社会内における内戦(市民戦争)の萌芽を生み出しつつある。ユダヤ人がアラブ・イスラムに対する偏見と差別意識を助長してきたということが加わって,民族間の憎悪が増幅されているのである。
 かつて,黒人差別は,公民権運動を呼び起こし,ベトナム反戦運動と呼応する形で,内戦(市民戦争)・黒人反乱として爆発した。アメリカにはユダヤ人を超えるアラブ・イスラム系住民が存在する。かれらを追いつめ,差別していけば,内戦を誘発する可能性が高まる。
 今や,アメリカ流の自由と民主主義は後退・反動化し,人種・民族間の内戦の可能性を高めているのである。

イラク体制の性格と戦争の性格

 イラクのフセイン政権が中世的反動階級の政権ではないことは明らかである。
 イラクは市場経済の国であり,現体制は近代的資本主義的性格を持っている。つまり近代的民族国家を形成している初期資本主義・自由主義的資本主義段階にあるのである。成長し,拡大し,膨張する若々しい資本主義期の特徴をもっており,そこから来る侵略性を持っているのである。
 イラクーイラン戦争の際に,アメリカは,イラクに対して,民間取り引きを偽装しながら武器を供与し,対イラク投資を行ったが,それによって,イラクは自由主義的資本主義を発展させ,アラブの盟主を自負するようになった。
 それに対して,アメリカは,イラクの強大化を危惧して,一転してその勢いを押し止めようとし,経済制裁を加えたために,イラクはクウェート侵略に活路を見出そうとし,湾岸戦争を引き起こし,アメリカを中心とする多国籍軍によって,クウェートから押し返されたのである。
 これは,正確ではないが,大日本帝国が,ABCD包囲網によって,石油や天然資源の供給を断たれたことから,太平洋戦争へ突入していったのと似てなくもない。
 イラクのクウェート侵略戦争は,自由と民主主義のための解放戦争(革命戦争)でなかった。それは,フセイン政権がクウェートの直接併合を目指し,クウェートの王政の廃止や特権層の排除,市民解放をしなかったことで明らかである。
 この間,サウジアラビアなどで,王族支配に対する民衆の不満が,イスラム原理主義の拡大や反米意識の増大などという形で表れていることが明らかになりつつある。そういうアラブ民衆の要求に応え,かれらを市民として解放する闘いであれば進歩的で,民衆の大きな支持を獲得できただろう。
 フセイン政権・バース党は,そうした解放の旗手としての役割を果たすことはできなかった。ただ,ヨルダン,パレスチナなどの支持を得られただけであり,サウジアラビアやエジプトなどの大衆の支持を掘り起こすことはできなかった。それは,クウェートで一般民衆に対して残虐行為を行い,アラブ解放を前進させなかったためである。。
 もちろん,戦争に残虐行為はつきものであり,それを100%避けることなどできない。しかし,それは,不測の事態であり,やむを得ない犠牲であり,避けようとして避けられなかったことが明らかでなければならない。王族や特権支配層,反動階級以外への残虐行為を最小に止める努力が必要なのである。解放されるべき人々とそうでない人々とは区別されなければならないのである。
 革命と反革命は階級階層間の相互関係の客観的分析から正確かつ厳密に規定されなければならないのであり,ご都合主義的に扱われてはならないのである。プロレタリアート内の部分的な意見の違いぐらいでの反革命規定は,マルクス主義的概念を俗流化するものであり,やってはならないことである。アラブ・イスラム社会で民衆によって打ち倒されるべきは,王族や反動的宗教者,特権層などの極少数にすぎないのである。
 アメリカの新保守主義は,対イラク侵略戦争を,中東民主化のための解放戦争として正当化しごまかそうとしている。アメリカは,経済的金融的軍事的に支配して他国を事実上の植民地としている帝国主義大国である。
 他方,イラクは,自由主義的資本主義段階にある独裁形態の国である。資本主義はいろいろな政治形態の下で発達する。個人独裁という政治形態と議会制民主主義形態が根本的に対立するということは,資本主義にとってはあり得ない。どちらの形態でも資本主義は発達できるし,全体主義の下でも資本主義は発達できるのである。もっとも全体主義という概念は,極めて政治主義的な概念であって,客観性がないので採用できない概念である。
 ただし,資本主義は,民主共和制の下では,全面的に発展できるが同時にそれは階級闘争が全面的に闘い抜かれる政体である。
 ところが,帝国主義段階になると,支配,抑圧,差別,侵略,という反動が,政治性格として貫かれるようになる。しかし,帝国主義は,独占であるが,それは自由競争と並んで存在するのであり,自由主義と対立しながら存在するのである。だから,自由主義は,独占派政府に対する反政府勢力として現れるのである。しかしそれは同じ資本主義という根っこから生まれたものであり,結局は融和してしまうのである。ちょうど,自由党が分裂して野党の自由党と政府与党の保守党と分かれたように。
 米帝が準備している対イラク戦争は,帝国主義侵略戦争に他ならない。それは,石油・中東支配のための戦争であり,アラブ・イスラム人を差別,抑圧し,かれらに排外主義攻撃を加えながらする戦争であり,パレスチナ人を差別・抑圧・排外し,虐殺・略奪・生活手段破壊しているイスラエルを助ける戦争である。
 フセイン政権は,自由主義的資本主義段階で資本主義発達を促進しつつある発展途上の資本主義国の独裁政体である。その社会には独裁政体であるなしに関係ない進歩性が認められる。ちょうど,明治政府が独裁政体であったにも関わらず,封建体制に対して進歩性があったように。大日本帝国は,帝国主義となって以降,急速に反動化し,帝国主義戦争に敗北したのである。
 今度のアメリカ帝国主義の侵略戦争に対するイラクの自衛戦争は進歩的である。
 しかしもちろん,国内のシーア派住民やクルド人に対する抑圧ということは忘れてはならない。イラクは,自由主義段階の民族主義国家として,他民族への抑圧性・差別性をもっているのである。
 イラク人による民族的抑圧に対するクルド人の民族自決権が認められなければならない。すなわち,クルド人の自由意志による独立の決定権が認められなければならない。これは,離婚の権利を認めることが離婚を奨励することではないのと同じように,独立を勧めるということではない。

見通しのない米帝のイラク戦後体制案と米軍の志気

 フセイン政権の武力打倒を追及している米帝ブッシュ政権は,イラクの戦後体制について,あれこれと手を打っているが,どれも具体的見通しがたっていない。
 GHQ方式については,日本の場合,明らかに,寄生地主制や軍閥,財閥,などの反動勢力が残されており,これを解体することは進歩的であり,民主共和制という資本主義発達にもっとも適した政体への転化は進歩的であった。しかし,それは,象徴天皇制を持つ中途半端な民主共和制にすぎなかった。そのために,反動派は,改憲派という反政府反体制派として与党を占めるというねじれ現象が常態となり,55年体制という改憲派対護憲派という枠組みが出来た。憲法体制に反対する反体制党が政府を担当し,憲法体制擁護派ー体制派が野党になるという奇妙なことになった。
 しかし,日本の場合と違って,イラクでは北部のクルド人と南部のシーア派住民は,合わせるとイラクの多数を占め,国土を三分割させかねない大勢力である。それを押さえて米軍の直接統治を維持するには多大の費用と労力を長期にわたってかけつづけていかなければならないだろうし,陸続きの国境を完全に警備しきれるのかという問題もある。
 アメリカでは,一部に,ヨルダン王家のハシム一族からの分家を立てて,イラクに王政を復活させようという案も出ている。アメリカの対イラク政策は混乱したままなのである。
 12月7日,ブッシュ大統領は,1998年の「イラク解放法」に基づいて,イラク反体制組織指定を決定した。それによると,アッシリア民主運動,イラク自由武官文民運動,イラク国民戦線,イラク国民運動,イラク・トルクメン戦線,イラク・イスラム講和,は,イラクの民主的反対派組織であり,「イラク解放法」を根拠にした援助を受ける資格があると認められた。
 さらに,イラク国民講和・イラク国民会議・クルド民主党・立憲君主制運動・クルド愛国連合・イラク・イスラム革命最高評議会に対する国防省からの9200万ドル以内の支出と軍事訓練を命ずる大統領決定が下された。
 これらのイラク反体制派組織は,自治拡大を求めるクルド人勢力,イランと同じシーア派のイラク・イスラム革命最高評議会などの利害も事情も異なる勢力の寄せ集めにすぎない。
 また,1月10日の毎日新聞の報道によると,アメリカ当局は,フセイン政権に弾圧され山岳地帯に逃亡したイラク共産党にまで協力を要請しているというのである。そこには,なりふり構わずフセイン政権打倒に動く米政府の姿が現れている。
 大義もなく,正義感を駆り立てる要素もなく,国連のはっきりした支持もない戦争に動員されているアメリカ軍兵士の志気は高まりようがないはずである。規律の維持は困難だろう。9・11事件の衝撃から愛国心が高揚し,対テロ戦争ということで志気が上がったアフガニスタンでの戦争とは情況が違うのである。
 イラクに,脅威となるほどの大量破壊兵器があるかどうかわからないし,たとえ仮にあったとしても,査察団に発見されれば廃棄せざるを得ないだろうし,米英による軍事衛星を含む監視網が作られているのである。アルカイダとの密接な関係を示す具体的な証拠も提出されていない。
 クウェートで米軍兵士が爆弾攻撃を受けたように,アラブ・イスラム社会での反米感情は根強く,政府に対して,民衆は米軍を歓迎していない。
 さらに,湾岸戦時には米軍当局は,劣化ウラン弾についての危険性を知らせることなく,米軍兵士を被爆させ,湾岸戦争症候群にかかる帰還兵が続出したことについても,兵士に情報を隠し続け,被爆の責任を認めていないなど,軍当局が一般兵士の生命の危険を軽視していることへの不信感がある。
 地上戦における犠牲者数は,湾岸戦争の比ではなく,多数に及ぶことが予想されている。
 こんな状態で米軍がどれだけ高い志気を持てるかどうか疑問である。
 さらに,アメリカ国内では,戦費を2000億ドル(約1兆4000億円)と見積もった財務長官らの経済閣僚が更迭された。見積もりが高すぎるというのである。
 しかし,アメリカ経済が悪化しつつあるのは,大減税や株式配当課税の撤廃などの新経済政策を見れば明らかである。
 原油価格は,ベネズエラでの反チャベス政権の石油企業などでのゼネストで,値上がりしつつあり,対イラク戦争が開戦となればさらに値上がりすることが予想されている。株価は低迷したままであり,低金利のために比較的に好調な住宅建設によってかろうじて消費の減少をくいとどめているにすぎない。
 すでに,財政赤字が拡大し,減税や戦費の支出によってそれが拡大し,アメリカ製品の購買可能な市場は縮小し(世界的デフレ),貿易赤字も拡大することが確実である。レーガン時代の双子の赤字が再び襲いかかっているのである。
 さらに,米政府は,国連安保理メンバー諸国に対して,ODAの供与というアメと減額というムチを使って脅したりすかしたりして,アメリカの主張を通す工作活動を展開し,国連安保理を道具としている。ブッシュ政権は,大幅なODA予算の増額を決定しており,これを国際政策上の武器として活用しようとしているのである。
 ロシア,フランスとは,両国がイラクに持つ利権を保証して,協力を取り付けている。 かくして,米帝は,圧倒的な軍事力と経済力を背景にした世界秩序の構築を,対イラク戦争においても貫こうとしているのである。
 ブッシュは対イラク戦争にのめり込んでいるが,米軍の志気,国際世論の動向,国内世論次第では,戦争目的の達成度は低まるだろう。
 われわれはこの戦争計画の帝国主義侵略戦争という戦争性格を暴露しつづけるし,この戦争に協力する自国帝国主義を打倒することを呼びかけていく。反戦運動に立ち上がりつつある労働者大衆にこれと反戦を結びつける革命的反戦運動を発展させるよう訴える。
 1月27日の査察報告書の提出期限は,米帝ブッシュ政権が開戦を判断するかどうかの節目である。米帝が開戦を決定した場合,2月中には空爆が始まることが予想される。18日には,全世界での統一反戦行動が予定されている。帝国主義侵略戦争反対の大衆的反戦行動に立ち上がり,自国帝国主義政府を打倒しよう!

小泉政権の戦争協力の狙いと西尾幹二流の戦争支持論の危険な愛国主義=官僚主義

 小泉政権は,すでに,間接支援として,インド洋にイージス艦を派遣した。さらに,戦後復興への協力支援策として新法の制定を目指す方針を明らかにしている。
 その際に,湾岸戦争時に採択された国連安保理決議によって,アメリカが新たな国連安保理決議がなくても,米軍の対イラク攻撃は正当であるとして,開戦から早期に支持表明をするとしている。戦後復興のための自衛隊派遣も新法の対象として挙げられている。
 他方,すでに,ゴラン高原,東チモール,インド洋にPKO部隊として自衛隊が派遣されている。さらに,中東地域に派遣するとなれば,専守防衛のための国内自衛隊の部隊が減るわけである。
 同時に,政府は大規模直接侵略を想定した有事立法成立を急ぐとしている。石破防衛庁長官によれば,それは,対朝鮮人民民主主義共和国の抑止力になる。この場合の安全保障上の脅威として挙げられているのは,工作船の侵入,工作員による原発攻撃などの工作活動,ミサイル攻撃,等々であり,大規模直接侵略というものではない。それらに備えるよう条文の変更が加えられるというのだが,はたして部隊を海外派遣し続けて専守防衛体制自体だいじょうぶなのかという不安の声も増すだろう。
 米帝の戦争支持派の中には,西尾幹二のように,対イラク戦争に日本が協力すれば,お返しに,朝鮮半島での脅威に対して,アメリカが強く対処して,日本の安全保障をやってくれるだろうという者もいる。憲法上,海外での武力行使ができない以上は,日米安保によって,米軍に守ってもらわなければならないからというのである。
 かれは,欧米や中国をはじめとする諸外国はずるがしこいが,日本はだまされたり,おどかされるだけの弱い国だという国家観を持っている。したがって,日本は,か弱く愛らしい過剰に守ってもらわねばならない国だというのである。
 最新鋭の武器を多数所持し,世界2位の軍事予算を使っている国が,か弱いという客観的根拠のないことを述べているのである。要するに,西尾幹二自身が自信がないというわけであろう。それは彼がインテリ的懐疑主義にとらわれているせいであろう。それはちっぽけな自我を絶対視する自我主義の当然の行き着く先であり,それこそが愛国心の正体なのである。
 だから,かれが会長をしている「新しい教科書をつくる会」の中心メンバーである小林よしのりは自我を想像力で極端に拡大して『ゴーマニズム宣言』し,傲慢にまで自我をでかくしなければならなかったのである。頭の中で自我を大げさに大きくしなければ,たんなる自信すら持てなかったのである。
 想像力によって巨人となった自己愛=愛国心から見たとき,客観的な歴史認識が,それを傷つけるように感じられるために,歴史教科書記述にかみつかざるを得なくなった。
 かれらの自我は想像で巨大化されているために,他国とのささいないざこざに敏感に反応するようになっている。
 彼我の冷静な客観的分析と評価によって,事態を性格に把握するならば,従軍慰安婦問題を否定することなどなかっただろうし,過剰反応であることを自覚できたであろう。自惚れは判断ミスを引き起こす要因となりやすいのである。
 こういう連中の言うことをまともに受け取るわけにはいかない。
 例えば,朝鮮民主主義人民共和国は,1993年の時のように,アメリカの重油提供ストップの措置に対して反発し,NPT脱退・IAEAの査察拒否を宣言して,核問題でのアメリカとの交渉を狙った瀬戸際外交を行っている。自惚れた傲慢な態度でそれに臨んだら,支配階級同士の利害のために,被支配階級階層がもっとも大きな犠牲を支払わせられることになることは明らかである。
 また,気になるのは,「拉致議連」の平沢は覚悟を強調し,中山参与が心を一つにすべきだと,国家・政府の下に,国民が一体となるように導こうとしていることである。もちろん,そんなことは,国民が,資本家階級と労働者階級などの諸階級諸階層に分かれている現実からはありえないが,洗脳によって,一時的にそういう状態をつくりだせることは歴史が証明するとおりである。
 そんなものを狙っているのは,国家官僚であり,かれらは,それによって,歴史的に没落を運命づけられている国家官僚の存在理由を無理矢理つくりだして自己保身をはかろうというのである。かれらにとって愛国心・公共心は自己の存在根拠である。文部科学省は,今度の通常国会で,教育基本法に愛国心や公共心を入れる改定を実現したいとしている。
 しかし,コミューン的自治はこうした官僚仕事を減らして無駄をなくし,人民に奉仕する吏員によって運営されるようになる。そうすれば,医療・教育・社会福祉・社会厚生が充実した安心できる社会が実現するのである。
 かくして,愛国心からする戦争支持論は,たとえ口先では官僚を批判していても,実際には官僚主義を強化するものであり,労働者大衆への戦争犠牲の集中・転嫁をもたらすものに他ならないのである。

革命の条件を成長させる悪化する日本経済・社会の情況

 自民・公明・新保守の連立政権は,日米反革命同盟への安全保障の依存,中東の石油利権,等々のために,米帝の対イラク侵略戦争に協力しようとしている。
 バブル崩壊後,すでに10数年にわたる景気低迷が続いている日本経済は,いよいよ深刻化している。「改革なくして成長なし」というスローガンを叫んではなばなしく登場した小泉政権であったが,株価は下がり続け低迷し,失業率は高いままであり,企業倒産も増えている。
 肝心の改革の方は,骨抜き,妥協,後退している。
 デフレが続き,税収不足のために国債大量発行に追い込まれ,財政赤字は拡大し,発泡酒・たばこなどの増税を打ち出した。今年は,健康保険の本人負担の2割から3割への増加が実施され,介護保険料の値上げ,年金支給額の減額が確実である。
 小泉政権の支持率は低下し,外交以外に人気回復策がないという状態になっている。それでも,通常国会において,有事立法と個人情報保護法案を成立させたいと相変わらずの強気を見せている。解散総選挙が云々されているが,先の参議院選挙でも,橋本派は勢力を増やしており,選挙に強いところを見せている。
 日本経団連は,自民党が思うようにならないことに業を煮やして,企業団体献金を再開することを決定し,金をテコに介入することを決めた。
 大企業の多くは,相変わらず,小泉路線を支持しており,それは上層労働者以外の労働者大衆の反小泉気分の増大とは対照的である。
 日本経団連豊田会長は,毎年1%ずつ消費税を上げ,最終的に16%とし,それで社会保険をまかなうべきだという案をぶちあげている。すでに塩川財務大臣は,先行減税によって,大企業救済の大盤振舞を将来の増税と一体で行うと述べているが,さらに,消費税という大衆課税によってこれ以上の社会保障負担を免れようということを早めにアピールしているのである。これ以上の企業負担はいやだと宣言したのである。
 それは,現行の社会保障制度をどうするかということ,改革策を言わずに,ただ財源不足を誰がどのようにまかなうかということを主張したのであって,累進的でない形式的平等の間接税負担で大衆がまかなえというだけなのである。これ以上金持ちから取るなというのである。
 そこで,間接税率が高い北欧諸国の例が持ち出されたが,それらの諸国が福祉国家と呼ばれるほど,社会福祉が充実しており,しかも所得税も50%程度と高いという事実を無視している。周知のように,日本では,所得税の累進性が高いとして限界税率の引き下げを要求する声が財界などから出されている。所得税が高すぎるから引き下げろといい,減税もしろといい,さらに,社会保険負担も消費税にしろという。これは日本の財界の社会性の低さを示している。
 そういう社会のために本気で活動しようという気のないお偉方が,政府の審議会だの諮問会議だののメンバーとなって,人々の生活に関わり左右する重要な決定を,官僚と共に行うという反人民的な事態が国家の中で進んでいるのである。
 われわれが実現すべきは,無料の医療・社会保障制度であって,その負担は,金持ちに高く支払ってもらうということである。その場合に,現行官僚制度を縮小し,社会から超越しない社会に奉仕する吏員によって運営される簡素で無駄のない国家制度である。平等が実現すれば累進性はいらなくなる。
 その場合に,建国以前のアメリカ諸州において実現されていたコミューン的自治による社会生活の運営と規制,規律が一つの手本となることをマルクス・エンゲルスは指摘している。
  もちろんわれわれは帝国主義の時代に生きており,国家や国際機関のことを無視してはならないことは言うまでもない。革命が,国独資という小段階,国家権力奪取ということを日程にのぼせるという場合に,それを回避したり恐れたりして,事態に遅れをとるというようなことはあってはならない。
 しかし,同時に,それは,かかるコミューン的自治を実現するための第一歩にすぎないということに当初から意識的でなければならない。それは資本主義的生産関係の廃絶と変革と結びついてこそ,確たる根拠をもって進む。
 さて,小泉政権の構造改革は,言葉の上では,官僚やブルジョアジーのために生み出されている膨大な無駄をなくし,真に安上がりで効率的で簡素な行政を実現することで,全社会構成員の社会生活を豊かで安心なものにすることでなければならないはずである。実際にやったことは,そうではない。
 小泉政権は,自衛隊の海外派遣に金を出し,ダイエーの経営再建や銀行・金融機関には税金をつぎ込み,減税までしようというのに,医療・社会保険,社会保障の負担増,増税,と,デフレとはいえ,収入減の中で,人々の公的負担を増やし可処分所得を減少させた。物価下落率よりも年収の減少率プラス公的負担増加率が高くなれば実質所得減である。
 対イラク戦争では,戦後復興や難民支援などでの負担ということがあるが,戦費の負担を求められることが確実である。アメリカ政府は,景気対策に多額の予算を投入するために財政赤字が悪化することが避けられないのである。
 ラムズフェルド国防長官は,二正面軍事作戦の遂行は可能だと強気の発言をしたが,戦費負担は景気後退中のアメリカ経済にとって重いものとなることは確実である。そう簡単に,軍事作戦の拡大はできない情況なのである。
 日本政府は,このような,増税をともなうかもしれないようなリアルな問題を正直に正面から提起しようとしていない。税収不足,減税,景気対策への支出に加えて,戦費を負担するなら,財政悪化はさらに深刻となろう。
 現行の官僚制度を維持する気なのは,省庁再編が単なる集中にすぎなかったことや独立行政法人化が実は天下りの隠れ蓑でしかないということで明らかになっている。官僚天国が姿を変えただけで維持されているのである。先に本当に自己を改革し自己犠牲を払わないで,人民に犠牲を押しつけ,転嫁しているのである。そんなかっこうだけの改革にいつまでも人々は騙されていないし,こんな犠牲を引き受けるいわれはないということに気付くのも時間の問題である。
 プロレタリアートこそが,かかる支配階級のための戦費や無駄を徹底的になくすイニシアティブをとらねばならない。本当の改革は,武装したプロレタリアートが支配階級となって,現支配階級と国家官僚に対して,革命的な態度で強制して実施し実現するものである。それが現在の支配階級がもたらした破滅の危機から人々と社会を救うことである。
 なぜなら,今の危機は,すべて,現在の支配階級とその国家,そしてその政治代表によってもたらされたのであり,その責任はすべてかれらにあるから,当然の責任をかれらにとらせ,根本的にかれらと違うやり方で,社会を破滅から救う他はないからである。
 1990年代に種々の改良が試されたが,それは21世紀に入ると失敗したことが,日々明らかになっている。橋本派流の修正資本主義も小泉流の改革資本主義も失敗した。これらと結びついた政労資協調による「連合」の改良主義も失敗に帰した。
 改良によっても改革によっても,社会の破滅の危機は避けられなかったのである。
 そのことを直視するならば,この資本主義のもたらした隘路から脱出させることができるのはただプロレタリアートによる革命しかないということは明らかである。もはや改良や改革によっては,どうしようもないところに来つつあるのである。改良の積み重ねは,賽の河原の積み石のように今やどんどん崩されていっている。その一例は企業の障害者の一定割合の雇用規準が達成されないばかりか,逆に障害者が雇用されていることである。 ただし,それによって資本主義が自動的に崩壊するということを言いたいのではない。恐慌でさえ資本主義を自動的に崩壊させることはない。しかし,それは,革命的な問題解決に向けた条件を急速に成長させるのである。

プロレタリアートは革命的反戦闘争に立ち上がろう!

 帝国主義侵略戦争は,帝国主義国自体にとっても,危機を醸成させる要因の一つである。現にロシア革命は,帝国主義戦争と結びついて起きた。第二次世界大戦においても,植民地独立に結びついた。ベトナム戦争は,世界の革命的反戦闘争,アメリカ国内での黒人解放,民主主義運動の高揚をもたらした。その教訓から,米帝は,戦争の長期化をできる限り避けるようになった。
 しかし今度は,それに対応して,開戦前の反戦運動の闘い,戦争計画段階での戦争意志に対する先制闘争が運動側の戦術となった。それはちょうど,第一次世界大戦前に,ヨーロッパ諸国の社会民主主義者(共産主義者)たちが,バーゼル宣言などによって,開戦前からの国際反戦闘争への決起を事前に確認していたことと似ている。
 それは,ちょうど,マルクス・エンゲルスが,『国際労働者協会創立宣言』において,「もし労働者階級の解放にその兄弟的協力が必要であるなら,民族的偏見に乗じ,強盗戦争に人民の血と財宝を浪費して犯罪的企図を追及する対外政策をもって,どうして彼らはその大使命を達成できるであろうか?(いや,できない)」と述べた,強盗戦争を阻止するべく国際的に立ち上がるという労働者階級の大使命の実践である。
 自覚した労働者人民は,対イラク帝国主義侵略戦争という強盗戦争を阻止する革命的な国際反戦闘争に立ち上がろう!  




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