共産主義者同盟(火花)

ユーロ発足について

渋谷一三
209号(1999年1月)所収


 99年1月1日をもって、ユーロが発効した。といっても、厳密にはまだ通貨として流通しているのではなく、銀行間決済の単位として使われている段階であり、各国通貨と兌換できるという段階です。
 しかし、ユーロの登場によって、円はその決済圏を確立したいという願望とは裏腹に、ますますドルに揺さぶられる存在として、その不安定度をました。

1.

 ユーロは、唯一の世界通貨として通用しているドルに対抗する手段として発足した。ドルは金本位制に裏打ちされていた71年までは文字通り世界通貨として機能していたが、71年のニクソン・ショックによって金兌換制が廃止されるに及んで、通貨であると同時により商品である存在になった。金とは関係なく通貨商品として売買される存在になったのです。
 ドルという貨幣自体が投機の対象になるとともに、各国とも通貨の価格変動に悩まされることとなった。他方、ドルはベトナムへの侵略反革命戦争の戦費調達という事情にも加速され、赤字垂れ流しとなり、この後米国の負債はうなぎのぼりに増え、80年代には米国は世界一の債務国家となる。
 しかし、ドルを印刷しさえすれば済むというその特権的地位によって、ユーロ・ダラーとかオイル・ダラーとか呼ばれたドル貨幣のだぶつき・退蔵が生まれた。言い換えれば、ドル貨幣という商品のインフレが起きたのです。
 当然、一ドルの価値は下がらなければならないが、一ドルの価値が下がれば基軸通貨の基軸性そのものが問われることになる。そこで、実際に進行したのは、一ドルの価値が下がるという形式ではなく、マルク・フラン・円などの一部通貨の切り上げという形式だった。後進国に対するドルのレートは下がらなかったのです。
 このことが意味することは、マルク・フラン・円などの通貨が切り上がることによって、これらの諸国の商品の価格が相対的に高くなり、国際競争力を弱められること、および、ドル債権を回収した時の自国通貨での表示が、切り上げられた分だけ下がることです。 例えば、1ドル200円だったのが1ドル100円と2倍に切り上がれば、債権は半分になる。1000億ドルの債権は1000億ドルなのだが、回収してみると、20兆円だったのが10兆円になっているという具合です。
 そこで債権国は自国通貨に変えることなく、ドルのままの運用を追求することとなり、国際金融市場の成立を加速する。この際のグローバル化が、ドル建てであることに注意する必要がある。立場を円に置いて見るならば、日本の金融資本は大幅円安にならない限りずっと海外投資を続けざるを得なくなる。
 こうして、メキシコ通貨危機(メキシコへの米国の莫大な投資が0になる危機)を回避するために起こった米国のバブル崩壊が、マルク・円・フランなどに連鎖することとなった。
 かくして、強いマルクにとっても、フランにとっても、ドル基軸のグローバル化は敵対物として認識され、両者の共通の利害がはっきりと確認された。これが、ユーロを発足させている経済的根拠です。
 ユーロ圏が狭い意味でのドル圏(=米国経済圏)にほぼ匹敵する経済規模を持っていることから、垂れ流しのドルに対抗して、安定した基軸通貨として取って替わろうとするのがその目的だが、そうなるかどうかは、推移を見ない限り何とも言えるものではない。

2.

 他方、円は、米国経済やEC経済の半分以下の経済規模しか持たず、米国をスタンダード(基準)とする金融の世界化(グローバリゼイション)がある程度進展してしまっているという状況下で、独自にドルやユーロに対抗しうる可能性はない。
 垂れ流しのドルを嫌ってユーロにシフトするには、米国への債権を持ちすぎているし、貿易等の経済関係も対米中心であることに変わりなく、ユーロへのシフトは不可能です。
 したがって、ドル圏に包摂され続ける以外にはなく、ドルという貨幣商品のインフレを吸収させられる役目を負わされ続けることになる。

 金融自由化=米国基準の世界化という事態に対応するために不良債権の事実上の放棄=損益計上を進めざるをえなかった日本政府は、この対策に60兆円を超える国債を発行した。
 その結果、長期金融市場で国債はだぶつき、信用度を下げた。30年先の8倍はおいしいと映っていたのが、そんなに多く発行されたのではインフレが進み、8倍では損をするのではないかという印象が勝つ。その結果、長期金利が上がることとなり、ますます貸し出し金利が上がり、貸し渋りが増すという悪循環のとば口に立つこととなった。
 事実上の米国基準の世界化(米国はこれをグローバリゼイションと呼ぶ)に翻弄され続ける日本経済の図しか見えてこない。

3.

 ユーロが基軸通貨となり、世界資本主義の一時期の相対的安定を迎えるのか、ドル基軸のグローバリゼイションが勝利し、米国に左右される激動の経済になるのか、それが契機となって世界中央銀行創設というケインズ主義者の新たな地平での復権となるのか、先行きは分からない。

 現在起こっている事態をより正確に把握するために、国際金融市場の単一化(ニューヨーク→東京→ロンドンと、金が、開いている市場に瞬時に流れ、事実上単一化している)がどのようにして生まれたのか、そこで何が起こっているのか、貨幣資本と現実資本の問題、などを次回以降提出したい。




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