共産主義者同盟(火花)

<急告>2001年2月メキシコシティへの注目

早瀬隆一
233号(2001年1月)所収


 2001年2月,マルコスを含むサパティスタ代表団(24名の司令官で構成)の首都登場が決定し,メキシコ情勢は新たな展開をみせている。
 これは,2000年12月2日付EZLNコミュニケで公表されたものであり,大統領選挙・チアパス州知事選挙におけるPRIの歴史的敗北−12月1日フォックス新大統領就任,12月5日COCOPA先住民関連法案国会上程という新たな政治情勢をふまえた,サパティスタの新たな一大攻勢である。

 サパティスタ民族解放軍,この20世紀の終わりに忽然とあらわれた全く新しい政治・軍事組織は,連邦政府軍7万の包囲・制圧−低強度戦争の強要にも関わらず,その大勢を保持,21世紀初頭,新たな示唆を世界に投げかけようとしている。
 この間,サパティスタへの共感は,蜂起直後の爆発的なものからは後退しつつも,しかしメキシコの政治・社会・文化を静かに変動させてきた。その現れの一つが大統領選挙・チアパス州知事選挙におけるPRIの歴史的敗北である。   
 フォックスPAN新政権はそれ自体は右派保守政権であるが,「サンアンドレス合意の履行」を公約として掲げており,12月5日には COCOPA 先住民関連法案を国会に上程している。
 サパティスタの今回の決定はかかる政治情勢の変化をとらえたものである。

 サパティスタ代表団の首都派遣,その直接の目的は,メキシコの国会が,COCOPA 提案に基づいて,先住民の諸権利と文化を憲法で認知するよう求めることであり,国会に向けた大動員の先頭に立ち,COCOPA 先住民法案の意図を国会議員の前で説明することである。
 COCOPA 先住民法案は,サンアンドレス合意をふまえて COCOPA が作成し,連邦政府とEZLNに提案してきたものである。この間,サパティスタは,この法案を,サンアンドレス合意の内容からは後退したものであるが運動の前進のための礎になる,として支持し,成立を求めてきた。
 むろん,サパティスタは COCOPA 先住民法案の成立をもって先住民の権利と文化をめぐる問題が解決するとしているわけではない。まして,先住民の権利と文化をめぐる問題は国家−社会の在り方と不可分である。
 COCOPA 先住民法案の成立を勝ち取ることはもとより,かかる過程を国会審議の場に閉ざすのではなく,全社会的な開かれた議論として獲得していくこと,和平対話−中断したサンアンドレス対話の再開を,先住民諸組織はもとより市民社会の多様な社会組織の参加のもとで勝ち取って行くこと,このことがサパティスタにとっての核心であろう。

 かってサンアンドレス対話第1テーブル−先住民の権利と文化−において,サパティスタは連邦政府とEZLNという当事者間の交渉を,先住民諸組織の多様な主張と要求の出会う対話の場へと転化した。サパティスタは顧問や招待者として参加した多様な組織に対して,サパティスタの主張を支持することではなく,それぞれの主張−ときにはサパティスタと対立する主張も含めて−を対話の場に持ち込むよう要請したという。私はここに「権力の奪取を目指すのではなく,社会を組織していく実践」というサパティスタの姿勢の現れがあるように思うのである。

 であるならば,中断したサンアンドレス対話の再開−そこではメキシコ国家・社会の在り方が対象となる−は,より大規模な市民社会諸組織の参加のなかで,それ自体が文字通り社会の再組織化であるような壮大なものとして展開されるであろう。少なくともサパティスタの姿勢においてはそうである。

 稀代のカリスマとして存在しているマルコスの首都登場はサパティスタにとって切り札でもある。COCOPA 先住民法案審議−対話再開の政治過程を形式的で閉じたものに止どめるのか,それとも市民社会をまきこんだ社会的なもの−変革への基盤としていくのか,2001年2月はサパティスタにとっても正念場である。

 2000年2月以降,首都メキシコ市−メキシコ全土−国際社会を貫く時間のなかで,いかなる闘いが展開されるのか,全ての皆さんの注目と連帯を要請しておきたい。それは今日における理論・組織・運動の在り方を考えていくうえで多くの示唆を与えてくれるはずである。むろん,かかるサパティスタの展開が,先住民共同体における自治創出の営為−それは文字通り日々の模索と苦闘のうちにある−との相互関係において成立していることを忘れてはならない。括目と連帯を!!

(追伸) サパティスタに関する情報は,世界各地のグループがインターネットを通して提供している。
    現地の情報やサパティスタの声明はそちらをぜひ参照してもらいたい。




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