共産主義者同盟(火花)

米帝の対イラク戦争反対!

流 広志
253号(2002年9月)所収


 米帝ブッシュの「悪の枢軸」発言以来,名指しされたイラク・イラン・朝鮮民主主義人民共和国(以下「共和国」)の三ヵ国をめぐる情勢は緊迫の度を強めている。
 その中で,まず,アメリカは,イラクにたいする具体的な開戦準備を進めている。湾岸戦争後,南部と北部に設けられた飛行禁止空域で,米英の航空機によるレーダー施設などにたいする攻撃が繰り返される戦闘がずっと続いているのであり,戦争状態はすでにある。経済制裁が続く中で,劣化ウラン弾によるとみられる小児ガンなどによる十分な医療を受けられないままの死亡者が多数出ているという広い意味での戦死者が生まれ続けている。
 『火花』では,湾岸戦争に対する態度をその最中に明らかにし,さらに,1997年頃に,拙稿で,これを検証し,教訓化する作業を行った。湾岸戦争は米帝国主義などによる国際反革命戦争であり,帝国主義侵略戦争である以上は,これに対して自国帝国主義政府を敗北させるプロレタリアート人民の革命によるほかは真の平和を実現することはできないということであった。アメリカ帝国主義が,外から暴力によってイラクに軍事介入することは反進歩的で反革命的である。ましてや,親米政権をでっち上げて,政治的には独立国としながら,実質的には自国の事実上の植民地・半植民地にして,その国の経済や資源や市場を自由にコントロールし,支配し,抑圧し,搾取することには断固反対しなければならない。それこそが,米帝の戦争の真の狙いであり,性格なのである。かつてイランでやったことはそれと同じことであるが,それはイラン革命によって転覆された。

アフガニスタンを破滅させる帝国主義グローバリズムの「悪」

 アフガニスタンで今実行しつつあるのはそれであり,それはカルザイ政権とのパイプライン敷設計画の合意によって証明された。こういう権益を現地傀儡政権と軍・治安機関を事実上の傭兵として守らせることがもくろまれているのである。
 とはいえ,現実には,すでに一部メディアが暴露しているように,タリバン崩壊後のアフガニスタンでは,軍閥が割拠し,政権内での部族対立が武力衝突にまで発展するにいたっている。アメリカが,地元軍閥に金や武器を送って利用し,武器の拡散や力関係の不安定化などを促進しているのである。それに,タリバン残党とアルカイダは,パキスタンとアフガンを行き来してゲリラ戦や要人暗殺や爆弾攻撃を行っている。米軍の軍事作戦の長期化は確実である。米帝のもくろみどおりにいっていない。
 現地の実情をよく知る「ペシャワール会」の中村哲氏は,9月8日の『毎日新聞』に発表した「アフガニスタンにみる終わりの始まり」という文章の中で,「グローバリズム」は「企業や国家の「地球規模の戦略的意図を表す言葉として登場した」が,それは「人類全体を画一的な規格の下に置こうという意図的方策」であるとした上で,この間の出来事から,アフガニスタンは「グローバリズムとそれに抵抗する伝統社会の衝突する最前線」であると書いている。氏は,復興支援の名による近代的価値観の持ち込みは,「至る所で抵抗に遭遇し,人権を守る筈であった自由とデモクラシーが混乱を徒に増幅している」という。そして氏は,「タリバン(イスラム神学生)の「圧制」から女性の権利を解放する筈であった戦いは,物乞いの寡婦たちを激増させ,外国兵相手の売春の自由まで解放してしまった。農村社会と遊牧社会ではごく当然の子供たちの手伝い――それは次世代への生産技術の不可欠の伝承でもある――が,抑圧された「小児労働」として,人権侵害の烙印を押された。軍事力や経済力にものを言わせて,これを変えようとするのが,グローバリズムの「民主的」と称する素顔である」とグローバリズムを批判する。
 さらに氏は,「実はグローバリズムとは,強国の経済システムが延命するための方便であり,推進する当人たちも制御できない,高度資本制社会の膨張の帰結と見ることができる」と喝破する。国土の8割が山岳地帯で,9割以上が農民・遊牧民という「独立不羈の割拠性が著しい風土」で,近代的な国民経済など存在しないアフガニスタンに,グローバリズムを押しつけようとする「復興支援」の傲慢さを指摘する。そこから見えるのは,「清算と消費を無限に膨張させねば延命できぬ世界は,一つの行き詰まりに到達している。近代的生産様式は,自然からの搾取が無限大に出来るという,自然と人間の関係の倒錯に基づいている」ということであり,その「終わりの始まり」であるという。
 アフガニスタンでの戦争と戦後から,これだけの洞察を導き出せるだけの中村氏の活動の質と反省の深さの対象に,アメリカを支持しなければまずいとでも言わんばかりにさっさと自衛隊派遣を決めた小泉政権の政策判断の底の浅さが対照的に浮彫になる。またそれはアメリカ帝国主義ブッシュ政権の驚くべき傲慢さをも照らし出す。ただし,中村氏の近代的生産様式批判で注意したいのは,近代的生産様式が,無限の生産・消費拡大をもたらすというのは正確ではなく,実際には,利潤をもたらす限りにおいて生産・消費の拡大をもたらすということ,すなわち「資本にとって資本が限界である」(『資本論』)ということと,自然と人間との関係の倒錯は,人間と人間との関係の倒錯によるものであり,資本ー賃労働関係を基礎とする社会諸関係における倒錯が原因となっているということ,それからグローバリズムを帝国主義の一形態と捉えることが前提であるということ,それから民族国家の問題は,アフガニスタン全体としては問題にならないにしても,各民族にとっては現実的な課題としてあるということである。

アメリカ流民主主義の実態

 アメリカは自国の都合で他国に民主化を要求することが多いが,そのアメリカ国内で,FBIが虚偽の報告による違法な盗聴を行っていたことが暴露された。アメリカの中間選挙の最近の投票率は30%程度しかなく,70%の有権者は投票民主主義の外にいるし,大統領選挙でさえ,投票率は低下しつづけ,今のアメリカ大統領や上下両院議員は,少数者の代表にすぎない。また,官僚や司法吏員は普通選挙の埒外にあり,政府高官職は,選挙の勝利者の当然の獲得物とされている。表向きは住民に対して平等な政治参加が可能なようだが,大統領選挙には巨額な選挙資金が必要であり,さらに議員になるにも,民主党か共和党に資金を含めた大きな貢献を行うことが必要である。アメリカの二大政党制の下では,どちらかの党員でなければ議員になるチャンスはほとんどない。金持ちとエリートにやさしい民主主義というのが,最先進の資本主義国の民主主義の実態なのだ。
 タリバンの女性抑圧に怒りを露にしたローラ夫人は,もし知事夫人とか大統領夫人というのが一つの独立した職業であるならば職業婦人であるが,それは知事という夫の職業・身分に付随しそれに依存した地位であり役割であり,差別から解放されていない。彼女は,そういう自身の自立性のないことを忘れて,自立できる物的基盤がほとんどない世界最貧国の先進国の規準での女性解放を求めているのである。貧困国での女性労働は,かつての日本がそうであったように,家族・一族の家計を助けるための低賃金労働が普通であって,中には身売りせざるをえない立場に追い込まれることがある。中村氏はそのことを指摘しているのであるが,それは日本の近代史を振り返ってみるだけでもわかることだ。元教師ローラ夫人には,そういうことがわからず,また,自身が男性から自立も解放されてもいないということもわかっていない。彼女は,支配エリートの抽象的な頭の持ち主らしく自らの帝国主義的な傲慢さを自覚できないのである。
 アメリカでは,好き勝手なことを言う自由はかなり認められているが,それはもっぱら内面的な自由や権利という意味合いが強い。アメリカ民主主義では,実際には一般の人々の政治参加のハードルは高く,民主党エリートか共和党エリートに比べると格段にその機会は小さい。いろいろ言えるが,実現の機会は少ないのである。圧力団体を結成して議員を通じて議会を動かすことができるが,実際には力の強い資金豊富な圧力団体を結成しうる者が限られているという事実が,貧者やマイノリティなどをあらかじめ排除しているということを示しているのであり,行政・政治への参加の機会は,金持ちやエリートに有利につくられているのである。それは,世界貿易センター跡地の再開発計画が,商業施設をメインにした商業優先のものであり,犠牲者を無視して進められていることでもわかる。それは,地主・金融大資本の利害にしたがってつくられたものである。ちなみに,ニューヨーク市長は金融情報会社ブルームバーグの社主である。
 9・11事件一周年の式典で,ブッシュ大統領は,この自爆攻撃は,自由と民主主義の理念に対する攻撃であると声高に語った。アメリカの掲げる自由と民主主義は,「理念」「理想」にすぎず,「絵に描いた餅」であり,心の中,頭の中にしか存在しないものである。それを徹底的に実現させていくのは階級闘争の力である。民主主義は,階級闘争によって労働者人民がかち取っていくものであり,ブルジョアジーがしぶしぶ譲歩させてきたことで拡大してきたのである。ブッシュは,あたかも支配階級が積極的に民主主義を実現してきたように語っているが,それはまったく事実に反する。それは,アメリカでの公民権獲得までの大きな犠牲を払った闘いの歴史で明らかである。アラブ・イスラム系住民が,差別され,蔑まれ,人権を抑圧され,治安当局によって不当な扱いをされ,あるいは「アナキズムクラブ」設立を個人で呼びかけただけの一女子高生を学校当局と教育委員会が出席停止処分にした事例などは,アメリカ流自由と民主主義が簡単に後戻りしてしまう程度に根が浅く,民主主義が口先だけであり,様々なごまかしによって幻想にすぎなくなり,簡単に制限されるような程度の弱いものでしかないことを物語っているのである。
 このように,アメリカの民主主義は,理念としては高く掲げられているが,実際には,様々な制約をつけて政治参加や重要な決定への人々の参加が妨害されているなど,程度の低いものにすぎないのである。

アメリカ資本主義と対イラク戦争準備と対テロ戦争の実態

 9・11事件後,航空需要の落ち込みによって経営危機に陥ったアメリカの航空会社の内のいくつかが破綻した。しかし,政府は,様々な手段で航空業界を援助している。航空需要の落ち込みのために経営が苦しくなった航空機メーカーは同時に軍需産業でもある。対イラク戦争準備のために,軍需拡大が見込まれる。それは,それに巨額投資を行う金融資本や取引所のためでもある。アメリカ政府は,企業を支援しているのである。
 湾岸戦争の時と同じように,戦争の費用は一体誰がどれだけ負担するのかという議論がすでに起きている。アメリカ人の多くは,湾岸戦争が引き起こした経済危機を覚えている。石油価格の高騰は,コストの高いアメリカ国内油田の石油需要を高め,石油メーカーを儲けさせる。イギリスの北海油田の石油も高く売れるようになる。高い石油を買わされる人々は,頭を痛めることになる。世論調査によれば,アメリカ単独での軍事行動は,高くつくとアメリカ人の多くが考えている。
 ドイツのシュレーダー首相は,国内の7割の戦争参加反対の世論を背景に,対イラク戦争に参加しないことを言明している。シラク仏大統領は,やはり7割の戦争参加反対の世論を背景に,国連安保理決議なしでの,対イラク戦争に反対している。この場合,国連安保理で,ロシア,中国が反対すれば,国連のお墨付きの対イラク戦争は不可能である。しかし実際にはヨーロッパ諸国がどこまで戦争反対を貫けるかはわからない。同時に,テロに備えるためとしてフランスは二隻目の航空母艦建設を決定し,軍拡を決定した。アメリカもフランスもターゲットにしているテロ対策の対象地域が主に後進国であることは,この軍備が,そうした地域をめぐる覇権争いのためであることを意味することは明白だ。
 アメリカがイラクに対して,すでに大量破壊兵器を保有しているとか,核開発の最終段階に到達しているとか言っているが,その根拠ははっきりしない。アメリカには,こういう言いがかりをつけてスーダンの化学工場を毒ガス兵器の開発施設だとして誤爆したことがある。アフガニスタンでも,結婚式会場を誤爆したケースについて,アメリカの調査報告書は,攻撃を受けたのに反撃しただけだという調査結果を述べているが,一体誰がどのような武器をどこからどうやって発射したのか,などの具体的な状況についてはまったく触れていない。この調査は,お粗末な代物であり,米軍の行動を正当化するためのものにすぎないことは明白である。
 今,イラクに対してアメリカは,自らの正当性を一方的に主張しているだけで,客観的な証拠を示していない。すでに何度も誤りを犯しているのは明白なのに,自らの無謬性をただただ自己主張しているのである。イラクのフセイン体制は独裁的であるとアメリカは主張する。そのために,多くのイラク人が生活苦に陥っていると。しかし,豊富な石油資源を持ちながら,経済制裁によって,それを自由に売れず,外貨がない中で,必要な生活物資を確保できないこともその要因である。米英の経済制裁と監視下で,フセイン政権がどうやって大量破壊兵器や核開発を短期間の内に進められたのかわからないが,アメリカはそう主張する。アメリカは,戦争準備,戦争計画をあれこれと練り,基地使用を拒否しているサウジアラビアに代わって,カタールに前線総司令部を移動させようとしている。また米英首脳会談で,ブレア英首相と共同で軍事行動することで合意している。
 アメリカの軍事攻撃は反動的であり,イラク・中東を帝国主義利害の下に従属させて,支配・抑圧するためのものにすぎない。アフガニスタンでも,北部同盟内からは,アメリカの戦争目的への疑問が浮かび上がっている。それは,アメリカが軍閥に金や物や武器を配って買収して部族間抗争を激化させ,アフガニスタンをアフガン人自身が自立的に統治する強力な権力を打ち立てることを妨害し,いつまでもアメリカに依存した政府しかつくらせないようにしているというのである。アフガニスタンの政府や議会は飾り物に過ぎず,重要なことはアメリカ主導で決められているというわけだ。その上,先のカブールでのカルザイ大統領暗殺事件や爆弾攻撃事件で明らかなように,首都の治安さえ守られておらず,地方では軍閥が割拠して独自に徴税を行うなど中央政府の全国統治は実現していない。
 アメリカが,かつてタリバンとビンラディン氏を利用して捨てたように,アフガンをあっさりと見捨てる可能性も考えられる。というのは,アフガニスタンから特殊部隊の一部を湾岸地域の基地に移動しているという情報があるからである。
 アメリカは,パキスタンやインドネシア,マレーシア,カシミール地方,チェチェン,フィリピンと拡大しているアルカイダ系によるとみられる攻撃に対して,戦線を拡大しつづけなければならない情況にある中で,対イラク戦争に打って出ようとしている。この戦線拡大の中で,フィリピンでは,アルカイダ系のアブサヤフ掃討を目的としていた米軍とフィリピン軍の共同行動の対象が,案の定,フィリピン共産党シソン派人民革命軍(NPA)に拡大されることがアロヨ大統領とアメリカ当局の間で合意されたという。やはり,米帝の対テロ戦争とは,アルカイダ系の組織に対するものだけではなく,米帝にとって邪魔なあらゆる組織に向けられているのである。
 イランでは,カスピ海の油田や天然ガスをめぐる利権競争が激化している中で,ロシアの技術提供によるイラン初の原子力発電所建設が進んでいる。核拡散に神経をとがらしているアメリカは,この動きを警戒している。すでに既存核保有大国による核の独占管理体制を築いてきたIAEA体制は,インド,パキスタンの核兵器の開発・所有によって崩れつつある。それにイスラエルが核兵器を所有していることは公然の秘密となっている。その上,イランが原発を稼働させることになれば,核管理体制の破綻がさらに確実になるとアメリカは警戒している。

小泉政権・右派・右派メディアの反人民性

 突然,訪朝と金正日労働党総書記との9月17日の日朝首脳会談の実現を発表した小泉首相は,この会談について,包括的な議論の場とすることを表明し,日本人拉致疑惑や不審船問題,過去の謝罪と補償等々を議題とし,国交樹立交渉を再開するかどうかを判断したいとしている。小泉首相は,日本人拉致疑惑問題解決が,日朝国交正常化交渉再開の前提であるという基本的立場を表明している。拉致疑惑問題解決がないかぎり,日朝国交正常化交渉は再開できないというのである。それに対して「共和国」側は,日朝国交正常化交渉の中で,この問題を扱うべきだといっている。今回の日朝首脳会談で「共和国」側から,「拉致疑惑」に関するなんらかの対応があると言われている。
 日朝首脳会談に評価し期待する声が与野党議員などからあがっている一方,元警察官僚の平沢勝栄,元官僚の石破茂らをメンバーとする「拉致議連」からは,「拉致された日本人を連れて帰れなければ意味がない」「成果が出なければ小泉政権は終わりだ」などの声が出ている。これはエリート主義的な国家=官僚主義者流の政治思想,国家主義の立場からの主張である。かれらが,小泉政権の先の自衛隊法改悪や対テロ特措法,有事立法の動き,などの戦争体制構築に向けた策動に賛成し,促進するために,日帝が東アジア情勢の不安定要因になりつつあることにまったく目を向けず,ひたすら主観的な被害感情をどはずれに強調し,利用し,かきたて,煽動しているのである。
 また,右派マスコミは,意図的に脅威を過大に誇張し,日朝首脳会談に反対し,無法国家と話し合うべきではないと主張している。ところが,かれらは,世界最大の無法国家アメリカと同盟関係を結んでいることにはまったく反対も疑問も出していない。アメリカは,アメリカが支持し援助した中南米の多くの政権による無実の人を含む民衆への拷問・誘拐・虐殺を容認し,そそのかし,援助や技術指南を行ってきたこと(最近では,ペルーのフジモリ政権下で,無実の人々の拷問・投獄・虐殺などの不当な人権弾圧を行ったモンテシノスをアメリカが支持・支援していたことが暴露されている),イラン・コントラ事件,など,アメリカの無法行為は数しれない。もしその判断規準を資本主義の保守というイデオロギーに置いているならば,今,全世界を支配している資本主義から生まれる差別や侵略戦争や不正義や悪に対して責任を持ってもらわねばならない。
 この間,日本では,小渕政権の赤字国債大量発行による大盤振舞や銀行救済のための税金投入などなどの企業救済策を行って金融資本を助けたが,失業率は増え続け,未払い残業(サービス残業)は増え,パート・アルバイトなどの不安定雇用が増え,経済的理由からの自殺者は過去最悪を更新し,増税・公的負担の増大などによって労働者人民の生活は苦しくなり続けている。それに対して,小泉政権は,「痛みを我慢しろ」というばかりである。小泉政権,右派,右派メディアは,真に人民に必要であり,解決しなければならない諸問題や諸矛盾から目をそらし,資本主義の搾取,抑圧・差別の実態を覆い隠していることで反人民性をもっていることが共通している。現実の「痛み」の増大は,人々を反資本主義的にしていくだろう。それを促進し,資本主義帝国主義を打倒するための革命的な大衆行動の組織とその発展に,人々を立ち上がらせていかなければならない!

帝国主義諸国の現実とプロレタリアート人民の闘争の高揚

 資本主義の下では,人々の生活苦も戦争もなくならない。ここでの生活苦というのは,経済的なもの,失業の恐怖や福祉からの排除や余暇の不足や不健康な労働や長時間労働,非文化的生活,政治参加の不足,民主主義の不足,などを含む広い意味である。物質的生活水準という意味では,帝国主義的超過利潤の分配による向上ということがある。だがそれでも失業者・半失業者,パート・アルバイトなどの不安定雇用労働者,没落寸前の自営業者,等々と大企業正社員などの上層労働者とではその量に大きな格差がある。その根底にある資本賃労働関係がなくならない限り,それらはなくならない。賃労働から解放され,協働によって生み出される富をすべて自分たちのものとする社会にならなければ,利潤の獲得,剰余労働の取得による資本の価値増殖運動に従属した資本のための労働から解放されない。独占資本主義=帝国主義下では,国内利潤率低下のために,利潤率の高い海外市場を開拓する必要に迫られ,資本輸出先の確保のため,資源確保のための競争の激化は避けられず,そのために帝国主義戦争・侵略戦争の可能性がつねに存在する。
 先進資本主義諸国では,自由や民主主義・権利の獲得のために人々の長く忍耐強い闘いと多くの犠牲が払われた。経済的余裕のある場合には支配階級は多少の譲歩をした。しかしそれは本当の人々の行政参加,政治参加につながらず,すぐに後退させられ,骨抜きにされた。アメリカでは,安全を口実に治安当局の捜査権限が大幅に拡大され,アラブ・イスラム系住民に対する大量の予防拘束が行われるようになり,日本では,盗聴法成立,少年法改「正」,メディア規制法とも言われる個人情報保護法案の提出,国歌・国旗法成立後の学校儀式での「日の丸・君が代」強制,住民基本台帳ネットワークの稼働等々と治安管理強化が進められ,国民統制・私権制限を狙った有事立法の秋の臨時国会での成立がもくろまれるなど,獲得したものがあっというまに失われている。
 それに対して,9・11事件から一年たったアメリカでは,財政赤字の拡大,株価の下落,景気後退,の経済悪化の中で,ブッシュの支持率下落,対イラク戦争反対の増加,市民的自由の制限強化への批判の増大,が起きている。日本でも,労働者大衆の反対運動の高揚などのために先の国会での有事三法案・個人情報保護法案等の可決が阻止された。
 フランスでは,この大統領選挙では,極右の国民戦線のルペン候補が社会党のジョスパン候補を上回ったが,決選投票で,共和党シラク候補に圧倒的大差で破れた。保守派の共和党が完勝した。注目すべきは,大統領選挙の第一回投票で,トロツキー派の「労働者の闘争派」の候補が5・27%,「革命的共産主義者同盟」の候補が4・25%の得票率を得たことである。フランス共産党候補の得票率は,かれらに及ばず,3・37%であるが,レーニン主義を標榜する以上の三候補の合計得票率は 12・89%に達した。ルペンは,移民を追い出せばフランス労働者の職が生まれるというデマを主張して,労働者の多数の支持を得た。移民を必要としているのは,利潤率の低下のために相対的過剰人口によって労働賃金を低くしたいブルジョアジーである。利潤という規定的動機のために,労働者人民の生活向上を実現できない資本主義の限界につきあたり,プロレタリア革命によってしかそれを突破できないところにきているのだ。極右は,階級闘争によってしか解決できない矛盾を,民族間の対立に置き換えるというごまかしをやっている。そのことに労働者を気付かせ,支配階級との革命的闘争へと立ち上がらせ,それを対イラク帝国主義侵略戦争阻止の闘いと結びつけることが,マルクス・レーニン主義党派の課題であり,フランスのプロレタリアートに求められているのである。
日本では,自由主義的ブルジョア政治に労働運動を融合させようとしている「連合」労働組合が支持する民主党は,基本的には有事立法には賛成であり,自衛隊の海外派兵に賛成であり,したがってブルジョアジーのための戦争に賛成であり,実際にアフガニスタンでのアメリカの戦争に賛成している。しかし社共系の有事立法反対集会には,6万人の労働者大衆が大結集するなど,支配階級のための戦争推進策動に反対する反戦の大衆的気分が広範にあることが証明されている。
 プロレタリアートは,一切の帝国主義的な反動的戦争に反対し,自国ブルジョア政府を敗北させるために闘わなければならない。そのためには,労働運動内の資本家の代理人として活動し,自由主義的ブルジョア労働運動を育成している「連合」労働組合幹部の政策と闘い,自国帝国主義政府を敗北させる革命的大衆行動に立ち上がらなければならない。

対イラク帝国主義侵略戦争に反対し,自国支配階級を打倒する革命で闘おう!

 「マルクス主義の漫画および「帝国主義的経済主義」について」という文章で,レーニンは,「帝国主義は,経済的には,独占資本主義である。独占を完全ならしめるには,競争者を,国内市場(当該国家の市場)からだけでなしに,国外市場,全世界からも,排除しなければならない。「金融資本の時代には」他の国家における競争者をも排除する経済的可能性があるか? もちろん,ある。この手段は,金融的従属であり,まず原料資源の買占め,つぎに競争者の全企業の買占めである。・・・/一国の大金融資本は,政治的に独立している他の国の競争者をも,いつでも買いしめることができるし,またいつもそうしている,経済的に,このことは完全に実現可能である。経済的「併合」は,政治的併合なしに完全に「実現可能」であり,そしてたえずそれが見うけられる。帝国主義にかんする文献のうちには,たとえば,アルゼンティンは事実上イギリスの「貿易植民地」であり,ポルトガルは事実上イギリスの「家来」であるなどということばを,いたるところに見うける。これはただしい。イギリス銀行への経済的従属,イギリスへの負債,イギリスによる地方の鉄道,鉱山,土地,その他の買占め,――すべてこれらは,これらの国の政治的独立を侵害することなしに,経済的意味で,これらの諸国をイギリスに「併合」させているのである。/これらの国の政治的独立が,民族自決と呼ばれる。帝国主義は,政治的独立の侵害につとめる。というのは,政治的併合のもとでは,経済的併合は,しばしばより好都合であり,より安あがりであり(官吏の買収,利権の獲得,有利な法律の通過,等々が,より容易である),よりおだやかであるからである」(『帝国主義と民族・植民地問題』国民文庫 75〜6頁)と述べているが,これは現在でも基本的には正しい。
 第二次世界大戦後,世界のほとんどの植民地の政治的独立ははたされたが,それらの国の多くが経済的金融的「併合」によって経済的「植民地」となっている。帝国主義は,経済的「併合」の強化や再併合,競争相手の追い出しや従属化などを実行し,経済戦争,他国の経済的「植民地」化,市場を奪い合う激しい競争戦を闘っている。アメリカは,中東の石油を大量に必要としており,イラクに親米政権が出来れば,「おだやかに」利権を獲得できるようになる。同盟諸国はそれに相乗りしようというのである。しかし,中東の石油利権をアメリカに独占されては困るところもある。例えばロシアはイラクとの貿易で利益を得ている。レーニンが述べているのは,帝国主義が他国を「植民地」とするためには,政治的に「併合」する必要はなく,負債や株式の買占めなどの金融的手段や土地・資源・施設の買収などの手段によって,その国を経済的に「併合」すればよいということである。
その国に自国の傀儡政権ができればなおよい。帝国主義が資本輸出を止められない以上は,より多くの他国の経済的「併合」が必要であり,そのための競争が激化せざるをえない。旧ソ連東欧地域の経済的「併合」競争の実態の一端が,三井物産によるモンゴル高官の買収が発覚したことで暴露された。こうした世界的な帝国主義の競争戦の一般的環境の下に,イラク,中東,石油問題がある。「もし政治が帝国主義的なものであるならば,すなわち金融資本の利益を擁護し植民地や他国を略奪し抑圧するものであるならば,この政治から生じる戦争もまた,帝国主義戦争である。もし政治が民族解放的なもの,すなわち民族的抑圧にたいする大衆運動を表明するものであるならば,このような政治から生じる戦争は,民族解放戦争である」(同上 59頁)ことを踏まえて戦争性格を判断しなければならない。
 米帝ブッシュは,9・11事件一周年を利用して,対テロ戦争の第二幕としてのイラクへの軍事攻撃の必要性を訴えた。9・11事件とイラクを結びつける具体的証拠は示されていない。それにもかかわらず,ブッシュは,意図的に事件とイラクをオーバーラップさせようとした。彼は,イラクは,放置すれば必ず,アメリカを攻撃する,やられる前にやっつけろと叫んだ。彼は国連演説で,1998年のイラクによる査察拒否を非難しているが,この時は,イラクは,何の見通しもなく,延々と査察と経済制裁を続けることを拒否し,経済制裁の解除の具体的見通しを示すことを査察継続の条件として要求したのである。それから,彼は,国連決議の権威を強調したが,それでは,イスラエルの占領地からの撤退を求めた国連決議の権威と履行はどうなっているのか? 自分が国連決議の権威をないがしろにしておいて,自国の都合のいいように国連決議の権威を利用とするというのは筋が通らない。クルド人問題を言うなら,トルコのクルド人問題はどうなるのか? 日米首脳会談で,小泉首相は,「耐え難きを耐えて」国際協調を得る外交努力を続けることを求めた。しかし,それは,戦争が始まった場合に日本としてどういう支援が可能かという論議が政府内で始まっているように,消極的であれ,アメリカの戦争を助ける立場に立たつことが前提となっているのであり,簡単な条件を付けるという程度の「独自性」を見せたにすぎないのである。
 ブッシュは,国連安保理決議を対イラク政策の必要条件とは言っていない。フセイン政権を打倒するというのがブッシュ政権の規定方針であり,それを議会も承認している。ただ,手段や時期,打倒後のイラク・中東情勢の問題などで意見の違いがあるにすぎない。しかしアメリカでは対イラク戦争に反対する声が増えている。アメリカが自慢してきた自由と民主主義,多様性の欺瞞・インチキ・うそが暴露されいる。しかし,自由・民主主義・多様性が人々の闘いしだいで発展する可能性があるということも確かである。
 米帝の対イラク侵略戦争に反対し,労働者人民の革命的大衆行動によって,自国政府を敗北に追い込まねばならない。この意識を労働者大衆の中に生みだし,広め,宣伝・煽動し,この精神で教育することが求められている。




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