共産主義者同盟(火花)

欧州における極右の躍進

渋谷一三
249号(2002年5月)所収


1.

 2002年5月16日、フランスにつづいてオランダでも極右政党が大躍進を遂げた。0議席から26議席への大躍進である。政権政党であった労働党は22議席に後退し、キリスト教民主党が43議席で第1党に返り咲いた。8年ぶりのことである。
 総議席150中、極右のLPF(Pim Fortuyn List)とCDA(キリスト教民主党)を合わせると69議席になり、過半数に僅かに及ばぬものの、CDAが連立政権をつくることは確実な情勢になっている。
 この結果はCDAにさえ予想外であり、政権構想は全く出来ていなかった。政権を取るなんて『考えることすらなかった。』と広報担当のマリア・フォン・デル・ホーヘンさんは語っている。
 オランダにおける極右の躍進は選挙の1週間前に起きたLPF党首の暗殺事件への反発の要素が指摘されているが、根本的には、欧州における一連の極右政党の大躍進の流れの一環である。LPF党首を暗殺したのは動物愛護(動物の権利)活動家である。この活動家はLPF党首の反移民・反イスラム主義に反発し、フランスの選挙結果に危機感を感じて暗殺を企てたようである。皮肉にも?というより予想すべきであったように、暗殺によって事態はこの活動家の望まない方向に進展し、この活動家は極右政党に大いなる貢献をしてしまった。帝国主義本国の中にいて、飢えに苦しむ世界の人々への想像力すら欠如させ、動物の権利を主張している、どちらかと言えばお暇な活動家である。権利というブルジョア概念でしか動物と人間の関係の再措定ができなかった限界性の表れがこうした反動的結果を招来したことを総括すべきである。
 だが、欧州における極右政党の大躍進は、この動物愛護活動家の功績にするわけにはいかない。この1年間でイタリア、デンマーク、ポルトガル、フランスで相次いで中道左派政権が倒れ、極右政党が躍進を遂げている。
 8年前の欧州の総中道左派化あるいは社民主義の勝利と言う流れが破産したことを、この一連の事態は示している。

2.欧州社民主義の敗北の根拠は何なのか。

 その第一はEUの通貨統合にある。通貨統合により欧州内の比較非効率部門の統廃合が進展し、帝国主義本国内では失業者が増大し、EU内第三世界≠フトルコなどの国々の失業者は帝国主義本国に流入せざるを得なくなった。こうして流入した移民≠ヘ本国の失業者をますます増大させた。
 さらに、通貨統合前には移民°沂牛曹ナはなかったスペインやポルトガルなどの諸国から先進国へ労働者の自由な移動が開始され、さらに先進諸国間でも失業者を中心に労働者の国境≠越えた自由な移動が進んでいる。
 こうした結果は超過利潤のおこぼれに預かっていた帝国主義本国の労働者に数十年来味わったことのなかった苦痛を味わせることになった。不採算部門の統廃合による生産の効率化は、失業者の増加と同義である。従来国境の壁に守られて存続していた不採算部門は消滅し、EU内の効率的経営には利潤率の増大と剰余価値率の増大をともにもたらし、不採算部門に就労していた労働者には失業をもたらした。
 同じことを政治レベルでみると、社民主義は、国境の壁に守られ不採算部門とともにワークシェアリングし成立していたのだということが分かる。通貨統合によりこの国境という基礎がなくなったことは、社民主義の基礎がなくなったことを示す。失業者にとってはEU脱退・移民排除以外に就労の道はない。これが、極右政党の大躍進の根拠である。
 西欧社民主義は、新自由主義の跋扈に対抗して労働者階級の相対的保護のために一躍政権に就いたが、EU通貨統合を経て、その成立の経済的基礎を失ったのである。
 強いEU経済圏を基礎に米帝に対抗するという欧州ブルジョアジーが選択した路線が現実化するにつれ、欧州社民主義者にはこのブルジョア路線への総体的対抗軸の形成が迫られている。だが、そのようなものは有り得ない以上、当面はブルジョアジーと極右の対抗という軸で政局は動き、社民主義は極右への対抗のためにブルジョアジーと連合するという使命のみで存続することとなる。また、極右は労働者下層部分しか依拠する勢力がないため、政権を奪取することはできず、EU路線を粉砕することも出来ず、結局のところ、ブルジョアジーの政治が現実を規定していく。この点がブルジョアジーと極右が反共産主義で連合を組み得たファシズムの時代と異なる点である。
 また、経済的にもEUはブロック経済を目指すものではなく、米帝の一元支配打破を現実化するための手段である点で、これまたファシズムの時代とことなり、極右とブルジョアジーの連合は論理的には有り得ない。

3.

以上みてきたように、社民主義は何等現実を変革する力を持たないが、ブルジョアジーの進む方向にトータルに批判を加え、現実を変革していく視座を提供している党派がないことが、極右の一時的大躍進をもたらしている。極右もまた、現実を変革していくトータルな路線を提示できずにおり、早晩下降線をたどる以外にはない。




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