共産主義者同盟(火花)

米英帝国主義のアフガン侵略戦争とわれわれの任務

流 広志
244号(2001年12月)所収


 アメリカのアフガニスタンでの反テロを掲げる軍事報復戦争は,新しい局面に入っている。タリバン政権の崩壊,北部同盟と反タリバンのパシュトゥン人勢力によるアフガニスタン全土の掌握,国連が仲介した暫定行政機構の設立,多国籍の治安維持部隊による治安維持の決定,ビンラディン氏捕捉作戦の展開,等々,タリバンが全土の9割を実効支配していた開戦当初とは様相が一変した。
 アメリカ政府は,これがテロ撲滅作戦の始まりにすぎないことを強調している。アメリカ政府高官は,次のテロ撲滅軍事作戦のターゲットとして,これまでアメリカがテロ支援国家に指定してきたイラクなどの名前をあげているし,フィリピンでのアルカイーダ・ネットワーク組織の一つだとしているアブ・サヤフ掃討のために,フィリピン政府への協力を開始しようとしている。
 対タリバン戦争の最中に,アメリカ政府は,こうしたイスラム系の反米軍事闘争が生み出される根拠として指摘されてきたパレスチナ問題の解決のためとして,パレスチナ国家樹立の支持を表明し,中東和平の仲介を積極化することを決定した。ところが,ハマスなどによる自爆攻撃が次々と起こり,それに対して,イスラエル政府ーシャロン首相は,テロにたいする報復は当然の自衛権の発動だとして,パレスチナ側にたいしてミサイル攻撃などの報復攻撃を行った。シャロンは,パレスチナ自治政府のアラファト議長がテロを取り締まわらず容認しているとして,アラファト議長と自治政府をテロ支援者・団体だとして,アメリカの反テロ論理をまねて,軍事報復を正当化した。中東和平は厳しい局面を迎えている。アラファト議長は,国連に緊急の国連安保理開催を要請し,またアラブ諸国の会議を開き,この件について協議するよう求めている。アラファト議長は,イスラエルとこれを支援するアメリカ帝国主義の反テロを名目とする政治・軍事攻勢の前に苦境に立たされた。ハマスなどの軍事闘争を支持するパレスチナ民衆と和平交渉によるパレスチナ問題解決を是とするアラファト議長支持派との亀裂は拡大している。アラファト議長は,ハマスなどの武闘派の取り締まりにやっきになっているが,武闘派は自爆攻撃などの軍事闘争を継続することを宣言している。アラファト議長の求心力低下は否めず,パレスチナ情勢は,流動的な様相を強めている。
 パレスチナ問題とタリバンやビンラディン氏とアルカイーダにはおそらく直接の関係はない。ビンラディン氏がパレスチナ問題を反米武力攻撃の理由の一つにしているのは,自己の行為を正当化するためである。しかし,イスラエルによるパレスチナ侵略・抑圧をアメリカが容認し,イスラエルの後ろ盾となっていることが,アメリカの帝国主義的な中東政策の象徴となっているために,これをイスラム原理主義者が利用するのを容易にしているのである。いうまでもなく,パレスチナ問題をイスラム原理主義者が利用するのを防ぐためには,この問題を根本的に解決して,かれらに口実を与えないようにすることが必要である。それにもかかわらず,アメリカ政府は,一方では,パレスチナ国家樹立を容認する発言をしている。他方では,アメリカ政府は,イスラエルがパレスチナ側のわずかな攻撃に,何倍もの被害を与えるという釣り合わない過剰な軍事報復を繰り返しているにも関わらす,パレスチナ側とアラファト議長と自治政府を非難して,双方に対する軍事行動の停止を求める国連安保理決議に拒否権を発動するなど,イスラエル寄りの偏った姿勢を貫いているのである。この間イスラエル軍が攻撃しているパレスチナ警察がイスラエルがテロ組織と呼んでいる武装組織を支援している確かな証拠などあるのだろうか。現時点ではそんなものは公表されていない。そうであれば,これは,1993年のオスロ合意以来,和平協議を重ねている話し合いの対象を,実際には,その実力を壊滅させ,自治政府の実体を滅ぼそうとする行為としかいいようがない。それが,右派リクードを率いるシャロンの真の狙いであっただろうことは,この間のパレスチナとイスラエルの紛争が,昨年のシャロンのエルサレム入りの挑発行為に端を発したものであったことからうかがわれる。
 この発端におけるイスラエル・シャロン政権の挑発行為に対して,これを事実上黙認したアメリカ政府は,アフガニスタンにおいて,周到に準備を重ねた対タリバン・アルカイーダ戦争を,9・11事件を好機として仕掛け,実行し,帝国主義大国入りの道をひたはしるロシアとも協力しつつ,中央アジアにおける帝国主義的権益の確保に血道をあげているのである。
 アフガニスタンでは,タリバン政権の崩壊によって,インド,イラン,タジキスタン,トルクメニスタンなどの周辺諸国が背後にある北部同盟が,実権を掌握して,暫定政権における実質的な支配権を掌握することとなった。最大の民族であるパシュトゥン人内は,地方毎に軍閥が割拠する状態で,不安定なままである。暫定政権の首相にあたる議長に担がれたハミド・カルザイ氏にしても,一部の地方を押さえている一軍閥の首領に過ぎず,はたして,アフガニスタン全土を統一的に治めることができるかどうかは未知数である。アフガニスタンの不安定さは,背後勢力の権益確保の行動を呼び起こしている。とりわけ,もともとカシミール領有問題をかかえ,パキスタンに支援されたイスラム武装勢力の爆弾攻撃などにさらされてきたインドは,先日のインド国会に侵入しようとして戦闘となった事件を,パキスタンの支援を受けるテロ組織による攻撃だとして,パキスタン攻撃も辞さないと述べている。この事態にたいして,アメリカのパウエル国務長官が,あわてて仲介をかって出ざるをえなくなった。しかしこうしたことも,もとをただせば,米英などがテロに対しては,戦争によって応えるということを実行したので,それが一つの模範となって,他国がそれを真似するようになることは当然のことであった。自国のみがそうする権利があると主張することは難しい。アメリカ・ブッシュ政権は,パンドラの箱を開けてしまったわけである。
 アフガニスタンでの戦争において,まず,アルカイーダはアラブ諸国をはじめとする世界中から集まった義勇兵からなる国際部隊だということが重要である。すでに,幹部の多くが国外逃亡したという報道もあるが,ありうる話しである。たとえば,ロシアによって平野部を追われたチェチェン人武装勢力は,アゼルバイジャン国境をまたいで,山岳地帯を活動拠点にしている模様であり,カシミール地方にもアルカイダ系の武装勢力が本拠地を置いているというし,インドネシアでは,キリスト教徒を襲った勢力がアルカイダと何らかの関係があるといわれているが,そうした部分がかれらをかくまうことはありうる。また,アルカイダに大きな影響力があるといわれているエジプトのムスリム同胞団は,都市部に地下ネットワークを築いている模様であり,そこにかくまうということもあり得る。いずれにしても,アメリカの掲げる全世界からのテロ組織・テロネットワークの壊滅という目的の達成のためには,アフガニスタンで終わるどころか,ブッシュ自身が自覚しているように,世界を戦場にした長い闘いが必要なのである。
 他方で,アルカイーダなどのイスラム系の反米武装闘争は,米帝をはじめとする世界の帝国主義支配からの諸民族の解放と階級支配からの解放を真に実現することはできない。なるほど,宗教は,人々の悲惨や貧困や苦難や苦痛や苦悩を幻想的に反映する。そこに,人々のそれらのものからの解放の幻影を生みだしはする。救いのイメージは,人々の心を癒しもする。しかし,それによって,この世の悲惨も貧困も苦難も不平等も差別も苦悩も苦痛も消えはしない。だからこそ,イスラム原理主義は,そうした民衆の苦難や悲惨や貧困や苦悩の現世における現実的な救済に乗りだし,貧困者への医療活動や支援などの社会活動を行ってきたわけである。サウジアラビアにせよ,エジプトにせよ,クウェートにせよ,王族や政府は,英米資本主義と融和して莫大な利益を得て腐敗しており,それと公認のイスラム宗教者が癒着して,足下の人々の悲惨や貧困など眼中にないために,イスラム原理主義が民衆の中に拡がっていった。人々の貧困・零落・悲惨・不平等・差別の原因がこの世の矛盾にある以上は,これらの解決と条件はこの世の現実の中に見いださねばならず,そういう実践が必要となる。それには,戦争という手段が当然含まれるのである。だから,すでに,社会活動に乗り出していたイスラム原理主義から,さらに政治的解決をはかろうとする志向が発展してくるのも当然のことである。アフガニスタンにおいて,ソ連軍の侵攻に対してゲリラ闘争を闘い,それが10年かけて成功したことは,イスラム原理主義者たちには,その正しさを証明したように思われたであろう。しかしながら,神と悪魔との対決とか,十字軍との戦争とかいう宗教的表象の下では,パレスチナの民族解放闘争という性格に歴史的に正しく対応し,米英などの資本主義的帝国主義の資本主義という性格に正しく対応した解放闘争にはならない。歴史上,ままあるように,歴史的現実とその表現が食い違っているのである。本人たちが自分たちの闘争をどのように空想的に思い描いていたとしても,それが歴史的に持っている客観的な性格は別なのである。たとえば,宗教改革時代のトマス・ミュンツァーの率いた農民一揆が,宗教改革を旗印にしていたにしても,封建制度に対する農民の解放戦争という性格を持っていたといったことである。
 この間の事態が示しているのは,植民地支配からの政治的形式的に独立を遂げた諸国の帝国主義の経済的従属からの解放は困難であり,また,政治的経済的金融的な従属が深まっているということである。そして,それら諸国における帝国主義権益のためには,あらゆる口実を見つけて,介入し,戦争をも辞さないという帝国主義の侵略性が公然と現れたということである。今や,米英帝国主義は,侵略者としての本性をむき出しにしている。
 それに対して,アメリカ帝国主義との帝国主義間戦争に敗北し,中国・朝鮮半島・アジアでの民族解放闘争に敗北した日本帝国主義は,その牙を抜かれ,解体されて,戦争放棄の第9条を持ついわゆる平和憲法を採択した。アメリカは,軍国主義を復活させないとして,軍隊をも解体した。ところが,中国革命や朝鮮戦争によって,日本を反共防波堤とする必要が生じると,一転して,自衛隊創設を決定し,集団的自衛権を明記した日米安保条約を結び,米軍基地を建設し,日本をアメリカの前線基地とした。米軍政下においた沖縄では,強制的に土地を収用し,軍事基地施設として利用した。しかしその後,日本の本格的な再武装は,アジア諸国の不信とアメリカの不信感もあってそれほどは進まなかった。しかし,冷戦の終了,アメリカの軍事負担の重荷の転嫁の要求,非武装中立派の社会党の解体などの反対派の減少などもあり,いよいよ,有事立法策定策動,PKO法改悪策動,自衛隊法改定,憲法9条改定,などの,本格的な武装強化,自衛隊の実働力・実戦力の拡大・強化,本格的参戦準備,に向けた法制度の整備の仕上げを狙っている。これは,主にアメリカの侵略戦争への参加・協力をもくろむものであり,そのために政府が,持ってはいるが行使はできないとしてきた憲法解釈を変更して集団的自衛権行使の容認に踏み込もうとするものである。それが現在,意味するのは,米英帝国主義のアルカイダせん滅戦争・反テロ戦争への参戦・協力であり,米英がその目的のために,全世界を舞台として展開する軍事作戦・戦争を共にし,そうすることで,アルカイダばかりではなく,民族解放闘争という歴史的に正当な闘いを進めている勢力で,米英がテロ組織と決めつける組織にたいしても,敵とならざるを得ないかも知れないということである。イスラエルがパレスチナ自治政府をテロ組織と呼んでいるが,アラブ諸国がそれを民族解放組織と呼んで,イスラエルを非難しているように,それぞれの事情や背景・歴史があり,何をテロ組織と認定するかは,それに関係する国によって異なっている。米英は,自らがテロ組織と規定するものをテロ組織だということにしようとしている。それは,事実上,米英が,世界の人々や地域の生殺与奪の権限を握ることを意味しかねない。今や,アメリカ帝国主義だけが,世界中で展開できる圧倒的な軍事力を持つようになっているのである。
 小泉政権は,あっさりと,自衛艦の海外派遣などの自衛隊による米軍への協力を決定し,たいした国会論戦も行わないまま,常識論を振りかざして,テロ対策特措法,自衛隊法改定案,を通してしまった。あるいは,もし,橋本派が支配する内閣であれば,結果は似たようなものでも,もう少し自衛隊派遣などの軍事協力については慎重に事が進んだかもしれない。小泉首相が,そうできたのは,国民の高い支持があるからではあるが,同時に,最大野党の民主党が,集団的自衛権行使の容認や軍事を含む国際貢献の積極参加を唱えており,有事立法・PKO本隊業務への参加・憲法9条改悪などを要求してきたことがあるからである。小泉首相は,自民党内の反対・慎重論があっても,民主党の賛成をあてにできたわけである。小泉政権を助けたのは,野党の民主党であった。社会党から分かれた日和見主義者たちは,すっかりブルジョア政治と融合したため,自民党内の一派閥とそれほど変わりなくなっており,したがって,野党といっても民主党は,小泉政権が自分の支持基盤のように扱える手軽に利用できる存在になっているのである。なるほど,党内の社会民主主義的な志向の持ち主である横路氏らのグループは,テロ対策特措法にもとづく政府の基本計画の承認に反対した。しかし,同時に,民主党支持の「連合」労働組合内で最大の自治労では,本部の不正が暴露されるという労働貴族化した組合幹部の腐敗堕落ぶりがあからさまとなった。これでは,その主張も説得力が弱まる。ちなみに,横路氏は北海道知事選で自治労の支持を受けているはずである。民主党の政策は,ブルジョア自由主義的なものであって,労働者大衆の政治思想・要求とまったくかけ離れている。そのため,政策全体を支持していないがこれらの法案に反対する社民党の政策に共感し,これについては支持するという人が出てくるのも当たり前である。こういう人々の声に応えずに,ブルジョア自由主義的な政策を上から押しつけようとしても,支持されないのは当然である。
 また,小泉改革についていえば,それは,過剰設備・過剰人員の整理・合理化策であり,資本主義の現状では,そうするしかないという政策である。それに人々が賭けざるを得ないのは,ソ連・東欧体制崩壊によって,資本主義にたいする根本的なオルターナティブとしての社会主義に対する幻滅が拡がっていることが背景にある。一時的に苦しくなっても,資本主義の下での再生をはかるしかないと思っているわけである。しかし,実は,今,この日本資本主義の下で,雇用の在り方をめぐり,あるいは,社会保障の在り方をめぐり,また教育をめぐり,貨幣をめぐり,等などの領域での考え方の違い,市場主義的で資本主義的な考え方と社会的で共産主義的な考え方との対立が浮彫になってきている。たとえば,雇用確保の方策として出されているワークシェアリングは,それ自体は,資本主義の枠内での改良策であるし,企業にとっても負担の少ないやり方であるにすぎない。しかしそれは,社会連帯と協働という考え方の萌芽を含んでいる。そうした考え方は,労働者大衆の社会革命と結合する中で,より発展させるべきものである。こうした考え方の根底には,物的な矛盾,資本と結びついている利害と賃労働に結びついている利害の対立が横たわっている。社会保障をめぐって,社会連帯−社会主義という考え方と自己責任−市場原理という考え方が,その根元の違いを反映して,あいわかれてくる。分岐が鮮明になると同時に,また,混乱を持ち込みこの違いを曖昧にし,なんとか社会連帯を資本主義と結びつけてごまかし,別な意味を持たそうとする輩が,次々と登場して,労働者大衆の目をくらまして,政治革命を伴う社会革命によってしか資本主義が現在おちいっている隘路から人々を脱出させる道はないということから目をそらせようとしている。しかし,だまされてはならない。レーガノミクス後のアメリカで,成長の恩恵を受けたのは一握りの大資本家であったし,サッチャー政権後のイギリスでも同様であって,ようするに,レーガン後,サッチャーから十数年たっても,多くの英米民衆は,貧困・零落・惨禍から抜け出していないのである。その根本には,資本の賃労働の搾取を基礎として資本が繁栄する資本主義的生産様式があり,資本への賃労働の隷属が,差別や貧困や惨禍の元にある。それがますます全世界を包摂しきるようになるにしたがって,それにたいする闘争もまた世界という舞台の上での闘いになっていくし,そうならざるをえない。したがって,アフガニスタンでの戦争は,このような資本と賃労働の間の世界的な闘いと結びつき,そうした階級闘争に転化し,その一部となるならば,帝国主義世界秩序そのものを打ち破る力を得ることになる。タリバン・オサマ・ビンラディン・アルカイーダは,そうした道をとらなかったし,またそうすることはなさそうだ。
 少数ではあるが,パレスチナにおける社会主義者やイランの共産主義勢力などのアラブ・イスラム諸国の労働者大衆系のグループがいることは確かである。しかしわれわれ自身の力量不足を痛感せざるをえないが,アラブ・イスラム諸国の社会主義者・共産主義者,労働者大衆派,被抑圧民族,被抑圧階級との連帯は遅れている。その遅れを取り戻すためにも,この機会に,情報や正確な知識の獲得,難民支援,交流,などに取り組まねばならない。同時に,帝国主義の侵略戦争に反対して,自国帝国主義政府の戦争策動と闘争し,これを阻止する闘いを発展させ,国際連帯の意志を是非とも全世界にアピールしていかなければならない。そして,この根本にある資本主義と帝国主義のもたらしている隘路から世界の人々を脱出させるためには,社会革命が必要だし,国際的な連帯が不可欠であることを踏まえ,共産主義者としての宣伝・煽動戦を広範な人々の中で,行わなければならない。全世界の労働者大衆と連帯し,闘おう!




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